Sonar Members Club No.36

カテゴリー: サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる オリジナル

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編 最終回)

2015 MAY 22 22:22:09 pm by 西室 建

 少し前から僕の講義に聴講生として昔の同級生が来るようになった。息子さんが別の学科の学生だったので僕の講座を知ったそうだ。旧姓出井さん、女性である。かつては大変な秀才だったが、卒業後すぐ結婚・出産して今は一段落ということで、勉学の虫が騒いだようだった。
 そして例のB・Bがメールの返事を寄越してきた。来月日本に帰ってくるのだそうだ。早速椎野と相談して歓迎会と称し会食することにした。
 実は出井さんは高校時代B・Bがあこがれていた人なのだ。もうあれから四半世紀も経っている。多少リスクはあるが、B・Bにはナイショで出井さんを招待してみると『アラッ懐かしいわね。』と参加してくれることになった。アイツどんな顔をするのだろう。さすがに椎野は『そんなことして大丈夫か?』と心配そうだったが・・。

 当日、皆忙しいらしく午後8時と遅めのスタートとなった。驚いたのは出井さんは和服でお出ましだった。
 ところがB・Bお店に来たのは30分も過ぎてからで、しかも既にデキアガっているようだ。
「よー、よー、よー、よー。グッデイ・フォア・オール。椎野マニラ以来。英(はなぶさ)もうスゲー暫く。アッ初めまして、どっちのカミさん?」
 どうも忙しくなかったらしく、どこかで引っかけて来たようだった。それにしてもコイツ、スーツを着た異形のサラリーマンだ。アジアで流行っているのか趣味なのか、襟足を長くタテガミみたいに伸ばしている。しかしこっちも人の事は言えないが。僕は長髪だし椎野もラフな格好で、出井さんは正装ではあるがどうしても浮く。昔懐かしいと気を利かせたつもりで70年代の曲ばかり有線で流しているカフェ・バーを選んでしまったのが悪かった。
「おい、こちら出井さん。同学年だっただろ。」
「あっそうですか。ヨロシクゥ。」
何の反応もないので拍子抜けした。出井さんはポーカーフェイス、僕と椎野は顔を見合わせた。

 それからお互いに先も見えずに流離らっていた頃の話を披露した。B・Bは僕たちの話を聞いて、
「何だ!卒業後すぐに上にへつらい下に媚びる就職をしたのはオレだけか。」と開き直り、サラリーマンがいかに大変かをしきりに自慢するのだが、僕たちはバカみたいなことに夢中になっていたあいつの高校時代の延長にしか聞こえなかった。
 繰り返し語ったのは、シンガポールやマニラでマガイモンの日本食を食べ飽きた、ホテルの朝飯にお茶漬けのふりかけを持ち込んで食べた、そういう時『日本に帰りたい』と強烈に思った、という情けない話だったが。
 そういえば昔一度見たことがあったが、B・Bは酒癖は悪かった。絡んだりケンカするわけじゃないのだが、物凄い早口になって何の話か分からなくなってしまう。だんだんそうなってきた。ちなみに椎野は酒はあまり飲まないが女癖は悪い。
 ずっと聞き役だった出井さんが口を開いた。
「ところで原部(ばらべ)君、相変わらず詩は書いてるの。」
「へっ、『し』って何。」
「昔詩集を造ったり雑誌みたいなのを書いて見せてくれたじゃない。」
「ん?何のこと。」
「おお、オレも覚えてるぞ。あれとってあるのか。」
「僕も読んだな。」
「オレそんなことやってたか?」
ポカンとしている、不思議な奴だ。
 するとBGMがキングストン・トリオの昔懐かしい『サンフランシスコ・ベイ・ブルース』が聞こえてきた。これ、僕たちが組んでいたフォーク・グループのフジヤマ・マウンテン・ボーイズがレパートリーにしていた。一斉に『懐かしいな』などと言いつつ歌詞を口ずさんでいると、突然B・Bが叫んだ。
「あなたはイデイ・サトコさんなのか!」
 
 深夜2時過ぎのカウンター。出井さんはとっくに帰って僕たちは3人並んで飲んでいた。
 B・Bは酔い潰れていたが、最後に『初恋の人を忘れ、初恋をしたことまで忘れ、思い出すのはお前等とのバカ話ばかり。オレの青春はどこ行った。青春を返せ!』と喚き散らし、椎野に『返せったって誰に返してもらうんだバカ。』と怒鳴られて突っ伏した。
 椎野は言う。
「結局流れ者をやってても、オレやお前がアテもないのにウロウロするんじゃなくてサラリーマンの尻尾を引きずったままだとそれこそ倭寇じゃないけど日本が恋しくなってかえってきちゃうんだな。」
「ふーん。それじゃお前またどっかに流れるか。」
「うーん、流れ次第だな。当面食えるからねぇ。」
「僕はもう少ししたら今度はアメリカに行く予定があるよ。」
「へぇ、行ったら帰ってこないかも知れんな。」
「どうかな。また10年後にでも会うかな。」
 昔の仲間と会って、この四半世紀を振り返り感慨深いものがあるかと思ったが、全くない。むしろこれからはどうなるのか、不安の方が強い。今は結局個性というものは変化も進化もしないものだと良く分かっただけだった。
 潰れたB・Bは、もちろん捨てて帰った。

おしまい

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅰ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅲ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅲ)

2015 MAY 21 6:06:41 am by 西室 建

「よう、久しぶり。」
「うん、だけどびっくりしたなー。お前が中国に行ったりしてるのは知ってたけど。あいつがマニラでバンド屋になってるとはねー。いくらなんでも弾け過ぎだろ。」
「それがなぁ。B・Bも一応サラリーマンは続けてるんだそうだ。」
「しかし、歌ってたんだろ。」
「いや、メンバーじゃないんだ。オレがよく行く店にあいつも行ってたんだって。そこのバンドと仲良くなったみたいで時々遊んでたみたいだな。で、あいつが来るとバンドの方もサービスでレパートリを演奏すんだって。それってアレだぞ、ワイルド・チェリーの歌だぜ。」
「へぇ、フィリピン・バンドもよくそんなの知ってたな。サラリーマンってスーツ着てたの?」
「まさか。マルコス大統領みたいなシャツ着てた。まあ、一応正装なんだがな、現地では。あの手のバカはどこにでもいるってこった。ホラあいつの名詞。」
「おお、だけど何だこれ。住所も電話番号もないじゃないか。これ電子メールのアドレスだろ。」
「あいつの説明も良く分かんないんだよ。事務所はシンガポールなんだって。フィリピンにはどうも工場があるらしいんだ。でお客さんが台湾・マレーシア・シンガポールあたりで、そのあたりをウロウロしてるらしいよ。一か所に長くいることはないらしいから電話はあんまり意味がないんだって。」
「それで住んでるところはどこなんだ。」
「ホテルを転々としてるらしい。えらい安宿に泊まってた。」
「この会社知ってるけどそんなところで事業してるなんて聞いたことないな。なんで潜り込んだんだろう。」
「どうも今度こそ真面目にやろうとしたみたいだな。どうせバレるのは時間の問題だよ。」
「日本には帰ってこないのか。」
「だからきっと会社も持て余して鉄砲玉の島流しにしてるんだろ。出張で帰ってはいるそうだが。だけどなぁ、ベロベロに酔っぱらって『帰りたいよ。』なんて涙ぐんでたぜ。」
「あいつが?」
「そうなんだよ、びっくりした。変な話し方になってて日本語のうまいフィリピン人みたいだったな。」
「だけど帰ってくると何かいいことがあるのかよ。どうせ独身だろ。」
「それも焦りのウチさ。おれもお前も結婚してるって教えたらドッと酒が廻って話し言葉がひどくなって何言ってるか分かんなかった。シンガポールのいんちき訛をシングリッシュってんだが、それとアメちゃんの兵隊が使うガター・イングリッシュが日本語に混じりこんでるんだ。」
「僕はロンドンにいたときは一度もホームシックにならなかったがな。」
「オレも3年間は全然帰りたくなかった。」
「それが最も順応性があると思われるB・Bが泣いて帰りたいだって。椎野は何で日本に帰ってきたの。」
「家族のこともあるしね。だけどもうオレみたいのがやれる場所じゃないんだとも思った。」
「どういうこと。」
「バブル弾けてヤレ低賃金だ土地が安いだで中国詣でが盛んになっただろ。初めは上の方とパイプがある奴等が行くわけだ。外資の投資が欲しいから至れり尽くせりで大企業が工場造ったりさ。するとそれにつられて中小や怪しげなのがついてくる。そのドサクサにオレなんかが刺さりこめる所ができるんだよな。だれそれ知ってるとか金渡すとか。で、いいかげん時間が経っていい具合になるともうお呼びが掛からなくなる。もっともその後大体うまくいかなくなるけどね。」
「騙されるのか。」
「面従腹背だと思ってちょうどいいんじゃない。昔、倭寇っていたろ。あれ半分以上中国人なんだってさ。実態は武装商人でうまくいかなくなると暴れたんだな。それで街を占領したこともあったんだけど、漢人の方は倭寇がいる間はヘコヘコしてたんだって。『倭人はしばらくすると国が恋しくなって勝手に帰って行く。』と伝わってたらしいよ。」
「B・Bもそろそろってことか。だけどちゃらんぽらんの天才だったからな。あんな真似は僕達だってできなかった。」
「それにしても、『帰りたい』とは意外だよな。あんなゴキブリみたいなヤツがねぇ。どうせ飽きたんだろうけど。あいつ飽きっぽかったよ、そういえば。」
「そうだよ。詩人になったりシンガー・ソング・ライターになったりしてたよ。」
「哲学者だって言い出した時もあった。確かその後ロックンローラだろ。あと時々発狂してた。」
「それでもクビになってないんだから会社の役には立ってるのかね。とにかくいっぺん3人で会おうぜ。オレも電子メールのアドレス作ったからパソコンで連絡してみる。」
「会社に勤めたことないからあいつが役に立つかどうか知らんけど、僕だってそんなに世の中の役には立ってないと思うけど・・。」
「ウッ・・それはだな、オレは・・・社会の迷惑かもしれない。」
「もう30代になって久しいからな。」
「・・・・そうだったな。」

つづく (最終回へ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅰ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編 最終回)

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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅱ)

2015 MAY 17 21:21:31 pm by 西室 建

 うっかりして、香港行の最終が出港してしまった。リスボア・ホテルのカジノでこのまま朝までいるしかない。バカラでこの時間から負けが込んだらえらいことになるので、しょうがないルーレットでもチビチビやるか。
 席についてまずは色に張る、素人っぽく4枚・8枚・16枚と掛けて当たればまた4枚から張る。ディーラーが一番いやがるかけ方だ。どうせ勝たなくてもいいんだから、などと気を抜くと全部やられるから一応盤面からは目が離せない、酒のガブ飲みなんぞ以ての外だ。ポツポツとチップが溜まり出す。
 するとやっぱり寄って来た、ヤバそうな若い女だ。やたらと露出の多いチャイナ・ドレスを纏ったのが隣が空いた途端に滑り込むように座った。
『ハイ、ニッポンジン?』
 顔を見た途端にギョッとした。目の焦点が合ってない、こいつはさっき一本キメてきてラリったかハイになった典型的なジャンキーだろう。
『エニィシング トゥ ドリンク?』
 うるさいな。オッと体を摺り寄せてきた。
『シャチョサン、ルームナンバー、100ドルオーケー。』
 冗談じゃねぇ。無視プラス白目を剥いてやったらヘンッという顔をしてどこかに行った。

 オレ(椎野 茂)は日本を離れて3年8ヶ月。巨額の借金を半ば強引に踏み倒して来た。もっとも金利は十分に払ったつもりだし、相手はまともな銀行だから融資担当の方も消えられるのが一番困るから適当な整理機構に移された時に自己破産してケツをまくった。いわゆるバブルの崩壊というやつだ。活動拠点は上海・香港・マニラでそれぞれ別の仕事をしている(ことになっている)。女房と娘にはいくばくかの金を送りつつ、まぁテキトーにしのいでいる。
 上海ではレストラン、香港では雑誌の発行、マニラでは日本人専門の不動産をさばく(ことになっている)。あんまり羽振りが良くなるとこれらの場所では危ないから目立たないように稼いでいた。もうそろそろほとぼりも冷めた頃だろう、日本に帰りたいのだが。

 今日はマニラに泊まる、久しぶりにマニラ湾沿いにあるいかがわしさ十分の飲み屋に来た。まさかいきなり女を買うわけじゃないが、飲み食いの時に一緒に座る女の子を選ぶシステムだ。食事は吹き抜けになっている2階部分で取り、一階はバンドが入って女の子と踊ったり、最近はカラオケもできる。日本人観光客はヤバすぎて滅多に来ないがそれでも駐在員のような多少スレた連中は来ることがある。
 特徴のあるギター・イントロが聞こえてきた。ワイルド・チェリーの『Play that Funky Music』ではないか。身を乗り出して見入ってみるとヴォーカルはどうも日本人のようだ。『ヘーイ・ドゥ・イ!』の出だしがミョーにカタカナっぽい。こんな所で変なやつがいるなと思ったのだが、良く見ると見覚えのある顔なのだ。目が合った。
あいつ・・・B・Bだ。
 奴は一曲だけ歌い終わると二階のオレの席まで来た。
「ユー、椎野だろ。」
「お前原部(バラベ)か、B・Bなのか。」
「ロング・タイム・ミス・ユー。15年ぶり?」
「こんなところで何歌ってんだよ。」
「おまえこそ、よくこんな店に来れたな。ここデンジャラスよ。」
「前にも来てたんだ。」
「ウワーオ。」
 話していると馴染みなんだろうか、店のオネーチャンが『ハーイ、B・B』等とあいさつしてくる。
「マニラに住んでるのか?」
「ノー、ノー。出張だよ。あしたはタイペイだし。ユーは遊び来たの。」
「いや、仕事だ。月に一回は来てるよ。次連絡するよ。」
「うん、僕もしょっちゅういるから。ゴルフしようよ、チープよ。でもね、もう日本帰りたい。」
「オレも3年以上帰ってないな。そろそろ帰ろうかと思ってる。」
「そうなの。もう泣きくらい帰りたいよ。結婚した?」
「そりゃしてるよ。娘もいるしな。お前は。」
「こんな暮らししてたらとてもとても。いいなあ、帰りたい。」
 いったい何をしているんだ、こいつは。

つづく

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅰ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅲ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編 最終回)


 

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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅰ)

2015 MAY 16 10:10:27 am by 西室 建

 僕(英・はなぶさ・元彦)は学生時代にアメリカではなくヨーロッパを放浪した。なぜヨーロッパかというとまずイギリス、ビートルズの誕生したリバプールを見たかったからだが。僕達の世代はフラワー・チルドレンから少し遅れてきているのでヒッピー趣味はあまりない。それにどちらかというとガンガン鳴るハード・ロックよりもキンクスとかホリーズといった趣味だったこともあってロンドンを中心に動いたのだ。
 ヤバい奴らは沢山いたがヨーロッパはどちらかというとヒッチ・ハイクの事故なんかは少なく、日本人自体がまだ珍しがられたせいもあって結構親切にもされた。僕が小柄だったことも相手に危険を感じさせなかったのだろう。
 しかし冬場は寒かったのでとても移動する気になれず、アルバイトに精を出した。定住してみるとロンドンは安定感も感じる。何というか基本的な都市インフラは世界大戦前に終わっており(それも19世紀中に)古い物を長く手入れを重ねて使うこと自体が美徳だと思っているかの様だった。
 僕は彼の地で行きがかり上(専門は英文学)ジョージ・オーウェルに凝った。
 そして言うまでもないが、全く色恋沙汰には縁がなかった。

 適当に見切りを付けるはずが1年半も滞在してホームシックも関係なく帰国することにした。日本の情報というか様子は、たまにめぐり合うバック・パッカーのような怪しい日本人から仕入れていたのでロクな話は入ってこなかったが、遂に金融・商社の駐在員といったエリートとは付き合うことはなかった。そういう人達には家族もいるだろうし、政治・経済関係に疎かったのでその辺のいきさつを長々と説明されるのが面倒だったのだ。流れ者は直ぐにどこかへ行ってしまいその後も付き合うことは無かったからその点気楽だ。すっかりそういう人間関係に慣れてしまい、滞在中はズッとそうしていたかった。日本に帰りたいとはあまり思わなかった。 
 それは英語の語感というか使い回しというか、日本語より遥かに硬質な表現に浸かっていたので、たまに日本人と話しているとピリオドの無いようなズーッと繋がっている会話・文章との際立った違いにうんざりさせられたりしていたこともある。

 カズオ・イシグロは世界的に評価が高いベストセラー作家だが、彼は家庭内では日本語で両親と話しているそうだが、作品は完璧な英語である。これを翻訳するとわずかにニュアンスがズレる。
 ハッと気が付いた。これは英語で身を立てられそうだ、と。
 イシグロは偶然だが1954年生まれで僕と同い年でもある。
 日本に帰ってから復学して大学院に進み、翻訳と教師をやりながら、僕は自分の道を見つけられたようだった。

 ある日長年音信の途絶えていた高校時代の友人、椎野茂から電話をもらった。暫く東南アジアだか中国だかに行っていたことまでは知っていたが、こちらからは連絡できなかったのだ。
 会話はのっけから衝撃的だった。
「オレな、マニラでB・Bと会っちゃった。」
「エッB・Bってあの原部(ばらべ)?」
「そうなんだよ。ビックリしたなー。」
「マニラでなにやってたんだ。」
「それがなぁ。フィリピン・バンドでヴォーカルやってた。」
「なにー!あいつ確かマトモに就職したんじゃなかったか。」

つづく

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅲ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編 最終回)

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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編Ⅲ)

2014 MAY 9 19:19:48 pm by 西室 建

 「ごきげんよう。」
E女子高独特の挨拶をしながら、鮨屋ののれんをくぐると、そこには異様なオヤジが4人いて、既に飲んでいた。それも4人とも違うものだった。ビールと焼酎と日本酒にウィスキィだった。
 今回は相手が相手なのでファッションは各々勝手にしたところ、B・Bは例のスーツ、英元子はトックリのセーターにジャケット、椎野ミチルは例によってハマトラ、出井聡子はワン・ピースとそれなり。だが、オヤジ達は見事に予想を裏切って、業界風ジャケット、ジーンズ上下、濃紺のスーツ、そして遊び人風着流し!事前に椎野ミチルが『何か相当壊れたオッサン達らしい。』と言っていたのもうなずけた。
 その中の業界風が、時々椎野ミチルを映画に連れて行ったり、食事をご馳走してくれる、彼女に言わせると『アニイ』なのだそうだ。
 「ごきげんよう。アニイ。」
 「オウ、何かもめてるっつー話しだからこっちもあらゆるバリエーションに対応できる面子を揃えたよ。まあスシ食いねー。」
 豪華な鮨桶が運ばれ、早速パクつきだした。
 「(アニイ・ウィスキィ)じゃ一応自己紹介と行くか。合コンの礼儀だからな。広告代理店をやってるイベント屋だよ。趣味バクチ。別にヤクザじゃないから、そこんとこヨロシクウ。」
 「(着流し・ビール)僕は物理屋、この着物シブいだろ。ネット関連やってて今は受験産業で食ってます。」
 「(スーツ・焼酎)オレはアジア屋。オレ一人マンサラだ。サラリーマンね。趣味ヤ・ザ・ワ、よろしくゥ。」
 「(ジーンズ・日本酒)オレは英語屋。ブスっとしてても機嫌悪い訳じゃないんでご心配なく。大学で教えてます。趣味翻訳。」
 「あのー。どういうお仲間なんですか?」
 「ミチルちゃん達と同じさ。高校の同期だ。それじゃそっちもやってよ。」
 「はあい。私は椎野ミチルです。アニイの会社でキャンギャルやったんで知り合って、時々映画みたりご飯ゴチになってます。」
 英元子と出井聡子はなんというカマトト喋りか、とあきれた。
 「私は出井聡子と申します。テニス部やってて、あとお料理が好きです。ずーっと女子校なんで男の方の考え方に興味あります。」
 「私は英元子です。英語のエイと書いてハナブサです。フオークソングが好きでギターやってます。」
 「へー。オレ達フオークバンド仲間だったんだよ。」
 「ウソー。どんなのやってたんですか?」
 「サンフランシスコ・ベイ・ブルース。」
 4人が一斉に答えた。
 「ナンですか?それ。」
 「ぎゃはは。」「オレ達のテーマ・ソングだよ。」「現存する唯一のレパートリー。」
 「あのーわたくしは・・・・。」
 「どういうバンド編成なんですか?」
 「あのーわたくしは・・・・。」 
 出井聡子が気がついて、英元子に目配せした。出鼻をくじかれたB・Bがすっかり上がっていた。緊張のあまりウルウル状態だ。
 「原部玲と申します。バラベなんて読みにくい名前なんで皆様B・Bとお呼びになります。クラブはバスケットをやっております。趣味は読書です。それから・・えーとー・・・。」
 「お嬢さん、お嬢さん。」
 すかさず合いの手がはいる。こういうときはオヤジは役にたつ。
 「はい。」
 「オレ等はみんな妻帯者でヘタすりゃあなたくらいの娘がいてもおかしくない。だからそんなに硬くなんなくてもダイジョーブ。こう喋れって誰かに言われたのかい?」
 「はい。わたくしの母に今日の会食の話を致しましたところ、」
 「チョット待った。コレ一口のんでごらん。」
 英語屋がニコリともしないでグラスを差し出すと、自分の日本酒を1/3ほど注いでやった。B・Bは両手でグラスを持って香りを味わっていたが、クッと一息で飲んでしまった。
 「あー!おいしー。」
 やがてボナールの話になったが、オヤジ軍の絶妙の捌きで、いままでのような大騒ぎにはならずにすんだ。熱くなりそうになると、軽くチャチャが入り、突っ込みをいれ、笑いに持ち込む。正にオヤジ恐るべし!である。こんな具合だ。
 「しかし、そもそも男女の前に男同士、女同士で厳密な友情がそこらじゅうにあるもんかね。オレ等は一番ヤバイ悩み事をこいつ等に相談するように見える?」
 「恋愛っていうけど僕達の仲間で熱烈恋愛をして彼女の自慢までしてたマヌケはもうバツ2で、この暮れに性懲りもなく3回目の結婚だよ。又呼ばれてんだけど祝辞のネタがない!」
 「そんな厳しいことを言われると、オレ達があと50年くらいして、女を見ても何にもときめかなくなってからじゃないと、友達になってもらえないじゃないか。」
 「大体君達の倍以上人間をやってるけど、愛だ恋だなんて未だに分らんよ。煮詰まって切羽詰ってもうニッチもサッチも行かなくなった時思わず『結婚してくれ』って言っちゃったんだもんなー。」
 「そういやーこの前同窓会に行った時、隣に座った美人に『旧姓はなんですか。』って聞いたら、『昔、愛してるって手紙をもらったヒカワトモコです』とか言われたが、おりゃーそんな手紙を書いたことも忘れててもう面目まるつぶれ、よ。オレのセイシュンを返せ!」
 「だけどさ。友情・友情っていってテンパってたら、そのうち男道、すなわち衆道に走ることになりゃせんか?」
 そして、オヤジ軍はギャハハと笑いながらのみ続けた。彼等はお互いに名乗った名前では呼び合わず、『イベント屋』『物理屋』『アジア屋』『英語屋』と語りかけるので、結局本名は最後まで分らなかった。

 しばらくたって、椎野ミチルは、B・Bに呼び止められた。みると、見違えるようにキレイになって、キチンと髪をウエーブさせている。
 「ごきげんよう。ねえ、ミチル。」
 「ごきげんよう。玲、どうしたの?」
 「聞いて欲しいの。アタシあのおじさん達に又会いたいの。」
 「はあー?どうしたの、急にしおらしくなって。」
 「あたし、あの人達の言ってることが良くわからないの。」
 「そんなこと心配することないよ。アニイたちは嘘ばかり話してんのよ。」
 「違うの!この前分ったの。あたしが一番バカだって。」
 「頭が悪いとは思わないけど、まあ、時々変にはなってる。」
 「皆がB・Bっていうのは、バカでブスっていう意味なのよ。」
 「はあー?・・・・。」

 「ねえ聡子。」
 「アラごきげんよう、ミチル。あたしも話あるの。」
 「それがさ、B・Bが変なの。まあ元から普通じゃないんだけど。何か壊れてきてるみたい。いきなり又アニイ達に会いたい、だって。」
 「アラ、あたしもお願いしようと思ってたのよ。」
 「エッ!・・・・」
 「結局この秋3回合コンやったけど、一番気楽だったじゃない。」
 「気楽と言えば、それはそうだけど。」
 「ミチルだって後でスッタモンダしなかったじゃない?」
 「それはそうだけど・・・・。」
 「今度はあたし振袖にしようかな。お正月以外に着たことないから。フフフ。」
 「・・・・・あの、・・・・。」

 「元子、元子、チョッ、ちょっと来て。」
 「なあに。」
 「アナタは正常よね?」
 「何言ってんの?当たり前じゃん。」
 「もう元子だけが頼りよ。ねえ、聡子と同じクラスにいて何か変だと思わない?」
 「別に、変じゃない。」
 「そうお?お願いだから元子だけは普通でいてよ。」
 「何よ。ミチルこそどうしたのよ。何焦ってるの?」
 「だから、変なのよ。B・Bは壊れかけているし、聡子は変だし。あのオッサン・コンパ又やりたいって言い出したのよ。」
 「っていうかー、B・Bは元々少し変わってるしー、聡子だって、ねえ。そういえばB・Bキレイになった気がする。普段だらしなさすぎるからだろうけど、少しかまってるよね。だけど面白いじゃん。あたしサンフランシスコ・ベイ・ブルースって曲調べたのよ。」
 「・・・・。」
 「オリジナルはアメリカの古いフオーク・バンドで、それを日本の武蔵野何とかっていうマイナーなバンドがリメイクしてるのよ。」
 「・・・・・一体どうなっちゃうのかしら。・・・・。」
 「何が?」

 かくして、椎野ミチルの絶望感にも関わらず、2回目がセットされた。おりしも巷にジングル・ベルが奏でられるクリスマス・シーズンになっていた。場所は例の『物理屋』が別荘を持っているという富士山麓でのパーテイーと決まった。午前中から始めて、日没とともに帰京する、という趣向なのだそうだ。
 4人は冬休みである。25日当日、駅に集合した時、椎野ミチルは度胸を決めざるを得なかった。出井聡子は本当に振袖だった。B・Bはどうせ『お母さん』がろくでもないアドバイスの上に、これ貸してあげる、とでもなったのか、ショッキング・ピンクの洋装に毛皮のコートを羽織っている。英元子はジーンズの上下で、ギター・ケースを持っている。これで中央本線の特急4人掛けに座っているところは、まるでコミック・トリオ漫才とマネージャーだと思った。
 とはいえ、楽しくお喋りしながら、駅について、駅からすぐというその別荘を探した。その住所は鎮守の森の様な佇まいで、近くまで行くと人の声が聞こえた。男の声ではない。何やらはしゃいだ声がキャアキャア言っているのだ。4人は顔を見合わせた。意を決した椎野ミチルがドアをノックすると中から「ハーイ。」と声がして中からバアサンが顔を出した。
 「アーラー、お嬢ちゃん達、もう見えたの。さあさあ。」
と中に招かれた。中には大年増がいて、後片付けをしていた。呆気にとられた4人にお茶が出され、お菓子が出され、バアサマたちはその間騒ぎちらしながら、片付けをすると「オニーチャン達は、今近所に黒湯に漬かっていて、すぐ帰るから。」と言って帰ってしまった。
 「チョット何あれ。」
 「分んないよ。でも夕べからいるみたいね。」
 と話しているうち、オッサン達が帰ってきた。手に洗面器を持ち、タオルを持っていたが、恰好が予想を上回っている、と言うより下回っていた。『イベント屋』はまあ前回のような業界風、『アジア屋』は会社帰りに来たのか、それにしても工事用の作業服のようなものを着ている。英語屋は無粋なスーツにネクタイ。物理屋はライダー・フアッションのような皮の上下。この人達に比べれば、トリオ・漫才+マネジャーの方がまだマシかも知れない。
 「よお、もう来たのか。早いじゃないか。」
 「ごきげんよう、アニイ。ところで何よ、あのオバーチャン達。」
 「お前等のおかげでミョーなもんが流行ってんだよ。まあ始めよう。」
 要するに『男と女の友情論』の応用編なのだそうだ。実態はたかだか合コンのことらしいが、条件として酒が好きでないと困る、ヒマでないと困る、ワイ談が好きでないと失言した時に立つ瀬が無い、といった下らない条件が追加されたため、物理屋がこの別荘近くの知り合いのバーサマに声をかけたら、すぐに集まったらしい。
 一応はクリスマス・パーテイーである。プレゼントなぞ準備したりして、シャンパンが抜かれ、かの女達も多少嗜み、オッサン達は自分達の酒を別々に飲み出し、ケーキなども用意された。
 「それでアニイ。合コンはどうだったの?」
 「オウッ、それが大盛り上がりでな。アジア屋は潰れるし大変だったよ。」
 「しっかしバーサンってのも元気だよなー。」
 「ありゃもうストレスがないんだよ。」
 「歌も出ちゃったよな、あれは昔の唱歌かね。」
 「こっちも歌ったから人のことは言えんよ。」
 「何を歌うんですか?」
 「(全員で)サンフランシスコ・ベイ・ブルース!ギャハハ。」
 「キャー、あたし覚えてきたんですよー。」
 話しは弾み、アチコチに飛び、午後には朝帰っていったバーサマ達が暇になったらしく又乱入してきた。そして『男と女の友情』。アジア屋が総括した。
 「そもそも、恋愛と友情が両立しないという話しなんだ。どちらがいい、の問題じゃない。実験してみて分かったが、ある意思をもっていれば男女の友情は成立する。但し、そこはある程度の修行が必要で、それによって味のある友情がマナーと信頼の上に成り立つ、ということだろう。そこでだ、君達のような子供は(4人はムッとしたが)まず恋をしてしてしまくってから、ゆっくり男女の友情を楽しめばよろしい。」
 「じゃあロクに恋をしなかったら友情も味わえないんですかー。アタシなんか恋とは縁遠いのに。」
 「時間にとらわれることなんかナイ!先は長いし君達は自由だ!年なんか関係ない!」
 「(酔っ払ったバーサン)そうだよーオジョーちゃん、この人は昨日アタシに惚れたって言ってた。」
 「言ってねー!ぜーったい嘘だー。」

おしまい

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編 Ⅱ)


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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編 Ⅱ)

2014 MAY 5 20:20:29 pm by 西室 建

椎野ミチルが声をかけたのは、ナンパで知られるK大生だった。おりしも秋の野球リーグの最終試合の対抗戦を皆で観戦する、という筋書きだった。
 ミチルは当日集合した時点で、もう少し打ち合わせをしておけば、と後悔した。英 元子は制服であるセーラー服を着ており、出井 聡子はGパンにトレーナー、自分はこの頃謂うところのハマトラだった。そしてB・Bがやって来ると、皆息を飲んだ。髪をセットした上に、薄化粧を施し、真っ赤なスーツにハイ・ヒールである。
 「ちょっとB・B、何、その恰好。」
 「うーん、お母さんがちゃんとして行きなさいって買ってくれたのー。」
 「・・・・・・・・・」「・・・・」「・・・・」
 案の定、合流したK大の4人も目が点になった。
 「ごきげんよー。」「ごきげんよう。」「こんにちは。」
 挨拶の後、椎野 ミチルの彼氏である、市川がソッと聞いた。
 「オイ。あのミズっぽいのは何だ。」

 野球そのものは、伝統にのっとった応援合戦あり、アトラクションあり、試合も逆転ホームランが出る、といった具合で大いに盛り上がった。
 男女交互にすわったのだがこの際、B・Bが真ん中。左右を、青いジャケットに縁無し眼鏡とサーファー風にはさまれて、体を硬くしていた。二人がしきりに気を使って話しかけるのだが、反応は鈍い。ときおり聞こえてくる会話では、何と彼女は野球を知らないのだった。
 「あの人は何で走れるのですか?」
 「あれは盗塁。モーションを盗んで走るんだよ。」
 「それは、反則をしてるのですか?」
 「はああ?・・・・あのー。」
 一番隅にいた出井聡子は、時折聞こえてくる会話から、B・Bの極度の緊張感がビリビリ伝わって来るので、気になって野球どころでなくなってしまった。
試合の結果はK大がサヨナラで勝利し、スタンドは興奮のルツボと化した。そして全員総立ちとなって校歌の合唱となるため、応援部の指導のもとに肩を組んだ時、異変が起こった。左右から肩に手を回されたB・Bが貧血を起こしたのだ。
  
 「マジ失敗もいいところね。」
 「あれからこっちも大変よ。市川君が『オレの面子をどうしてくれる。』とか逆ギレするし、アタシも頭にきて大喧嘩よ。」
 「ウソ。何その面子って。」
 「あの後皆で中華でも食べることにしてたらしいのよ。だからって怒り出されてもねえ。おまけにB・Bのこと散々悪く言うし。もう願い下げだな。もともと軽い奴だったし。そう言えば、聡子の電話番号(この頃携帯はまだない)知りたがってるのがいたらしいよ。」
 「趣味じゃない。アッB・B来た。」
 「ごきげんよー。昨日は楽しかったねー。」
 「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
 「男の人ってやさしいねー。だけどあの人達ってちょっと軽くない?やっぱり真面目な高校生がいいなー。」
 「チョット玲!そん時はあのカッコはやめてよ。」
 椎野ミチルが堪らず言った。
 
 次の機会はすぐにやって来た。G大付属高校の同じ学年である。今度は秋の文化祭で、場所柄前回の失敗もあったので、E女子高のセーラー服の制服で行くことも決めた。
 椎野 ミチルの彼氏は仁村といった。他の3人も皆真面目そうで、全員眼鏡を掛けていた。彼等は歴史クラブに属していて、今年のテーマは「決戦!関が原」と称して凝ったジオラマを展示していた。早速案内されていくと、嬉々として説明をしてくれた。出井 聡子は改めて、椎野 ミチルのジャンルの広さに舌を巻く思いだった。
 昼食をとりに校外に出て、ピザを食べに行った。4人のポジションも前回の失敗を踏まえ、中心に椎野 ミチルとお相手の仁村君、聞き上手の出井 聡子が脇を固めるシフトを敷いた。
 「4人は何の仲間ですか?クラブ?」
 「全然関係ないのよ。聡子はテニスで元子は軽音楽。ギターが上手いのよ。玲はバスケ。」
 「こんな綺麗な娘が4人仲間って珍しくね?」
 一瞬光が走ったような緊張が生まれ、一同黙った。何というセンスの無い会話か。
 「そんなこと無いです。この前も誰が一番ブスか、でもめました。」
 これもどうかと思われる、B・Bの不規則発言である。
 「へー、それで誰になったの?」
 出井 聡子は目の前に座っている、この無神経男を殺してやりたいと思った。椎野 ミチルは彼氏の手前あせった。
 「やあね、玲。違うのよ、事の発端は『友情論』なんですよ。」
 「オツ、ボナールだね。それはオレも読んだな。」
 「うん、キザなオヤジだよね。」
 「でしょー。男と女のところなんか、なに、あれ。」
 「だーかーらー・・・。ボナールはそれが有るって考えなのよ。」
 「違うわよ。無い、と思ってるから、あっちでもこっちでも、友情はこう、愛情はこう、って書くのよ。」
 一般にこの年頃の男女がこの手の話しを四つに組んで話すには、余程ませた場合を除き、男の方が幼すぎるケースが多い。この時がそうだ。
 更に、男子側に、彼女達の気を引こうとする意思が働いており、論点が絞りきれず、『僕もそう思うなー。』だの『僕はその逆だなー。』といった、ふやけた相槌しか打てなかったため、彼女達は例によって、かってに熱くなりだした。男側である仁村君はこの場を取り繕おうと、頭をフル回転させた。結果が地獄とも知らずに。
 「それで、玲さんはどういう考えをとっているんですか?」
 「あたしは、男女の友情はある。だけどあたしは友情をもって接してあげない、って立場です。」
 「すると今僕達とこうして話してますよね。僕はミチルと付き合ってますけど、僕と玲さんの間はある種の友情めいたものがあってもいいじゃないですか。それも否定されると、もし玲さんが何かを感じるとすると、それは愛情になる、ということですか?」
 「なんですって!」
 本人に何の悪気があろうか。一種の知的会話をしているつもりだった仁村君は思わぬB・Bの剣幕にたじろいだ。椎野ミチルも続く。
 「ちょっと。何それ。何の下心があってB・Bに絡むのよ。」
 「いいいやっ、違う。例えばの話しだよ。カンベンしてよ。B・Bって誰?」
 「玲のことよ。原部(ばらべ)玲。通称B・B。」
 「アッ珍しい苗字ですね。」
 テーブルの反対側の4人は冷静さを取り戻していたが、既に会話に参加する気力を失っていた。
 「こうして見てるだけだったら結構おもしろいね。」
 「あのー、あの玲さんって人、いつもああなんですか?」
 「あんなもんじゃないですよ。まだ泣きが入ってないですし。蹴りも出てませんから。」
 「エッ。」
 「元子。およしよ。」

 翌日、英 元子がボソボソと出井 聡子に言った。
 「ねーえー。いつまでこんなことやってるのー?あたしゃ降りたいよー。」
 「それがねー。ミチルがあれから逆ギレして仁村君振っちゃったらしいよ。」
 「ウソー。何それー。」
 「夕べ連絡が入ったんだけど、夜にあやまりの電話が入ったんだそうよ。で、話してるうちに頭にきたらしくて、怒鳴りつけたんだって。そしたら仁村君も怒っちゃって、もう別れようってなったらしいんだ。」
 「まったくー。愛も友情もないもんね。」
 「ところがそっから大変なのよ。」
 「何が。」
 「っていうかー、こうなったら今度こそB・Bに一泡拭かせてやる、って言うのよ。」
 「ミチルもバカねー。こんなことしてたらいくらあの娘モテてもカレシいなくなるよー。」
 「それも破れかぶれになったらしくて、今度はオヤジだ、だって。」
 「キャー、あたしゃヤダよ。エンコーなんて。」
 「バカ、バカ。元子、何てこと言うの。でも何かあんまりフツーじゃないみたいなんだな、これが。今度の日曜にお鮨おごってくれるって言ってた。」
 「どっちにしてもあたしゃ今度で打ち止めにさせてもらうは。」
 「あたしだってそうよ。」
 「着てくもんどうすんのよー。B・B又あの恰好だよー。」 続く

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編Ⅲ)


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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編)

2014 MAY 2 22:22:11 pm by 西室 建

「ごきげんよう。」「ごきげんよう。」E女子高特有の挨拶をしながら、校門から桜並木を抜けて教室に生徒が登校してくる。明るい笑い声が飛び交うその中に四人、目を真っ赤にした暗い表情の美少女たちがいた。四人は夕べから一睡もせずに話し続けたのだが、しまいには何を言い争っていたのか分からなくなっても終わらず、朝時点では全員が泣き出してしまったのでそこまでにして、登校してきたところなのだ。仲良しの四人はそれぞれの教室に別れて行った。
「B・Bごきげんよう。」
「うん。ごきげんよー。」
「ちょっと玲、すごい顔になってるよ。どうしたの。」
「うーん、、寝てないの~。」
原部(ばらべ)玲(れい)、通称B・Bは切れ長の目と化粧もしないのにやけに唇が赤く華やかで、その名前からも真紅の薔薇を思わせた。ただムラ気な性格が災いして、しばしば髪型や服装がとんでもなく乱れていることがあり、そんな時はまるで別人のようにむさ苦しい表情にみえた。今日がそうである。更にそのムラ気が言動に出ると、時に人を傷付け自分も取り乱すスパイラルに落ち、周りを巻き込むことがあった。薔薇には棘があったのだ。
「原部さん。原部玲さん。起きなさい。」
「・・・・。」
「玲さん今の先生が読んだところを音読して和訳なさい。」
「・・・・。」                                              「玲さん気が入っていませんね。集中しなさい。放課後にフランス語教員室にいらっしゃい。お話があります。」
「あの。今日はだめです。」
教室にピンと張り詰めた空気が流れた。
 E女子高は1学年4クラス。2年北組で起きたささやかな事件は10分の休み時間に瞬く間に全クラスに伝わり、隣りの南組では『B・Bがフランス語のマダム・ヤマトに啖呵を切って教室を放り出された』だったが、その向こうの西組では『B・Bがキレてマダム・ヤマトを突き飛ばして出て行った』になっていた。
 英(はなぶさ)元子と出井聡子は東組のクラスメイトだった。
「あの娘はもう。どうしてるの。」
「北組確か体育だよ。」
英(はなぶさ)元子は小柄だが細面の美少女で、ひきしまった顔立ちが意志の強さを感じさせるものの、どことなく儚げな趣が桜の花を思わせた。出井聡子はスレンダーな長身に長めのボブ・カットが彫の深い表情に良く似合っていた。黒目がちの瞳が何故か可憐なコスモスのようだった。
「どれが本当の話なのよ。」
椎野ミチルが西組から出てきて聞いた。椎野ミチルは浅黒い肌にボーイッシュな短髪、高校生離れしたプロポーションが華やかさを醸し出し、真夏のひまわりに見えた。
「B・Bがやっちゃったみたい。」
「朝方ひどかったもんね。」
「今日はどうするの。」
「どうするって?」
「このままじゃ収まらないでしょ。決着つけなきゃ。」

 6時間目が終わるチャイムを合図に3人は北組を目指す。帰り支度で騒がしい教室に入って行くと人垣が割れB・Bの所まで開けた。この四人は仲良しなことは皆知っており、どうも今日のフランス語のモメ事の遠因ではないかと疑っていた。それでなくても個性的美少女が連れ立っていることで、見る側と見られる側の間に思慕・羨望・嫉妬といった様々な感情が一瞬の内に交錯した。
「B・Bあなたどうしたの。」
「うーん、ねむーい。」
「玲、マダム・ヤマトをカンカンにさせたってホント?」
「うーん、もうヤダー。」
「じゃあ、きょうは無理?聡子はテニス部休むって言ってるけど。」
B・Bはバネ仕掛けのように立ち上がった。
「ジョーダンじゃないわ!アタシャ引き下がらんよ。」
クラスが一斉に振り向いて、いったい何事かと固唾を飲んでいるのが分かった。出井聡子が引き取って、穏やかな微笑とともに囁いた。
「サッ行くわよ。B・B。」
 事の発端は出井聡子が持ち込んだ、アベル・ボナールの『友情論』だった。回し読みをしてはその難解な言い回しや小洒落たセリフに相槌を打ったり文句をつけたりしてして楽しんでいた。
『真の友は共に孤独な人である。』『恋愛に於いて、我々は世間を捨て、友情に於いては世間を見下ろす。』『恋愛には、人が絶えず口にする向上の欲求と、それ程口にされないが、劣らず強い堕落の欲求がある。』
 これらの台詞は、まだ人生経験が少ないが故に、より美しく啓示的に彼女達の心を打った。そこまでは良かったのだ。
 第5章『男と女の友情』で激しくモメた。彼女達が未経験であるため、未知の感情を語ることは、時に過激で出口の無い議論になってしまった。
「こんな奴(作中のボナールの対話者)がいるから、それでそいつが言うような女が本当にいるから女がなめられる。こんな男なんかに誰が友情を持って接してやるものか!」
 普段から男嫌いの言動が極端なB・Bの発言である。恋愛経験が全く無いがゆえの憤りだろう。
 「向こうがそう来るなら、逆手にとって、のぼせ男の頭を冷やしてやんなさいよ。」
真夏のひまわり、椎野ミチルの意見だった。彼女は複数のボーイフレンドがいたが、天性の捌きで、自由を満喫していた。
 「だけど玲、居もしない男のことアーダコーダ言ってもしょうがないじゃない。」
これは男嫌いというより、無関心と言ったほうが正しい、英元子である。この発言が引き金を引い
た。『いもしない男』という言い方に、B・Bはカチンときたらしい。そして出井聡子が追い討ちをかけた恰好になる。
 「だから玲、『ワタシを男だと思って付き合って下さい』って言えばいいじゃない。」
 これは本気の一言だった。彼女なりに、自分だったらそう言おうと思ったのだ。
 そしてB・Bが爆発した。
 「アナタ達!バカにしてるんでしょう!」

 学校の帰りに喫茶店に寄った。校則では禁止されているが、何しろ夕べは椎野ミチルの家に泊まりである。いくらなんでも今日もというわけにはいかない。学校の近所はマズイので、わざわざ地下鉄で一駅移動した。
 「ちょっとB・B、何があったの?フランス語は。」
 「うーん、寝てたらマダム・ヤマトが後で来い、とか言うからヤダって言ったノー。」
 「どうするつもり?赤点貰うわよ。」
 「かまやしないわよ。」
 「えーっと、それでどうなったんだっけ。」
 「いっぱい喋って、訳わかんなくなっちゃった。」
 「だーかーらー、男と女の友情よ。」
 「ああ、そうね。それでB・Bがキレたのよ。」
 「違うわよ。ボナールはいいの。相手が気に入らないのよ。」「相方って言ってもあれがボナールの本音でしょう。」「ウソッ、マジで。」「バカね、小説の手法でしょう?」「違うわよ。」「そうだってば。」「どのみち、大昔のフランスオヤジが言ったことよ。」「小説の手法ってなにさ。」「アラ、ほんの5-60年前よ。芥川より新しいはずよ。」「あなた言ったわよね。男と思って付き合ってくれ、て言えって。」「そんな昔なの、ウチの親の生まれる前じゃない。」「言ったわよ。あたしはきっと本気で言うわよ。」「そんなこと言ったら源氏物語なんかどうするのよ。千年前よ。」「聡子、本気なの?じゃ相手がアホで僕はゲイですから一緒にホモになろう、って言われたらどうするのよ。」 「ストーップ!ヤメナサイ!(声を落として)人がこっちを見てるでしょ。一人づつ。ほら、玲。」
 たまりかねて英元子が声を励ました。B・Bを見れば、もう涙目である。

 昨日はそのまま帰り、4人の緊張関係は続いていた。普段は校庭の芝生でお弁当を一緒に食べるのだが、お互いに声もかけない。さすがに周りが気にし出していた。もっとも北組ではフランス語の一件以来、誰もB・Bに話しかけなくなっていて、B・Bはだらしなさが一層ひどくなり、髪にブラシもかけていないようだった。
 英元子と出井聡子は同じクラスなので、帰りには会話が復活していた。
 「どうする?」
 「あれじゃ救われないわな。」
 「みんなも変だと思っているみたいよ。」
 「そうねえ、落しどころは奥の手かなー。」
 「何、それ。チョット、変なことに巻き込まないでよ。」
 「B・Bは異性恐怖症なんじゃない?」
 「アタシもあんまり興味ないけどアレはそれどころじゃない。ありゃタチが悪い。聡子は?」
 「アタシは平気。敵に後ろを見せてなるものか。でも女子高だからなー。」
 「ボナールも空しいね。」
 ズバリ、合コンである。各方面に顔の利く、椎野ミチルに頼んで4対4のセットをする。案の定B・Bは激しく反応したが、聡子はソッと囁いた。
 「だけど玲、手打ちをするにもちょうどいいでしょ。他に事情を知らない人がいた方が自然にやれるわよ。あなた、最近誰とも口も利いてないじゃない。」
 後に、どういってB・Bを説得したのか、不思議そうに聞いてきた元子に、いきさつを説明するとため息まじりにつぶやいた。
 「あのね、あたし前から思っていたけど、あなたほんっとにワルね。」
 「なんのなんの。」

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編 Ⅱ)

 

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(198X年女子高編Ⅲ)

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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編 エピローグ)

2014 APR 29 10:10:42 am by 西室 建

 椎野と出井さんと僕にB・B。四人で座った途端に逆上したB・Bはまくし立てた。
「創刊号でも書いたんだけど、中也を見出したのはこの同人誌『山繭』のグループなんだよ。骨董の目利きで白洲正子さんの師匠に当たる青山二郎という人がいて、この人が若き小林秀雄や河上徹太郎を鍛えたんだね。初期のリーダー格は富永太郎っていうんだけど、夭折してしまって作品が少ないから世間的には全く無名なんだ。数少ない散文詩が残ってるけどとっても透明感のあるきれいな文章だよ。そういった猛者の中でも中也は個性的というか特殊な少年だったらしいんだ。それでここが僕の研究してるところなんだけど、中也の恋人で少し年上の長谷川泰子ってとびきりの美人なんだけど、その人に小林秀雄が惚れちまうんだ。僕の仮説では小林秀雄がちょっかい出したと言うより、ガキで生活力のない中也を見切って長谷川泰子の方が乗り換えたんじゃないかと睨んでるんだ。その前後で中也の詩の内容や小林の文章がどう変わったかというと、ほら、」
 こいつは出井さんの前で嬉しそうに喋ってるけど、いつの間にこんなことを研究したというのだろうか。こいつの成績は僕の観察によれば、数学以外はほぼ白痴じゃないかと思われる点数を取っているにも関わらず、だ。数学は超変人の数学教官とウマが合って授業中に二人で漫才みたいな受け答えをしていたが、例の日本史に至っては問題外の烙印を押されているにに違いない。何しろバーチャル日本史をまるまる一学期間こしらえていたのだから。そして解説は止まる所を知らないで延々と続いた。B・B恐るべし、しかし。
「ねえ、原辺君。でもあたしどっちかと言うと中也はあんまり好きじゃないんだ。ちょと弱々しくない?萩原朔太郎の方がいいな。こう・・うまく言えないけど。凄味があるっていうの?」
「!」
虚を突かれてB・Bは絶句した。隣りに座っていたので表情は見えない、いや、かわいそうで見られない。しかし、黙っていると噴き出してしまいそうなおかしさがこみ上げてきて実に困ったが、さすがに笑う所じゃない。一瞬の沈黙の後、椎野が助け舟を出す。
「出井さぁ、11月3日にF高の文化祭があってオレら30分ばかりステージに出るけど来ないか。中学で一緒だったのもいるじゃん。飯田とか江藤とか。」
「あら、懐かしい。行く行く。」
帰り際には『また一から萩原朔太郎の研究かぁ。』とため息をついていたが、この驚くべき生命力のゴキブリ高校生は『黄道Vol2 萩原朔太郎研究』までは発行した。尤も力が抜けたようで僕達には見せなかった。
 出井さんは、それでもF高校での僕たちのステージに来て楽しんでくれたし、B・Bともコーヒーを飲んだりお付き合いしてくれるようになった。そして後期の中間試験が終わり年が暮れた。

 ところが新年から椎野が全く学校に来なくなった。一週間くらい気にも留めなかったが、出井さんが『椎野君はどうしたの。』と聞くのでビックリした。B・Bに聞いても分からない。椎野は僕達の付き合いとは別に地元の仲間がいて、それはヤクザじゃないんだろうが多少危ない連中らしいことは知っていた。B・Bは電話をしてみてこう言った。
「お母さんが出ちゃって繋いでくれなかった。どうも家にいないようなんだけど、オレには、何処にいるか知ってるか、とか聞かないんだよ。今時ヤサグレかねぇ。」
由々しき事態だがどうしようもない。去年は僕たちのグループでいくつかのステージをこなして、人気も少し出たのだがもうバンドは組めないかもしれない。

 なすすべも無く高校3年になってしまって、ボソボソと受験勉強に取り掛かることになった。B・Bはというと(3年になるときはクラス替えが行われなかった)、相変わらずチャランポランな暮らしをしているようだが、去年小野田少尉がルバング島で発見されて以来陸軍中野学校の研究に夢中になったらしい。『陸軍中野学校シリーズ』という市川雷蔵の映画があるそうで、深夜5本立てを誘われたが断った。もっとも3年は選択授業ばかりで、文系・理系・その他の選択によってクラスでも滅多に顔を合わせることはない。英語の授業中に『龍3号指令』とか『雲1号指令』というメモが回って来たが、帰りにサテンに行こうぜ、の意味のようだ。そして何を思ったのか背中まで伸ばしていた長髪をバッサリ切って、テカテカのリーゼントに撫で付けていた。
 椎野からはがきが来た。何と沖縄にいて、働いていると言うではないか。沖縄は3年前に日本に返還されて、何かと話題になるのだが、まだ観光地としての認知度は高くない。うまいところに逃げ込んだものだと関心するとともに、椎野のタフさ加減に舌を巻いた。暫く隠遁して大検を目指す、と書いてあった。B・Bと出井さんに見せた。
「どうしちゃったのかしら。」
「こりゃ、女だよ。」
「エッ。」「エッ、おんなってB・B知ってるのか。」
「いや、知らないけど。やっぱあいつも色々背負い込んでるもんもあるんだろ。ニッチもサッチも行かなくなったんじゃねーか。」
「お前その頭どうしたんだ。」
「ヘヘッ、おりゃー近頃ロックンロールしかきーてねーんだ。」
「どうしたんだ、その喋り方。」
「ん?最近酒飲み出しちゃってよ。まぁいいじゃない。よろしくゥ。」

 秋が過ぎて冬になって、大学も受験し、とうとう卒業の時が来てしまった。この間は交流も薄く、僕にとっては空白期間の様だった。教室に置きっ放しにしていたギターを持って帰らなければ。久しぶりにB・Bと連れ立って学校の裏の神社で話しこんだ。僕は文学部に、奴は経済学部に行くことになった、大学は別だが。B・Bはリーゼントはもうやめていて、また髪を伸ばし出していた。
「お前やっぱりその頭の方が普通だぜ。」
「いやぁ、大変だったよ。オレ目付きが悪いらしくて学校来るのも一苦労だった。あの手の頭の連中は匂いがするのかいつのまにか寄ってきて『なんだお前はよゥ。』がすぐ始まるんだぜ。ボクはロックンローラーです、なんつったって学ラン背負ってちゃ通じないんだもん。」
「なんにせよもう卒業だ。」
「もうここに来なくていい、と思うとホッとする。はみ出しモンはしょーがねーな。」
「出井さんはどこに行くんだ。」
「知らない。なぁ、あれは恋だったんだろーかね。」
「さあー、ちょっと違うんじゃない。相手にされなかったというか・・・。」
「椎野の奴、今も沖縄にいるんだろうか。」
「訪ねようにも住所もわからん。」
「一曲やるか。」
「サンフランシスコ・ベイ・ブルースな。」
演奏を始めると、観光客や遊んでいたガキが寄ってきてちょっとした人垣が出来て拍手をしてくれた。別に嬉しくもなかったが、僕たちは愛想笑いをした。

エピローグ
僕(英)は英文科に進み、イギリスを放浪した後大学に戻りアメリカ文学をやることになった。
B・Bは奇をてらって卒業後、堅気のサラリーマンになる。うまく行くはずはないが。
椎野は沖縄でブラブラした後、香港を拠点にした怪しげなビジネスを始めた。
出井さんは研究者になりかけて、その後結婚した。
四人が再び邂逅するのにそれから四半世紀の時間が掛かることになる。

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 麻雀白虎隊)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編Ⅲ)


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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編Ⅲ)

2014 APR 23 22:22:28 pm by 西室 建

 夏休みが終わり、9月なのだがE高校はすぐ中間テストが始まった。しかし僕たち3人組は試験そのものはどうでもよく、午前中で終わってしまった後まさか麻雀をする訳にもいかずどうやってヒマを潰すのか困っていた。通用門の前を全校生徒がズラズラと下っていく坂道の光景の中で僕達は明らかに浮いていた。すると足早に歩いていく女子生徒と椎野が二言三言会話をした。B・Bはそれを見て僕をつついた。
「おい、あの娘は誰だ。」
「椎野のクラスの娘だよ。確か椎野と同じ中学じゃないか。」
「ちょっとお茶飲んで行こうぜ。」
サテンに入って早速ハイ・ライトに火をつけると、椎野に切り出した。
「おい、さっき話してた中学一緒の娘は何て言うんだ。」
「ん?出井のことか。出井聡子。かわいいよ。」
「フゥーン。イデイさんね。椎野知ってるならオレに紹介してくれよ。」
「ばか!やめとけ。お前の手に負えるわけない。ありゃ真面目だぞ。」
「いいじゃないか。ま、今んところオレは秀才とは言えんが。誰か彼氏がいるのか。」
「そうじゃないんだよ。ありゃ孤独癖とでもいうのかつるまないんだよ。きれいで人気者だけど真ん中にぽつん。お前にはもうちょっとトロそうな愛想のいいのを見繕ってやる。」
「やだぜ、そんなの。」
「だからいきなりチャレンジするのが無理なんだよ。あらゆる物事に手順があるように、アーパーな姉ちゃんに2~3回振られてからじゃないと高みには登れないんだぜ。大体オレ等が喋ってる口調も内容も女にゃ通じないのがオチだ。話をするにも修行がいるんだよ。ナメてもらっちゃ困るな。」
「振られなかったらそのアーパーとくっついちゃうじゃないか。オレの青春が無駄になるだろうが。」
「なるわけないって、所詮お前は麻雀カブレのバンド・ボーイだろ、今はゴキブリ並みの高校生なんだから自分をわきまえろ。」
「何だよ、よしオレひとりでやる。」
「ばーか。」「バーカ。クソして寝ろ。」

 しばらくすると、何と驚いたことに出井さんにB・Bが冊子を手渡ししていたのを偶然チラッと目撃した。なんだあいつ、椎野にバカにされて玉砕戦法にでも出たのか。これは早速知らせなけりゃいけない。
「何!あいつそんな無謀なことしてたのか。こりゃどのみちロクなことにゃならん。手を打っておかないと。」
椎野は早速動いて、翌日あきれかえった顔で報告があった。
「どうやらあのバカ、出井に自作の詩集か何かを送って感想を聞かせてくれって言ったらしい。出井は出井でよしゃーいいのに真面目に読んで感想を書いてやったそうだ。『面白い文章です。』みたいなことを返事したと言ってたよ。お前同じクラスだろ。B・Bの様子はどうだ。」
そういえば、夢中になっていたバーチャル日本史のメモは今学期から途絶えていたし、バンドの練習の声もかからない。いや、休み時間や放課後にあいつの顔を見ていない。
 昼休みに声を掛けた。
「おい、B・B。」
「ん?なんだよ。」
「練習しようぜ。F高の文化祭からオファーが来てるぜ。30分5曲だって。」
「いつ?」
「11月の3日だよ。椎野もベース・コピーしたからさ。」
「ワシはちょっときょうはダメだ。忙しい。」
「どこ行くんだよ。」
「ん?図書室。」
「はぁ、まさか勉強でもするのか。」
「いや、雑誌造ってるんだ。」
「ざっし?って何の雑誌だよ。」
「あとで教えるよ。まだ一号しか出来てないんだもん。」
「中身なんだよ。手伝ってやろうか。」
「ダメダメダメ。まぁ内容は詩とその評論だけど。」
野郎、ついに気でも狂ったんじゃないか。

 3日ほどして椎野と放課後図書室を覗いた。B・Bは受験勉強をしている生徒に交じって隅っこにいるのがすぐ分かった。何やら沢山の本を広げたり積み上げたりした中で一生懸命何かを書いていた。図書室では会話厳禁だから向いの席について「みーつけた」と書いたメモを渡すと、目を剥いてビックリしていた。ビックリしたのはこっちも同じで奴は鉄筆をもってガリ板を切っていた(この時代コピーは無く、ワープロも無い)。積んである本は誰かの全集、高村光太郎、小林秀雄。ノートに草稿を持っているらしく、言葉を確認したりして原稿を書いていたのだ。露骨にいやな顔をして「あと1時間」とメモを返してきた。僕はしょうがないから薄い原書を見繕って読み、椎野は所在無く持っていた推理小説を読んだ。5時前にB・Bが本を片づけ出し、僕たちに目くばせしたので一緒に出た。いつものサテンでハイライト。
「本当に雑誌を造ってるのか。」
「ああ、これが創刊記念号だ。」
表紙には『黄道Vol1』と題名。はやりのサイケデリックなイラスト、花をあしらったつもりのようだ。目次はと言えば、
ー今週の詩          『川の中州の一厘のコスモス』  阿部瀬出男
ー現代詩の創成期       『同人誌 山繭とその時代』   アビイ・ツェーデエ
ー感傷的表現の類似性     『高村光太郎を読む』    恵比寿大師
ー連載俳句          『街の風』           原辺 ユズル
ー季節の連歌         『季題 晩秋』         詠み人知らず
「一体どれくらい掛けてこれ造ってんだ。」
「一週間かかった。次の号は毎日やってまだ原稿が半分だよ。週刊誌にしようと思ったけど企画倒れになりそうだ。」
「この著者ってお前の知り合いなのか、誰も知らないけど。」
「そりゃそうだよ。全部ワシが文体変えて書いてるんだ。」
「じゃみんなおまえのペン・ネームか。それにしてもゴロの悪い。」
「思いつかないからA・B・C・Dをフランス語で読んだりドイツ語で読んだりしながら考えたんだ。」
「で、何だってこんなもん造って、いったい誰が読むんだよ。」
「出井さんにあげるんだよ。」
「お前!出井一人のためにこんなことやってんのか。」
「ワシの詩は個性があって面白いから、連作するといいでしょう、と。類似の作品を探して比較してみるといいでしょう、刺激をうけるのではないでしょうか。って感想書いてくれたんだ。オラオラオラオラこれだ。」
僕は心配になった。B・Bの奴とんでもない勘違いをしたんじゃないだろうか。
 椎野は黙って目を通して傍らに置くとドスの効いた声で話し始めた。
「これだからシロートは困る!言わないこっちゃない。初めに聞くけど、お前は出井の何を知ってるんだ。」
「何をって何だ。」
「だから何が趣味か、とかどんなものが好きか、とか得意な物は何かとか。」
「そんなこと知らん。」
「あのなあ。坊や、恋愛は一人でするものじゃないのは知ってるよな。ましてや相手はお前が誰かも知らん。それがいきなりこんな紙屑をワンサカ送り付けられたらどんなに気味が悪いか分かってんのか。何で相談しないんだ。」
「だって、初めに紹介してくれって頼んだらいったらヤメロって言ったじゃないか。」
「当たり前だろ、自分でどう思ってるか知らないがお前立派な変人だぞ。段取りもつけないで何考えてんだ。」
「じゃ、どうしろってんだ。邪魔するな。」
B・Bは例によって不貞腐れた。どうしろって言ってももう遅いんじゃないか、と思っていると百戦錬磨の椎野は言った。
「オレに任せろ。話す機会を作ってやる。」

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 麻雀白虎隊)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編 エピローグ)

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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 Ⅱ)

2014 APR 20 13:13:19 pm by 西室 建

 都内の一軒家で恐ろしくヒマそうな高校生が二人で、ガシャガシャとギターをかき鳴らして歌を歌っている。マイナー・ヒット曲サンフランシスコ・ベイブルースだ。かつてブラザーズ・フォアがアメリカでヒットさせたフォーク・ソングだが、このころ武蔵野タンポポ団なるバンドが日本語でカヴァーしてコンサートでよく歌っていた。

          『オイラを残してあの子は行っちゃったー・富士山の麓までー・とってもイカしたー・娘だーあったがー・さよならと一言言ったきり・あの娘は二度とは帰って来ないだろー・オイラにゃお金も車も無いからー・でも戻っておくれー・機嫌を直してー・そして一緒に歩こうよ吉祥寺の街を』

 武蔵野タンポポ団は吉祥寺の伝説のライヴ、ぐゎらん堂という店でよく歌っていた。この二人、原辺(ばらべ)と英(はなぶさ)はバンドを組んで練習していた。もう一人の椎野は夏休みが始まった途端にナンパのメッカと言われた新島に行ったきり、全然連絡もない。

「二人でやってもサイモンとガーファンクルみたいにはいかねーもんだな。」
「そりゃそうだ。本物はギター一本でやってるからな。お前もうちょっと練習しろよ。」
「だからこうしてやってんじゃねーか。椎野は何にも言ってこないのか。」
「まだ島にいるんだろ。金がなくなるまで居るって言ってたな。だけど本当に毎日ナンパして暮らしてるのかな。」
「そんなに成立するとも思えないけど、手当たりしだいに声を掛けて同じ女の子に当たることになったらどうすんだ。」
「何れにせよ華やかなもんだよ。こないだお前と行ったブルース・フェスティバルって気が付いたら客は男ばっかりだったぜ。それも右から左までベル・ボトムのジーンズでガサガサ髪伸ばしてさ。」
「だから女はみんな新島に行ったんだろ。」
「もう夏休み終わっちゃうけどなァ。3人で音あわせしないと秋にステージに上がれないじゃない。」
「だからもう少しレパートリー増やそうぜ。何やる。」
「ビートルズは解散しちゃったから新曲は出ないんだよな。」
「ありゃ映画の時点で終わってんだよ。だってあの心優しきジョージが大天才ポールに苛められてるところ映ってんだぜ。」
「それで時代はフォーク・ソングですかね。」
「お前が試しに造ってくる曲はコード進行がみんな同じだぞ。このけったいな詩が歌に合ってないんだよ。」
「エッそうだったのか。リズム変えるか。」

「シラけた、かったるい、でズーッと行かなきゃなんないのか。大学の方は落ち着いてくれてんのかね。全共闘のオニーさん達もすっかり挫折モードって奴だな。」
「あれはなー、セクトが出てくるとおかしくなるんだよ。一緒にやれなくなって仲間割れしちゃうんだよ。」
「その内セクトに入るのに面接とかが始まったりしてな。」
「試験されたりして。科目は何になる。」
「英(はなぶさ)の得意の英語はないだろう。」
「かえって中国語とかロシア語になったりして。原辺知ってる。あのセクトのフロントってロシア語なんだって。」
「ホントか。知らんかった。」
「毛沢東語録でも覚えるのかな。ML派ってのはマルクス・レーニン派と言われてたけど今は毛・林派って言うそうだ。」
「黒ヘル青ヘル白ヘルとくると野球のチームみたいだな。」
「そんなの言ってるのは広島だけだろ。」
「ゲバ棒振るのにバッティングの練習したりして。」
「オラオラオラオラ腰がはいってないドー。」
「バリの強化のための工学知識。」
「聞かれたら本気で怒られるぞ。ケガ人ガンガン出してるんだから。ハイジャックに総括だもん。」
「それ発音が違う。連合赤軍は関西が主流だからそ’うかつと発音するんだ。」
「安田でやられてから秘密結社みたいになっちゃった。」
「むしろ偉いよな、遊び呆けてるのも一杯いるんだから。」
「うーん、分からん。」
「全共闘のオニーさん達は『網走番外地』が好きなんだって。負けると分かっていても義理を返しに行くってところに痺れるんだそうだ。」
「お前その映画見たことあんのか。」
「いや、ない。」
「三島がハラ切って左右革命決戦でも始まるかと思ったけどな。」
「お前そしたらどっちに付くんだ。」
「・・・・。」

「そう言や新宿のフーテンもいつの間にかいなくなったけど、ありゃどこに行ったんだ。」
「新島じゃない。」
「お前相変わらず中也読んでんのか。」
「それがさ、何しろ早死にして作品数が少ないだろ。暗記しちゃうんだよ。」
「そうか、それで擬態語だらけのけったいな詩になってんだ。こんなモン、特に女の子は読まんぞ。」
「そんなことはない。所詮天才は死んでからしか評価されん。」
「じゃ死にさらせ。」
「ワリャ一人だけ生き残るつもりか。そうはさせんドー。」

「それにしても暑いな。」
「しょうがないだろ。夏なんだから。」
「エーリッヒ・フロム読んだ?」
「お前があんまり煩いから読んだけどつまんなかった。」
「そうだろうな。お前向きじゃないな。」
「オイ、一日中ヒッピってていーんかねワシ等。」
「で何する。」
「映画でも見ようか。」
「あっ駅前の名画座でイージー・ライダーやってたぞ。画面ボロボロらしいけど。」
「あれさ、ピーター・フォンダはラスト・シーンにディランの曲を使いたかったんだってさ。でもディランは発展的なエンドじゃない、という理由で断ったんだって。それじゃ発展的なエンドって何だ、と聞くと二人が一緒に激突して死ぬことだ、と言ったんだそうだ。お前意味分かる?」
「それはだな。一人ずつ撃ち殺されてしまうより、男気を持って敢然と理不尽にブチ当たった段階で・・全ての時間と次元を超越するー・・・・空間的なー、えーと・・・自由が・・・・もたらされてー・・・・。」
「何だ分かんないのか。」

 映画館にはヒマな野郎共があたりかまわずタバコを吸っていた。この頃は禁煙も何も関係なく吸っていた。

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 麻雀白虎隊)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編Ⅲ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編 エピローグ)


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