Sonar Members Club No.36

Since July 2013

オレ 地球

2023 AUG 24 0:00:20 am by 西 牟呂雄

 オレ、地球。右肩あたりの台風が過ぎ去って、東アジアエリアで酷い熱い風が吹いたらしい。無理もない。オレ、最近機嫌悪いんだ。
 ジパングというあたりでは『観測史上最大』『数十年に一度』などと騒いでいるようだが、聞かされている方も飽きてきたろう。化石燃料の大量使用だとか牛のゲップとかバカな理屈をひねり出しているようだがチャンチャラおかしいね。
 そりゃ極地の氷が溶けたり環境に適応できずに絶滅する種もあるだろう。だがオレの知っている限りどうってことない。人間が破壊した環境の影響なんかしれたもの。
 環境活動家がツベコベ言っているがあんなものはウソだ。小賢しい正義感を振りまわしているが、奴らは何も分かっちゃいない。その証拠に今時また懲りずに戦争を始めて見せたじゃないか。オレは静かに見守ることをしてきたつもりだったが、ここらで少し怒って見せなければならないと決めた。
 オレが少し怒っただけでこの異常気象だ。もうすぐ火山活動も活発になる。地震だって起きるさ。多くの命は失われるだろう。命と言ったところで、オレにとっては象だろうが人間だろうが魚・虫けら・微生物に至るまですべて同じこと。更に多少はモノを考えるだろう人間にしてもオレの意思などわかるはずはない。オレの怒りは人間の言う一見『平和』な場所にしか災害を起こさない。すなわち、北米・西ヨーロッパ・東アジア・オーストラリアといった場所だ。オレは慈悲深い。普段あまり死から遠い暮らしをしているところ、そういうところは妙にムズ痒いので、おできができるように火山は噴火し、引っ搔くように地震が起き、熱を帯びるために異常気象となる。まだまだあるぞ。特にジパングでは東海大地震に富士山大噴火も覚悟しておけ。
 そのエリアの連中は早く気が付けよ。あと50年のすればオレはしばらく休むんだ。50年程度の先も読めない連中に言っても無駄だがオレが休むと数百年ぶりに氷河期が来るんだよ。作物は取れなくなり動物も数を減らし、食い物が半分になる。今から個体の数を調整しないと苦しむことになるのが分からんのかね。
 この間兄弟の金星や火星と話したが、生き物がいないあいつらは別に怒ることもないので安らかな暮らしだそうだ。オレだって生き物は恐竜の昔からいたけれど昔はのんびりしたものだった。そう、人間がやたらと増えてから怒ったり休んだりするようになったんだ。
 人間ども、せいぜい戦争でもやるがいい。お前ら少し目障りだ。

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喜寿庵にて 田舎暮らしパラダイス

2023 AUG 13 0:00:53 am by 西 牟呂雄

 この暑いさ中に草刈りに精を出す。不毛の飛び地990㎡の伸び放題に伸びた草刈りだ。喜寿庵は崖の上だが、この飛び地は山裾。周りは昔ながらの農村と言っていいだろう。要するにザ・田舎である。
 ザ・田舎とは、単に景観の問題ではない。或いは住民のファッションとか方言の問題でもない。都会と田舎でいい人悪い人の分布が違うはずはなく、旅人に対しては下町より田舎の方が親切かも知れないのだ。
 ザ・田舎は強固な地縁・血縁のネット・ワークが張り巡らされ、何よりも安定を維持するシステムが確立している。そこに、見たこともない、それもちょっと風変わりな雰囲気の男が青いツナギを着込んでシトロエンから降り立つとどうなるか。

仲良しのお爺ちゃんの畑

ステップ Ⅰ

 まず、ジロジロと見られる。
 2~3人が何やらこっちを見てヒソヒソ話す。 
 道を隔てたところに畑があって、そこでよく耕運機を押しているおじいさんと仲良しになった。自分の畑は四反八畝(よんたんはっせ)で、実際に何かを栽培しているのは葉物がチョコっとだけ。だが、何もしないと我が飛び地のようになって農地認定がどうとかだから、一生懸命掘り返している。五反百姓という言い方があって、五反百姓出ず入らず(ごたんびゃくしょうでずいらず)、という使い方をする。一家が年貢を納めたのちに借金もせず暮らせる損益分岐点が私有農地5反の広さだ、という意味で、そのおじいさんはそのレベルなのだろう。若い頃は勤めに出ていて、辞めた後のんびーりとやっているようだ。お子さん二人は埼玉と東京の郊外に出てしまった。もう耳がずいぶんと遠い。
 多少の世間話から僕のことが伝わっていく。

ステップ Ⅱ

 マウントを取りに来た。
 後に気づいたのだが、ザ・田舎には地域カーストのような序列があるようで、仲良しのおじいさんのカーストは低めらしい。その上位に当たる、言ってみればそのエリアのボスのようなおっちゃんが話しかけてきた。おじいさんに対してはものすごく乱暴な物言いをしていたので分かった。
『ニシさんってのはあんたかい』
『はい、そうです』
『あ~、ここはアンタが跡をとったんか』
『はい。伯父がもう面倒だからおまえがやれ、と言い出しまして』
 この当時はまだ僕も敬語を使っていた。
『オレの親父がナントカをやっていてそれを継いだんだ』
 だの、昔はここでドーシタ・コーシタという自慢話とも何とも言えない話が延々と続く。アホらしくて無視したが、丁寧に対応したつもりだ。
 去年あたりからそれが段々エラソーになってきて、僕の草の刈り方が気に入らないらしく、もっと根元からやれ、とかそんな草刈り機じゃダメだ、とか言いだした。
 そして終いには遠縁に当たるような話もし出すのだが、何度聞いてもどういう筋で僕と繋がるのかはさっぱり要領を得ない。その時点では僕もいい加減な返事をするようになった。
『ウチは親戚ズラ』
『聞いてねーよ(実際オヤジに確認しても知らない、とのことだった)』
『いや、書いたモンがある』
『別のそんなの見たくもない』
 と言った具合だ。

ステップ Ⅲ

 攻撃的になる。
 初期のマウントに失敗して、この頃はイチャモンにも拍車がかかっている。
『オレ達が補助金もらって刈るのに、刈る前と刈った後の写真を見せてちゃんと根までやってないと怒られるダヨ』
『オッチャン補助金貰ってやってんのか』
『そうだよ。3反もやるダヨ』
『で、ここは私有地だけど誰がオレに怒りに来るんだ』

 こんな感じでやっていたら、直近はまた現れて草刈りに文句を言ってから突然言い出した。
『あの木切ってくれよ』
『なんでさ』
『雪が降ったりして重みで倒れたら通る車に当たって危ないズラ』
『誰がそんな心配してるんだ』
『みんなだよ』
『雪で折れる?そんなことあるわけがない』
『そんなことない。大雪の時にゃダレトカのガレージが潰れた』
『わかったわかった。この木はガレージじゃないし、そのうち鋸でやってみるわ』
『鋸じゃダーメなんだよ』
『斧でも持ってきてやるのかい。そんなもん持ってない』
 ははぁ、おっちゃん補助金で草刈りやってるって言ってたな。頼まれたらオレから金をせびろうという魂胆だろう。お前に金なんか払うわけないだろ。
 田舎暮らしに興味を持ってうっかり移住なぞしてしまった者はこの辺で嫌気がさすか、仕方なく何某かの金銭で手を打つのだろうが、僕はそんなにヤワじゃない。それこそ村八分にされようが痛くも痒くもない。第一、この飛び地そのものが喜寿庵から数キロ離れていて近所でもなんでもないのだ。
 仲良しのおじいさんに聞いてみた。
『なんだってあのおっちゃんはエラソーに威張るんだい』
『ありゃータチだね』
 成程、それなりに嫌われているじゃないか。面白くなってきた。
 次はどの手で来るか楽しみだ。そもそも僕はオレオレ詐欺とか縄張り争いには滅法強い。
 こうなったらザ・田舎をトコトン味わってやる。

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『ドロ沼』VS『蟻地獄』 パ・リーグ最弱対決

2023 AUG 6 16:16:27 pm by 西 牟呂雄

 優勝など不可能。C・Sも覚束ない。ダントツ最下位をひた走るファイターズを応援するモチベーションはただ一つ。宿敵ホークスに全力で戦うことだけだ。
 一昨年まではまだC・Sを狙って苦手ホークスは負けてもいいからピッチャーを温存しろ、と(テレパシーで)栗山監督に指示したものだった。だが、バカ・ボスになってからはそれどころじゃない。しかも不愉快なことに有原と近藤の2枚看板がホークスに行った。代わりに松田が来ていれば僕の不快感もここまでヒート・アップしなかっただろう。
 そしてこの暑い最中、今週・来週と2週に渡りエスコンフィールド並びにPAYPAYドームでホークスと6試合戦う。
 ほかに楽しみが無くなった僕は、この6戦を密かに『架空日本シリーズ』とし、斎戒沐浴し酒を控え秘策を練り、フォースを放って戦う決心をしたのだった。ホークスから来てくれた田中正義で抑え込んでやる。
 ご案内の通り、ホークスは『ドロ沼』と中島(影の)オーナーが嘆いた12連敗したばかり。ところが我がファイターズはそれを上回る13連敗とお付き合いしたものだからドロ沼どころか『蟻地獄』である。
 その後お互い連敗は止まったとは言え、ファイターズは情けないことこの上ない。ロッテ相手に連勝をしたものの、守備の酷さは見ちゃいられない。サードに回ってオッ少しは練習に身が入ったのかと思わせた清宮は、8月2日のロッテ戦では何でもないフライをグラブに当てたのちに落球した。お前5年目のプロだろうが。そしてバカ・ボスはそんな清宮を翌日も使う。なぜ二軍に落とさない。たまーにホームランを打つだけでチャンスにカラッキシで守備があれ。ド下手キャッチャーの清水と疫病神の中継ぎ杉浦は二軍に追っ払ったではないか。

 まずは初戦、エース(というほどの成績ではないが)上沢がいきなり柳田に一発浴びた。なんだこれは。とにかく柳田はウチとやると打率は5割。
 清宮がサードでマルチネスがベンチ!違うだろ。サードが野村でファーズトにマルチネスだ、バカヤロウ。
 相手先発は苦手の東浜だったが、打線が食らいついて3点取った。するとすかさず藤本監督は武田に代える。うーん、藤本監督うまいなぁ、ここから一気に試合の流れが淡々として来る。これは投手の層が薄い我が軍に不利だ。
 エラーが出れば負けの緊張の中、7回とうとう清宮が何でもないサード・ゴロを弾いた。バカ!死ね!こいつはその前にも捕れるはずの打球を逃している。これが引き金となって伏見も捕逸。柳町に逆転された。
 しかし次の回、代わった藤井から奈良間が2塁打。それを送った後に郡司が藤井のフォークを捌いて同点。三森のエラーで逆転のチャンスに清宮だ。僕は『マルチネスに代えろ』とフォースを送った。
 この試合最大の山場にバカ・ボスは私を無視し、清宮はフライを上げてダブル・プレーとなった・・・。
 延長戦にまでもつれ、11回の裏。四球のランナー五十畑が盗塁し、申告敬遠の後、江越。この回の構えはここまで全てバントでとうとう成功させると加藤にも申告敬遠である。満塁となってついにマルティネスが登場。サヨナラ!
フォースがここで効いた!

 いかんいかん!これではバカ・ボスの采配の勝利になってしまう。
 慎重な僕は翌日のオーダーを観てガックリ来た。マルティネスをキャッチャーにしたのは当然だが3番サードで清宮をまた使った。
 守備は相変わらずダメだな。清宮が絡まなくてもダブル・プレーまがいが取れない。初回に二度もだ。これで簡単に先制された。
 相手は相性最悪の大関。アッ!清宮が一発を放った!普通のファンは喜ぶだろうが、ひねくれた僕はイヤな予感に包まれた。
 するとやっぱりやりました、奈良間だが。チーム68個目のエラー。リーグぶっちぎりの記録である。
 アッ野村も一発。わぁッ更に二打席連続!これは何だ!それどころか苦手の大関をメッタ打ちして4点をもぎ取る。それに比例してイヤな予感は増すばかり。
 ところがさすがにホークスは甘くない。次の回に3点返されて伊藤は引きずり降ろされた、ふぅー。試合は面白いが心臓に悪い展開が続く。返す刀で二番手の立野に襲い掛かりあの近藤に一発を食らって8-6と逆転された。さらに宮西がボカスカ打たれてジ・エンド。やっぱりね、清宮がホームランを打つと負けるのである・・・。

 第三戦。3回表。満塁で柳田。打ち取ったはずが奈良間のドアホの悪送球からポンセの押し出し、という草野球並の失点を見てしばらく失神した。
 5回に目が覚めると何でもないサード・ゴロを清宮が悪送球した。チーム・メイトはどう思うのだろう。情けない。その裏はノー・アウト満塁から1点も取れない。スクイズくらいやったらどうなんだ!これで完全に流れを失って、バカヅラのロドリゲスが今宮に一発を喰う。
 後はとても見ちゃいられない。バカ・ボスも試合を投げたような無気力な表情で、ファンをなめているにも程がある。石川は3点も失った。さらにふざけたことに最終回には懲罰のつもりかまた立野を投げさせた。

 新庄!来週このカードで負け越したらクビじゃすまないからな!

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陰謀論大好き Ⅲ アメリカの悪意

2023 AUG 1 0:00:40 am by 西 牟呂雄

 2022年5月での発言は以下の通りだった。
『チェック・アンド・バランスの欠如が生じて、一人の男が全く不当で残忍なイラク侵略を開始することになった』
 ジョージ・ブッシュ元大統領の発言である。ネオコンに操られてありもしない大量破壊兵器を口実に戦端を開いたことへの深い反省かと思ったら、さにあらず。一人の男はプーチンを指しており、特別軍事作戦が始まった後にこれを批判する演説だったとか。すぐに気が付いて『ウクライナというところをイラクと言ってしまった』と訂正したというオチがついている。
 いちいち説明するのも面倒だが、私はロシアがおっ始めたドンパチで多大な損害を被っており、プーチンの侵略は言語道断の立場だ。筆者のブログを読んで『こいつは親ロシアだ』と誤解するバカがあとを絶たない。
 だがディープ・ステートでも何でもいいが、その狡猾さはどっちもどっちとまではいかないものの、かなり怪しい。
 アメリカのシンク・タンクとしてしばしば報道に登場する『戦争研究所』の名前は記憶に新しいだろう。実はここはかのネオ・コンの巣窟なのだ。かつては共和党にベッタリだったネオ・コンは、今やバイデン大統領を担いで煽りにあおっている感が拭えない。
 更にEUを飛び出した英国は、007の伝統を受け継ぐ情報大国の冷静さを全く失ったかに見えるほど好戦的だ。このアングロサクソン系両国にとって、実は戦争がこのまま継続するのが都合が良い、とさえ見える。ロシアが国力をすり減らし、ともすればエネルギーを軸にロシアに接近しそうなドイツを苦しめることができているではないか。
 ところが、初期の首都奪還失敗により出鼻をくじかれルーブルが大暴落したロシアは、その後制裁を受けながらも目下のところ為替は盛り返し、後に安定した。世ゆ界の人口1位と2位の国が制裁も非難もしないでロシア産の石油をガバガバ買い戦争経済を支えてしまっているからだ。甚だしきはダントツの産油国であるサウジでさえ、その安さにひかれて輸入し始めている。
 因みに筆者は目下インドで食っているのだが、その設備投資意欲はバブルのようだ。鉄鋼生産の例でいえば各社倍増の計画でもうすぐ日本を抜く。
 但し、中国はコロナ対策の痛手はまだ残っており、不動産投資の低迷と地方政府の財政破綻は不気味なレベルになっている。

 反転攻勢の作戦開始から数ケ月経つが、ロシア軍はしぶとい。そうなると双方勝ち切れないまま戦争が続き、どちらかが疲れ果てていいかげんいやになるまで終らない。どちらか、とはロシアVS英米なのだ。
 更に筆者のシギントでは、ロシア嫌いのポーランドから数千名の義勇兵がウクライナ軍と共に戦っているとも聞く。ポーランドは1999年以来のNATO加盟国であり、万が一にもにもロシアのミサイルが着弾したら全面戦争の可能性すらある。
 ヤバいことに、ベラルーシ入りしたワグネルが北西部のスバウキ・コリドーに接近している。100km先がロシアの飛び地、カリーニングラードである。何を考えているのか。

 御年100才のキッシンジャーが何故か北京に飛んで習近平からオベンチャラを言われている。本当はアメリカは思い通りに戦争設計ができなくて困っているのか。当面の主敵とまで定めた中国に秋波を送っているのだとすれば、アメリカは疲れ始めたのか。
 一方ミサイルの発射を繰り返す北の国に戦時下の国防大臣が訪問する。日本はこれらの核保有3か国に取り囲まれている。
 大陸も半島も北方も力の行使にためらいがないとすれば、腹を据えなければなるまい。せっかく南の新大統領が親日派なのだから、ここは一つ、南・日本・台湾で強固な同盟を結んでおいた方が良くはないか。当面の対米従属は戦略的に正しいが、アメリカの手のひら返しはある程度想定していなければならないからだ。
 しかし、実はそれは政治家の仕事ではない。政治家は時に現実を見て妥協するのが持ち味なのだ。むしろ民間、もっと言えば情報機関やら秘密結社のような水面下でダイナミックに動けるオーガニゼーションの仕事だろう。いよいよSMC(シークレット・メソッド・センター)の出番かもしれない。

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レイモンド君 ヨットに乗る

2023 JUL 22 8:08:06 am by 西 牟呂雄

 喜寿庵にいたらレイモンド君親子とバッタリ会った。ヒョッコリ先生はいない。レイモンド君は大きな浮き輪を持っている。桂川にでも行くのかな。
『やあ、レイモンド君』
『オハヨゴジャマス』
『どうも、息子がいつもお世話になってます』
『大きくなりましたね。夏休みで帰国中ですか』
『はい。今度はひと月ほどこっちです。だけど暑いですねぇ。普段はロンドン暮らしなんで堪えますよ』
『いやこれは異常ですよ。雨も多いし』
『オニワデアソブ』
『あっ、ごめんね。おじさんこれから海に行くんだ』
 喜寿庵は山の中だが東富士五湖道路が御殿場まで通ったおかげで東名へのアクセスが良くなり、下田でも三浦でも東京から行くより空いてて早い。山梨県は神奈川県の隣だ。
『レイモンドモウミニイク』
『えっ、おじさんはヨットに乗るんだよ』
『こいつはまだ海を見たことがないんですよ』

面舵一杯 

 
 結局この親子と一緒に車で油壷に来た。なぜか初めから水着に子供用のライフ・ジャケットだったのは川遊びのためなんだろうが、ハメられた感がしないでもない。
 喜寿庵ではしばしば不思議なことが起きるので、まぁいいか。
 道中お父さんと話していたら、今のロンドン勤務はあと5年くらい続きそうだ、ヒョッコリ先生も年を取って来てガタがき出したので、レイモンド君をイギリスに連れて行くことにした、と聞いた。フーン、そりゃそうだろう。会えなくなるのはとても寂しいがこの子のためにはその方が良かろう。
 次に会うのは・・・、えっ5年先?ムムッ。

 でもって我が愛艇の甲板にチョコンと座ると、それなりの様になっているではないか。
 出航前でオトナが忙しくしている脇でチョロチョロしては『コレナーニ』と聞いたり、キャビンに降りて『オフネガオウチニナルノ』などと珍しそうにしていた。
 そうかと思うと浮桟橋をパタパタ走って行くので危なくてしょうがない。お父さんは必死につかまえては叱っていた。さてようやく出航。
 海は初めてだと聞いたが、まだ水への恐怖感がないのだろう、湾を出ると風は15ノットくらいのいい南風で、うねりも大きい。ピッチングで大きくかしいでも『ウィー』とか『キャー』とか言ってちっとも怖がらない。
 幼児スイミングを習わせたそうだが、船酔いもしない。

お父さんと

『ほーら、海って広いだろ。向こうが見えないだろ』
と指さした向こうに富士山がうっすら見えて慌てた。ここからは伊豆半島越しに富士が見えるのだった
 チビがいるからセールは上げないで、湾内に戻ってアンカーを打った。クルーの一人は早速飛び込んだ。
『オヨグ』
『へぇー。レイモンド君、海に入りたいの』
『ハイル』
 お父さんが船尾から降りて後からそうっと抱っこできるように海に漬けた。
『キャア』

ドヤ顔

 確かにライジャケで浮いている。
 だが万が一を考えて浮き輪に乗せてやると、この通りのドヤ顔だ。
 ただし、湾内は潮の流れがキツく、ほったらかすとすぐに流されてしまうので交代で浮き輪を捕まえた。
 一緒に波間に浮いているとかつてこんなことを考えていたことを思い出した。

この海が教えてくれた 波間に揺られて


 この時から既に6年も経ったのだ。年を取ってからの時間はまるで飛ぶようで、まさにアッと言う間。そして何一つ事態は改善されず完結しない。
 そのうちに一巻の終わりかと思うと、寂しいというよりそんなもんかなという境地だ。
 考えてみれば様々な偶然と、何人もの赤の他人の好意でレイモンド君はこの海原を漂っている。

オフネノオウチ

 キミが成人した時に、この記憶は残っていないかもしれないし、そうなると僕の事も忘れているだろう。僕がこの子の年に祖父が早死にしているが、爺様のことは全く記憶にないのだ。
 待てよ、僕の最も古い記憶と言えば・・・・。
『モウオウチカエル』
 ハッと我に返った。今ちょっと危ないところだったな、気が飛んでいた、レイモンド君ありがとう。
 ロンドンに行っても元気でね。僕の事は忘れてもいいや。

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この世の境目

2023 JUL 16 6:06:24 am by 西 牟呂雄

 先日、親族が天寿を全うした。パーキンソンを患い、最後は認知症になってしまったそうだ。これは悲しいことでその人にはもう会えないのだが、最後に会っても話はできなかったのだろう。後何年もか生きれば苦痛が続いたことは想像に難くない。そんな苦労をして生きなければならないのか、違うだろう。
 
 コロナが収まった途端に葬儀が立て続けにあった。
 一人は無宗教の家族葬。もう一人は上記の方で敬虔なクリスチャンのため教会葬である。
 僕の家は浄土真宗で、菩提寺での葬儀も法事も何度も経験しているが、葬儀はこちらも動転しているのでお経も講話も覚えていないし、法事になると退屈だもんだから住職に『短めでお願いします』などと不届きなことを頼んでいる(もう何代もやってる間柄だし)。第一お経なんか何を言ってるのかわからない。
 因みに母方は神道で、神主がお経の代わりに祝詞を唱える。そもそも葬式とは言わずに葬場祭(そうじょうさい)というお祭りだ。焼香はしないので、代わりに玉串奉奠(たまぐしほうてん)をする。大抵神主がテープで雅楽を流しながらナントカの儀という手順で進め、確か途中で照明を落とし真っ暗にした。御霊が身体から抜けるのだと聞いてそれなりにしみじみしたものだった。
 無宗教は親友だったブログ仲間の故中村順一君のときもそうで、個人の好きだった音楽を流していた。上記家族葬の時はナントカ讃歌という寮歌をかけて、OBたちは多少口ずさんでいた。

 そして教会葬は直近のことでもあり、感慨深いものだった。美しい讃美歌は知っているメロディーなので唱和できた。その後に聖書を読むのだがそれに衝撃を受けた。
だから、わたしたちは落胆しません。たとえわたしたちの「外なる人」は衰えていくとしても、わたしたちの「内なる人」は日々新たにされていきます。私たちの一時の軽い艱難は、くらべものにならないほど重みのある永遠の栄光をもたらしてくれます。わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものはすぎさりますが、見えないものは永遠に存続するからです。ーコリント人への第二の手紙4章16節から18節ー』
 僕はクリスチャンじゃないので宗教的な解釈はできない。だが、そもそも葬儀は残された者のためであり、亡くなった人を偲ぶセレモニー。悲しくもないのが義理掛けで大勢来るのはいかがなものかと思っている。
 上記、聖書からの引用は信仰者でなくとも腑に落ちる警句であり、尚且つ送る側が同じ教義を固く信ずる場合は、どんなに悲しみをやわらげ、遺族を慰めることだろう。
 まっ、そうは言っても今更洗礼を受けてどうこうするつもりもない。フト自分が死んだ後の葬儀を想像してしまったが、クセの強い我が親族と少数のタチの悪い仲間が、ガンガン酒を飲みながら私の悪口を言ってはゲラゲラ笑っている光景が浮かんできてウンザリさせられたからである。

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ラジャと僕と

2023 JUL 8 15:15:27 pm by 西 牟呂雄

 一週間インド人(以前訪日した金持ち一家とは別のオッサン一人)を連れて九州の工場に行った。技術指導の一環である。
 インドは目下大変な好景気で、設備投資意欲も強い。もうすぐ粗鋼生産量は日本を抜いて2億トンに迫る勢いである。日系企業も積極的な姿勢を打ち出していて今後益々交流は盛んになることだろう。
 原爆を保有し、原子力空母を運用し、IT先進国であり、世界一の人口がある。多少の理解が進んだところで、それはインドの一面にしかすぎないとてつもない国である。
 さて、そのオッサン、僕たちはコード・ネームの『ラジャ』と呼ぶことにした。ヒンドゥー語で王様という意味である。頭髪は薄くほぼスキンヘッドで背は高い(175位)。ヒンドゥー教徒でベジタリアンだが、彼の流派は卵はダメだがチーズはいいらしい。毎日ベジタリアン・レストランを探すのも大変なのでコンビニ飯で済ませたのだが、ご飯にヨーグルトをかけて持参のソースをトッピング、グチャグチャにかき混ぜて食べていた。僕はカップ・ラーメンを買ったが、見ていて食欲が失せた。酒は全く飲まない。
 そして朝起きたとき、額の真ん中(仏様のほくろがあるあたり)に白粉のようなモノでチョンとマークを付けて来る。他のヒンドゥーがやっているのは見たことがないので、これも彼の流派のしきたりなんだろう。
 彼の英語がまた恐ろしく分かりにくい。カタカナで表すとRは『ル』Lは『ウ』に聞こえる感じ。おまけにコクニィもまじっていてエイトが『アイト』。それを早口で喋られるとサッパリとは言わないが40%くらいだろうか、分かるのは。
 知識を身に着けようとする姿勢は強く、製造現場に行きたがる。そして安全に対する感覚がまるで違う。勿論、最初に安全教育をしているのだが、夢中になると動画を撮りにスタスタ近づいてしまい作業者の手前困った。
 そもそもインドの現場を見る限り全体がそんな感じで、事故が起きると日本では警察が入るだの労働基準局に報告だのと大騒ぎになるが、インドではたとえ死亡事故でも大したことにはなっていない。ヒンドゥー教徒は生まれ変わると信じているからなのか。

 ある日の午後、毎日座学と現場ばかりなのでサイト・シーイングに行こうと誘ったら嬉しそうに乗って来た。明後日には帰国してしまうのにお土産くらいは買いたかったのだろう。娘さんが二人いるそうだ。
 ここは小倉である。実は大して観光名所はない。繁華街といってもラジャは酒も飲まないし、食事もご案内の通り。それで小倉城に行った。
 小倉城は関ケ原以後、細川忠興が来てから本格的な城郭になり、江戸期は礼法宗家小笠原家の居城だった。ところが幕末のドン詰まりで長州征伐の際に高杉晋作の部隊に負けてケチがついた。九州では肥後熊本とともに佐幕派とされ、ややないがしろにされた感が残る。
 天守閣は天保年間に焼失しているのを再建している。見栄えはそれなりの構えで、維新の歴史を知る者としては、その後の陸軍の駐屯地にされた経緯も含めしみじみと眺めるに値する。
 ところが、天守閣内の展示はいささか残念な感がぬぐえない。最期に焼けたせいなのか小笠原家の展示物はあまりなく、ややコスプレめいたコーナーやマネキンには興ざめする。

説明版の前のラジャと僕

 それが初訪日どころか生まれて初めて海外に出たラジャには大受けした。
 テンションは上がり、大はしゃぎで写真を撮りまくり、しきりに質問を浴びせる。
 僕は大名のことを『ビッグ・ネーム・マハラジャ』維新戦争のことを『シビル・ウォー・エンペラー・ヴァーサス・タイクーン』と訳した。まぁ、たいして違わないだろうし通じたようだ。
 天守を降りて、八坂神社の方に歩いていくと馬頭観音があり、そこでまたひと騒ぎ。お地蔵さんのような石像が並んでいたのを見て『これは何か』と尋ねてきた。『ホース・ヘッド・ブッダ』だとテキトーに訳すと、多神教のヒンウゥーに通じるらしく写真を撮った。確かにインドにはこんな感じで辻々に像の頭をした神様が祭ってあったのを思い出して『ジャパニーズ・ガネーシャ』だと言うと、『オーウッ』と感動していた。実際には象頭の神様は日本では聖天様(しょうてんさま)として信仰されており馬頭観音とは何の関係もない。こうしてインチキな翻訳で文化的誤解が生じたらマズいかな。
 そのテンションのままお土産屋に入って、小さいカラフルな達磨のお守りを手に取ってみる。『それはチャイナで有名になったインディアン・ブディストでダルマーという人だ』と説明したら大喜びで色の数だけ買った。こんなチャチなモンが嬉しいのかねぇ。
 ところが、そのお土産屋でも天守閣でも、写真のような作業服姿の前期高齢者とインド人がはしゃいでいるのは明らかに浮いていた。案内の人の方が、この珍しいコンビを見て笑っているではないか・・・。
 ラジャは週末ニコニコしながら帰って行った。その後インドからは毎日質問のメールが来ている。

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こんなこと言っておいて・・・

2023 JUL 1 0:00:48 am by 西 牟呂雄

『発展は、精神的、道徳的な価値に基づいた文明の対話の中で行われなければならない。文明によって人間やその本質に対する理解は異なるものだ。そしてすべての文明が人間の至高の尊厳と精神的本質を認めている』
『伝統的な価値観は、すべて守らなければならない固定的なものではないが、新自由主義といった価値観とは異なり特定の社会の伝統、文化歴史の経験に由来して、いずれもユニークなものである』
『ジェンダーやゲイ・パレードといったファッションを国民・社会に導入するのは構わない。ただし他人に同じことを要求する権利はない』
 成程と唸らせる発言だ。
 翻って、最近SMCの投稿で検証されているように、敗戦以来ペシャンコにするシステムを構築してもゾンビのように
蘇ってくるジャパンという化け物を、繊維交渉・鉄鋼貿易・半導体輸出にいちいちイチャモンをつけ、グローバル・スタンダードをゴリ押しして護送船団方式を潰し、新自由主義を導入させたアメリカに対する警句としては秀逸な論考と思う。最近のLGBT法案の茶番もまたしかり。
 ところで冒頭の発言は誰のものか。驚くべきことに日本人の右翼ではない。昨年の10月にモスクワで開催された通称『ヴァルダイ会議』でのプーチン大統領の講演なのだ。
 ウクライナ戦争下で、ブラジル・アフガニスタン・中国・エジプト・フランス・ドイツ・インド・インドネシア・イラン・カザフスタン・ウズベクスタン・南ア・トルコ、さらには米国の民間人も参加した会議だった。
 それなりの論理的な話をすることのできる指導者が、何の大義も見いだせないムチャな戦争をしかけるという国際関係の不可解さに唖然とせざるを得ない。自分は戦争を始めておいてどうかと思われる発言だ。
 私はあの侵攻を支持するものではないことを強調しておかねばなるまい。ロシアからの帰国者の話を元に一般的なロシア人の感じているところをブログに書いたところ、まるで筆者が戦争支持者のような誤解を受けて攻撃を受けたからだ。バカバカしい。
 開戦から15ヶ月。双方の思惑通りに行かない最中にワグネル騒ぎという不確定要素が勃発した。これに関するインテリジェンスは筆者の手元にまだない。
 2014年、クリミアを占領した頃にロシアの事業パートナは『何でそんなことをするんだ』と怒っていたが『だけど支持率は高いし選挙では圧勝するではないか。どうしてロシア人はプーチンに投票するのか』と聞いた。帰って来た答えは『オレ達はソ連崩壊の時にドン底に落ちた。それをここまで戻してくれたのがプーチンだ。それにあの程度の悪い奴に投票しておかなければもっと、物凄く悪い奴が出てくるに違いない』と開き直られた。なるほどワグネル騒動を見てこういう輩のことを言っていたのかと妙に納得した。
 しかしながら、1年以上の戦闘が続くと、ズーッと戦争が続くことが居心地のいい輩が透けて見えてくる。まずはアメリカ。自国の兵士は血を流さなくて対立軸であるロシアの国力を消耗させることが可能になり、面倒な中国問題に集中できる。ブリンケンはチャイナで何を話したのか。侵攻以前のウクライナにおけるネオコン一派の露骨な活動が既に明るみになって来ている。
 そして中国。この事態にアメリカがどこまでコミットするのかじっくりと見極めているだろう。そして虎視眈々と日本を取り込むべく触手を伸ばしてくるはずだ。ターゲットはハニー・トラップにかかったとの噂もある林外務大臣。一方でロシアをサポートするフリをしつつ一帯一路の構築にいそしんで稼ぐ。
 ただし、訪露して習近平が高らかに謳った『制限のない友好』について、肌感覚としていささか疑ってかかっている。他に頼りになる相手がいないからさすがのプーチンもヘーコラしてみせたが、アッチラ大王やジンギスカンの恐ろしさをロシア人は忘れない。黒竜江沿いの国境線に中国人は2億人、ロシア人は800万人。竹槍で来られてもロシアは防衛できっこない。ロシアは自ら中国の軍門には下らないはずだ。

 さてさて、この悲劇を一刻も早く終わらせたいと思っていないのはどこの誰だ。筆者の考えでは単純な一国の悪意ではなかろう。何かグローバルなオーガニゼーションなのか。陰謀だー!!

プーチン・プッツン

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チャットGPTは楽し Ⅱ

2023 JUN 24 23:23:27 pm by 西 牟呂雄

 散々遊んでみると、このおもちゃを使う楽しみが増える。
 『もしも織田信長が本能寺で死ななかったら、どういう手で生き延びてその後の歴史はどうなったか』と聞くと、それなりのオハナシがズラズラと出てきていつもの出鱈目なブログ並の文章が出てくる。それに対して『明智光秀は実は直後に疾走して天海僧正に化けたとしたら生き残った織田信長は政権を維持できたでしょうか』と追加すると、これまたテキトーな文章が出てくる。更にどうこうとやり続けると『私は人工知能ですので云々』などとなる。面白いでしょう。
 それでハタと気付いたのだが、こういう手法を使って出来上がった文章はの著作権は誰のものだろうか。同じ発想をした別の人が同じことをしたらほぼ同じ文章になり、その人が発表して著作権を持ったとしても、私がその人の著作権について異議を申し立て、仮に裁判沙汰になったとする。そして『実はこの作品は』とバラして『ホレ見ろ、いまここでやっても同じ文章が出るじゃないか』とやったら、オロジナルでないことがバレて赤っ恥なのは勿論のこと、その人は裁判に負けてしまうのではなかろうか。
 実際、この手の人工知能の進化は物凄いスピードらしいから、新成分による合金の発明とか新薬の開発は誰がやっても同じ結果をもたらし、特許をとれないという事態になりはしないか。

 そう思ってこれまた打ち込んでみると意外なことがわかった。文章で言えば大規模言語モデル、画像では画像生成AIが、打ち込まれたプロンプトに対し次に来る最も適切な単語の最も頻度の高いものを予想する、画像ならばどのような絵が何色で書かれた頻度が高いかを選ぶ、ということのようだ。
 アメルカではAIによって打ち出された漫画を著作権として登録したところ登録されたが、間抜けにも作者が作成の過程を言いふらして炎上し、著作権局から取り消されることが起きた。また、大学の先生が著作権を持つプログラムがAIで生成されてしまうことを発見して問題となった。
 わが国では、となるとこれが拍子抜けなのだが、データ・マイニングの権利制限規定というのがあって、必要な範囲で他人の著作物を無断で利用できることになっていた。どうやら辞書を造るとか顔認証システムといった情報解析のためにコンピューターを使用することを考慮しての規定らしい。その勢いでAIに機械学習をさせるためならばネットだろうが書籍だろうが入力および複製しても著作権法上では問題にならない。
 でもって、上記のインチキ小説の場合、AIが自律的に作ったものには著作権は存在せず、作者のプロンプトが作者(この場合私)によって創造的に加工されたものに限り有り得る、となるらしい。実際にはそんな訴訟そのものがまだ無いのでわからない、ということか。

 いずれにせよ、チャットGPTなるものは今後なくてはならないモノになるに決まっているから、訴訟の大好きなアメリカでは大変なことになって弁護士は大儲け請け合い。日本はそんなバカなことにならないように使い方のスキルを磨きあげましょう。でも上記事情により、訴訟リスクは低いみたいだ。

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シン・本能寺

2023 JUN 17 16:16:37 pm by 西 牟呂雄

 その日信長は御所に参内し正親町天皇に拝謁賜ることになっていたが、前日に寂光院本因坊と鹿塩利賢の囲碁に夢中になり、日の変わる時間まで観戦していた。昂る気持ちを抑えるためである。
 天皇に拝謁する名誉のために興奮したのかと思いきや、むしろその逆。こちらの無理難題にどう答えるのか、無論天皇の権威を軽んずるつもりはないものの、取り繕おうとする公家共の不安と緊張を想像すると暗い笑いがこみ上げてきて、囲碁の観戦ののちも眠れなかった。
 一つは暦の統一、すなわち公に使われている土御門流の京暦ではなく、三島大社が頒布する三島暦に変えろ、と迫っていた。さらに厄介なのは、今日まで無冠であるため何がしかの沙汰が下るはずであるが、事前に内意を打診されても全く答えていない。かつて征夷大将軍を求めたところ、源氏でないがゆえに拒否された。それを逆手にとってのいやがらせで以後いかなる冠位も拒絶し、朝廷は真意を測りかねていた。太政大臣か関白なら受けるのか、いずれも蹴飛ばして朝廷の顔に泥を塗るか、今日の振る舞いにかかっていた。
 夜が明け始めた六月二日。明智光秀率いる1万3千の精鋭が本能寺を包囲した。魔王の名を欲しいままにしていた信長の運命は49歳にして潰えたのである。自身の好む幸若舞の50年の直前であった。

 京の町は本能寺周辺及び長男信忠がいた二条御所の周りは火炎と逃げ惑う人々で騒然とした。ただそこ以外は御所も上京の町もシンと静まりかえるだけだった。この辺りは幾多の覇者が君臨しては滅び去っていくのを見続けている。正親町天皇の心中は計り知れぬものの、堂上公家や街衆の鈍い悪意が京の都全体を覆っているのであった。
『今度のモノノフも案外脆うおしたな』と。
 元亀四年、足利義昭が挙兵した際に信長はこれを鎮圧する際に都を焼き払う、と申しつけた。それはかなわん、と街衆の宿老達は上洛してきた信長に銀を献上して許しを請うた。二条より北の上京は銀1300枚、下の京は800枚を献上した。ところが信長は公家・幕臣・大商人のいた上の京が信長を軽んじていたとして銀没収のうえ上京は焼き払い、下の京は何もせず銀も受け取らなかった。この段階で京の人々は何とも小面憎い田舎者よと信長を毛嫌いし、従ってこの日の変においても、とうとうやられたか、ところで明智様はまだましかいな、の冷笑である。
 何しろ今日に至っても『戦前・戦後』のいくさは応仁の乱を指す土地柄である。権力者の栄枯盛衰などいかほどもない。ただお上と都が続くだけで事足りる人々なのだ。

 ところが討ち入った光秀は焦りに焦っていた。信長の首も遺体も出ないのだ。まさかあの業火を逃れ包囲を潜り抜けたのではあるまいな。それを思うと気が狂いそうな衝動に身が焼かれる。
『まだか、もっとよく探せー!』 
 声を振り絞っていたところに、一人の男が訪ねてきた。吉田兼見、旧知の下級公家だ。というより信長にすりよって覚えめでたく公家にしてもらった吉田神社の宮司である。信長の比叡山焼き討ちの際にこの男に天罰があるのかと尋ねたり、前述の上京焼き払いの際にも将軍足利義昭の評判を尋ねると、いずれも信長の喜びそうなオベンチャラを吹き込んでいた。曾祖父が唱えた本地垂迹(ほんじすいじゃく)を逆にしただけの吉田神道の後継者だが、正親町天皇の嫡男、誠仁(さねひと)親王の側近として仕えていた。細川幽斎の従兄弟でもある。
 実は、信長と同時に襲われた嫡男の信忠は妙覚寺にいたが、守り切れぬと悟ると親王のいた二条新御所に逃れ、そこで腹を切っている。すなわち信忠の最期を見届けたのだ。
 その兼見、様子見にやってきたことはあからさまで『おめでとうございます』と切り出されて光秀は鼻白む。首実検もできていないのにめでたいもあったものではない。銀50枚をくれてやり追い返した。こういう男は何を言いふらすかわからないので銀だけは惜しげもなくくれてやった。ところがこれが悪い癖になった。
 信長の遺体は結局みつからないまま、光秀は信長の居城である安土城にいた。するとそこにまたノコノコと兼見が訪ねてくる。今度はお上へのご用立てと称して朝廷に献上するための銀500枚を貰い受け帰った。
  このことはなぜか世人の知るところとなり、後に兼見は津田越前入道なる怪しげな人物に強請られている。

 時に利あらず、光秀は中国大返しで疾風のごとく舞い戻った秀吉の軍門に下った。信長の息子達は何人もいるがどれも器にあらず。宿老筆頭柴田は主君の仇討ちができなかった。丹羽長秀も遅れをとり、滝川一益は遠く関東に。天下人に最も近いのは秀吉となった。
 某日、秀吉は吉田兼見を呼び出している。
 二人だけで小声で話しているうちに、突然秀吉の表情が変わった。猿面とまで言われた異相が憤怒の表情になるととても正面から見ることはできないほどの恐ろしさ、兼見はひたすら頭を垂れるのみである。すると秀吉はついに大音声を発した。
『この大たわけが!ワシが知らんとでも思っておるのかー!』
『・・・もっ・・申し訳ございません』     
 飛び上がらんばかりに顔色を変えた兼見は額を畳に擦り付けて平身低頭する。すると秀吉は立ち上がって寄って行き、耳元に何かささやくと奥に引っ込んでしまった。
『へへ~~!』
 そしてこの男、自分の分としてもらい受けていた銀50枚を秀吉に献上するのである。

 以上は史実である。このこと、変につき朝廷および秀吉が何らかの情報を握っていたことの傍証にならないか・・・。
 更に、例の『時は今、雨が下知る五月かな』を光秀がら引きずり出した『愛宕(あたご)百韻』の宗匠を務めた里村紹巴も怪しい。
 この人は豊臣秀次の事件にも連座しかけたりと色々危ない人物で、秀吉も疑ったフシがあるそうだ。しかし・・・、実際には呼び出して対座した際の会話は残されていない。例えばこういうのはどうか。
『紹巴よ、よくぞ明智の心胆見抜いてくれた。おかげでお屋形様の仇討ちができたわい』
『恐れ入りまする。さてこの紹巴、一介の連歌師にていささかふところの方が・・・』
『おぬしもワルじゃのう。フッフッフ、いきなり羽振りがよくなってはあからさまじゃ。銀50枚でよしとせい』
『ハッハー。あり難き幸せ』
 

本能寺の変 以後

本能寺の変 以後

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