Sonar Members Club No.36

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波よ風よ雲よ

2023 OCT 16 20:20:10 pm by 西 牟呂雄

 インドから戻ったら日本は秋になっていた。風は爽やかに、そうなると海は透明度を増して、夕暮れは息を飲む色合いになる。それが見たくて波打ち際に行きたくなります。この時期、若大将カップといって逗子沖から茅ヶ崎沖のえぼし岩の往復を競うクルーザー・レースが開催されるので、そのスタートを見に行きました。

 前日に秘密基地(合鍵を借りている某氏の別荘)に行くと、眼前に広がる相模湾はご覧の明るさです。
 私はビール片手に風に当たりながら先日訪問したインドのことを思い出していました。
 従業員の女性達は大変貧しいですが、あの人達はインド高原の大地で形而上の世界を生きていて、こんな明るい海を見ることは生涯ないかもしれません。ですが様々な宗教的戒律とカーストに縛られつつ気楽に生きています。
 それと我々日本人の生活と比べることは無意味で、彼らを憐れむこともうらやましがることもありません。
 ただ時間だけは同じように過ぎ去って行くだけです。
 この明るい景観も遷ろっていきます。

 などと思いつつ一晩寝て起きたらこんな海になっていました。レースはきょうです。
 インド人もクソもなく海に出てみれば14~15ノットの強烈な北風でした。
 目指すのは江の島沖、北上しました。正確には北西に進路を取って江の島を右に見る頃にタックします。
 スタートには間に合いました。5分前予告信号(音響 短音1声、掲揚)、4分前準備信号(音響 短音1声、掲揚)、1分前(準備信号旗降下 音響 長音1声)、スタート(予告信号旗降下 音響 短音 1声)。
 応援している仲間の船は5分前にはスタートラインから大きく離れた海域にいて信号音と共にタック、徐々に風を捉えて満を持したスピードで飛び出しました。お見事!
 北風に対してアビームといってゼネカーというセールを出してフルスピードで進みます。仲間のレース艇は飛ぶように行ってしまい、江の島沖まで追いかけて僕達はホームに向けて北に舵を切りました。というのも天気が怪しく、今にも降りそうだったので。
 風が強くなると白波が立ってきて追い風で船足が7ノットと早まります。
 振り返るともう、えぼし岩を回った船が見えました。早いなぁ。

 波は基本的には同じところの海面が上がったり下がったりしているだけですから、うねりが動いているように見えても潮の流れとは関係なし。陸地の見えないセーリングではコンパスだけを頼りに、その怪しげに上下するだけの水面を見ながら舵を取ります。そういう時は操船に集中するのですが、心は宙に浮いたような気に陥ります。何も考えていないでボーッとしているのじゃないですよ。何と言うかやったことはありませんが禅の修行はこんなではないかと思えます。
 港に入るとホッとするような、何か掴んだようなリハビリが終わったような気分です。レースはこうは行きませんが、そっちは別の達成感があるでしょう。
 それは海上に出ると海の圧倒的な質量に抱かれるからでしょうか。陸から眺める海とは明らかに違っています。山登りも山の質感が同じ作用をもたらすのか、今度は久しぶりに喜寿庵からお城山(海抜千m)に登ってみようかな。
 アッ、手首にポツッと雫が。これから雨降りなんだ。

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Categories:ヨット

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