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台湾旅情 Ⅱ

2014 SEP 7 21:21:29 pm by 西 牟呂雄

 台北で定宿にしていたフォルモサ・リージェントホテルの直ぐ向かいに、中がどうなっているかも分からないスラム地区があった。表通りに面した部分は色々な店が並んでいたが、中の方は居住区のようで怖くてとてもじゃないが足が踏み入れられなかった。
 それが都市計画により取り壊され整地されていく過程を、出張のたびに窓から見ていた。ある程度取り壊しが進んだ段階で、忽然と鳥居が見えるようになって仰天した。日本式の鳥居だ。後日分かったが、台湾総督明石元次郎のお墓で、この地に神道式に祭られたのだ。日露戦争でヨーロッパにおいてロシア工作を仕掛けた明石大佐のことである。
 ここからは伝聞だが、大陸からやってきた国民党の兵士は住むところも何も無いから、引き上げた日本人街を勝手に占拠してバラックを建てたという。神道もへったくれも無く、明石総督の鳥居を住居の柱に使ったというのだが。
 この辺の感覚が本省人(台湾人)と外省人(国民党)で大きく違っていて、政治的な話には慎重にならざるを得ない。僕の相手は本省人が多かったが、日本語の上手い奴が国旗の青天白日旗を指して言った。
「あれは国旗ではありません。国民党の旗です。私達は台湾国旗を未だに持っていないのです」
彼こそ兵役時代は金門島で大陸に対峙していた砲兵だった。この人、前回書いた大陸のミサイル発射の時も落ち着き払って
「アレ、2~3発ダフッて大陸(ダールー)に落ちる。(ゴルフのダフリの事らしい)。」
と嘯いていたツワモノである。

 烏来(ウライ)という温泉地がある。渓谷沿いの美しい景観が見られる露天風呂に浸かった。パートナーが招待してくれたのだ。タイヤルという山地系の人々が暮らす町だ。
 翌日は一人でバスで帰ることにして(僕は一人でトボトボ旅をしたい)景色のいい所で一服していたら『高砂義勇隊慰霊碑』という小さな案内に気が付いた。細い路がついていたので登ってみるとここでまた突如鳥居が出た!神社なのである。
ー高砂義勇隊慰霊碑ー
先の大戦の際に帝国陸軍が軍属を募集したところ千人の募集に40万人が応募したとされる、あの高砂義勇隊を顕彰しているのだ。一瞬、まずいものを見たような気がしたが、暫く見て廻ると日本が造ったのではないことが分かった。他に人っ子一人いない静かな静寂の中で日本語の説明文を見つけ、読んでみると驚いたことにお兄さんが戦死された地元の篤志家(女性らしい)が自力で立てた旨記されてあった。神社だから拍手を打って、何とも厳かな気分になって小道を降り、少し先にあったレストランでうどんを食べた(ニューローメンという)。キツネにつままれた、という気分で食べていると、
「日本から来ましたか」
と聞かれた。ウワァ、ややこしい話をされたら参るな、と身構えた。すると向こうから、
「高砂義勇隊記念碑に行ったか」
と言うではないか。万事休すだ。ところが、その店の従業員らしい老人は、喋りなれた日本語でおおよそ以下の事を語った。
 あの慰霊碑は地元のタイヤルの酋長(制度としては無いが伝統的な長老、英語でチーフ)が立てたが、折からのSARSで経営しているホテルが倒産しメンテができなくなった。以前は日本人観光客が大勢来ていたので日の丸をたくさん立てて軍歌を流していた(本当だろうか)。残念なことだ。
 大体そういう内容を語った。指をさした先には確かに『酋長のお店』という看板があり、タイヤルの伝統舞踊を見せていたとの事。
 その行為は別におもねる訳でもなく、頼まれた訳でもなく、必死に戦った親族を誇りを持って讃える気概を感じたのだが。これを今日の日本で考えると・・・・。そういえばテニヤン島でスニヨン(中村という日本名だったか)という旧日本兵が発見されて、台湾に帰国した際の日本政府の対応があまりにも冷淡だったことを思い出した。彼は山地のアミ族でアミ語と日本語しかしゃべれなかったため、中華民国となった故郷ですることもなく、一日夕方まで一人でぼんやりとしていたという。

 その後帰国して調べてみると、周麗梅さんという方だとわかった。僕のような人間が『有難う御座います』とか『申し訳ありませんでした』と言うわけにも行かず、せめて民進党と李登輝さんを応援しようと思った。
 人間は歳をとると『昔はよかった』と必ず言う。台湾のオールド・ジェネレーションには国民党の圧制がこたえたので日本時代が良かったと言うのかも知れない。
 一方でしかし半島ではクーデター後の戒厳令以前を懐かしむ人も日本時代を語る人も(本当はいるのだが)いない。
 これも本当の話だが、酔っ払った台湾人が目を据えて『天皇陛下はお元気か』と聞いてきたこともあった。『大和魂』とも口走ったが意味を知っていたのだろうか。

 ところでもう5年も前になるが、某放送局の『JAPANデビュー』という台湾のルポ番組を見てしまったが、あれは酷かった。何か番組の作り手の方が怖い。
 最近A新聞も何かの問題で訂正を出したというが・・。

台湾旅情 

台湾旅情 Ⅲ

台湾旅情 Ⅳ


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