これからの・・・ことなど
2018 AUG 5 23:23:08 pm by 西 牟呂雄
日露戦争の有名な203高地の戦闘で、過酷な戦いに晒された兵士の辛さはどんなものだったろうか想いを馳せてみる。
或いは兵站不足という外道なインパール作戦で飢えに苦しみながら敵襲におびえる切羽詰った状況はいかなるものか。逃げるに逃げられないのだ。
もっとひどいのは十死零生の特攻。かの戦艦大和も水上特攻で作戦を全うする前に沈んだ。失われた命に対峙する言葉を僕は持たない。
一方で、ある従軍経験者の書いたものに、当然命を繋ぐ本能は強い(と想像するが)ものの、あまりの苦しさに一発の弾丸がこの苦しみから解放してくれるとさえ思った、という記述があったが出典は忘れた。
また、大和の僅かな生還者のインタヴューで『生きる死ぬると言ってバタついている様子が、それが大和の乗組員の気持ちだなんて、とんでもない話です。そういうところから書いて書いてもらわないとウソッパチになりますよ』というのを吉田俊雄氏が著書に記している。
これらの苛烈な経験の上の言葉は重い。我々が発する『命がけ』という凡庸な科白よりもはるかに厳しいプロ意識とでも言うのだろうか。無論全員がとも言い難いかもしれない。
この『プロ意識』の部分に光を当てることで、吾々の凡庸なる日常に息を吹き込むことはできないだろうか。
というのも(普段何もしていない私ではあるが)先の見えない展開につくづく『どうにかならんのか』と絶望的な気持ちになったことはある。
まず子供の頃から来る日も来る日も学校に行くのがイヤだった、あの気持ちから始まる。中学高校ではいつの間にか先生の説明が全くわからなくなり、大学では毎週ゼミの発表に追いかけられて自分を見失った。
勤めてからはこれまた大変な事の連続で、やっていることの成否だけでは済まないのは皆様と同じ。イヤな思いをしたこともあったしさせたことも同じくらい以上にあったはずだ。
このような感覚はどうやら『プロ意識』の欠如によるものではないかと今更ながら気が付いた。成人してからの時間の何分の一かを泥酔と二日酔いで無駄にしたことを考えれば尚の事である。早く気が付けばよかったのだが。
閑話休題、そこで残された時間にどう立ち向かうかを深く考えてみた。
無論私は戦場にいるわけではない。早い話が晩年にさしかかっていて今更の感は強いが、とにかく今暫くは生きては行くわけだ。
これからの話なので何に邁進するかと言えば、いかにして『断捨離』のプロになるか、くらいであろう。なぜかといえば、これは結構命がけの仕事ではないかと思えてきたのだ。
既に書いている事でもあるが、こちらからこれ以上知り合いを増やすことはない。大金をはたいてモノを買うこともない。親族の不幸や友人を失う経験は増えていくだろう。
ところが最近、ある物件を処分することになって大量のモノを整理することになった。ゴミにしてしまうのももったいないので、あるフリー・マーケットに持って行こうとしたのだが結論から言えば主催団体に断られた。そこは慈善団体系の全国ネットワークのあるところだが、着払いの宅急便で物凄い量が押し寄せて捌ききれずお金をかけて処分しているとのことだった。
本。全集とか百科事典といったブック・カヴァーに入った古本は写メで撮って古本屋に贈ったらこれも値段が付かないとの返事。
食器。それなりのモノには違いないが一度に何種類ものお皿で食べることもできまい。
洋服。オジサンの着る物に流行はないものの、これなどサイズ等もあって寄付しても絶対に喜ばれないだろう。
家具。重いの何のって運び出すことすらできない。箪笥・机・しまいにはピアノ。
更に迷うのは誰なのか名前も分からない古い写真。
100年前の走り書き、先祖の卒業証書、成績表。
価値も分からない切手の束、震災復興債、こんなものは値段がつくかもしれないが、一体誰に相談すればいいのか。
つらつら思うにこれから後の私の年代は膠着状態に陥るのではないだろうか。そしてこの膠着状態はそう悪いものではないかもしれない。むしろ撤退しない、年相応にヤケにならないように暮らす。そうしてペースを守っていれば今度は今までにない静かなときめきが沸き上がって来るような気がする。
ここで冒頭の話に戻るのである。
戦場の指揮官の言葉。
『膠着状態にあっては苦しいが、敵も又苦しんでいるはずである。冷静に守り抜きながら相手のスキが出るのを見定めるのが肝要である。時に負けないことが大勝利とも言うべき効果をあらわす』
我々は終盤戦を戦うプロなのだ。
とにかく今まで生きてきた。
戦時にあって戦闘で命を落とした戦死者、平時にあって志半ばで病や不慮の事故で亡くなられた方々、突然の災害によって亡くなられた方々の冥福をひたすら祈りたい。
ところでこの戦いの敵とは何だ。考えて教えてほしい。
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