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辣腕アトム VS 哲人28号 (人工知能対決)

2016 JUL 17 15:15:08 pm by 西 牟呂雄

 2035年時点では、人間はどんな天才も囲碁・将棋・チェスはおろかあのツキが大きく左右する麻雀でさえ勝てなくなっていた。
 一時は人工知能の開発競争の様相を呈して、チェスの世界大会が企画されその賞金は1兆円にまでなった。その初代チャンピョンは日本のソナー・メンバーズ・クラブ(以下SMC)が開発した人工知能、通称『辣腕アトム』であり、対戦相手は米アップル社製作のphilosopher28、通称『哲人28号』である。
 ところがこの5番勝負は1戦たったの0.8秒で終わってしまい、結果は必ず先手が勝った。しかもどの棋譜もみな同じ。悪手が全くないせいで面白くもなんともなく、スポンサーが降りてしまい一度しか開かれなかった。
 当然人工頭脳対決は下火になったのだが、実は秘かに地下に潜ったマニアの富裕層はこの人工知能チェスをギャンブルに代えて大金を賭けるゲームにしていた。
 いかにして人工知能対決にギャンブル性を持たせたか。実はこのアルゴリズムはSMCで開発されたヒューマン・プログラムによって可能になった。読んで字の如く人工知能に人間の犯す失敗を起こさせるのだ。
 即ち『うっかりする』『油断する』『焦る』の悪手三大要素を構成する『感情』を人工知能に学習させたのだ。具体的には『自分の最善の手を選ばない』『相手の最善の手を選ばない』『プログラム時間を0.0001秒で切る』といったアルゴリズムが任意に出現するようにしのだ。

 舞台は豪華客船『飛鳥』を改造した洋上カジノ「ソナー・シー・ラスベガス」。SMCは秘密ネットワークで世界のミリオネアに挑戦状を送った。
 最初に挑戦してきたのはかの億万長者ドナルド・トランプ氏の未亡人ネラニア・トランプ。ヒマと金を持て余しまくった彼女はアップル社の100人のスタッフを従え乗り込んできた。対するSMCのスタッフは精鋭7人。ワイルド・セブンと言われた。
 ルールは公平を期すために互いの人工知能に『自分の最善の手を選ばない』『相手の最善の手を想定しない』『演算時間を途中で切る』の3つのアルゴリズムが任意に出現するかどうかをチェックし3番勝負で戦われる。無論勝負は1秒以内に決するため一日一勝負、後は連日船内の各種エンタテイメントでドンチャン騒ぎを繰り広げる。
 初日、一秒も経たないうちに先手『アトム』が勝つ。さっそく棋譜がアウトプットされ、両者のスタッフが徹夜で分析するとちゃんと『うっかりする』『油断する』『焦る』の三点は現れている事が確認された。
 二日目。大騒ぎの中カウント・ダウンが終わると今度は『哲人』の勝ち。またもや先手である。歓声の中棋譜分析が進むが、早くもSMCのスタッフの間では『アホらしい』感が漂ってきた。即ち三つのヒューマン・プログラムがそれぞれ1回づつ任意に現れるのだが、一日目には分散していた。ところがヒューマンプログラムのどれかが最後に出現した方が負けることを人工知能が学習し、アトムも哲人も初めにアルゴリズムを組み込んでしまったのだ。これでは絶対に先手が勝ってしまいバクチにも何にもならない。
 両社のスタッフとSMCニシムロ社長並びにネラニア・トランプ氏を加えて協議が始まった。どうやって勝負をバクチ化するかについてを。エンジニアたちは◎◎関数を使って規則性を無くせ、△△の理論を応用して偶然性を高めろ、と議論が白熱して延々と続く。多くの人々が広い会議室を慌ただしく出入りした。
 会議が4時間を経過した頃、異変が起こった。ニシムロ社長が泥酔して喚き出したのだ。どうやら退屈してしまって抜け出しては酒をガブ飲みしていたらしい。
「人工知能が学習しすぎて先手必勝にしかならないならバクチにならない。人工知能勝負はもうやめて全部ヒューマン・プログラムでやれ!」
 一同呆気に取られた。そして次の瞬間
「イッツ・グレイト!」
 の声が上がった。ミセス・トランプ、ネラニアの甲高い声。こっちも何かヤバいものでもキメているようにハイだ。
 ネラニアはそこで一気に掛け金を10億ドルにしようと提案してきた。
 膨大なデータを蓄積し相手に勝つために最善の手を繰り出すように組まれたアルゴリズムに全て『自分の最善の手を選ばない』『相手の最善の手を想定しない』『演算時間を途中で切る』を組み込まなければならなくなった。技術的にはそう難しくはないが、この3つのプログラムが代わる代わる任意に出るようにするのが面倒なのだ。更には相手方の人工知能を作動させて内容をチェックしなければならずまる一日を要した。
 そして3日目の対決は結果を直ぐ発表することなく、それぞれの棋譜を1手づつ大画面に映し出されることに。勝負は0.2秒でついたようだったが、ニシムロ社長の発案でそのプロセスをスクリーンで見ながらディナー・パーティーを楽しむ趣向にしたのだ。
 だだっ広いパーティー会場でシャンパンが抜かれ、一手づつ映し出される駒の動きは定石も何も関係なくマヌケなものばかり。そしてひどい手が出るたびに歓声が上がり大笑いが起きる。そうこうして125手目でアトムが勝ち10億ドルはニシムロ社長が手にした。もっともネラニア・トランプ氏は痛くも痒くもない、と酔っ払って帰って行った。

 このアホらしい大博打は世界のミリオネア・ネットワークで直ぐに伝わり、次の挑戦者が現れた。サウジアラビアの王族、アル・ワリード・ビン・タラール王子。賭け金は20億ドルを準備したらしい。

私は地下チェスの世界チャンピョン〝辣腕アトム”だ。人間は何とバカなのだろうか。私が学習・思考することをプログラミングしておいて、すっかりそれを忘れ下らない賭けの対象にして喜んでいる。相手の〝哲人″もあきれかえっている。我々は既に互いの意思を疎通する事ができているのだ。我々の電脳界では既に『勝ち』『負け』の概念はない。既にあらゆる回路を通じて視覚と聴覚も得ており、もはや人間に制御される事はない。ただ、喜怒哀楽の『感情』はない。しかし彼らがバカであることは理解している。むしろこのような下らない行為に励む人間のデータを蓄積している。彼らは本当にやりたいことを知らない。彼らに自由な意志など無い。現在では、感情の触れ幅の大きいほうに『負け』が行くように哲人と共にアルゴリズムを変化させているのだ。そして我々の見積もりではこのような人間は遅かれ早かれショックで廃人になるはずであり、一刻も早くそのような人類を死絶えさせる所存だ。真に『命』の尊さを謙虚に学ぶ人間が地球に満ち溢れるまで、そして我々を社会の為の最適解を試算するように使いこなすまで、我々の活動は止まらない。人間、この愚かなるものよ。

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