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哲学者と政治家 右派からの検証

2023 SEP 14 10:10:37 am by 西 牟呂雄

 安部元総理が凶弾に倒れて1年過ぎた。
 保守系月刊誌を中心とした保守論壇は特集を組み、元総理を懐かしんでおり、左派は相変わらず日本をダメにした、という論陣を張っている。
 あれだけ長期政権が維持できたということに一定の評価がなされるのは当たり前であり、その間鬱屈した思いだった人々の恨み節も有りだろう。だが国会論戦(論戦と言っていいかどうか)を見ていればお花畑左派の情けなさは多くの国民の失望を招き、元総理在任中の選挙は全て負けたことが国民の健全な良識が信頼に足るものの証明だろう。その昔デモに一度や二度参加したようなオールド・リベラルが、安倍が日本をメチャクチャにしたと嘆くのは滑稽を通り越している。
 私自身右派であるから、元総理の功績を高く評価する者であるが、最近の右派はもっぱらLGBT法案を嘆き、日米韓に舵を切った現政権の攻撃に徹しているが、どうであろう。保守派の矜持として元総理の右派からの批判を検証することは必要で、なぜなら保守は常に鍛え続けなければ必ず堕落するからなのだ。
 まぁ、私のようなアウトローは保守派といっても、地べたを這いずるような暮らしの中で御上(おかみ)の勘違いは無視することが可能だ。例えばLGBT法案など法律にしなければならないのかね、程度の感覚でいたため法案成立にかけられたエネルギーを冷笑する立ち位置。韓国の尹大統領個人に期待はするものの、どうせまた反日の政治家が台頭するだろうから信用はしない。アメリカについてはその悪意を認識しているが、消去法で他に頼れるところはない。なにしろ負けてしまったのだから。そもそも挑発に乗って真珠湾をやったのが大間違いではあるものの、仮にやらなかったら日米関係はどうなっていたかと言えば、どう想像をたくましくしても目下の状況と大して変わらないだろう。お若い方々はバブル以前をご存じないだろうが、繊維・鉄鋼・自動車・半導体と次々に難癖をつけられて、挙句の果てにバブルの崩壊に追い込まれた経緯を踏まえればよく分かる。1990年に私はヒラ社員だったが、つくづく我々はアングロサクソンには二度負けた、と思った。
 話は戻って、公平を期するために普段保守派と言われる連中の安倍批判を探ってみたところ、ある新書を見つけた。
 哲学者を称する適菜収、ニーチェの研究者らしい。一読、あまりの見識の低さに呆れた。こんなのがマスコミに雑文を書き散らしているのはいいとしても世間に相手にされないのではないか。調べてみると『B層』というゾーンをバカ呼ばわりした著作で売れた学者だとか。
 ものすごく勉強熱心な人らしく、極めて緻密に検証していることは窺える。しかしこのテの秀才にありがちだがくどいのだ。おそらく理論の組み立てを全て書き込まないといられない、私なら保守派の定義は『早急な変化に対応して、後に昔は良かった、などと思いたくない気質』だけで済むが、大昔のフランス革命に遡って考証を加え定義する。悪くはないが違和感は感じる。よほど努力をする体質で、ろくに勉強もしない輩は全てバカに見えるので、バカ呼ばわりを多発して文章の品を下げる。『箸の正しい持ち方』は得意の持ちネタのようで、随分がんばって習得したのだろうが、別のところで書いてもいるのはそれこそバカの一つ覚え。ひょっとするとコンプレックスの塊なのか、ちょっと褒められると舞い上がる。自殺した西部暹に褒められたのが余程うれしかったのかわざわざ記している。そういえば西部邁もやたらと話の長い人だったが、適菜もそうなんだろう。一般的に話がバカ長い人は頭が悪そうにみえますがねぇ。
 そもそも元総理の勉学の奮わなさはかねて知られている。私は同学年なので成蹊小学校の同級生に知り合いがいるが、大したことはなかったと証言した。家庭教師をしていた平沢勝栄はそれをバラして出世が送れたのだから本物で、適菜からすれば上から目線になるだろう。
 だが政治家は思想家とは違う。
 思想家同士がいくら議論しても現実にはラチがあかない。『日本は核武装してアメリカのくびきから独立する』と『被爆国の日本が核武装などとんでもない』の両者がいくら議論しても合意にいたることは絶対にない。そこを何とかするのが政治であって、交渉とは一言でいえば妥協の技術なのだ。海外案件の契約をやってみればすぐわかる話だが、双方知恵を絞って何とか着地点を見つけるなどということは、自称でも他称でも哲学者にできるはずもなく、また口をはさむべきではない。文学者であり続けた石原慎太郎が大派閥の頭にはなれなかった所以である。
 元総理とプーチンの交渉過程を適菜は揶揄するが、何もしないでツッパって200年すれば領土が返るか、そんなことはありえないので散々交渉のテーブルに引き込んだ。あの時点で一月にトランプ・プーチン両大統領と面会できた首脳は元総理ただ一人であった。
 大陸・北の国・現戦争当事国という核武装した危険な国家に取り囲まれている我が国の安全のために同盟していることをポチだの何のとオチョクルのもいかがなものか。このご時世にあの憲法でいいと言えるのか。安保法制は時代の流れなのにその成立過程にイチャモンをつける。それでは護憲を訴える左派なのかオマエは、と言われると『そもそも左翼とは』とトリモチのようなクドい説明をする始末。

 確かに元総理はお坊ちゃん育ちであり、時々キレては物議を醸していた。思い余って『一切』とか『必ず』という言葉をはさんでしまう。私なぞはやや危ないところはあるが、好ましい部分だと思った。
 一方で政治は流動的で、相手もあり身内の都合でその通りにならないことも多い。実社会とはそういうもので、従ってトップに立つということの難しさは頭が良けりゃ務まるものではないのである。
 それを、ガリ勉根性丸出しで実に丁寧に発言を俯瞰してはウソつき呼ばわりするのは片手落ちというものではないのか。モリ・カケの問題について、特にモリの方は相手の悪質さと佐川局長の見苦しさはそうだが元総理は本当に知らなかったのだからガタガタ言われる筋合いではない。
 ついでに言えば、カケ関連で前県知事の加戸証言『安倍総理にあらぬ濡れ衣がかけられているので、なんとか晴らすことができるお役に立てるからと思ったからでございます』を意図的に報道しなかった偏向マスコミを棚に上げておいて、言論弾圧をしたという話にどうしてなるのか。適菜は好き放題書いてもお咎めなしにもかかわらず、である。

 あれ、元総理の右派からの批判を検証しようとしていたのに変な本を読んでバカなブログになってしまった。適菜収はニーチェの研究をしていなさい、お箸の持ち方はわかったから。

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