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西伊豆航海

2013 AUG 16 15:15:32 pm by 西 牟呂雄

西伊豆は温泉で賑わう東伊豆とは全く違って鉄道もなく、嘗ては陸の孤島とまで言われるほどひなびた集落が点在する。その代わりと言ってはナンだが素晴らしい夕日のヴュー・ポイントがあり、海も美しい。

全長34フィートのクルーザーで三浦半島の油壺からはるばる航海して、田子湾に碇を入れた。田子は田子だが、かの『田子の浦うち出でて見ればま白にぞ』ではない。あくまで西伊豆のマイナーな田子である。しかし10メートル以上の深さの海底にアンカー(碇)が届くまではっきりと見える程に高い透明度があり、この海に飛び込めば身も心洗われるのではないかと思えるほどだった。

しかもこの海は豊かだ。シュノーケリングしてみると、湾内を泳ぐ魚群がワラワラと群れを成していて、浅瀬には熱帯魚のような鮮やかなブルーの小魚もいる。そしてそれらの食物連鎖を支えるプランクトンなのか虫なのか、一見埃が舞っているような濃密な世界が覗ける。

クルーザーは丸みを帯びた船体が優雅で、女性のボディーラインを思わせる。乗っているクルーは今回は6人。私以外はベテランのヨット乗りで、中には33日で太平洋を横断したつわものもいる。出港4日目で本日は途中の下田までの回航だ。ところが、今年の記録的暑さの元の太平洋高気圧がドカーンと居座っているので、海上はうねりも無いような無風。こうなるとエンジンを駆けての汽漕でまことにのんびりと行く。この『のんびり』がくせものなのだ。なにしろ物凄い日差しで日焼け止めをいくら塗りたくっても汗で流れてしまうから、本当にのんびりと日光浴などすれば火傷のように真っ赤に腫れ上がる。暑い暑いとクーラーで冷やしたビールの奪い合いが始まり、舵はオート・パイロットに任せ、時々蝉が飛ぶように海面に飛び出すトビウオを眺めながら南下した。

下田と言えばペリー艦隊が停泊した良港なのだが、このあたりは実はかなりの難所で表から見えない『根』という岩礁がいくつもあり、貨物船の座礁事故も時々ある。おまけに伊豆半島をかわす黒潮が早く、さすがにのんびりはできない。ついでに多くの人は大島は半島の先にあるようなつもりでいるが下田よりも北に位置し、そのおかげで反射の大波が複雑な潮をつくって、たまに巨大な三角波が立ったりするのだが、奇跡のような凪のおかげで難なく入港。下田の夏祭りを見に上陸した。

下田の祭りは三味線と笛が入るのが特徴、女性が三味線で太鼓と横笛が男衆。ツントンヒャラヒャラと聞こえるお囃子が鳴り終わると花火があがった。ところが私は昼から飲み続けた挙句に酔っ払い、上陸して入った天然温泉の銭湯のあまりの熱さに飛び上がり、その後の焼酎のガブ呑みで正気を失って、花火を最後までみることはできなかった。

翌朝5時の日の出に全クルーが叩き起こされ水を積み、メシを食べ、急ぎ出港した。下田ー油壺53マイル、約8時間の航海で帰港する予定だ。同じ計画なのか、近くに係留していたヨットも3艘ほど出て行く。この日も奇跡の凪が続いて海面は鏡のようだった。田子でお土産にもらった干物を焼いて昼メシにし、水平線を眺める。モヤがかかり陸地は見えない。何ともこのまま残りの人生の時間が全部流れてもいい、帰りたくない、と思った。クルーザーはアル・カン・シェル。どなたか乗船して見たい方、遠慮なく言ってください。油壺でお待ちします。

油壺では湾の入り口で赤トンボが迷い込んできた。

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Categories:ヨット

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