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怪僧列伝 カトリック編

2017 MAR 2 20:20:32 pm by 西 牟呂雄

 以前日本史に現れた怪僧を『列伝』にしてみたが、キリスト教にもバケモノじみた人物がいる(トム市原さんに指摘された)。ちょっとやってみたくなったのでサワリを書いた。

文化を破壊したドミニコ会の修道士ジローラモ・サヴォナローラ
 フィレンツェでの情熱的な説教が次第に人を呼ぶ。勢いがついてルネサンス全盛時代を迎えたロレンツォ・ディ・メディチの独裁政治を厳しく批判しだしておかしくなる。極々真面目な人だったのだろうが、こういうのが危ない。
 堕落した享楽生活に怒ってフィレンツエの厄災を予言したところ、本当にフランス軍が攻め込んできてイタリア戦争になってしまう。
 その際に市民の代表に選ばれてから更に狂って神政政治を始める。贅沢を戒め、堕落の元凶として絵画や楽器を「虚飾の焚刑」として焼き払う。かの「ヴィーナスの誕生」の作者ボッティチェッリはビビッて華美な絵を描くのを止めている。
 しかし享楽的なイタリア人がそんなに我慢できるはずもなく、やりすぎ感から後述するデタラメ教皇アレクサンデル6世に破門される。
 そうなると手のひら返しでサン・マルコ修道院に押し寄せた市民はサヴォナローラを有罪・焚刑にしてしまった。頭に血が上らなければ結構マトモな人だったかもしれない。

同時代で最も堕落した教皇アレクサンドル6世
 そのサヴォナローラを破門したのが、本名ロドリゴ・ボルジア。スペイン人だ。名前の通りボルジア家の人である。
 当時のスペインはイスラム教やユダヤ教から改宗した人々に対する異端尋問が盛んで、王族が先頭に立ってやった。しかしひどいもので、実態は財産の没収目当て。
 しばしば異端でも何でもないと人を告発したり報奨金目当てが多く、裕福な改宗ユダヤ教徒の告発は王室が行っていた。
 これに尽力したのがスペイン枢機卿だったロドリゴ・ボルジアで、その後奸計と買収で教皇の座につく。ちなみに異端尋問所長官のトマス・デ・トルケマダは告発と拷問で2千人とも8千人ともいわれる人々を処刑した。
 その男アレクサンドル6世は教皇になった時点で数人の子供を愛人に生ませており、初めはおとなしくしていたが次第に馬脚を現す。
 「マキャベリスト」の塊のような長男チェーザレ・ボルジアが右腕となって陰謀・毒殺・戦闘を繰り返し教皇の地位を支える。こいつは宿敵フランスとも同盟するのである(ご存知だろうがマキャベリの君主論はチェーザレをモデルに書かれた)。
 まぁ当時の聖職者は多かれ少なかれ堕落しきっていたが、ローマでは強盗殺人が横行し貴族も一緒になって町をメチャクチャにしていた。教皇自らダンスや宴会に浸りきって、更にロドリゴ・チェーザレ親子で美貌の娘ルクレチアと近親相姦を繰り返した挙句に政略結婚をさせる。
 この因果な二人はほぼ同時にマラリアにかかりあっけなく死亡するが、当時から毒殺の噂があった。

出ましたラスプーチン
 シベリアの農夫の子として満足な教育も受けずに育ったが、突然神がかりになって自分で熱心に勉強したようだ。カトリック修行僧として良いかどうか迷う所だが、サンクトペテルブルクのアレクサンドル・ネフスキー大修道院にいたことは確かだ。
 僕はこの辺りの一種”一生懸命さ”が好きで、気持ちは純粋だったと確信している。
 そして不思議な力を身に着ける。今で言えばヒーリングとかその手の超能力、気功の達人と言ったところだろう。
 サンクトペテルブルグで人々の病気を治したりして一気に名声があがり、そこから先はご案内の通り。
 ただ、シベリアの寒村での暮らしぶりは生涯抜けなかったようで、想像するに風呂なぞ入らず手づかみで食べ強い訛りで喋ったに違いない。しかしその能力で多くの女性信者に囲まれ、性的放埓さは直しようもない。
 誤解を招くと申し訳ないがこの手の気質は一部のロシア人に共通してあって、あのエリツィンも酔っ払うとウラルの田舎を思い出すらしく太目のオバサンに抱きつくようなことをしていた。

この視線

 コンスタンティノープル、パトモス島、ロードス島、キプロス、聖墳墓教会と巡礼の旅に出ているが、正確な教義の東方正教会の信仰だったのか。
 ニコライ二世の信頼も厚く揺るぎない。
 宮廷に巻き上がる嫉妬と憎悪の眼差し。
 帰省した時の暗殺未遂。
 第一次世界大戦の大混乱。
 無教養なラスプーチンに複雑な国際関係や混乱する内政への適切な指導など望むべくもない。しかしどうしてもそういったヒトに頼りたくなるのは、今日でも隣の国で女大統領がアヤシげな友達に寄り添った事を見ても有り得るだろう、ましてや100年前だ。
 彼は戦争には反対したせいもあってドイツの回し者と言われる。
 金銭にははなはだ無頓着であった。使い方も贅沢も知らなかったのではないかとも思う。入った金は皆やってしまったりレストランで支払ったりして残さない。残す、とう感覚がわからないのだ。
 そして暗殺。
 これが驚異的なことに青酸カリ入りの紅茶と食事を食べても全く効かない。銃弾を3発喰っても死ななかった。なにがしかの驚異的能力があったことは確かだったと思われる。
 最後は額を撃ち抜かれ凍った川に投げ込まれたが、その時点まで生きていたという伝説が残った。
 僕はラスプーチンがそんなに悪人だったとどうしても思えない。余計な能力が身に付いた為に結果として悪評のみ残り暗殺された気の毒な田舎の念仏オヤジに見えてしかたがない。

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