Sonar Members Club No.36

カテゴリー: 2021年の安寧

機械に使われる気分

2017 MAR 8 16:16:46 pm by 西 牟呂雄

ルンバ君の顔

 皆さん、彼をご記憶でしょうか。
 我が家の働き者、ルンバ君です(本当はもっと変な名前ですが恥ずかしくて書けない)。
 相変わらずルンバ君は疲れもせずにセッセと掃除をしてくれています。
 僕はルンバ君と仲良しなので、彼が掃除をしているあいだ中彼の側にいて世話を焼いているのです。
 椅子だの屑篭だのスリッパが放置してあるとルンバ君はぶつかって向きを変えます。まだAI搭載型ではないので部屋全体を俯瞰してコースを決めることはできないため、ランダム(といってもいくつかのパターンで)方向を選んでトコトコ進みます。
 そこで僕が進行方向にある家具を、ルンバ君の邪魔にならないようにどけて歩くのです。
 これ(まさかやる人はいないでしょうが)やりだすと結構集中力が要ります。嬉々として1時間もやって我に返ると、フト思います。『この状態ってオレがルンバ君に使われてるんじゃないか』と。
 以前、認知症になった僕が『介護スーツ』というマジンガーZのようなボディ・スーツを着せられて、食べたくもない時にモノを食べさせられたり(本人ボケて分かってない)したくもない運動をさせられることを想像してゾッとしましたが、AIのただならぬ発達ぶりにあながち冗談ではなくなってきていますね。

2030年 認知症で自由になる

 自動運転の技術は今後飛躍的に発達することが予想されますが、どの時はどうなるでしょう。おそらく本人認証技術も同じように進化し、持ち主とその家族以外が乗ってもスタートできないようにするでしょうから、そのうち車にボビーとかジョーといった名前をつけてルンバ君のように擬似家族のようになるかも(僕がやりそうで怖い)。
 すると、その車が走りやすいようにまた気を使い、家の前の障害物をどけたり。

 狭い一本道を二台の車がすれ違えなくて困っています。車は自動運転なので行く事もバックすることもできないで止まってしまう。
 すると乗っていた人間が出てきて怒鳴りあいを始めました。
「オイッ、お前のクソ車が邪魔でウチのボビーちゃんが通れなくて困ってるだろーが。」
「ナニ!そっちこそこんなかわいいウチのジョーを脅かしやがって!何ならオレが相手になってやろうか」
「上等だ、このやろう」

こういう場合は人間同士が決着をつけるのだろうか。

ルンバ君(仮称)

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2035年 人工知能天国 (今月のテーマ 人工知能)

本当だろうか 暗殺‼️

2017 FEB 15 21:21:38 pm by 西 牟呂雄

 この人  マカオの怪人 が毒で暗殺されたって・・・。時系列的には以下である。

 日米首脳が名指しで「脅威」と声明 
   ⇓
 よせばいいのに総理アメリカ滞在中に独裁者が頭に来てミサイル発射
   ⇓
 大統領・総理二人で揃って強く非難
   ⇓
 国連安全保障理事会で制裁決議採択 中国も賛成
   ⇓
 中国はシブシブ『いいかげんにしろ』と圧力をかけた(推測)
   ⇓
 独裁者が体制転覆を嗅ぎ取り新体制の核となりうるスペアを”消す”(推測)
   ⇓
 習近平の面目丸潰れで怒り狂って制裁開始(推測)

 ここから先は得意のゲーム理論・利得表を作って見立ててみよう。但しあまりに複雑になりそうなので、中・朝・韓の3国間の利得表で計算してみた。
 すると結果は韓国の大混乱。
 大雑把に起こりうる最適ポイントだけ列記してみるとこうなった。
 まず中国が石油パイプ・ラインのコックを閉じ、同時に人民解放軍を国境に配置。困った北は政治混乱の続く韓国の親北勢力に統一をチラつかせてアプローチする。韓国現政権は当事者能力を欠いているため腰砕けになる。大統領不在の国では唯一の右派組織となった韓国陸軍が極度に緊張する。朝鮮人民軍も部隊を引っこ抜いて対峙することとなる。結果大統領選挙の日程さえ決まらずに一月過ぎると・・・。
 
 3カ国以外に地政学的にもっとも影響のある国は日本だが、今回の計算の中に組み込むスキームが全く思い当たらなかった。仮にあるとすれば独裁者が『拉致問題の真相はこうだった』と頭をさげる、できないか。
 トランプ大統領が秘かにデニス・ロッドマンを特使として派遣し、核の廃棄と引き換えに独裁者に第三国(といっても受け入れ先は思い当たらない。ヨーロッパの何処か?)への亡命を示唆する、無理か。
 ここは一つ韓国陸軍白骨部隊(国境の最強部隊)の精鋭が潜入、秘かに独裁者を拉致監禁し大統領職務停止中の朴槿恵氏が中心の人民統一党による革命政権の樹立を宣言する・・失礼しました。
 とにかく38度線でプッツンした両軍が撃ち合うことだけは避けていただきたい。

 って明日は故金正日総書記の生誕記念日じゃないか!

マカオの怪人


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アメリカ・中国・南北朝鮮、そして日本

2016 MAR 22 7:07:25 am by 西 牟呂雄

 水爆実験や弾道ミサイルに頭にきて軽薄なブログを書くとあまり考えていないのがバレるので(もうバレているだろうが)ひと月インターバルを置いた。国連安保理がノタノタしている内にケリー国務長官と王毅外務大臣の米中会談が行われた。
 筆者はこの会談で再び両国が取引し、日本には知らせず韓国・北朝鮮を蚊帳の外に置き、秘密に手を握ったと見立てている。それが何なのか。

ケ)南沙諸島の『航行の自由』作戦は継続中でイージス単独でやる、ただし護衛潜水艦部隊は潜行させない。非難声明を強硬にしても構わない。アメリカのメンツを守れ。それからコリアだが、我々も北を潰そうなどとはしない。
王)それはわかった。我々もホトホト手を焼いている。制裁は取り合えずある程度の事はしよう。だが一つだけ頼みがある。日本を調子に乗らせないでくれ。そこで相談だが。

 こんな感じでやったに違いない。つくづく思うのだがアメリカにも中国にも韓国にも信頼できる友人はいるが、こうもパズルのように複雑になると国家間での約束事は当てにならないのではないだろうか。日米同盟の帰趨が心配だ。大陸・半島に至っては国家としての振る舞いがひどすぎるので、個人的に不愉快であり付き合うつもりはない。
 米中は昔から裏で繋がっている。それは地政学上、日本が間に挟まっていることも大きい。日本があまり力を持つ事を両国とも好ましくないと思ってい上に、日本を叩いている限り両国は協力できるからだ。
 G1の一極であったアメリカは現在大統領選挙の真っ最中だが、外交についての議論は全く盛り上がらない。というかトランプ効果で強硬論の品評会になってしまい、冷静なアピールがない。共和党はあんなではなかったはずだが(私は自称リパブリカン)今更手遅れだ。
 消去法でヒラリー氏になったところで彼女の本質は中国贔屓(亭主の影響か)。尖閣は安保の範囲内とは言ったものの、大統領になったら手のひら返しも在り得ると覚悟しなければ危ない。

 最近の言説で、主にヒストリアンと呼ばれる保守系の論客がアメリカの内向き姿勢について言う事がある。過去の世界大戦の直前にそっくりだと。
 台頭する新勢力、現在は国家としては中国に甘く対峙しているのが良く似ている、と。これはかつてのヨーロッパを席巻したドイツ、そして(自衛の意味合いが強いと私は思うが)よせばいいのに大陸に深入りした日本に対し、当初日和見的に対応して混乱を拡大させたことを言っている。
 それだけではなく、中東に手を入れたために執拗にテロの標的にされてもいる。
 ここでアメリカが場当たり的に対処して、中国と密約で妥協する可能性は非常に高いと危惧する。

 中国は経済が液状化している。西からのISのプレッシャーも来る。但し日本は経済的には仕掛けない、仕掛けられない。今更断ち切れっこない。おまけに中国は潰れない。イザとなれば自国民の1~2億人を苛め抜いて平気なお国だ。
 北は内心では中国と憎しみ合っているがアメリカからも無視される。この段階では敵の敵は味方とはならないし、三代目は予測不能。 
 南は日本に擦り寄るしか手立てはないはずだが、世論とマダムはそれを許さない。日本からはもはや手は差し伸べない。スワップ要請も受けない。何の国益にもならないからだ。大陸と違い日本経済も大して困りはしない。

 するとどうなる。日本が孤立してしまうではないか。
 そう、日本独自で毅然とする瀬戸際に立っているのではないか。覚醒せよ。

 米韓合同演習はかつて無い規模で、特殊部隊まで投入し猛烈な圧力をかけたら北は又ミサイルを撃って見せた。北は合同演習をやられると、対応するために部隊展開をせざるを得ない。演習をしたとも伝わったが、これは大量の油を使うのでホトホト困っているはずだ。もはや手立てがなくなっていることを如実に表したと筆者はみている。18日に撃って(1弾は失敗したらしい)昨日もまた予告なしに撃った。
  しかし、いくら撃っても誰も相手にしなくなったら再度の核実験はやるという予測はつく。危ないぞ!

 ここで考えは飛躍する。国境の近い国は他にもあるではないか。ロシアと台湾である。
 いじらしくも独立の気概をみせて新政権を選択した台湾。苦境にありながらも図々し振く舞わざるを得ないロシア(クリミア・ウクライナでの振舞いは全くいただけないが)。賛否両論あるであろうが、不思議な事に安部総理はこの両国のトップとウマが合うらしい。常に緊張を強いられる国家のトップ同士が会談するときに、作り笑いでない表情を見せられる関係というものは構築しようとしてできるものではない。大国アメリカのオバマ大統領がサシでプーチン大統領とシリア問題で通訳のみの会談の映像を見たが、プーチンにいいようにあしらわれていたように見えたではないか。

 プーチンとの会談を整中の安倍総理の次の一手が見えて来る。ロシアは北の国とも国境を接しているのだ。

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近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅳ

2015 NOV 17 20:20:19 pm by 西 牟呂雄

 『ラー』本部で待つ出井の所に椎野と大和刑事がやってきた。
「オッ出井か。ご案内の通り一発逮捕にこぎつけた。」
「車に乗せられた時はあまり言い気持ちはしなかったんですけどね。」
「そうそう。店を出たら大和は車に乗せられて出ちゃってサ。イヤ焦ったの何の。ちょうど空車がいたんで追いかけられた。」
「私は椎野さんや防衛がいるものとばかり思ってましたから何とか逮捕できると思ってたんですよ。そうしたらホシの車が都合がいいことに追突したんです。」
口々に今回の作戦がうまくいったことを喋る二人。
 逮捕に至る経緯はこうだった。大和刑事は指示されるままにルノアールを出ると大型の車に呼び止められてそれに乗った。多少気味が悪かったが懐に入ると覚悟を決め乗り込むと、早速簡易検知器のようなものを使いマイ・ナンバー・カードが本物かどうかチェックすると直ぐに車を出した。
 椎野はその時になって店から出ると大和を乗せた車が出る所だった。偶然、客待ちのタクシーがすぐにいたので飛び乗って後を追った。大和を載せた車は幹線道路に出て少し走ると、金の受け渡しに車をとめようと左に寄せる。その時前の車(ワンボックス・カー)が妙な動きをしてスピン、追突した。大和を乗せた男は多少ガラも頭も悪そうな青年だったが『このやろう!』と叫んで前の車に詰め寄った。すると『申し訳ありません』などと言いながらガタイのいい屈強そうな男達が4人くらい降りてきてグルリと囲んでしまったのでトラブルに至らず、誰が通報したのかパトカーが直ぐにやってきた。無論椎野もヤジウマに混じってコトの推移を見守る。警察の事故処理が終わり、その若い男に大和と椎野が『警察だ。不正私文書売買で逮捕する!』と手錠をかけたのだった。

 出井は複雑な心境だった。公調と握ったことは言うわけにはいかない。飛乗ったタクシーも事故も仕組まれたものであることはその後知らされていた。
 確かに犯罪は減っている。一般市民はこの張り巡らされた管理ネットの元、大して気にも留めずに生活を営んでいる。ある面お上を気にせずに暮らすこと、古の尭(ぎょう)舜(しゅん)の治世の如しである。しかし一方で、組織拡大のために犯罪そのものを生み出してまで管理しようとする一団がおり、自分はそれに加担しようとしているのだ。
「どうした、出井。」
「うん。」
「乗るだろ。新宿ホームレスだけでこの成果だ。次は池袋でまたやれば必ず引っかかるぞ。」
「まァ暫くは多少の実績にはなるな。だがそうするとこの大げさなハイテク防諜施設そのものと『ラー』の存在意義はなくなるが・・・。」
「何言ってんだ、成果があがりゃ文句はあるまい。」
 暗号電報によってマイナンバーの売人が新宿から池袋にフィールドを移した事も公調から伝えられていた。しかし、このタイミングで池袋を出すとは。もしかしたら自分より先に椎野が公調にツウ(内通)しているのではないかと疑心暗鬼にも駆られ、出井は一瞬気が遠くなった。

おしまい

 管理され切った社会は組織防衛と権益の増殖を招き、出世のためには犯罪までを管理する人々があふれかえる。誰が誰と繋がっているのか分からない。そして犯罪は減り続ける、生温い市民の集合体になってしまった。普通の定義は難しいが、多くの”市民”は幸せそうに暮らし続けているのだ。このままでは済まないのではなかろうか・・・・。

近未来 無犯罪都市 TOKYO

近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅱ

近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅲ


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近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅲ

2015 NOV 15 20:20:58 pm by 西 牟呂雄

 椎野は振り返って出井に告げた。
「ひっかかったぞ。」
「だけどお前35歳の『ヤマト』なんて名乗って、誰だそれは。」
「大丈夫だ。生活安全課の刑事だ。いかにもマイナンバーを売りそうな役柄にぴったりだから前から仕込んでおいたんだ。それで咄嗟に年が言えた。」
「なるほど。」
 大和は新進気鋭の刑事だが、確かにモッサリしていてスーツでなければいかにも困っていそうに見える。早速言い聞かせて護衛の私服も4人手配し、現地に行かせる手はずを整えた。

 指定されたのは今頃まだあったかというような「ルノアール」。椎野と出井、そして2人組みの護衛が二組、時間よりも早く店に入り隅の席を確保しようとしたが、奥の席にはカップルがおり壁伝いの席もあらかた占められていた。結構混んでいたのだ。それぞれ、一人は入口が見える席に座り世間話を装った。見たところそれらしい男は見当たらないのでコーヒーをチビチビ啜る。
 大和刑事は指定時間の5分前に入った。まず自分を待っている男がいないか見回すのだがいない。仕方なく席についていかにも人待ち風情に佇んだ。
 約束の4時が過ぎ、何も動きが無い。5分、10分経ち人も動かない。これはガセか、と思いだした時、店の者が
「お客様のヤマト様、ヤマト様、いらっしゃいますか。お電話が入っております。」
と声がかかった。大和がカウンターに行き店の受話器にかじりついた。何か話している。こういう場合相手が店に来る場合は全員動かないが、外に呼び出された場合は一人だけ後を追い、護衛一組が後から追う。きょうは椎野の役割だ。
 会話に聞き耳を立てていた椎野は気配を察知して
「それじゃ、私はちょいと急ぎますんで。」
「じゃあココはオレが払っておくからお先にどうぞ。」
 という流れで席を立った。と、同時に大和の電話も終わり席に戻ってきたが座らずに伝票をもってレジに向かった。直ちに護衛の一組も後に続いた。ところが大和、椎野に続いて護衛二人がレジに並ぼうとすると先に4人の男達が席を立ち会計をする。大和と椎野は既に出て行ったが、男達は別々に会計をする様で一人づつ支払いお釣りを受け取っていた。残った出井は気を揉んだがソワソワして見せる訳にもいかない。
 するとその時店に入ってきた二人の男が出井に向かって急に声をかけてきた。
「あれ、出井さんでしょう。お久しぶりです。」
 ズカズカと寄ってきて椅子を引く、知らない顔だ。何事だ。声を潜めて聞いた。
「どこかでお目にかかりましたか。ちょっとド忘れしてまして。」
「フフフ。いや『ラー』の出井さん、良く知ってますよ。私は原部(ばらべ)です。こちらは英(はなぶさ)です。」
 男はサッとさりげなく身分証明書を見せた、公安調査庁の人間だ!出井はドギモを抜かれた。
「公調?公調の人が何でこんなところで。しかも『ラー』をなぜ・・・・。」
「マイナンバーの地下売買組織を追っていたところでしてね。声を落としてくださいよ。」
 原部という男は確かに眼力があるいかにもな風采だが、英という男はおよそこの業界の人間には見えない。分析官なのだろうか。
「オタクはネットの防諜が専門のはずですよね。」
「そこはお互い様、まァまァ。『ラー』は公調でも気づいているのは私達だけですよ、さすがに。」
原部と名乗った男は小声で話しだした。大和と椎野の成り行きが気に成ったが仕方がない。
「で、出井さん。最近は上り(逮捕件数)はどうですか。」
「どうもこうも。そちらが片っ端からやるもんだから・・。」
「いや、このところこちらもさっぱりで。マッ犯罪が激減してるのはご存知の通りなんですがチョットね。こうなると困るのは誰ですか。」
「誰も困らないでしょう。」
「フッフッフ。監視対象が出て来てくれないととリストラされますんでね、そろそろ稼ぎませんと。」
「あんた何を言ってるんだ。」
「アッさっきの呼び出し。お連れさんが追いかけたでしょう。あれウチでたぶらかしたヤクザです。」
 途端に出井の携帯が振動した。
「失礼。(携帯に出て)何だ。」
『まかれました。撤収します。』
 それだけで切れた。椎野の後を追った護衛に行った二人からだ。
「出井さん。大和さんなら出たところで車に乗せられましたよ。椎野さんはタクシーで追っています。」
「ムッ、」
 ただならぬ気配に店に残っていたもう一組の護衛が会話を止めている。ニヤリと笑って原部が呟いた。
「今からウチの人間が撤収しますから見ていて下さい。」
 するとスルスルと人が、オッサンもカップルも消えるように、しかも自然に帰って行く。それまで満席だったのに3分もしないうちに出井達と護衛の二人だけになってしまった。出井も顔色を変えた、まさかここまで。
「こういうのはウチのほうがね。予算が違いますよ、人数も訓練も。大和刑事と椎野さんは我々が護衛していますからご心配なく。」
「どういう意味でしょうかね。」
「車が二台追走してますよ。あのですな。」
 少し間を置いてから一気に語った。
「出井さん、今消えたのは全部ウチの人間です。そっちのお二人は防衛でしょ、分かります。それでね、まァ挙げる件数低下は出世に響くし予算も対前年で削られる。そいつはお互いよろしくない。ですから今回みたいに同じターゲットを追うのは無駄でしょう。」
「公調さんはテロ・思想犯が本命であとはサイバー管理でしょう。私等が追ってるようなのは管轄外じゃないですか。」
「今日の奴みたいな”闇”の連中から流れるケースもありましてね。マイナンバーの売り買いは対テロ対策の重要管理項目ですよ。それがですね、予算が付きすぎてウチは今やネットの管理人みたいになってます。もっともこちらは出口から追って来たんですが。」
「相手がヤクザの枝なら捜査権はこっちでしょう。”仕込んだ”ってどういうことですか。」
「勿論管轄はそうです。そこはホラ、一つ取引といきませんか。”仕込んだ”ってのはちょっと時間と手間がかかるこちらのノウハウなんでね。」
「取引とは穏やかじゃありませんね。要するに合同で捜査するってことですか。」
「出井さん、冗談でしょう。そんなことやらかしたら上の方が滑って転んでって手間ばかりかかる。ウチは法務省管轄ですよ。下手にサッチョウ(警察庁)なんかが出てきたらもういけない。私等限りで握ってしまいませんか。」
「原部さんでしたね。そんな権限お持ちなんですか。お互い役人でしょ。」
「私は治安が維持できればいいし組織が守られればもっといい。このヤマは『ラー』に譲りますから。今頃はマイナンバーのチェックをしてる頃でしょう。」
「見返りはこちらのあぶり出しの機動力ですか。」
「さっきも言ったようにウチはハイテク化が進みすぎて伝統的なフィールド・ワークができなくなってるんですよ。しかもターゲットが決まらないと今日のような囲いはできません。あぶり出しのノウハウは無い。そもそもウチには正確な意味での逮捕権もない。あれだけ予算が付いちゃうと帰って成果上を出せって上の方からもゴリゴリやられます。ところがこの頃は盗聴・メール閲覧は当たり前になってますからプロの犯罪は見えにくい。パクれるのは素人に毛が生えた程度か変質者ばかりになっっちゃって、はっきり言って成果は落ちてます。」
「こちらのほうも同じですよ。結局元に戻ったようなもんです。」
「でしょう。お互い損にならないってことでどうですか。」
「それで連絡はどうするんですか。」
「秘密回線のトランシーバーと暗号電報です。まぁ見てください。」
 原部と名乗った男は鞄の中から携帯よりも大きめのトランシーバーを取り出した。前世紀の異物のようだった。そして回線を入れると。
「大和刑事を保護して椎野さん達にホシを挙げさせろ。」
とだけ言った。

つづく

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近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅱ

2015 NOV 14 8:08:04 am by 西 牟呂雄

 警視庁生活安全課長の椎野は、マイナンバー詐欺の追及のための膨大なネット・メールのデータに目を通しながら席を立った。そして夕刻には都内、六本木のマンションの一室を訪れた。何の変哲も無い賃貸物件の一室は、電磁波シールドと最新の盗聴防止システムを備えたネット上難攻不落の要塞で、サイバー戦争の最前線を担う防犯関連者の連絡所としてキィ・クラブの体裁をとった密室である。
 認証システムが施されたキィを使って入室すると生活臭は一切無く、事務机が淋しげに並んでいる。一人の男が椎野を待っていた。警視庁公安部サイバー対策課長、出井である。
「待ったか。」
「今来たところだ。」
 二人は一切外部に漏れない環境で密かに状況を伝えあった。即ち、ここは地下に潜った詐欺組織を燻り出すための秘密作戦室、具体的には法律ギリギリの囮捜査の司令塔なのだった。コード・ネームを『ラー』と言った。
 二人は2018年にこの秘密組織が始まってからのメンバーだったが、発足当初目覚しい成果を挙げたものの毎年逮捕件数は下がり続けた。一つには個人情報保護の観点から、テロリスト情報や性的変態犯罪予備軍の管理が公安調査庁側に大幅に移管されたこともある。しかしそれにしても、世の中が進歩したり人々が利口になったはずはない。サイバー空間でのセコい詐欺も激減したかに見えるがそんなこともない。しかし成果が下がるのは官僚組織にとっては命取りだ、予算が削られるのである。

「サイバー囮捜査は完全に手詰まりだ。ネット関連で引っかかる詐欺の類は殆ど素人しかいない。」
「みんなデータを監視されているのが当たり前になりすぎてしまった。我々が相手にするようなプロの犯罪者は既にネット上には出てこないのではないか。この囮捜査も時代遅れだろう。」
「しかし組織犯罪はどこへいったんだ。ヤクザを追い込みすぎて解散させてばかりいたから事務所のガサ入れも出来なくなったぞ。」
「監視慣れというかネットでの勧誘詐欺は首都圏ではもうない。何か別の手段が採られているに違いないのだが分からん。何か撒き餌を仕込まなければ。貴様いい知恵はないか。」
「そうは言っても公安調査庁と違ってこっちは予算が無い。」

 散々悩んだ末に二人が思いついたのは、何とか地下犯罪組織に辿り着こうとする涙ぐましいアナログ作戦だった。新宿のホームレスに『マイナンバー売ります』のカードを持たせそれを配らせる、引っ掛かった(変な話だが)闇のグループが連絡を取るにはホームレスの親方(どこにも仕切り屋は居る)に言い含めて住所と固定電話を教えさせるようにした。何しろ誰もが管理されているのが前提のため携帯・メールは絶対に信用されないご時世なのだ。全く変な世の中になってしまった。
 しばらくすると驚いたことに次々と連絡が舞い込んだ。そしてその通信手段は電報なのだ。それも毎日10件・20件と来る。たちまち小所帯の『ラー』では捌けなくなってしまった。二人のほかには24時間交代勤務でネットを監視しているサイバー官5人しかいない。
 今回のアナログ・ヒュミント作戦では、犯罪組織にマイ・ナンバーを「売り」に行く実在のスパイが欠かせないのだった。切羽詰った出井と椎野は応援を仰いだ。所轄の人員では足りそうもない。公調(公安調査庁)に人を出してもらいたいのはヤマヤマだが交流も無い。仕方なくホームレスの親方と話をつけて、多少口が利ける程度の子分を斡旋してもらった。そもそもその電報には待ち合わせ場所が記入されているのみで今時の通信手段は全く使わないので、その場所まで行けるレベルを選ぶ。格差社会が進行して識字率までが落ちているから電車にも乗れないのがいるからだ。手配できる人数はせいぜい100人程度で直ぐに「売り」の配布を打ち切り日付の確かな電報に対応させる。すると、半数の者は接触出来た。残りは手ぶらで帰って来た。駅の改札で待ち合わせる、といった電報はほぼガセだった。
 その場で『マイナンバーを寄越せ。』と要求された者が殆どで、そういう輩には精巧に作られた偽のマイナンバー・カードを大体5~10万円で売りつける。そして実際には使えないことを後に知ることになり、使用時点で御用になる。
 三人だけ、共に公園のベンチを指定された者がその場でタッチ式の検査機のようなものでカードをチェックされ見破られた。
 二人は帰ってこなかった。
 一人、メモを渡されたのがいた。『本気ならばこんなカードではだめ。固定電話で連絡請う。03-△△△△ー◆◆◆◆』と記されていた。固定電話というのがヤバそうだ。
 相談した結果出井が公衆電話から掛けることになった。
「もしもし、メモを頂いた者ですが。」
「メモでございますか?」
出たのは若い女の声である。
「あのー、マイナンバー・カードの件で・・・。」
「チョットお待ち下さい。」
コールが鳴って男に代わった。
「あー、そちら様公衆電話なの?」
「あっはい、そうです。家電持ってないんで。」
「あーそう。冷やかしとかじゃないの?本当にナンバー売るほど困ってんなら相談乗るけど。」
「いや、本当に困ってます。おいくらで売れますか。」
「オタクお幾つ?そう若くないね。」
「はい。35です(本当は45)。」
「それは結構高いよ。じゃあ会ってみるかい。名前は。」
「ヤマトといいます。是非お願いします。本当に困ってるんです。」
 男はいきなりその日の夕方、都心から少し離れた沿線の駅前の喫茶店の名を告げた。

つづく

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近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅳ


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近未来 無犯罪都市 TOKYO

2015 NOV 12 19:19:26 pm by 西 牟呂雄

 2020年には多くの国民の理解が得られたマイナンバー制度が根付いた。オリンピックに大量の選手・応援団・観光客がやってきたが、入国の時にパスポートナンバーが控えられ、外国人にも仮の番号があたえられるようにさえなった。
 学者・ジャーナリズムの多くは『自由の侵害だ』『人権無視だ』と大騒ぎしたが、使っている国民のほとんどはこれによって手間が省け、便利になったと助かっていたのだ。施行されてから目に見えて犯罪が減ったのも大きい。
 国民は気が付いていないが国家による管理はとっくに極限にまで進んでいたのだ。
 2015年あたりからスマホ・メールの普及に伴って通話盗聴・メール閲覧・データ抜き取り技術が飛躍的に開発され、秘密裡に監視するとともに蓄積され、一方で防犯カメラで捕えられる映像がビックデータとして保管されたため、犯罪検挙率、スピードが飛躍的に上がる。gmail.com、 ne.jp 、co.jp
といったアドレスは例外なく閲覧されていると言っていい。
 防犯カメラは全国津々浦々に張り巡らされて、通り魔的犯罪は直ぐに挙げられる。
 好調安倍政権は下手に警察機構が動くと目立つと読んで、公安調査庁に膨大な秘密予算をつぎ込んだ。集中的に追い詰めたのは『振り込め詐欺』と『性的変質者』だ。危険度・常習度別にソートされた再犯候補者・犯罪予備軍を囲い込み、予防どころか若干の囮まがいの捜査で片っ端から検挙した。
 更にスマホ一つ部屋に置いて有ればオフにしたところで全て見ることも可能なのである。
 一見日本は治安において楽園のような社会になるかと思われた。
 肝心なことがもう一つ。脱税はマイナンバーを使うとほぼ不可能になり、どんな職業でもサラリーマン並みにふんだくられることが常態化した。

 2018年以降に安部政権を引き継いだ石破総理ー野田副総理コンビはオリンピックに向けた好況感と共に順調に船出した。
 しかしである。世の中のイリーガルな部分や怨念・憎悪が相対的に減るようなはずがない。しかも管理のレヴェルが上がると同時に抜け道を模索する技術も上がった。折りしも警察の暴力団壊滅作戦が効いたお陰で組織は壊滅したが、闇の勢力は一斉に地価にもぐってマフィア化してますます一般社会と乖離してしまった。
 一般国民にとってウッスラと管理されているのは苦痛でも何でもない。そうで無ければ北〇〇も〇国も人が生活できるはずはない。
 
 とは言え、政府への隠し金・ヘソクリをチョロまかすのは資本主義の基本だ。闇が目を付けないはずがない。まず始まったのがマイナンバー・詐欺だ。偽造マイナンバーでパスワードを盗み銀行口座から引き落とす。偽造マイナンバーを持ち掛け後ろ暗い連中から金を巻き上げる。更に適当なマイナンバーを入力したオレオレナンバー詐欺まで出現した。
 金持ちは電磁波シールド・ガーデンを造ったりして情報漏えいに気を使うムキもあったが、これらの犯罪は後を絶たない。2020年段階では、各警察公安部に設置されたサイバー・セキュリティー部隊と生活安全部の詐欺対策部隊は治安が良くなるに反比例するように多忙を極めて闇の勢力と戦っていた。
 闇とは言っても別に本当に地面の下に住んでいるわけじゃない。かつてのヤクザのように看板を出した事務所が無く、普段は普通の市民生活を営んでいるらしい。特殊なネットワークで連絡を取っているようで組織としての実態が皆目分からないのだ。仮にメール・携帯等で連絡していれば公安調査庁が把握できるはずなのだが、警察サイドから再三申し入れても梨の礫で、どうやら彼らの防諜でも分からないようだった。

 一部の犯罪集団はどうやらマイナンバーを拒否しているらしく、ナンバーの検索には引っ掛からない上、表面上はただの市民を装って自らは手を下さない。ナイショのヘソクリを造りたいような後ろ暗い堅気をカモにして詐欺を繰り返し急成長産業となっていた。
 表面的な安定社会と裏腹に、格差は益々広がり底辺貧困層ははっきりと隔絶された階層が形成されているようだった。
 即ち、マイナンバーが管理し切れない不法滞在者・ナンバー拒否組が表に出ないネットワークをひそかに形成していて、普通の市民を装いつつ社会の底辺にしっかり根を張ったようだ。

つづく

近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅱ

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平成亜空間戦争 Ⅱ

2015 APR 29 7:07:29 am by 西 牟呂雄

 前回のいきさつ 平成亜空間戦争

 ついにヤマト亜空間の関ヶ原が始まろうとしている。煉獄界の怨念パワーが全体的に落ちて来たのだ。これは地上の『ニッポン』と言われているエリアの平和が長く続き過ぎて、亜空間入りする怨霊が減ってきていることによるものらしい。ニホンジン全体が地球温暖化に合わせて『いい人』だらけになり、又長寿化によって昔であれば恨みつらみで悶死したような人が痴呆によって桃源郷に遊ぶような気持ちのまま亡くなるようになったからとも考えられる。
 亜空間の怨霊は憎しみのマイナス・パワーを発揮、敵を飲み込むことによってのみ成立しているところがあって、上述の理由により歯ごたえのあるニュー・カマーが来ないと亜空間自体が密度が薄くなってしまうのだ。怨念は怨念を、憎しみは憎しみを呼ばなければならない。
 ヤマト亜空間のカントウを支配していた平将門はついにキレた。

将門の首

将門の首

「おのれ不甲斐ないニホンジン共め。長い間地縛霊として君臨しているワシを何だと思っている!こうなったら亜空間革命を起こし一人でヤマトを治めて見せてやる。大塔宮!ここへ!」
 この怨霊は首と胴が離れているため、喋る首を、首のない胴体が脇に抱えたり両の手で高く差し上げながら怒鳴り散らした。
 大塔宮とは鎌倉で幽閉の後、皇族には珍しく斬首された護良親王のことで、将門と同じく首と胴は別々だ。将門との怨念比べに負けて以来副官となっていた。皇族なので敬語は使わない。
「あいや将門。退屈至極。して怨敵は。」
「知れたこと。キョウトで長年えばりちらしている宮の父君。帝の後醍醐天皇。あの異形の怨霊の霊気を吸い込んでくれる。」
「良き哉、良き哉。進んで戦おう。北の守り安んじ給え。」
「アテルイのことか。よし、エゾチのシャクシャインを使って釘づけにする。先ずは宮より怨霊ビーム送られよ。」
「ホホホホ。」
 宮は腰を上げ、宝刀を掴むやいなや裂迫の気迫と共にキョウトに向けて投げ放った。

 史上最強の怨霊後醍醐天皇もまた無聊を囲っていた。元々滅多に喋らない。声を出すと口から火炎を吐いてしまい、その度に回りのチンピラ怨霊が焼かれて天国に行ってしまうからだ。
 天皇はフッと気配を感じ東を向いて立ち上がり異様な気配を発揮し始めると、突然『シャアアアア』と炎を吹き出した。そのエネルギーに押されたのか、キョウトに向かってくる飛翔体が発火し勢いを弱めて落下し後醍醐天皇の足元にドスーンと突き刺さった。それを見た途端にみるみる怒気をはらむと、何と目から炎が上がっているではないか。側近の石田三成を下がらせて大音声を放った。

後醍醐天皇

後醍醐天皇

「かの宝剣は朕が皇子、大塔宮の愛刀。何をかいわんや。」
天皇の口からは大火炎が舞い上がった。
 たちまち中国皇帝のようないでたちに変身すると金剛杵(ヴァージラ、密教の武具)を掴み注意深く振り返り側近達がいるかどうか見た。少し離れて石川五右衛門と石田三成がいるのを確認するや、遥か虚空に向けて飛翔しはじめた。ゴーッと風を起こしながらである。余程の怒りなのか火炎を吹き続けているので軌跡が飛行機雲のようにたなびいていた。続いて石川五右衛門が姿を消した。

 地上界で関が原と言われる上空を飛翔していた後醍醐天皇は、突如強い霊力によりスピードが落ちるのを感じた。強力バリアーの結界が張られているのだ。亜空間には引力がないため地上に降り立つようにはならないが、移動を止めて霊力の発せられている東側を見据えた。
 すると、二つの怨霊が見据えているではないか。両方ともクビが無く、恐ろしいことに両手で自分の首を捧げ持っていた。後醍醐天皇ははばからずに向かって右側の怨霊に言い放った。
「朕が皇子なる大塔宮よ。なにゆえ朕に逆らう。朕改めてひんがしを治めんと欲す。」
宮の首は通る笑い声を上げた。

大塔宮 護良親王

大塔宮 護良親王

「ホーホッホッホ。仕えたるは帝(みかど)に非ず。桓武天皇五世の孫、平(へい)新皇なり。」
シャーアー!」
 後醍醐天皇が口から大火炎を吐いた。火はまるで龍が飛ぶように行き、大塔宮を包み込みそうになったが、その刹那。大きなモーションで手にしていた首を天高く投げ上げた。首は正面の後醍醐天皇を見据えつつ高空に上がった後急降下し、後醍醐天皇の吐いている火炎をらせん状に回転しながら迫る、大火炎が消えた。
 親子が対峙しているすぐ近くでは平将門がいかなる妖術を使ったのか、大釜を出現させると満々とたたえたお湯が沸騰している。
「五右衛門。前の時は油茹でだったが今度は熱湯にて煮しめてくれる。もっと苦しいぞ!フハハハハハ。」
 ひび割れたような声だが良く通る、五右衛門は怯んだ。

釜茹でにもビクともしない五右衛門

釜茹でにもビクともしない五右衛門


 

 しかしニヤリと笑うと自らザンブと飛び込んでみせ、前世にて一緒に茹で殺された子供を両の手で高く差し上げ言い放った。
「平新皇!今のワシには溶けた鋼鉄でも茹で殺すことはできまいぞ。」
 一方後醍醐天皇は宮の首が周りをブンブン飛び回る中、右手にヴァージラを握り締めると大きく飛翔し頭の無い宮の首の付け根に振り下ろした。ところがいつの間にか宝剣を手にしていた宮はこれをガッと受け止めて払った。
 すると後醍醐天皇は見る々々巨大化し、尚且つその姿は骸骨となっていくのだ。雷声がとどろいた。

髑髏本尊 降臨

「真言密教立川流の奥義! 朕がまことの姿髑髏本尊なるぞ。」
 真言密教立川流とは奇怪な教義のセックス礼賛教団で、後醍醐天皇は怪僧文観和尚よりその奥義を授けられた。
 将門は巨大骸骨化した後醍醐天皇を見上げて不適に笑うとドーンという音を立てて同じように巨大化し、まず足元の五右衛門を釜ごと蹴飛ばした。
「帝!もうそろそろ天界で安んじられよ。とは言え極楽往生はその異形では到底望めぬ。閻魔大王にでも頼まれるべし。」
 巨大骸骨と化した後もヴァージラを握り締め将門と対峙する。
 と、その時。一瞬轟音とも雷鳴ともつかない大音響とともに南から光線が指し込んだ。

凛とした道真公

凛とした道真公

 
凄まじい怨念ビームであった。髑髏本尊も巨大将門も元の姿に戻り、五右衛門を茹でていた大釜も消えた。
「帝も平新皇も各々収められよ。」
 九州大宰府にいるはずの菅原道真公の声が聞こえる。150年振りの怨念の大爆発であった。
 亜空間は最初から歪んでいるので、長距離になると怨霊ビームは曲線を描くことが可能だったため、大宰府から孤を描いて関ヶ原の南から攻撃できた。
 しかも後醍醐天皇陵は吉野にあって北を向いているため、南への防御は弱かったのだ。
 亜空間の戦いはマイナスエネルギーのぶつけ合いなので、地上界に猛烈な低気圧や地震を引き起こし、災害を起こす。菅原道真は見かねて終結に動いたのだ。
加えてキョウトで留守を守っていた石田三成が裏切ったという情報が入り、一方のカントウではオレオレ詐欺に引っかかって悶死した怨霊が大量に亜空間に参入していた。長くフランチャイズを空けると、勝手にトーナメントが始まり勝ち残った怨霊が強大化してしまう。仕方なく両方とも関ヶ原から陣を引ざるを得なかった。

 しかし、怨霊が人間界の心配するのだろうか。

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平成亜空間戦争

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