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外連(ケレン)の華 猿之助歌舞伎

2014 NOV 8 12:12:28 pm by 西 牟呂雄

 澤瀉屋(市川猿翁一門)見るのは先代猿之助の『ヤマトタケル』以来だから随分と久しぶり。別に歌舞伎座ばかりではなく、新橋演舞場もいいんですよ。私は正統も何も歌舞伎は面白けりゃいい、という方でイザとなったらどこかの田舎芝居でも構わない。
 前に見た時『ヤマトタケル』のときの最後に飛んでいく宙乗りの衣装が少々気持ち悪かった、と思い出してみると何と20年振りかな。
 今回(10月)は『市川猿之助奮闘連続公演』と銘打った四代目猿之助を初めて見ました。出し物は三代猿之助四十八撰の獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)、もちろん猿翁さんの演出です。
 これは原作が四世鶴屋南北で、この人は『化政の江戸』と言われた文化文政時代の爛熟期にメチャクチャな筋立ての通し狂言を書きまくった人だ。以前から言っているが歌舞伎の筋立てなんか荒唐無稽なものに加えて、早変わり有り、宙乗り有り、本水有り(舞台で実際の水を滝にして流す)のスペクタクルだ。仇討と宝物の奪い合いをからめながら五十三次を逆に京都から江戸までやってくる。結局何がどうなったのか良く分からないのだが、狂言回しみたいに弥次さん喜多さんも出てくれば、白波五人男の日本駄右衛門(実は別人)と弁天小僧まで出てきて物凄く早い。なにしろ四幕五十三場もあるのだからやる方だって大忙しの代物だ。
 途中の台詞なんかは現代口語で掛け合うから面白いの何の。
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 それで四代目さん、この人女形もやっていただけあって変わり身の女姿がいいですね。この化け猫の衣装の凄いこと、十二単です。これぞケレン。これで宙乗りをやったのですからそれは見ものでした。

 この人、今月(11月)には明治座の花形歌舞伎で従兄弟の市川中車と通し狂言をやるのですが、市川中車ってあの香川照之さんですよ。そういえば萬屋の中村錦之助・隼人親子も出てました。獅童の従兄弟だったかな。
 澤瀉屋の芸風は大道具も演出も常に大胆に進化する。これ猿翁さんが昭和の頃から盛んにやっていたのですが、基本を押さえているところが一時の流行物とは違って飽きられない。『革命』とは優れて進化と捉えらがちですが、恐ろしいことに『革命』の語感にはどうしても破壊衝動があり、しばしば「古いもんは何でも壊しゃいい。」となってしまう。後に残るのは得てして理想とはズレた荒涼とした物となりがちだ。
 一方では伝統墨守のガチガチでは、時代とともに当初の感動は薄れていくものではないか。保守は保守で鍛えに鍛えて行かなければ先に光明は見えない。これ、SMCでのクラシック談義で繰り返し東 兄が指摘している所に通じます。そして新たな解釈を加えながら生まれ変わることのできる『いいもの』だけが生き残る。

 と大げさな話になりましたが、画像の化け猫だけでも見る価値ありますよ。

 荒事の華麗な芸

九月花形歌舞伎

九月大歌舞伎 千穐楽

猿之助四十八撰


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Categories:古典

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