Sonar Members Club No.36

カテゴリー: 本歌取り

一人ぼっちの世界とライク・ア・ローリング・ストーン 

2014 AUG 31 12:12:46 pm by 西 牟呂雄

 全く物凄い邦題だ。どこにも「一人ぼっちの世界」という言葉が入っていないローリング・ストーンズの『Get off my cloud』。今回2014年の来日時でも一度オープニングで使っていたそうだが、いかにもストーンズらしいノリの曲だ。ステージからクネクネ踊るミック・ジャガーが観客を煽るように歌いかけるリフレインの所、
I said,
Hey! you! get off of my cloud
ヘイ ユー 行さらせ
Hey! you! get off of my cloud
ヘイ ユー 消えさらせ
Hey! you! get off of my cloud
ヘイ ユー どきさらせ
Don’t hang around
ウロウロ すんな
Cause two’s a crowd on my cloud, baby
邪魔なんじゃ ベイベェ

クリックして下さい。
これがどうして『一人ぼっちの世界』みたいな哀愁を帯びた題名に訳されたのか。ガキの分際でこれを聞いた僕は、多分女に振られて絶望的になった孤独なオニーチャンの歌なんだろうなと思った。しかし例によって歌詞の方は意味も何もない。
I live in an apartment
on the ninety-ninth floor of my block (わしゃノー、高層の部屋に一人住んどんじゃー)
And I sit at home
looking out the window       
Imagining the world has stopped   (時間が止まったように窓の外、見とった)
Then in flies a guy
whos all dressed up like a union jack  (突然 アホな恰好のバカが飛び込んで)
And says,
I’ve won five pounds
if I have his kind of detergent pack   (この粉5ポンドで買ってくれだと)

どうにもならない歌だが、どこでやっても客は大受けだ。この曲は1965年にリリースされた。

 ところが同じ年にボブ・ディランの『ライク・ア・ローリングストーン』というこれまた初期の名曲が出ている。正確にはこちらの方が二か月くらい先らしい。
 日本にはほぼ同時に入り、僕は『一人ぼっちの世界』の方を先に聞いていた。無論痺れる。その後『ライク・ア・・・』が耳に入るのだが、歌い方のガシャガシャ感と歌詞の字余り感がオーバー・ラップした。
 当時はディランはアコースティック一本とブルース・ハープだけでやっていたし、英語の意味も何も分からないもんだから、リフの所は『ローリング・ストーンズみたいに』と言っているのかと思った。

 実際、ストーンズがステージでこれをやっている映像があって、そのノリは素晴らしい。特に『How does it feel ?』とやるともうエグいの何の。
 更に、デイランとストーンズが一緒にやっている映像も残されている。どうもリオデジャネイロでのステージの
ようだ。このときもディランは全く表情を変えていない。ストーンズの方はミックやあの愛想の悪いキースまでニコニコしているのが映っているのに。

 クリックして見て下さい。
 聞いているうちに、この歌詞を『一人ぼっちの世界』に乗せて歌ってみたらどうだろうか、という発想が湧いた。

Once upon a time,You dressed so fine   
You threw the bums a dime In your prime Didn’t you ?   
People’d call, say”Beware doll, you’re bound to fall”   
You thought they were all kiddin’ you   
(原曲はここからコード進行が変わるが無視)
You used to laugh about
Everybody that was hangin’ out   
Now you don’t talk so loud. Now you don’t seem so proud   
About having to be scrounging For your next meal
(かなり早口になるがここまで4フレーズで歌ってリフに繋ぐ)   
リフレイン
How does it feel ?   (Hey You get off mu cloud)
How does it feel ?   (Hey You get off mu cloud)
To be without a home (Hey You get off mu cloud)
Like a complete unknown (Don’t hang around)
Like a rolling stone (Cause two’s a crowd on my cloud)

 自分でもやってみたが、相当早口になって噛んでしまうができないことはない。ストーンズのライブで『一人ぼっちの世界』のイントロが始まった途端、突如ギターを抱えたディランが現れ、『ライク・ア・・・』の歌詞で歌いだす。
二番からはミックが『一人ぼっち・・』を歌う。どうだろうか。スベったら世紀のマヌケだが。

ノーベル文学賞 ボブ・ディランは喜んでいるか

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さよならローリング・ストーンズ ダイスをころがせ(Tumbling Dice)

2014 MAR 9 14:14:47 pm by 西 牟呂雄

東京ドームが終わって、8年ぶりに来日したストーンズが帰国した。僕は今回は行かなかったが、知り合いで4日と6日の二回見に行ったバカもいる。これは半分うらやましいのだが、そのバカは10万円くらい使ったんじゃないだろうか。何しろミック・ジャガーが単独で来た時はわざわざダフ屋から10倍くらいの金を払ってまで行った奴だから。で、聞くところによれば相変わらず走るし跳ねるし、あんなに暴れる70歳はいないんじゃないかとのことだった。ご贔屓のJumping Jack Flashは6日のオープニングだったそうだ。

ストーンズのインチキ訳詩を書いてみているが、個人的には「ダイスを転がせ(Tumbling   Dice)」という題名がどういう訳か気に入っている。それも邦題の方。これはわが国固有の壷振り博打とチンチロリンの伝統があるから、何となく心の琴線に触れるからだと勝手に解釈している。これが「カードをシャッフル」ではノリが悪く、「牌をかき混ぜろ」とか「銀玉をはじけ」或いは「車券を買に行け」ではグローバル性に欠ける。やはり「ダイスを転がせ」だ。それでいつもの無理矢理翻訳をやってみると、

Woo Yea

Women think I’m tasty, but they’re always tryin’ to waste me
来る日も来る日も      出たとこ勝負で

And make me burn the candle right down
今まで来たけれど

But baby, baby, don’t need no jewels in my crown
バット, ベイビー, ベイビー, 後悔してるから

‘Cause all you women is low down gamblers   Cheatin’ like I don’t know how
止まらぬ性分    終わらぬ勝負    過ぎ行く毎日

But baby, I go crazy, there’s fever in the funk house now
バット・ベイビー, アイ・ゴー・クレイジー, もうやめにするよ

This low down bitchin’ got my poor feet a-itchin’  You know you know the deuce is still wild
仕事も探す          ネクタイ締める      朝早く起きる

Baby, can’t stay        You got to roll me and call me the tumblin’ dice
ベイビー, カーント・ステイ  狂わせる   丁半勝負

Always in a hurry, I never stop to worry   Don’t you see the time flashin’ by
お金も入れる     お酒も止める       遊びも止めるから

Honey, got no money, I’m all sixes and sevens and nines
ホニー, ゴット・ノー・モニー, 本気だこのオレは

Say now, baby, I’m the rank outsider    You can be my partner in crime
怒っちゃだめだ    行かないでくれ      オレを捨てないで

Baby, can’t stay
ベイビー, カーント・ステイ

You got to roll me and call me the tumblin’
狂わせる          丁半(勝負)

Roll me and call me the tumblin’ dice
狂わせる          丁半勝負

(間奏)

Oh my my my, I’m the lone crap shooter    Playin’ the field every night
オー・マ・マ・麻雀    競輪    競馬    カードに   パチンコ

Baby, can’t stay
ベイビー, カーント・ステイ

You got to roll me and call me the tumblin’
狂わせる          オーラス・(リーチ)

Roll me and call me the tumblin’ dice
狂わせる          最終レース

狂わせる    狂わせる   狂わせる

(リンシャンカイホウ フル・ハウス  万馬券  ジャン打ち・・・・)

この歌はそうポピュラーじゃないかも知れないが、なかなかいい曲で僕は好きだった。

 ともあれ8年ぶりの来日が彼らの70台だから、さすがにもう日本には来ないだろう。やっぱり見に行くべきだったかな。80台のストーンズを70台の僕がみてもなぁ。

ローリング・ストーンズがやってきた! ジャンピング・ジャック・フラッシュ 歌詞(Jumping Jack Flash)

一人ぼっちの世界とライク・ア・ローリング・ストーン 

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ローリング・ストーンズがやってきた! ジャンピング・ジャック・フラッシュ 歌詞(Jumping Jack Flash)

2014 FEB 25 11:11:20 am by 西 牟呂雄

悪魔的なコード進行とベースの絡みが聞こえてくるだけで胸躍る、そこにエイト・ビートが刻まれて・・・。誰でも耳にしたことがあるだろう大ヒット、しかしそもそもジャンピング・ジャック・フラッシュとは一体どういう意味なのか。ローリング・ストーンズのライヴでは、しばしばオープニングで演奏される、彼等のお気に入りなことでも知られている。

Jumping Jack Flash。Jackという名前はJack in the box とか Jack the Ripper というように英語圏の人にとっては何か象徴的な名前なのじゃないか。日本で言えば、太郎冠者や名無しの権兵衛のように、どこかの誰、程度のものと考えて良かろう。ちなみにJumping Jack単独では”操り人形”という訳がつけられ、歌詞を検索してみるとそれを使ったライナーや、Flashに掛けた稲妻野郎といった凄い訳があったりする。

だが、僕が思うにこの頃のストーンズがそんなに色々と考えて歌詞を書いたとは思えないのだ。多分ギター・リフだけを思いついて、スタジオでジャカジャカやっているうちに適当な歌詞を乗っけただけなのかとも想像している。何しろ当時のストーンズは『赤いドアを黒く塗ってやる』とか『何をやっても満足できない』という歌ばかりやってたのだから。同時期のビートルズが『愛』を歌いあげ、その後『平和』を歌詞に盛り込んだのに比べて、嬉しくなる程のアナーキーというか下品というか。ジャンピング・ジャック・フラッシュは単にノリのいい掛け声で、意味なんかない。こんな感じだ。

I was born in a cross-fire hurricane

コノヤロー   オレは育ちが悪いんだー
And I howled at my ma in the driving rain,

バカヤロー  何か文句があるのかヨー

But it’s all right, now In fact, it’s a gas!

上ー 等ー だー  やるのかよ
But it’s all right. I’m Jumpin’ Jack Flash,

上ー 等ー  跳んでやる
It’s a gas! Gas! Gas!

タイマン だー

 

こうなるともうメチャクチャで、以下2・3番に関してはいちいち合わせなくとも『てめー、いいかげんにしろ、ドタマカチ割るぞ、クソババア、死にさらせ、だからどうした、ウルセー、血の雨降らすぞ』という言葉を繋げるだけで十分かと思われる。一応歌詞だけは書いて置くが。

I was raised by a toothless, bearded hag,
I was schooled with a strap right across my back,
But it’s all right, now In fact, it’s a gas!
But it’s all right,  I’m Jumpin’ Jack Flash,
It’s a gas! Gas! Gas!

(間奏)

I was drowned, I was washed up and left for dead.
I fell down to my feet and I saw they bled.
I frowned at the crumbs of a crust of bread.
I was crowned with a spike right thru’ my head

いかがです。ところで、このアホ曲にもちゃんとカヴァーする人がいて、最もポピュラーなのは百万ドルのギタリスト、ジョニー・ウィンターのやつだと思う。この人はメチャクチャ早弾きしつつ、よせばいいのにガラガラ声でヴォーカルもやる。恐らくわがまま過ぎてバンドとしてメンバーが組めないから何でも自分でやらざるを得なくなったのだろう。僕はこの人のステージを見たことがある、それもニューヨークのマジソン・スクェア・ガーデンでだ。そのときは弟のキーボード奏者エドガー・ウィンターと組んでいた。あのプロレスの殿堂のマジソン・スクェア・ガーデンですぞ!

この旅は学生時代の夏休みで行ったのだが、思えば危ないことだらけだった。何も決めずに行ってしまったため、サン・フランシスコに着いた日から宿の心配をしなければならず、しばらくは観光もヘチマもユニオン・スクエアの周りでハンバーガーばかり食べていた。もちろん英語なんかも怪しいもので、ビクビクしながら過ごしたが、これでは何もせずに帰国になると一念発起、グレイハウンド・バスで大陸横断しニューヨークに行くことにした。乗り放題(こういうのは大抵足が出る)の切符を買ってまず南に向かい、知っている名前の街行き(ニュー・オリンズとかセント・ルイス)にのってみた。ところが途中、乗客の中におかしな薬でも草でもやったのか暴れだした奴がパトカーに連行されたり、エアコンが効きすぎて風邪を引きかけたり。矢沢栄吉のトラベリング・バスという歌があるが、クタクタになるのはその通りで、明け方に目的地に着くとフラフラと安ホテルを探した。大体グレイ・ハウンドのターミナルはダウンタウンにあったから、ホテルといっても今から考えると連れ込みだったんじゃないか、というくらい安かった。それでもかっこいい黒人青年と知り合ったり、きれいなオネーチャンと話したり(ただしこの人は日本を知らなかったが)無事ニューヨークにたどりつき、そこはマンハッタンだから高級ホテルのウォルドロフ・アストリア、が見える三流ホテルに泊まった。そこでマジソンの催し物に気がついたのだ。

しかしその頃のバリバリ・ロックコンサートは、何故かどこからともなくヤバい匂いのクサが回ってきて、誰彼かまわず思いっきり吸い込んでいた。隣のオニーチャンが僕を見て『ストーン?』と聞くのだが、どうも『効いた?』という意味のようで、実はぜんぜん効かなかった。ともあれ、ジョニー・ウィンターのジャンピング・ジャック・フラッシュは聞けた。ハンチングを被っていたので何だと思ったのだが、アンコールで脱いだら当時既に禿げていた。

この話もう一つオチがある。一週間後に大好きなプロレスの興行があって(当時WWWFといった)人気絶頂のブルーノ・サンマルチノが出る、もう見たくて見たくてしょうがなかったが、僕の学校は二期制なので中間試験が迫っていた。大体アメリカをほっつき歩いて準備も何もなかったのだが、これで受けなければ留年確実のため、有り金はたいて直行便で帰りましたとさ(まだ羽田だった)。そして羽田に着いたら物凄い報道陣がいてビックリした。実はこの時、ミグをかっぱらって函館に逃げてきたソ連のベレンコ中尉がアメリカに亡命するために出国する日だったのだ。そういえばニューヨークで、ソ連のミグが日本に攻めてきたという噂を耳にしたが、当時の会話能力では何のことか分からなかったのだ。高飛びですな、ジャンピング・ジャック・フラッシュ。

タイム・イズ・オン・マイ・サイド 歌詞取り

ホンキー・トンク・ウィメン 歌詞取り 埼玉にて

さよならローリング・ストーンズ ダイスをころがせ(Tumbling Dice)

一人ぼっちの世界とライク・ア・ローリング・ストーン 


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ノー・ウーマン  ノー・クライ (No Woman, No Cry)

2014 JAN 3 10:10:04 am by 西 牟呂雄

 ボブ・マーレイのレゲェの名曲であるが、この歌詞を和訳するとしたら一体どういう言葉が適切なのか。実は昔から(仲間内で)意見が分かれている。それに沿って、ある出鱈目な話をでっち上げてみたことがある。

『泣かない女はいない。』

 ジャマイカから密入国してフロリダに一家で落ち着いた時、オレは15歳だった。誰も英語は話せないから貧乏どころの騒ぎじゃない。一年もしないうちにオヤジは若い女とどこかへ消えちまって、お袋はもう働きづめに働いたが、オレと二人の弟は学校にも行けなかった。何しろ不法移民なんだから。毎日クタクタになってパンを買って帰るお袋には本当に頭が下がるが、オレのせいじゃない。当然ワルになっちまうわけだし廻りもロクな奴らは一人としていなかった。差しさわりがあるから詳しく言えないが、後ろ暗い金をお袋に渡した時には涙を浮かべていた。長いこと泣いてから搾り出すように言った言葉が忘れられない。「泣かない女はいない(No  woman ,  No Cry)。」

『だめだ、女!泣くな!』

 フロリダはタンパの街の中でショッピング・モールを歩いていた。するとおもちゃ売り場で一人の白人の女の子が泣いている。あまり周りに人がいない、親はどこに行ったんだ。何か話しかけてやりたいのだがオレはまだロクに英語が喋れない。かわいそうに。エート女の子は・・・、ウーマンしか思い浮かばない。思わず口を突いて出たのは「だめだ、女、泣くな!(No!  Woman!  No  Cry!)。」

『おんながいない?泣くこたーないぜ。』

 弟のカルロスはオレ以上のワルになっちまった。ガンも持ち歩くしクスリも捌く。おまけに女癖も悪い。オレより小さい年からアメリカだから英語の上達も早かった。最近のお気に入りはサリーというどうやらインド系の女だ。ついに警察に厄介になってしまった。オレが迎えに行った時、オフィサーは憎しみに燃えた目で言った。「そのうちムショにぶち込んで日の目を見られなくしてやる。」オレは震え上がったがカルロスは平気だった。ウチに帰ってまた泣いていたお袋に事のあらましを話したら、例によって大泣きになって訴えた。「カルロス!お前がムショに入るなんて!ママはまた泣くだろうし、お前もサリーに会えなくなるんだよ!」だがカルロスは全く応えない。ヘラヘラしながらせせら笑った。「女がいない?泣くこたーないぜ(No woman?   No  Cry!).」

 念のために申し添えるが、歌詞の内容からこの歌では『だめだ、女!泣くな!』が正しいことは言うまでもない。三つの台詞は初めが『, 』次が『!』最後は『?』でつないで訳の連想を引き出したつもりなのだが、あれ?本歌はなんだったっけ。新年そうそうバカなことを書いてしまった。

  追伸 この歌の本歌取りで最高傑作はネーネーズのもので、そのユニゾンには脱帽であることを明記しておきます。

ノー・ウーマン ノー・クライ Joan Baez(ジョーン・バエズ)

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶー翻訳の味ー


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ホンキー・トンク・ウィメン 歌詞取り 埼玉にて

2013 DEC 11 15:15:33 pm by 西 牟呂雄

埼玉北辺の工場の周りは人口密度は極めて低く、みんな広い庭のある家に住んでいる。どこでも犬を飼っており、ダン、ミルク、シナモン、ライガ、ジョンといった立派な名前が付いていて犬地図ができるくらいだった。しかし、あまりに犬が多いので依怙贔屓するわけにもいかず、普段は犬派の僕だがその頃は住処にしていたプチ高原ホテルにウロついていたノラ猫をかわいがっていた。ウララちゃんの牧場の先だ。黒ブチに白い口元のブサイクな猫だったが、勝手に「シナシナ」と名前を付けていた。恐らくどこかの飼い猫だったのだろう、人には慣れているようで、時々酒のつまみのチーズをやったりしていたが、暫くしていなくなってしまった。

社員には近所の大地主の息子とか、歩いて通ってくる奥さんとかいう人がいた。近所といっても名字が同じ家が何軒もあったりして、伝統的な集落が形成されていたことが分る。そして何故かこういう田舎の家には物が物凄く散らかしてあるのだ。機械だったり、部品だったり、何かの壊れた家具も積んである。捨てるのも面倒だからかも知れないが、ちょっと油断するとゴミ屋敷に成りかねない。田舎の人はモノを捨てないのだろうか。近所づきあいではないが、会社の悪口を言い触らされてはかなわないので、挨拶をしたりして何人かとは仲良くするようになった。タクシー屋のおっさんとその弟とは地域の相談をしたりするので、メシを食いましょうや、となったのだが。この兄弟ガタイも恰幅よく、ガラは悪く、なかなか楽しかった。食事をした後フラフラと街(といっても暗い田舎町)をうろついていると、車がスーッと寄ってきて中から「なんとかチャーン。」と声が掛かり、見るとオバハンがこっちを見ている。要するに兄貴の方の知り合いの飲み屋のオバハンで、これから開けるから店に来い、という成り行きになったようだ。それから3人で行ったのだが、しかし飲み屋に出勤するのに車って・・・。そして着いたところは人の家のような所で、ガラガラガラっと玄関を開け電気を付けたらゴキヅリがガサガサ逃げるのが見えた。コッチは十分酒が入っている、ガラも悪い(僕も)。それからの会話は「オイ、ババア焼酎よこせ。」「ババアとは何よ。そこにまだあるだろー。」「バカヤロー、そっちの奴にしろってんだ。」という会話がズーッと飛び交う地獄のような飲み会になっていった。途中地元の常連らしいカップルが来たが、直ぐ帰ってしまった。少し後からヘルプというかバイトというかもう一人化け物みたいなネエちゃんがカウンターに入る。カラオケを振られたので、ヤケになってローリング・ストーンズの替え歌をやったら受けた。あのドラム・イントロのホンキー・トンク・ウィメンだが、妙に覚えている。

I met a gin soaked, bar-room queen in Memphis

ここは埼玉 秩父の麓
She tried to take me upstairs for a ride

田圃の中の 工場勤め
I had to heave her right across to my shoulder

流~れ着いて 半年 経った
I could not seem to drink you off my mind

しけ~たホテルが オイラの寝ぐらさ

It’s the honky tonk, honky tonk women

ほ~~ん気の ネェちゃん
Gimme, gimme, gimme the honky tonk blues

くれ~ くれ~ くれ~焼酎オン・ザ・ロック

Strollin’ on the boulevards of Paris

夜に なれば 怪しい 店が開く
As naked as the day that I will die

バケモン みてえな ババアが はべる
The sailors they’re so charming there in Paris

下手に 構えば 地獄に 一直線
But they just don’t seem to sail you off my mind
こわーいもんだよ ババアの深情け
It’s the honky tonk, honky tonk women

ほ~~ん気の ネェちゃん
Gimme, gimme, gimme the honky tonk blues
くれ~ くれ~ くれ~焼酎オン・ザ・ロック

 画像はレアなハンブル・パイ。聞きながらどうぞ。

恥ずかしい話だがもう一曲、以前ブログで書いたが、工場に蛇が出たことに掛けてディープパープルの名曲スモーク・オン・ザ・ウオーターの替え歌、スネーク・イン・ザ・フアクトリーもやったのだが、あまりにバカらしくてここに記すことはできない。

それはさておき、この製造所の運営は今日の縮図のようなところがあり、『製造現場血風録 (火災勃発)』以降は同様の製造設備を東南アジア某国に設置し直しており、又、需要家も既に大半がそちらの方への移転が済んでいた。即ち日常的に国際競争に晒されているため、常にプロセスの開発、新品種の開発を続けざるを得ない。僕が所長として年柄年中モノを除却し無駄な仕掛かりを捨てていたのも、イザというときにスペースを確保したいからだった。更に、何かあったらまた使おう、という構えでいると急の場合に除却損が大きく出ることも避けたかったからだ。円が安くなって少しは楽になっているといいが。

一方、従業員も社員以外にパート・タイマー(タイム・スタッフと言うそうだが)派遣社員、シニアのおじいちゃんと多彩であった。新しいプロセスに移行する際には、時には職場を変ってもらう、もっとあからさまには辞めて頂かなければ廻らない。『また忙しくなったら来てもらうから。』と言い、実際事情が変った時には優先的な声掛けもしたのだが、実は当時のリピート率はあまり高くなかった、特に若い女性はダメだった。増産のための休日出勤から低稼働による生産休止まで、ドタバタしながら新米製造所長は二年で風と共に去って行った。

僕は仕事が変った後は前職に一切関わらないのを信条にしている。一つは後輩達に迷惑をかけたくないから。もう一つは『昔はこうだった。』といった感想が自分の中に沸き上がるのがいやだからだ。まだまだ老け込んでたまるか。でも懐かしいなぁ。

空っ風 一望駆ける武蔵野の

巻き上げる 埃 てのひらに当たる

埼玉水滸伝 (埼玉の木枯らし)

埼玉水滸伝 (埼玉のウララちゃん)

春夏秋冬不思議譚 (同時進行の不可思議)

一人ぼっちの世界とライク・ア・ローリング・ストーン 


 
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