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平成亜空間戦争

2013 NOV 10 17:17:42 pm by 西 牟呂雄

人間界はいざ知らず、このヤマトの亜空間に太古の昔より繰り広げられた戦争に暫く小康状態が続いている。地上ではニホンジンなるものが来る日も来る日も喜怒哀楽に努めているが、亜空間にあるのは怨念のみ。それも無念を抱いて死ぬ直前まで悶え苦しんだ者が次々に戦いを挑んで来る過酷な戦場なのだ。即ち普通に死んだ者などは亜空間を越えて天国か地獄に行ってしまう。死の直前に悟りを開いた者などは間違いなく天国行きだ。怨霊は地域依存性が高く、移動が得意ではないので亜空間の統一というのは難しい。絶えず恨み辛みの毒を吐き散らして一進一退の戦いを続けていた。その代りと言っては何だが戦うこと自体は怨霊達にとって無常の霊的快感であり、止めることなどありえない。いかなる酒池肉林にも代えがたい歓びの中で永遠に戦い続けることになる煉獄なのである。それも上位に勝ち上がればそれだけ快感が増し、一たび敗れればその配下としてコキ使われるので、新たな挑戦者が来るのを待たなければならない。武器なんぞは亜空間にはあり得ないし、怨霊は物理的質量は無いので、どちらが恨みが深いかをぶつけ合う霊力の勝負となる。しかしそれが可視化されれば、人間には正視に耐えない殺し合いに見えるだろう。冒頭の『小康状態』とは、各地方別のトーナメントに一応のカタがついてこのかた、100年程は勢力が均衡していることを指す。それでは各地の現チャンピョンとも言うべきスーパースター達を紹介しよう。

先ずは長らく日本の歴史の中心地であった近畿地方を見てみよう。ここは歴史も古く、陰険な政争に明け暮れていたため、この二千六百年間に多くの怨霊が参入してきた。しかしながらダントツで強力な霊力を発揮した後醍醐天皇が支配している。なにしろ口から炎を吐きながら喋り、配下の者を叱りつけるときは首を引きちぎる。ちなみに亜空間ではやられても安らかに死ぬなどという生易しいことにはならず、異形のまま軍門に留まる。このエリアでの過去最大の挑戦者は石川五右衛門と石田三成だったが、後醍醐天皇の前では赤子に等しかった。先ほども説明したが、いくら人間界でパワーを発揮しようが普通に死んだ者などここには来ない。豊臣秀吉なんぞは老衰で往生してしまったため地獄へ行ってしまった。又、生前は人間界で陰陽師だった安倍晴明も、安らかに死んでしまったので亜空間にはお呼びでない。西日本では拮抗しうる勢力はかすかに出雲の大国主命だ。さすがの後醍醐天皇も国ごと天孫族にかっぱらわれた恨みは潰しきれない。他に極めて小勢力であるが下関の安徳天皇と平家一門も相変わらず成仏せずに戦い続けている。

続いて九州。ここは北と南に大きく分かれており今尚統一されない。北は恨みにかけては後醍醐天皇と拮抗する菅原道真。どうやら菅原道真は京都にのみ執着し、途中の山陽道や南九州には目もくれないため、太宰府から動かない。150年に一度くらいの頻度で怨霊ビームを遠く京都に飛ばすが、ことごとく後醍醐天皇のバリヤーにはね返されている。南は長く熊襲武尊が支配していたが、桐野利明こと人斬り半次郎が強力な薩摩怨霊軍団を率いて亜空間入りした時点で覇権を奪った。本来大将は西郷隆盛だが、城山での死の直前には悟りに近い心境になっていたため天国に行ってしまったのだ。ただ、精強薩摩怨霊軍団は割とあっさりしたところも有り北進の動きはない模様である。

東に目を向けるとこれまた度し難い怨念をまき散らす平将門が君臨している。将門は亜空間では初めから首と胴が離れていて、首はご承知の通り京都から東京大手町まで飛ぶことができる飛翔能力があり、胴は脳も無いのに自分で動くことができるので体が二つあるも同然の戦闘能力である。このエリアは新規参入者が何故か少ない。戦国時代にわずかに太田道灌と武田勝頼が挑戦者として現れたが、その他は病死だったり酒の飲み過ぎで脳溢血だったりしたので無風だった。近いところでは維新の戦の近藤勇および2.26の野中大尉、磯部大尉、安藤大尉、更に下って大東亜戦争終戦時の阿南陸軍大将くらいだ。本来は戊申の役で江戸城を枕に総討ち死にでもすれば、亜空間に大挙して参入者があったはずだが、徳川慶喜の日和見と勝海舟のヘラヘラ談合で戦火を免れた上、当事者達は天寿を全うしたのでは奮わない。近藤程度の小物では将門に歯が立つわけがない。阿南大将の割腹は陛下の御聖断の前にはどうしても霞む上、直前には澄み切った心境になっていたらしく、素通りに近かった。2.26の連中は亜空間入りするためには政治的に純粋すぎ、結果的には挑戦するに至らずこれも地獄行き。もっと陰湿な裏切りを受ける、あるいは卑怯極まりない仕打ちによる悶死をしなければ煉獄には留まれないのだ。面白いことに西の覇者後醍醐天皇の嫡男、皇族にして唯一の征夷大将軍にもなった大塔宮護良親王が将門配下にあり(鎌倉で惨殺された)、西の後醍醐天皇をしきりに牽制している。この怨霊も首と胴体が離れている異形だ。ヤマトは厳しい世界戦争により多くの戦死者を出したが、本土決戦をしなかったため戦死者は遙か異郷で散華した。そして靖国神社にカミ様になって祀られたため、亜空間には殆どが参入しなかったのである。 注意しておかなければならないのは、遙か南の島嶼エリアに長らく君臨していた宇喜多秀家(長生きしすぎて最後狂い死にした)を配下にした栗林中将(戦死後大将)が、沖縄の牛島陸軍中将・太田海軍中将と密かに連携し、共に将門を追い落とそうとしているという噂があるが、怨霊の移動能力を考えると可能性は低いと考えられている。

北陸、越後にはあまり凄いのはいない。人間界では戦国無敗の天才、上杉謙信が酒の飲み過ぎだったので、亜空間入りしなかった。柴田勝家が格下の秀吉にやられて悶え死んだが、後醍醐天皇の霊力が強すぎてとても南下できず、かろうじて北上して居座った恰好にある。佐渡には順徳天皇がいる。焼け石を頭に乗せて死んだ、という伝承の通り侮れないが海を越える考えはないらしい。

さて東北はどうか。会津エリアにかなりの恨みを抱いた怨霊が存在し、平泉に源義経と身の丈2メートルの弁慶がいて配下に安倍頼時・貞任を従えている。しかし、会津の場合は幹部が多く生き残り天寿をまっとうしたため白虎隊と中野竹子だけではイマひとつ霊力に欠けるし、義経にはこれまた霊格(怨霊だから人格ではない)がない。長年挑戦者を退けて長期にわたって君臨するのは蝦夷の長アテルイである。好き勝手に狩猟生活をしていた平和な日々に坂上田村麻呂がやってきて頼みもしないのに「お前達も田んぼを耕して稲作をして税金を納めろ。」と襲いかかって来た。全く大きなお世話だったのだが聞く耳もあったればこそ、と踏みにじられ、これでは相当の恨みが残るのも当たり前だ。

最後に北海道だが、小競り合いはあったものの怨霊にまでなれる者はあまりいない。五稜郭で戦死した土方歳三が副官でいる他は、網走地区に看守に虐められて凍死したり獄死した連中で、こいつらは元が極悪人だから多少の霊力がある。それらを束ねるのは無謀とも言える反乱を起こしたアイヌの英雄シャクシャインであった。

ところで冒頭にあるように、ここ暫く大した挑戦者が出ないのは、まず国内では目立った戦闘そのものがないため、悲憤慷慨の後に悶え死ぬ、といった条件が揃わないのだ。陰険な政争と言っても特に戦後は民主主義が蔓延してしまったため、もの凄い怨念そのものが生まれにくいのである。例えば田中角栄。創世会の発足で頭に来たころは最も恨みを募らせていたのだが、脳溢血を患ったため思考が停止してしまい往生するころには心安らかになってしまって天国行きだ。不思議なことにこの派閥系統はみんなアメリカを怒らせた後おかしくなって病院送りの後天国に行く。橋本・小渕なんか一服盛られてるんじゃなかろうか。旧福田派はそこへ行くと安倍晋太郎が総理になりそこなって怨霊化しそうだったが何しろ人柄が良くてダメ。他はみんな極楽往生だ。森・小泉・塩爺なんか間違いなく亜空間入りしないだろう。

そういうことで、現在亜空間に名乗りを上げられる程の候補はたったの三人しかいない。親父の怨念を引き継いだつもりのバケモノじみたヒステリー田中真紀子。総理になるチャンスを逃しまくって頭に来た我儘政治家小沢一郎。無能をさらしても自分は悪くないと言い張れる厚顔無恥管直人。いずれも亜空間トーナメントに挑戦資格十分であるが、問題は寿命とくたばる場所だろう。下手に長生きして往生を遂げられてはダメであるし、東京で逝ってしまうと平将門に蹴散らされるのがオチだ。田中真紀子には是非新潟において柴田勝家との決戦に臨んで頂き、小沢一郎には選挙区である岩手で身罷って頂きアテルイと勝負してもらいたい。管直人は宇部出身なので下関の安徳天皇への戦いを挑まざるを得まい。

亜空間に挑戦者がいないのは必ずしも人間界の平安を意味するものではないのだが、怨霊化するほどの怨みを持たずに人々が往生するのは一定の調和の取れた社会が実現しているのであろう。尚、女性が勝ちあがれなかったのは何も女性に怨みが少ない訳ではない。色恋の恨みは亜空間の霊力にはそぐわないからだ。

怨霊達も歯ごたえのある挑戦者がそろそろ欲しくなってきている。

平成亜空間戦争 Ⅱ


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