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謎の反転考 ー誰かがー

2018 MAR 21 20:20:30 pm by 西 牟呂雄

 動画を検索すれば誰でも見られるが、先日偶然発見して興味深く観賞したYoutubeがある。レイテ沖会戦で取り上げられる栗田艦隊の謎の反転に関する証言である。
 この艦隊行動はフィリピンに反攻上陸するアメリカの輸送船団を潰し機動部隊を殲滅すべく、小沢艦隊を囮に使ってまで勝負をかけた事実上連合艦隊の最後の作戦「捷一号作戦」遂行中にあった話だ。
 その時に大和の副砲長だった深井俊之助(当時少佐)がインタヴューを受ける内容が収録されている。H18.10.16、今から12年も前にチャンネル桜で放送された。
 氏は大正三年生まれで東京府立四中から四年終了で海軍兵学校に進んだ秀才。四中(現戸山高校)は死中(しちゅうのシャレ)と呼ばれる程の苛烈なスパルタ教育で知られた。亡母の兄、即ち筆者の叔父がこのコースを進んだが四中の思い出は『厳しかった』としか語らなかった。
 収録当時は92歳と高齢ながら大変しっかりとされている。戦闘の様子、僚艦武蔵の沈没等、明瞭に語られた。
 その動画の中で特に力を込めていたのが、例の謎の反転についてだ。
 当初のレイテに突入する南進ではない反転に異変を感じた氏がブリッジの指令所に行くと、第一戦隊司令長官であった宇垣纒中将は『南に行くんだろう』と怒鳴り散らしていたのを目撃する。
 すると栗田中将は沈黙し、深井少佐が詰め寄ると参謀は電報を持ち出して鉛筆で叩きながら『この敵艦隊を攻撃する』と言う。ところがその電報には発信者が無かったと証言した。
 これは大和の受信記録がなく艦隊司令部が受けたことで有名な通称「ヤキ1カ電」と言われるものだ。「ヤキ1カ」は地点を表す航空用語で、即ち索敵機から敵機動部隊のいる場所を指し、そこへ行くための反転だということである。
 ここに至るまでにシブヤン海で武藏を失い航空攻撃で多くの被害を出していた深井少佐他数名の士官は、参謀に掴みかからんばかりに抗議するが受け入れられなかった、と。
 更に深井証言は、被害を受けている大和の航路を計算すると、帰港するために決断するギリギリのタイミングでその電文が受信されたことにつき、その中佐参謀の作文ではないかとまで推測している。さすがに名前を言わなかったが。まさか・・・本当だろうか。
 「捷一号作戦」は既に敗色濃い帝国海軍が北上する米軍を混乱させ、この海戦をもって撃ち込まれた楔を抜く事実上の特攻であったとまで言った。事実航空機による神風特別攻撃はこのレイテで始まったのだ。
 氏は極めて冷静に語るのであるが、この辺りは涙ぐみ思いが募るようだった。その後大和を下ろされてしまうのだが、作戦上の外道である沖縄水上特攻に行かされたことが我慢ならないようだった。

 この『反転問題』は多くの証言があり、電文を受けた中佐参謀の名前も分かっている。一方で合理的な反論もある。又、栗田中将のいわゆる『逃げ癖』についても研究がなされていて、さもありなんという状況証拠はある。
 そもそも海軍の評価基準では輸送船を撃沈してもスコアが上がらない、即ち戦艦・空母を仕留める方が成績がいいため其方を狙いたがる傾向はあった。
 しかしながら各種反論を見てみると「ヤキ1カ電」が作文だと断定することはできない。
 栗田中将以下第二艦隊司令部は、その前のパラワン水道において潜水艦の魚雷攻撃を受けて旗艦愛宕が沈められ駆逐艦に救助されるまで泳ぐ。その後大和に司令部ごと移動しため、大和のブリッジは大混乱していたことも確かだ。
 最近流行りの「脳科学」のウンチクによれば、人間の脳は思い込み続けることで記憶を幻視してしまいそれを記憶してしまうことがあると言う。
 深井証言そのものは本人の『記憶』に限っては断じて真実なのだが、「ヤキ1カ電」も実際に入電されたのではないか。

 両論併記のような話で恐縮なのだが、限りなく重い。

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Categories:言葉

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