Sonar Members Club No.36

Since July 2013

狂言『昆布売』並びに 能『巴』 

2023 OCT 22 0:00:00 am by 西 牟呂雄

 野村萬斎という人はどれ程の才能の持ち主なのか、ちょっと計り知れないところがある。今年の薪能では『昆布売』を万作さんとのコンビでやった。

 侍役が萬斎さんで昆布売が万作さんだったのだが、出てくるところからオーラが出ていた。
 つくづく思うのだが、この人と團十郎とではオーラの種類が違っている。どちらも華があり、伝統に裏打ちされ磨かれた芸があり、舞台に出ると強烈なオーラを発する。十才違いのこの二人、いずれも人間国宝になっていくだろう。
 ただ、際立った違いは團十郎は単に歌舞伎の天才、萬斎はマルチな才能ということになるのではないか。
 團十郎が歌舞伎以外の例えばテレビに出ると、それが時代劇であっても大して面白くならない。以前の大河ドラマで信長役だった。大いに期待してそれなりに良かったのだがイマイチ感が残った。何故か。それはテレビは役者の意思にかかわらずアップにしたりカットするからだ。團十郎の芸は全身を使って所作する舞台が基本で、またそれしかできないのだ。稽古嫌いで知られ酒癖も悪い團十郎は画像に残る演技はできない。成田屋の十八番芸、邪を祓うという『睨み』なぞ、画面でアップされたら面白くもなんともない一発芸だ。

 そこへいくと萬斎は現代劇に出ても味のある演技ができるので、テレビ・映画でも重宝されている。おまけにこの人は芸大を卒業し、東大の非常勤講師をやったこともある教養人だ。
 密かに温めている企画がある。わがまま放題に育ったヤクザの二代目VSそいつを執拗に追い詰めるキャリア刑事の映画を、深作欣二や北野タケシがやるようなノン・ストップ・ロング・カットで撮ってみたい。どっちがどっちかはお分かりだろう。やはり歌舞伎は大衆の、能・狂言は武士の芸ということか。

 さて、御父上の万作さん、御年93才。この度文化勲章おめでとうございます。『まず美しくないとダメ。次に面白さが必要。そして最後に笑いがある』とは至言。矍鑠とされていて姿勢もいい。ただ、どうしても声にでますな。

 能の方は『修羅物』といって武将の霊が出てくる話だが、その中でも唯一女の霊の『巴』。美貌・怪力で木曽義仲の愛妾、巴御前のことだ。
 台詞の中に『なにものがおわしまするかしらねどもかたじけなさになみだこぼるる』とあって、ハッとした。これ、西行ではないか。一瞬、西行法師が能のセリフをパクッたのかと混乱したが、能の成立は室町時代で西行のいた鎌倉時代の遥か後である。帰って調べたら『古の歌人が謡った「なにものが~」のように』と挿入された台詞だった。あー安心した。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

Categories:古典

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊