病み上がりのダンディー
2019 DEC 7 7:07:05 am by 西 牟呂雄
やれやれ、と何とか癌をやり過ごしてみたものの、これから再発におびえつつ体と脳に相談しながらやっていくしかないことに思い至った。要するに一人前ではなくなって、ちょうどそのタイミングで前期高齢者になったのだ。
今から考えてもまずかったのは、昨今の医療事情により手術前にあらゆるリスクについての説明があり、うんざりした僕は『先生、それではこのままほったらかした場合と手術した場合で5年後の生存率はどっちが高いのですか』と大バカな質問をした。これは先生の自尊心を痛く傷つけたようで、その後の対応が大変に丁寧ではなくなってしまった。
癌による死亡は直前まで意識がしっかりしていてあまりひどいボケにならずに死ねる、という怪しげな情報もあって、一瞬手術をためらった。
手術そのものはやはり大仕事でもあり、長期に入院すると年齢もあるのでガタガタに体力は落ちている。今のところスノボとかゴルフとかヨットどころではなく、ましてや仕事もクソもない。いやそれはチョットは働きますよ。
しかし考えようによっては、これから華麗な人生の秋をむかえるとも言える。
そんなこの頃だが、ヒマにまかせているうちに次の言葉に出くわした。
『優雅の他には職業を持たない』
『壮麗で熱を欠き憂愁に満ちている』
なんだこれは、今後はこうすればいいんじゃないか。ネタはフランスの詩人ボードレールの言葉である。かの詩人が上記表現で表した対象が何かと言うと『ダンディー』とはいかなる人間か、の定義である。とするとこれから私は『ダンディー』に振舞わなければならん、ということなのか。
ボードレールは優れた詩人であるが、母親の再婚によるエディプス・コンプレックスに悩み続けて放蕩し、生涯困窮したことになっている。困窮は困る。
禁治産者として法定後見人から相続遺産より、月に200フランの暮らしだった。
しかしながら余談であるが当時のパリの一般労働者の稼ぎが1日2フラン程度だったことを考えると、せいぜい極端な贅沢と高価な物が買えない、といった『困窮』だったのだろう。
因みに『ダンディー』の元祖と言われるイギリス人、ボゥ・ブランメル(イケメンのブランメルの意味)ことジョージ・ブランメルは、平民ながらイートン校からオックスフォード大学を出たエリートで、ジョージ4世の友人でもある社交界の花形、今で言うファッション・リーダともいうべき伊達男だった。
高級貴族クラブでトランプや知的賭博(ナポレオンが凱旋するか否か、といった賭け)で大勝ちしていたが、最後の最後でワーテルローの戦いでナポレオンの勝ちに賭け全財産を失いフランスに去った。負けが確認された際に、シガーに火を付けさせてゆっくりとサロンを出て行ってその足で渡仏したとされている。
ところが実際には最後の賭けに負ける前から借金まみれだったらしく、フランスに渡った後には借金で投獄され、悲惨な老衰状態に陥ってくたばった,
要するにキザなハッタリ屋だった可能性が高い。これでダンディーもないもんだ。
ところで、この時準備していた高速船でいち早く勝敗の情報を得て、株式市場を巧みに操作し巨万の富を手にしたのがロスチャイルド家の三男、ネイサンである。
上記事情により、ダンディーは英国発祥なのだがその時代にはそれに当たるフランス語がなかったそうだ。そこでdandyをそのままフランス語で使うかどうかをフランス学士院で厳密に審査し、認知に至ったそうだ。現在は当時ほど外来語に対するアレルギーはないが、当時は違った。
さて病後の暫くは養生するとして、特別に何もしないでボードレール流のダンディーになるにはどうしたらいいのか考えてみた。七カ条のご法度でどうだろう。
1.まず喋り過ぎるな 口数を減らせ
長年の悪行はすでにバレているはずだから、今更取り繕ってもダメ。おまけに自慢話はみんな聞き飽きている。おとなしく人の話を聞いていなさい、だってもう年寄なんだよ。
2.吝嗇・狡猾は慎め
あのねえ、これから稼いでももう遅いの!手遅れ。多くの成功者はこれで終わり感を持っていないので、もっと稼いでもっと贅沢がしたいとばかり、とかくズルに走る。それでいて実際にはケチということに成り果てる。これがいけない。その逆を行け。
3.病気と付き合う 闘うな
闘う?負けますよ。治療はします。だけどあなた後何年生きるつもり?永遠には生きられませんよ。あと30年?無理無理。ビビッて怯えて見せるのは以ての外。
4.一人でやりなさい 簡単なことを人にやらせるな
周りに頼むな、自分でやれ。その際分かっているフリをするのは禁物。要するにそれぐらい自分でやれ、に尽きる。ついでに『孤独』も重要なキーワードだ。
5.怒らない 嘆かない
ただでさえ頭は悪くなってきているから、自分が悪いとまず考えて威張り散らさない。過去に渡って悔やんだり嘆くのもダメ、自分のせい。ついでに大袈裟に悲しむのもヤメ。
6.反流行 真似をするな
一般的に流行とは音楽・ファッション・小説等、どれを取っても若い人のモノ。オジサンは取って付けても絶対に様にはならない。これからは頑固一徹。
7.身だしなみに無頓着になるな
ですがねえ、入院していてよく分かったのはオジサンはだらしなくなると見られたものじゃない。なるべくフォーマルがいいのだが、私としては明るい色を選びたい。それに足元。
これでダンディーじいさんになれるかな。
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