Sonar Members Club No.36

カテゴリー: ロシア残照

『今ここで思いついた』ウラジミール・プーチン

2018 OCT 4 22:22:16 pm by 西室 建

 余裕綽々でプーチン大統領は言った。
『ちょうど今こんな考えが頭に浮かんだ。平和条約を結ぼうじゃないか。今ではなく年末までに。あらゆる前提条件なしに』
 ニュースで散々否定的に報道されたので筆者もいささかひどいブラフだという印象だった。『なぜその場ではっきり断らなかったのか』『事前にその発言が止められなかったのは重大なミスだ』といった評価が多かった。
 冷静になってその状況を思い出すと、以下の3点が気になる。
 一つは安倍総理のスピーチが先にあり、プーチンがそれに答える形で飛び出した発言であること。つまり総理のスピーチに答える形での発言だ。
 もう一つは、この場を仕切っているモデレーターはブリリョフという著名な司会者で、この発言はロシア全土に中継されている番組であったこと。
 更に、安倍総理とプーチン大統領の間に習近平が座っていたアングルだったこと。
 要するに十分に『聞き手』、この場合ロシア国民と習近平を意識しての発言なのである。
 まず、総理スピーチでは将来に向けての話をしながら、日中・日朝の関係に触れ、ロシアとの長い交渉経緯を紹介し、『プーチン大統領、もう一度ここでたくさんの聴衆を証人として、私達の意志を確かめ合おうではありませんか。今やらないでいつやるのか、我々がやらないで他の誰がやるのか、と問いながら歩んでいきましょう』と語りかけ拍手を浴びていた。ロシア・ウォッチャーに聞くと、とりわけプーチンの拍手は手振りが大きかったという。
 そして質疑が終わるとブリリョフが大統領に向かって、北方4島に『アメリカの軍隊が来たらどうなるのか』と聞いたのだ。専門家によればさすがにこのテの問いかけは勿論予定の質問だそうだ。そしてその答えに、まずこう切り出している。念のためロシア大統領府が発表した英訳が手に入ったのでそのまま紹介すると次の通りだ。
Allow me to being by saying that SHINZO is right. Both he and I are eager to sign a peace treaty.I believe this to be extremely important for the relations between our countries.
となっている。
 この”SHINZO”のニュアンスは特別で、格段の信頼関係を感じさせるものだ。他の先進国首脳と何かとトンガリがちのプーチンがこう呼ぶのは世界でただ一人であり、そこに失礼さは微塵も感じられない。
 そして56年モスクワ宣言に触れ、冒頭の発言につながる。
 プーチンは過去の交渉記録をすべて知り尽くしている。そして安倍総理も秘密提案まで含めて諳んじているほどだ。この56年宣言を口にしたことは重大なシグナルだろう。
 更には習近平を前にしてわざわざ中露で領土問題(大ウスリー島のこと)を解決した事を引き、最後をこう結んでいる。
 We will seek to provide favorable conditions for resolving these issues. We want to resolve them, and I hope that one day yhis will happen.
 今のまま四島一括返還を言い募っていても、戦争でもない限り絶対に領土は返還されないままなのは明らかである。さりとて、さしたる根拠もなく足して2で割るような妥協案に持ち込むこともウィンーウィンとは言いがたい。
 総理の必死の外交を冷ややかに見ているのは誰だ。外務官僚のサボタージュということを作家の佐藤優が常々指摘しているが本当にそうなのだろうか。四島一括返還をお経のように唱えていれば大過なく過ごせるのかも知れないが、このままでは百年事態が動くとも思えない。

 プーチンは冒頭の言葉で踏み込んだ。これをガチーッと受け止める禁じ手はないものか。筆者はある、と考える。『よし、分かった。56年モスクワ宣言から始めよう』と言ったらどうだ。
 56年宣言は歯舞・色丹の引き渡しを謳っているのだ。地図をみて欲しい。両島は国後の真ん中あたりまでの海域に食い込んでいる。経済協力も地政学的に効果が激増するに違いない。
 プーチンは国民の前で約束している。無論国民をいきなり失望させるわけにはいかないが、驚くなかれ一般のロシア人は北方領土で係争していることはおろか、何処にあるのかさえほとんど知らないのが現実だ。平和条約ならば2島は帰る。
 ここまでならば日米安保条約の範囲として認定してロシア側も差し支えないはずだ。いや、除外対象としても本当はいいのだが、尖閣列島を範囲内と断定しているため中国に対して理屈が立たない。やっかいなのは国後・択捉には地対艦ミサイルを配備し軍事拠点としていること。
 さて、二島引渡し後は満を持して巨額の(1兆円くらいか)公共投資を国後島にする。日本に施政権だけはあるが、クナシリは自治とする。タックス・フリーとし、日露企業を呼び込む。できれば原発(もうダメだろうが)を建設するとか、ディズニー・リゾート型の施設などで人が集るようにする。カジノでもテニスの大会でも何でもいいからとにかく日本人が行けるようにし、金が回るようにする。
 ちなみにかの大坂なおみ選手の祖父としてテレビに出てくる人は、歯舞群島の勇留島出身だ。札幌から飛行機を飛ばせば彼女の出るトーナメントは日本人で満員になるだろう。
 ところで、択捉島は治安が結構悪いらしい。連邦政府の社会経済発展計画で投下された資金が汚職を蔓延させ、少ない人口ながら殺人や麻薬の犯罪までがある。ここは一つ両国で協力し、日本人が行くならばコーバンなどを設置し安定に努めていただきたい。特にヤクザとロシア・マフィアがくっつかないようにしなければ金をドブに捨てるよりひどいことになりかねない。

 と、まぁ勝手な事を思いついてみたが、右翼の人怒らないでくださいね。私は保守派のつもりです。左派の人反対するなら対案をお願いします、国益を損なわないように。 

北方四島共同経済活動は

国境を考える Ⅳ


「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」
 
 
 

エカテリンブルグの春

2018 APR 15 17:17:57 pm by 西室 建

 さてロシアである。4月は日照も大分長くはなったが東京の感覚では充分に冬のエカテリンブルグに立ち寄った。
 市街地は130万都市であるからドカドカの積雪ではないが、夜は軽く氷点下になる。道路は除雪されているものの歩道は雪解けのグチャグチャした感じだ。

日本に来た事があるとか

 この街は今年のワールド・カップの開催地でもあり、日本もセネガルとの試合が組まれている。各国歓迎の意味で国旗が飾られている中に日の丸もちゃんとあった。
 ところが元々の競技場の観客席が3万人以下だったので(ロシアらしいが)スタジアムの外にスキーのジャンプ台のような仮設席を作って間に合わせた。もちろん終わったら取り壊す。あの上から試合を見るのは怖いだろう、と地元の奴が言っている。

 ロシア経済は石油価格の下落と制裁を受けて著しく停滞し、昨年は多少盛り返した事になっているがまだまだだ。
 といってもこんな田舎では(一応ロシア第四の都市だが)目に余るほどの景気低迷は分からない。昔からインフラがとても先進国並みに見えなかった。
 むしろ僕が見ればそこが可愛らしい、手頃な町という印象だ。 
 大統領選挙があってプーチンが軽く再選された、見た限りでは『だから何なんだ』というほど影響を感じない。反プーチン・デモなどここでは起こらなかったし、選挙の不正は話題にならない。投票率は60%くらいあって日本と変わらない。
 民間のロシア人と接していて感じるのだが、オカミに対するガバナビリティが高い。というか元々統治者という者はロクなもんじゃないと感じているフシがある。『政治家は、悪い奴かもっと悪い奴か物凄く悪い奴のどれかだ』という冗談はロシア人から聞いた。勉強不足でつぶさに読み込んでないが、ロシア革命もソ連崩壊も財政破綻が引き金を引いたトップの権力闘争と資産のブン取り合いと言ったら皮相に過ぎるかな。
 ここエカテリンブルグもそれなりに犯罪もあり、HIV感染者も公表されているのでマフィアぐらいいるかもしれない。車のラジオからローリング・ストーンズの『Get Off My Crowds(一人ぼっちの世界)』が聞こえてきたときはオッと思った(50年前の曲だが)。

 しかし日本も悩んでいる少子化問題は合計特殊出生率・乳児死亡率は10年前に比べるとそれぞれ1.3⇒1.7、8.5(1000人当たり)⇒6.0(日本は3以下)と改善傾向にあるので驚いた。聞けば男性の平均寿命も60位だったのが66才まで伸びている。
 知り合ったロシア人はカタコトの英語で話すのだが、無論政治の話なんかできない。二重スパイ暗殺の話も北方領土も怖くて話題に上げない。民間同士は結構制約が多いのだ。彼らからプーチンに対するあからさまな不満を聞くこともない(日本在住のロシア人はたまにこぼす)。
 オリンピックがあったので、フィギア・スケートの話で盛り上がったり。どうも今回会ったのははそれなりの連中らしく、クラシック音楽やバレーの出し物なんかに詳しい、文学への教養も深い。機械設計のエンジニアなのだが僕なんかより遥かにITに強く、様々なことを瞬く間に画像化できる。
 問題はそれをビジネスに繋げるインフラというかチャンスが少なすぎるのではないだろうか。無論地理的なハンデもあるだろう。
 この辺の事情を良く理解した上で、いいヒントを与えてやればまだまだ伸びる余地のある国でありエリアだと思う。
 何と日本語学校が市内に3つもあるし、日本食レストランも出来てきて(見なかったが)日本への関心も高い。
 調べていないのではっきりしないが、ここにはシベリア抑留とは別にノモンハンの時に捕虜になった日本人がいたらしいとも言われている。

酒が飲めない!

 ところで奴等が自慢したことの一つに、一人当たりのマヨネーズ消費量が世界一でギネスにも載っている、と言うのがあった。何でそんなにマヨネーズが好きなのか分からない、飲んでいるんじゃないのか。

 そして帰国の際に小銭を両替したら、10%以上もルーブルが下がっていた。
 どうせトランプがろくでもないツィートでもしたのだろうと思っていたら本当だった。オイオイ、止めてくれよ。
 そしてシリアに・・・。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

北方四島共同経済活動は

2017 DEC 10 22:22:57 pm by 西室 建

北富士総合大学冬季特別講座

 受講者の皆さんお早うございます。冒頭からナンですが、これでは全然遅く、足りない。
 安倍ープーチンの両首脳の肝入りで合意した「八項目の協力プラン」や提題の共同経済活動はこの一年大して進展しませんでした。
 僅かにこの九月、ウラジオストックでの東方経済フォーラムにおいて優先的に事業を絞り込んだだけで、その事業とは以下の五つ
① 海産物の養殖
② 温室野菜の栽培
③ 島の特性に応じた観光ツアー
④ 風力発電の導入
⑤ ゴミ処理・削減対策
です。
 これらは学生諸君には分からないかもしれませんが、典型的な官僚の作文です。おそらく外務省の関係者が考えたのでしょうが。
 皆さんは北方四島の人口がどれくらいかご存知ですか。色丹島で三千、国後島で八千、択捉島で六千と言われています。軍関係は除かれているでしょうが合計で二万人を越える事はないでしょう。即ちこのエリアでの地産地消型の経済活動を育成しても成り立たない、下世話に言えばペイしない。ロシアの方に旨みがないのです。
 この際、主権の所在は一端脇に置きましょう。勿論日本の領土であることは間違いありませんが、70年進展していない話です。例えば同じように実効支配されている竹島ではこういった共同活動など永遠に望めません。

 北海道側の窓口となりうる釧路市は四島合計とほぼ同じ人口ですが、その予算規模はどれぐらいでしょうか。1700億円~1800億円です。
 上記の5項目での事業規模をどのくらいで想定したのかわかりませんが、領土であるという主張を強く出す為には10兆円くらいの投資は覚悟すべきでしょう。上記予算の70年分を考えての金額です。
 この5項目を見る限り、そんな金額を考えていないことは明らかです。腰が引けてます。四島の外から人や金を引き込める事業はせいぜい➀と➂でしょうか。大したことにはなりません。
 もっとロシア人も日本人も四島に行きたくなる、行けばビジネスになる、面白いことがある、そうならなければ。

 一時、面積二等分論や3島返還論などがありましたが、これらは面子を潰される外務省及びその周辺によって内側から潰されました。実はロシアは長年の領土問題をこの等分方式で二度解決しています。中国とノルウェーです。中国とは川の中州、といっても335平方キロもありますが、その二等分、ノルウェーとは17万5千平方キロの大陸棚海域の二等分です。

 ところがロシアは今年の八月に、色丹島に新型特区を解説することを発表しました。これは結構なクセ球なのです。なぜでしょう。
 色丹島は1956年宣言で既に日本への返還を明らかにしている2島の方です。当時のソ蓮ですら返そうと明記した島にロシアの特区であることを発表してきた訳です。
 おそらく外務官僚は『認めがたい』と反発したでしょう。法的には日本領土に勝手に施政権を主張した形になりますから。
 ですがこのシグナルに乗らない手はありません。
 プーチン大統領は領土を返すつもりなどサラサラないのです。これは確かな筋で何度も確認されています。あのゴルバチョフでも全く関心を持たなかった。

 ところで私はこの夏にエカテリンブルグで開催された産業展示会に行き、プーチン大統領の権力の強さをまざまざと見ました。なんとプーチンが来ると突然発表され、事前のセレモニーが全てひっくり返りました。海外からの参加者も数千人いましたが、勝手に来て見学し勝手に帰って行きました。森元総理とは気が合う様で少し会談はしました。
 お陰で予定はメチャクチャです。しかしロシア人スタッフからは全く不平はなく、我々に対する(私はともかく)謝罪などありません。
 一般のロシア人は気が長い、100年位はついこの前の感覚でしょう。実は日露戦争に負けたことを深く根に持ってもいます。領土の返還など考えたこともない。
 そういう輩を相手に、安倍総理は実に巧みに駒を進めています。民主党政権を覚えていますか。皆さんがまだ小学校でしょうかね。日露関係は最悪でした。鳩山元総理の息子さんはモスクワに留学してましたが、物凄く評判は悪かったです。
 もっとも民主党政権で喜んだ国はありませんでしたが。中国でさえ不貞腐れて韓国はイ・ミョンバクが竹島に上陸しました。彼らの外交は稚拙過ぎましたが、自民党も対ロシアは腰が引けていました。わずかに橋本総理時代、手を伸ばせば届くところまでいったのですが相手のエリツィンが弱ってしまい潰れてしまいました。小渕・森総理もプーチンとは結構良かったのですが次の小泉総理はぶち壊しにしました。田中真紀子という田中角栄さんの娘さんを外務大臣にしたりして、ロシア通の鈴木宗男さん、民進党から自民党に移った鈴木貴子議員のお父さんですね、を逮捕にまで持って行きます。
 ここではその内容については触れません、各自で調べてください。
 現在一強とまで言われる安倍総理は自民党総裁をもう一期やるかもしれません。プーチン大統領は足元の弱い指導者を絶対に相手にしません。トランプ大統領でさえ二期目は無いかもしれない、とナメているフシがあります。
 安倍総理の次に誰がやっても多分だめでしょう。プーチン大統領も来年の大統領選挙への出馬を宣言しました。この時期しかないはずです。
 それなのにあの5つの共同事業ではロシア側が満足するはずがありません。

 一方で実は北方領土問題が解決してほしくない人達も日本にはいます。誰だと思いますか。まず四島周辺の漁師さん達。彼等はソ連時代からロシアの沿岸警備隊と秘かに関係を構築していました。ベトナム戦争を戦っていたアメリカ兵の中でロシアに亡命した人達がいますが、何人かは日本経由で道東の漁船から亡命したことが確認されています。闇があったようです。
 今日でも年収2千万を超える人がいます。ナマコの密漁ですね。今やヤクザの三大シノギは覚醒剤・オレオレ詐欺・密漁と言われています。こういった人達は返還されてシノギが減るのは困ります。
 また、水産加工工場が稼動して安い製品が大量に入ってくると困る事業者も出てくるでしょう。ましてや『特区』にされて様々な便宜供与が成されたりすれば、周辺自治体の税収にも影響があるかもしれません。総じて『北海道経済打撃論』とくくられます。
 外務省は安倍総理の外交にも危機感があるようです。官邸主導でやられると組織存亡の危機バネが働いて『それは現状ではできません』と強く出るでしょう。日本の官僚は極めて優秀ですが、特に『ノー』という事に関してはプロ中のプロなのです。
 その他にも四島が返還されないことで食っている学者・政治家はウヨウヨいるのです。

 さて、色丹島の話しに戻ります。上記の共同事業で島内のインフラ整備だけをするなら初めに申上げたようにいかにもミミッチイ。
 まず日本人が大勢乗り込んでいき、稼いで見せる。使ってみせる。色丹ブランドを日本にもロシアにも売り込む。属人主義で法を適用し日露が協力して治安に当たる。ディズニー・ランド・ノース・ポールなんかどうですか。島独自の仮想通貨は考えられませんか。
 なにしろ特区を宣言されて外資を呼び込むところで日本がグズグズしていると、例えば制裁を食っている北の国や中国が参入する可能性だってあるのです。

 さて、この中で北海道出身の人はいますか。どこですか。根室!近いといえば近いですね。あなたは。ああ札幌ですか。はい、帯広。他には、函館ですか。
 どうでしょう、返還されたら移住する気はありますか。・・・・ダメか(笑)。
 ほかの地方の方どうですか。さすがにいませんか。観光だったらどうでしょう。これは結構いますね。成る程。
 私はどうするかと言いますと、この年で移住されても迷惑でしょうからさすがに引越しはしません。
 ですが、現地で何か仕事があるならばやってみたいとは思います。ここでこういう講義をしている責任もありますから(笑)。

 実際は日米安保条約の適用はできないでしょうし、施政権・徴税権・治安維持と政治的なハードルはまだまだ高いのです。
 ですが本日の皆さんはお若い学生の純粋な民間人です。もしも事業がスタートした際、もっともその頃は卒業か(笑)、そんな場所を見ることは滅多にできません。是非歴史の証人になって頂きたい。そしてその見聞を生かしていって下さい。
 時間が来ましたのでこれで講義を終わります。質問は後から受けます。
 

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

国境を考える Ⅴ

ロシア残照

ロシア残照 Ⅱ

米・露はどう対応するのか

2017 FEB 9 9:09:53 am by 西室 建

 トランプ大統領になって先が見えない予測不能になると、私のような保守派は歴史に立ち返って考える。百年前はどんなだったか。
 1917年は二つの世界史的動きがあった。一つはロシア革命。もう一つはアメリカが第一次世界大戦にシブシブ参戦した。ロシアはグシャグシャな混乱期となりアメリカはヨーロッパに関与を始めた。
 目下の状況はこの反対に見える。ロシアはプーチンの元にクリミアを併合してドネツク(東ウクライナ)で戦闘、アメリカのトランプ大統領は内向きに舵を切る。しかし実は少し前にはその逆で、足元の東ヨーロッパの国々がEU入りしNATOがロシアの足元にまで範囲を拡げ、その勢いを後押ししたのはアメリカ(オバマ大統領は積極的でないにせよ)であった。
 アメリカが中東に手を焼いてイランと妥協までしたが、ロシアはシリアに露骨に介入する。
 世界を左右する両国の関係は100年間振り子のように(サイクルとは言えないが)綱引き状態にある。冷戦は終結したものの、この力関係は相変わらず国際社会に強い緊張を強いている。
 情報機関がリークする大統領に拘わるスキャンダルめいた話はさておき、この振り子理論で言えば米露関係は安定に向かうと睨んでいる。ひとつのヒントに気が付いた。
 トランプ大統領は就任前にキッシンジャーと会っている。
 キッシンジャー人脈が復活した。これはロックフェラー人脈でもある。
 指名された国務長官はテイラーソン。言うまでもなくエクソン・モービルのCEOであり同社はロックフェラー直系。
 クリミア併合による制裁で金融と並んでロシアが堪えているのは石油掘削の最先端技術が対象になっていることだ。北極海に近いエリアの石油は中東のモノと違って油層が硬く、既存の技術では掘れない。その技術を握っているのはアメリカのメジャーなのだ。
 一方ティラーソンはサハリンⅠプロジェクト依頼ロシアと関わった親露派として知られる。制裁解除はロシアにもエクソン・モービルにも共通のウィンーウィンなのだろう。
 制裁解除には何かのきっかけと条件があるだろう。
 筆者はクリミア、もしくは戦闘の散発する東ウクライナの非武装緩衝地域化だと考えている。クリミアは手遅れかも知れないが、ドネツクあたりならウクライナも飲める妥協点ではないだろうか。それさえクリアすれば米露は対ISで十分協同活動し得るだろう。
 もう一つ。来年はロシアでも大統領選挙が行われる。勿論プーチン再選は磐石だろうが、節目になることは間違いない。
 
 ところでトランプと会談後、キッシンジャーは中国を訪問する。何故か。
 キッシンジャーと共和党は親中だが、ティラーソンは知られた対中国強硬派だ。しかも同様の発言をするマイケル・フリンと先日来日し尖閣が安保条約適用範囲であることを表明した”狂犬”マティース国防長官といった布陣である。マティースは「明のビヘイビァを研究している」と言ったそうだ。
 筆者はキッシンジャー訪中を、エクソン・モービル(ロックフェラー)繋がりでティラーソンを国務大臣にせざるを得ない旨、中国に伝えるためだったと見立てている。案外「トランプは本気だから浮かれるな」と釘を刺しに行ったかもしれない。中国はトランプ大統領の当選を選挙期間中の『TPP脱退』『駐日米軍撤退』発言に期待していたフシがあったからだ。おまけにヒラリーでは『人権問題』を取り上げるだろうが、トランプだったらその点心配なかろう、と。
 或いはキッシンジャーは「トランプには良く言い含めておいたからな」と言ったかもしれないが。

 この米・露接近はプーチンの追い風となり、領土交渉を言いつのる安倍総理に対してプーチンがそっぽを向くのでは、という論調が主流のようだ。筆者はそうは思えない。
 最近ロシア関係者で頻繁に話題に上るのが、上記制裁解除の結果採掘・精製可能となるシベリア・オイルの北極海ルートの輸出に関して、プーチン大統領が並々ならぬ熱意を示しているからだ。北極海ーオホーツク海ー日本海ルートはロシアの核心的戦略の気配がする。その際に千島列島の安全確保は極めて重要だ。タンカー回送ともなればアラスカからも近い。
 双方受け入れ可能な『共同管理』、例えば主権はフィンランドだが自治権を持ち言語・教育・生活様式はスウェーデンとしたオーランド諸島方式、といった方法の本で『共同経済活動』をするやり方はある。無論安保条約は適用されない。
 ちなみにこの裁定案は国際連盟の提案で採用されたが、発案者は日本人新渡戸稲造だった。

 そういえば北方領土とクリミアには奇妙な歴史的偶然が重なる。
 クリミア戦争は1854年から始まるが極東でも戦われた。英仏連合艦隊がカムチャツカ半島のロシア守備隊を攻撃しているのだ。そしてその戦いの隙をついてプチャーチン提督は下田で択捉島が日本領土という文言を含む和親条約を結んでいる。
 また、先の大戦の戦後処理のために連合国が会談して(あの不愉快極まりない)北方領土に禍根を70年ものこしたその場所は、クリミア半島のヤルタであった。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

日露ビジネス・ダイアローグより  

2014 NOV 6 18:18:03 pm by 西室 建

撮影 小野ともひで氏

撮影 小野ともひで氏

 
 皆様はじめまして。わたしの方からは日本の地方企業がロシアに、色々悩みながら合弁会社を設立した話を紹介します。クライアントは、この中の皆様は恐らく聞いたことの無い会社です。企業規模は大きくはありませんが、再来年に100周年を迎える中堅の会社であります。
 まず、時節柄政治的な話はさけたいと思います。主催者の趣旨もそうだ、と聞いております。
 一概に中小企業の進出、と括るのに幾つか定義したいのですが、まず銀行団の支援が得られるような規模ではないこと。更に様々な行政のサーヴィスが長期に渡って受けられるようなプロジェクトでないこと。正に民間と民間で、失敗すれば我々は逃げて来なければならない覚悟を持ってやる仕事、とご理解下さい。
 きっかけは、地方行政が地元産業振興のため地元企業保有技術の海外への事業展開を政策として推進しており、一方ロシアとの貿易促進の外郭団体様が日露ビジネス・マッチングを企画されていた、この二つの動きに乗っかって訪問ミッションに参加したことです。今から七年前のことでした。
 ただこの動きはその後のリーマンショックでいったん止まります。
 2009年に再度ミッションが訪露し、先方からも産業視察団が来日しました。その中で先方の我々と同程度の会社様が興味を持って頂き、互いに協議を重ねた訳です。
 随分と時間が掛かり、二回ほど双方譲らずデッドロックに乗り上げました。
 難しかったのは、やはり我々にロシアに関する知識が全くといってもいいほど無かった事で、やはり『寒い国』『怖い国』の印象のままやや腰が引けていた。しかし先方の、日本の技術を導入して事業を拡大する、といった熱い情熱が強いインセンティヴでありました。結果双方対等の50:50という合弁会社を昨年発足しました。
 50:50というのは、決定効率・後処理等を考えると止めたほうがいいと散々言われるものですが、現地の事情も考え(モスクワから1600km時差2時間)あえて踏み切ったものです。
 交渉に当たって経理概念が少し違っていることにも気が付きました。既に計画経済を脱して20年以上立っていて、グローバル標準の会計システムも整備されている訳ですが、ロシアの人々は非常に物持ちがいい。長く長く使うのです。そして償却後の評価はあまり重きを置いてない。『今で言えばいくらの資産』ということは若いロシア人でも飲み込めていなかったようです。同じように棚卸仕掛かりへのコスト参入も普段はやらないようでした。これからの問題でしょう。
 又、我々の使う日本語は形容詞とテニオハでいくらでも繋げることができます。一方のロシア語は個々の単語が長い。どんなに優秀な通訳を頼んでも、双方3分以上喋ってから通訳してもらうと微妙なところでズレていました。話は短く切らなければいけません。

撮影 小野ともひで氏

撮影 小野ともひで氏

 ところで、実際に始めてみて驚いたことが二つありました。一つは我々パートナーに恵まれたのでしょうが、ロシアの人は一度約束したことを身を切ってでも守ってくれました。具体的にはお客様の支払い条件がモメたのですが、彼らは契約通り払ってくれました。ロシアにも義理人情の世界があるのでしょうか。
 もう一つ、内陸部は大変に親日的です。様々な理由があるのでしょうが、その一つは日本のアニメかもしれません。
 お客様の工場に訪ねた際のエピソードです。商談が済むと先方のマネージャーがおもむろに、
「娘が日本語を勉強しているが、日本人と話したことがない。話してやってくれ。」
と言い出しました。日本語学校も無く日本人もいない所で英語版のインターネットで学習しているらしい。理由はアニメで、当地では(モスクワから200km)全て吹き替えですが、主題歌だけは日本語の字幕付きでそのまま流れます。その歌を日本語で歌いたくて一人で勉強しているのだそうです。独学ということで、どんなメチャクチャな日本語かと身構えたところ、
「ワタシノナマエハ アリョーナデス。」
ときれいな日本語が聞こえてきました。聞けばまだ15才とか。是非勉強を続けて、できれば日本で合いましょう、と約束しました。楽しみにしています。以上です。

ロシア東方シフトは本物か


「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
 をクリックして下さい。」

ロシア残照 Ⅲ

2014 JUN 24 20:20:35 pm by 西室 建

 アレクサンドル・ボリシビッチ(ボリスの息子のアレクサンドルという言い方)が来日してロシア関連の打ち合わせを進めていたが、週末になんと奥さんもやってきて夫婦のアテンドをした。御夫人は初めての日本なので是非富士山が見たいと言うので、ウチの山荘喜寿庵にご招待した。ミセス・コテルニコフは50がらみで二人の娘さんに孫までいるのだが、この年齢にありがちなデブデブのバアさんではなくスラリとした美人で、そういうロシア女性を初めてみた。
 良く笑う人で、日本橋のホテルからピック・アップして首都高に乗った途端に「トウキョウーは映画の未来都市のようだ。」とはしゃぎだした。それはタダ同然の広い土地のエカテリンブルグと違い、道路網を張り巡らせるために上へ上へと積み重ねるように伸びていった結果なのだが、土地のバカ高さの実感がどうしても伝わらない。ロシアの街には高架の道路なぞ、まず無いのだ。
 ドライヴ1時間、喜寿庵の芝生の上でサンドイッチを食べた。しかしこのロシア人夫婦はあまり食べない。今まで出会ったロシア人は大体僕の3倍くらい物を食べて2倍くらいウオッカを飲む(女も)。平均寿命も男は60歳程度だが、これならこの二人は長生きできそうだ。
 庭を案内してやると、片隅の曽祖父の記念碑にあるレリーフを見て「レーニンに似ている。」と言い出した。そう言われればハゲ方が似ていなくも無いが、そんなに喜ばれても恐れ入るばかり。この話オチがあって部屋にはオヤジが孫二人と写っている写真が飾ってあり、それをみて「こっちの方は(オヤジを指して)マオにそっくりだ。」ときた。実際オヤジは(これもハゲ方を中心に)毛沢東に似ているとは何度も言われていた。そして「ガスパジン・ニシムロは革命家の血筋だ。」と笑っていた。あんまり嬉しくはないが。そして畳の上で寝転がって遊び、仏壇に線香を供えて感心し、民間外交にひとしきり花が咲いた、いい人たちなのだ。
 
 肝心の富士山はこの梅雨空で山肌が見えるが山頂には濃い傘雲がかかってしまった。河口湖のほとりに宿を取っていてそこまで連れて行くと、そこには恐ろしく頭の悪いフロント・マンがいた。帰りは二人だけで帰ると言うのでバスの乗り方・時間を聞くのだが、余計な説明に夢中になって喋っているうちに答えるのを忘れる。極めつけはカード決済は1万円以上はできないと言い出して、これには猛烈なクレームを付けた。
「あんたら世界文化遺産とか称しておいて、本当に外国からお客さんが押し寄せたらどうするつもりだ。バスしたててガイド付きの中国人ばかりじゃないんだぞ。オリンピックまでに悪評立ったら取り返しつかんぞ!」

 そうこうしているうちに夫婦ゲンカまで始まった。奥さんはこの後京都に行きたいといい、実際に予約も入れているのだが、アレクサンドルは富士山が見えるまでここに泊まり続けると言い張っているらしい。あまりの剣幕に関係ない僕が割って入り「富士山の神様はコノハナサクヤヒメ(ブロッサムズ・オブ・ザ・ツリーと訳したけど伝わったかどうか)というゴッデスで、今日はミセス・コテルニコフがあんまり綺麗だから隠れたんだと思う。」と言ったらこれは受けた。
 帰りには、明日の朝チョットだけでも山頂が見えることを祈らずにはいられなかった。

ロシア残照

ロシア残照 Ⅱ


ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/
をクリックして下さい。

ウクライナ投票後

2014 MAY 27 10:10:55 am by 西室 建

 たいへん慌ただしく投票が終わってしまい、東部二州の投票率は妨害によって20%以下とも言われている。そもそも選挙妨害が露骨に行われていること自体が、問題の根幹だが。武装勢力の中心にはロシアの一部勢力が相当入り込んでいるのはミエミエだがプーチン大統領は放置している。
 ところが、ウクライナ民族主義者の方もツッコミどころ満載で、ティモシェンコ元首相は評判はイマイチ。追放されたヤヌコービッチ大統領の蓄財も凄かったらしいが、同じくらいダーティーだったと言われてしまう始末。キエフの暫定政権には右派と言われるイケイケの武闘派が入り込んでいて、ロシア語の禁止まで言ったのでは怒る人も出るだろう。民兵があんな重装備ができるもんじゃない。煽った奴は誰だ。対する親ロシア派もロシア至上主義という意味で右派であり、右も左もあったものではない。それじゃ左派はどうしたのか、と言えばちゃんと元共産党員のシモネンコ氏が立候補していた。もはやイデオロギーの問題は無くなっている。
 ウクライナは世界で3位の穀物輸出国で、日本にも飼料用のトウモロコシを中心にアルゼンチンに次いで年間100万t程度輸出している農業国。東部の工業地帯は冶金が盛んだが、資産24億ドルでウクライナ3位の大富豪、コロモイシキー氏は所有の製鉄会社をロシアのグループに売却しており、関係悪化が望ましいはずがない(もっともこの人、東部ドニプロペトロウシク州の知事)。
 それにしてもプーチン大統領は鮮やかというか、自身に満ちており、ガタガタ言うなら中国があるぞとばかりに欧米をあざ笑うように合同軍事演習だ。何と言っても事実上クリミアに軍事侵攻したのだから。ひょっとしたら本当にドンパチの覚悟を決めて後ろを固めたんじゃないだろうな・・・・。どちらも引っ込みがつかなってもNATOじゃ手に余るし、アメリカだって本気にゃなれない。
 日本の場合もここまで来たらアメリカにベッタリとは言わないまでも、反米なんて言ってられなくなる。中国機の自衛隊機への接近だってどっかで誰かが操っているに違いない。北方領土も集団的自衛権も自主独立も大事だが、下手にすり寄ったって足元見られるのがオチだろう。返って中露の間に楔を打ち込むような奥の手はないか。中国だってベトナムとイザコザしてるくせに、クリミアの住民投票をチベットや新疆でやられたら目も当てられんだろう。テンヤワンヤで気の毒な韓国海洋警察の足元をみて漁民はやりたい放題だそうじゃないか(中国はいかなる投票もしたことはないが)。世界は同時多元的に動いてる。よく考えなくては百年間違えるぞ。しかし戦争はしませんので、念の為。
 当選したポロシェンコ氏もウクライナ7位の金持ちであり、資産は16億ドルくらい。48才だそうだからソ連崩壊時には青年で、あの国有財産の分捕り合戦の勝ち組オルガリヒだが、親欧州で大丈夫か。国を立て直せるか。ただ、プーチン大統領はもう係り合いたくはないのじゃないか。メルケルあたりと落とし所を話してたりして・・・。
 先日、少しでも情報が欲しくて都内のあるロシア人を訪ねたが、その際に言われた。その人はウラジオストック出身の白人なので「私は仕事柄ロシア派なんです。」等と軽率なことを口走った。するとその人、ニッコリ笑って
『西室さん、ロシア人とウクライナ人の区別がつきますか?』
と聞くではないか。わからない、と答えると、
『私は母がウクライナ人で、父はポーランド人なんです。あのあたりは昔からグチャグチャなんですよ。』
と言われてしまった。ヨーロッパは奥が深い。

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/
をクリックして下さい。

ロシア残照 Ⅱ

2013 SEP 25 7:07:47 am by 西室 建

以前、真冬のロシアに行った際の話。モスクワから200キロ程東にある製鉄所に行った。そこは年間400万トンクラスの中堅電炉メーカーで、コンペティターのヨーロッパ勢の牙城であり、そこに鋳造設備を売り込むというミッションだった。片道3時間くらいで雪こそ降りはしなかったがガリガリに凍った道路である、生きた心地がしなかった。帰りには少し慣れたが、特に大型トラックが猛スピードで抜いていく時など怖いのなんの。おまけにモスクワで雇った運転手はかの地は初めてで、雪原に行き先表示も無く、あっさり道を間違えてみせた。

さて商談もそこそこ進み、試験評価ぐらいはやってもらえそうになってホッとしていると、突然向こうの偉い人がこっちを向いて何か言った。無論通訳を通じてロシア語で言ったのだが、

「私の娘が日本語を勉強しているが、ナマの日本語を聞いたことが無いので、電話で話してやってもらえないか。」

だそうである。こちらも民間外交は望むところなので快諾すると、自宅に電話しどうぞ、という感じでマイクオープンにした。女の子の声が聞こえてきた。

「あたしのなまえはアリョーナです。」                               はっきりした綺麗な日本語である。~~~~ました、といっためちゃくちゃな日本語かと思っていたボクは度肝を抜かれた。                              「あのー(マヌケな返事だ)、ずいぶん日本語が上手なんですね。」            「・・・・。」(どうやら ジョウズ が解らないようだ)                  「どうやって勉強しているのですか。」                              「英語のインターネットで勉強しています。」                          「?????????。どうして日本語を勉強しているのですか。」                  「日本のアニメの主題歌を歌いたいからです。」                       「・・・・。勉強して日本に来て下さい。」

こちらでも日本のアニメは人気があるので放送されていて、セリフは全部吹き替えなのだが、主題歌のところは日本語で流れて日本語の字幕がそのまま使われているそうだ。アリョーナという(15才といったか)少女はその主題歌を覚えたくて字幕を読めるように苦労して勉強していた。こんな田舎では日本語学校があるはずもなく、ロシア語の教材もないので、インターネットの英語版の日本語教室を見ながらセッセと覚えたらしい。たかがアニメと言うなかれ、ソフト・パワーはこういう底上げには多大な貢献をしているではないか。うっかり名前も告げていなかったが、いつか日本で会うことがあったら、それは微笑ましいヒトコマになるだろう。

ヘトヘトになってモスクワで投宿したが、メール・チェックをしようとしたら繋がらない。ビジネスセンターに聞くとWi-Hiの電波は部屋ではとれず、ロビーに降りないとダメ、と言われた。仕方が無いので夜の12時にノコノコとパソコンを手に降りて行くとこれが大勢の人々。それも若い女性ばかりなのだ。これは・・・・。みんな東洋人が珍しいのかこっちを見ている。よくみればどれもとびきりの美人だ。「コンバンハ」エッ日本語じゃないか。昼間のアリョーナの日本語はかわいらしかったが、こっちは邪悪な妖艶さが声にまで出ている。ハハーン、この寒いのに(外はマイナス30度。ロビーは暑いが)やたらとスカートも短い。するとロシアのこんな所にまで来て怪しからんコトに及んだ先達がいたのか!ボクはロビーのソファーにズラリと女性がたむろして「カモがいる。」と言わんばかりの視線を浴びる片隅でそそくさとパソコンをいじっては部屋に帰った。まさか民間人の僕にハニー・トラップもないんだろうが、さすがにモスクワだ。

あのアリョーナが日本語がうまくなってもこんなところでは使わないで欲しい、と思わずにいられなかった。

ロシア残照

ロシア残照 Ⅲ


ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/
をクリックして下さい。

北方四島共同経済活動は

ロシア残照

2013 SEP 16 16:16:44 pm by 西室 建

 長きに渡りタフな交渉を続けてきたロシア側の相手、アレクサンドル・ボリシビッチが来日した折の話である。土日を挟む滞在のため一日アテンドすることになった。年の頃は50過ぎで真面目なエンジニア上がりのため、ティズニーランドとかスカイツリーにつれていくのは憚られた。少し考えて富士山麓にある我が山荘に招待することとした。かの地は我々一族のルーツのようなところで、僕から数えてニ代前の爺様が普請狂いした際に丹精込めて造り、喜寿庵と名付けていた。日本家屋を建て庭に芝生を張り、石を置き、樹木を植えて笹を巡らした。庭から先の渓流にいたる向こう側の崖の景観が気に入らず、わざわざそこの持ち主に掛け合って大枚はたいて植林したとされる杉林も残されている。また、冬至の日にちょうど夕日が山間(山あい)におちる場所に惚れ込んで土地を手配した、との伝説も残っている。

 ロシアは冬半年がほとんど夜のような状態なので、夏を楽しむのに様々な工夫をこらす。都市部の郊外には、なぜか彩色された大小のかわいらしい家があちこちに見られるエリアがあって、家庭菜園のような庭がついている。これはダーチャと言って、夏の間土いじりをしながら白夜を過ごす別荘のようなものだ。考えて見ると都市部のアパート形式の住居は旧ソ連時代の思想の賜物に見えるが、むしろあの寒さの中で暮らすにはくっついていないと暖房効率が悪すぎるのでああなっているのでは。だから旧体制時代からダーチャの私有は認められていた。無論冬の間は雪に埋もれてほったらかしだ。誘うときに『私のダーチャに来ないか』と言ったので、喜んで来たのだ。

 車で1時間少し、アレクサンドルは初めてみる日本の郊外に見とれていた。アレクサンドル・ボリシビッチは本名コテルニコフという名字で、通称は『ボリスの息子のアレクサンドル』というロシア風の言い方。イワノビッチとかいう言い方はイワンの息子だ。喜寿庵に着くと、お土産に持ってきたウオッカをうやうやしく差し出す礼儀正しいオヤジだ。早速芝生の上で寝転びながら乾杯した。無論ボクはロシア語は出来ないし、彼の英語もかなりヤバい。練達のロシア通、オカダさんという関係者がつきあってくれたのだ。

 彼がまず感心したのは渓流のせせらぎだった。ロシアのウラル山脈の麓から来た人間にとってザワザワという流れの音が珍しいらしい。何しろ古い地層なので、浸食が進み、彼等にとっての川というのは大地をノッタリと進むもっと広い流れを指す言葉なのだそうだ。喜び過ぎて崖から降りてみたいと言い出したのには参った。次に林の奥にわずかな畑があって、親父がジャガイモやトマトを造っているのに興味を示した。ここがロシア人なのだろう、土を手に取って指でつまんでみたりしながら『この土の色は素晴らしい』とはしゃいでみせ、『まだ収穫の時期ではないのか?』としきりに訪ねる。掘り出したいと顔に書いてあったが、まだ早い。

 飲みながら話ははずんだ。一般に市民レベルは親日が多いのに驚く。特にウラル地方ともなると遠すぎて日本に憧れのような気持ちを持つらしい。一方中国・モンゴルには反感というか恐怖感に近いモノ言いがある。モンゴル系にはアッチラ大王やらチンギスハンに散々やられた刷り込みがあるようだし、中国については13億人の人口に(ほとんどが国境から遠くに住んでいるが)対しての潜在的な圧力と捕らえがちだ。何しろ1億4千万人しかいない。彼はボクの先祖についてしきりに聞きたがった。庭の片隅に記念の碑が立ってい、てボクから三代前の先祖のレリーフがあったからだ。ひとしきり話を聞いていた彼は、なぜか自分のニ代前のおじいさんのことを語り出した。

 それは壮絶な内容だった。まずいことにかの独ソ戦に関わることだったのだ。SMCの中村兄の研究によると、近代最悪の消耗戦だったそうで、当時の日本はドイツの同盟国である(ただし日ソ不可侵条約もあったが)。 おじいさんは斥候に出ていたらしい。ドイツ機甲師団の猛烈な突進に小隊は鎧袖一触で蹴散らされて逃げ回った。ところが機甲師団の進撃スピードが速すぎて斥候小隊なんかには目もくれずに前進するため、おじいさん達は原隊に復帰するためにドイツ軍の後をついていく羽目になった。しかし向こうは電撃のスピードだから遥か先に行ってしまって追いつけない。彼はこの時はまだ笑ってみせていたが、その後は皮肉っぽい表情を浮かべるだけだった。何しろ途中の村は略奪されつくして食べ物もなく・・・・、と悲惨な話が続く。何ヶ月も歩いていたそうだが結局原隊復帰はできなかったらしい。次に独軍を見たのはボロボロになって敗走するところだった。戦後もコテルニコフ一家の苦労は続いた。

 僕は深く同情するとともに、一瞬、8月15日以降の満州でのソ連軍の乱入や9月まで続いた北方領土への不法な攻撃を思っていたのだが、やはり口には出さなかった。目の前の彼は善良なエンジニアだし、一家の悲惨な話を聞いたばかりなのだ。そうこうしている内に、親父が学生を大勢連れて帰ってきた。かの地の大学の生徒達で、これからバーベキューをするとか。いいタイミングだった。それから、珍しいロシア人と地方の大学生は微笑ましく交流した。『エカテリンブルグはどこにあるのか知っているか?』『エーッそんな遠く、ウッソー。』のノリだ。女子学生が多いので機嫌が良くなったのか、アレクサンドルは『エカテリンブルグで働きたい人は無条件で採用する。』と言い出し、学生が本気になりゃしないかと親父を慌てさせた(実は親父はその大学の理事長をやってる)。さらに酔いが手伝ったか(こっちも酔っ払ったのだが)北方領土問題に言及し、これは困ったなと身構える我々日本人を尻目に、

「そんな小さい島でもめるくらいならスベルドロフスク州の空いている倍の面積をタダでやるから仲良くやらないか。」

あのねえ、あんたはそれでいいだろうけどプーチンに言ってくれよ。大国は押しなべて個人の意思や善良さが国家のレベルになると突然変異するように引っ込みがつかなくなるようだ、アメリカだって。最近の研究では、かの旅順203高地の銃撃戦の際でも、赤十字の斡旋で遺体の引き取りのため、一定時間両砲撃を中止する停戦があり、その時間になると両軍の塹壕から酒を持ち寄っては言葉もわからないのに飲み交わしたらしい。時間が来ると、もう一丁やろう、と分かれてドンパチやったと言うが。

 爺様の自慢の夕日が冬至の時の場所からずれたところに落ちていった。彼を呼んで二人で眺めながら、つくづくタフな交渉を途中で打ち切らなくてよかった、と思った。

ロシア残照 Ⅱ

ロシア残照 Ⅲ


 「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
 をクリックして下さい。」

北方四島共同経済活動は

   

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

Luise Ono
三遊亭歌太郎
小林未郁