Sonar Members Club No.36

Since July 2013

インド再び

2023 OCT 8 13:13:13 pm by 西 牟呂雄

 ロシアに対する制裁どころか、非難決議にも加わらない。クアッドに加わりつつも中国とも対話する。我が道を進むインドは目下順調な経済成長を遂げている。鉄鋼生産はもうすぐ日本を抜き去り、近いうちに2倍の能力を持つだろう。
 無論宗教・人権・格差といった問題は山積しているが、そもそもインドは矛盾の塊なのだ。個別の問題にガタガタ言い出してはインドとは付き合えない。重層的な文化の蓄積と現実とのギャップ、同じ空間に最先端と原始的伝統が自然に共存する姿は、仮に全く先入観がなくとも一歩踏み込んだだけですぐ分かる。
 高度にゲジタル化されたシステムはあるが、それを使う人間の非効率さ・時間間隔の無さは救いがたい。近代的な外観のハイテク・ビルの横にゴミの山。経済成長にインフラが追い付かず、信号のない交差点の渋滞は殺人的ですらある。救急車が渋滞にハマって立往生していた。
 今回の滞在中に隣の州と水争いが起こり、工場が一日止まった。9月は雨期の始まりなのだが、今年は夏の雨が極端に少なくて、ダムの放水を中止したところ、下流の都市が水不足に陥ったので政治問題化した結果だ。以前に滞在した時にも同じことが起こり、その時は下流のチェンナイ市で暴動が起きたため、それを阻止しようと州境に古タイヤを並べて火をつけて防御していた。滞在したカタルーナカ州と下流にあたるタミルナドゥ州は昔から中が悪く、言葉まで違う(カンナダ語とタミル語)。この両州の水利問題を調整したのは今から百年以上前の統治者であるイギリスで、成文化しているのかどうか知らないが、その時の両州のマハラジャが結んだコントラクトが準拠法だと聞いたのだが、本当かね。

ゴチャゴチャ

 さて9月末に降り立った南インドの高原都市は日本よりはるかに涼しく、夜はエアコンいらずの過ごし易さだった。そして8日間ホテル暮らしをしたので、その住環境をお伝えしたい。
 場所は中心部から車で2時間程の、まあ田舎町である。ただし前述の殺人的渋滞の2時間だから距離的には30kmくらいだが、幹線道路の両側は十分に田舎だ。
 一歩踏み入れるとご覧のようなスラムではないもののゴチャゴチャな村で、道端にはやせて飢え死に寸前の子犬がいる。犬はそこら中に繋がれもしないでウロウロしていて、人間から離れないから野犬ではないのだろうが飼い主がいるのかどうか。

ノラ

 工業団地にも群れがたむろしていた。
 ところが、我が工場に繋がれて従業員から愛されていた犬、ソニーは訪問直前に死んでしまった。
 パートナーたちはそれを悲しみ、火葬にしてやっていたが犬の社会的な地位は非常に低いため大変奇異な感じがした。
 犬にとってはどうでもいいことだろうに。さらにパートナー氏はその辺にノラには何の憐憫の情を示さない。まぁそれぞれ独特のルールがあるのだろう。

 さて、そのゴチャゴチャの街の一角のゲートで仕切られたところにホテルはある。
 一見洒落た感じのたたずまいの入り口で、フロントを通ると芝生の中庭、そこを通って3階建ての客室棟、禁煙の表示の部屋には灰皿があった。
 片田舎のホテルにしてはまずまずの住環境と言える。
 ただし、メシは頂けない。
 朝はおじやみたいなドロドロのスープがカレー味だったり甘かったり。それにオムレツなんかをトッピングして後はトースト。夜はかろうじてチキンくらいが食べられるが、他に何やらメニューにあった物を食べる根性はなかった。

 かといって、外にあるレストランはこの恐ろしさで、中を覗いてみると大きな鍋にドボドボ油を注いで何かを揚げているのだが、その何かは原型をとどめていない塊である。しかもこいつらは本来ヴェジタリアンのはずだが、このレベルの連中はかなり怪しく、そこらの野犬の肉かもしれないと想像するととても食指がわかない。旅人が珍しがって食べてひっくり返ったら迷惑千判だから遠慮した。

 その隣には屋台というかホッタテ小屋の露店でココナッツの実を売っている。見ているとこのオッサンが青龍刀のような野蛮な大鉈でガシガシガシッと叩き割り、真ん中あたりのジュースをストローで吸う。問題はそのストローで、誰かが使ったかもしれないものを洗いもしないで使うのだ。
 日本では新たなコロナが拡がっていると言うのに、こいつらはこんな暮らしをしていても『もう患者はいない。オーバーだ』というが信じられる訳がない。調べなくなったに違いない。

 そもそもこのオヤジが売っているヤシの実にしてから、ヤシの木はそこら中に生えていてご覧の『落ちて来るココナッツに注意』という看板がかかっている。こいつが大きな農園のオーナーなはずはないので、その辺に落ちてたヤシの実を売っているのはミエミエだ。
 しかし仮に仕入れがタダでも恐ろしく生産性の低い商売に違いなく、このオッサンもこのジュースだけで生計をたてているのではあるまい。だがそこに厳然とカーーストが張り巡らされ、このジュース売りはエリアを独占している。従ってオッサンはオッサンである種の誇りを持ち、時間を持て余しつつ毎日を過ごしている(多分)。
 そもそも、大部分の個人が『形而上』の思考で様々な営みを捉えているから、何百もあるという宗教だのカーストだのといった複雑な社会が成り立つのであって、我々からすれば奇怪な社会がかろうじて成立している。かのエマニュエル・トッドはここ南インドの家族制度を、親は子に対し権威的であり、子供の教育に熱心、女性の地位は高いとし、カースト制度と親和性が高いと考察した。繰り返しになるがインドは一つの国とか民族という概念には納まらない。
 それはそれで、日本人の僕はここでは一体何者なんだろう、インドの一角で時間が僕を通り過ぎていくのをジワリと感じながら涼しいベッドで眠った。

こっちを見てる

 翌日、ニワトリだのガチョウだかのけたたましい鳴き声で目が醒める。涼しい。どれ、散歩でも。と中庭に降りた。
 すると奥の方には只ならぬ気配がして足を進めた。
 子供用のプールなども整備され、リゾート気分が漂うが、ここの水で泳げるのは外国人ではなかろう。
 と、遠くからの視線。乳牛がいるではないか。ノラではない。
 更に奥の方ではホルスタインではない水牛みたいな白い親子がじゃれあっている。ホテルに牛!!

オッパイ欲しい

 なかなかワイルドな趣だが、きのうまで楽しんだ朝食のココナッツ・ミルクはやめた。あの牛と落ちたヤシの実じゃ・・・。
 やはり僕はヒンドゥー教徒にもインド人にもなれそうもない。
 だがそれは彼らも同じ。日本人にはなれない。それでも仲良くはできる。
 原色の花があざやかだった。

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坂の上の霧

2023 OCT 1 0:00:15 am by 西 牟呂雄

 司馬遼太郎の『坂の上の雲』は明治日本の勃興を正岡子規と秋山兄弟を軸に描いた名作である。
 秋山兄弟は二人とも華があるので、物語を一層引き立てたのだが、明治期は二度の対外戦争があったこともあり、同じように兄弟で戦った人材は多いはずだ。
 そう思って調べてみたらやはりいた。こちらは陸軍の田村3兄弟。

田村守衛

 上記坂の上の雲で、日露戦争の激戦である黒溝台の会戦の描写がある。数万の敵中に孤立する秋山好古の元に総司令部からただ一騎でやってきた参謀がいた。様子を尋ねる騎兵中佐に好古は「見てのとおり、無事だ」と答える。この一騎の中佐参謀は騎兵科で好古の後輩に当たる田村守衛中佐であった。
 この人は陸士(新)5期、陸大は首席で卒業した秀才で、大正時代に陸大校長となった陸軍少将(没後中将)なのだが、長兄は田村怡与造というやはり陸軍中将だ。

田村 怡与造

 怡与造は学制の整う前の私塾で学び、明治の学制施行後にいきなり小学校の校長となった経歴の持ち主で、その後に陸士(旧2期)に進んだ。更に普仏戦争によって軍制がフランス式からドイツ式に変わるタイミングでドイツに留学し、帰国後参謀本部にて『野外要務令』『兵站勤務令』の策定に多大な功績を残した。クラウゼヴィッツの『戦争論』の翻訳を旧知の森鴎外に勧めたのも怡与造である。
 日清戦争でははじめは大本営の兵站参謀、後に第一軍参謀副長として指導に当たった。切れ者として有名で実務能力も高かったため、出身地の山梨にちなんで『今信玄』と称されたことが『坂の上の雲』にも記述がある。ドイツ駐在武官を経て、いよいよロシアとの関係がヤバくなってくると参謀本部次長として作戦立案に勤しむが、あまりの激務に開戦前年に死去してしまった。
 怡与造が長男で守衛は確か四男と記憶するが、その間の3男沖之甫も陸士(旧10期)陸大(13期)を卒業し砲兵科を歩んでいる。日露戦争においては火力を充実させた第四軍の砲兵参謀として従軍。戦後は陸軍砲工学校長・中将に昇進した。
 田村家は武蔵七党をルーツに持つ家で、兄弟の父義事は神職をしながら養蚕に功績があった人。更には刀工・一徳斎助則として刀剣を鍛えたとある。多彩と言うか不思議な系譜の一族と言えよう。
 思うに勃興する明治とは地方の草莽に埋もれていた宝石のような人材が、ごくごく真面目に支えた国家であり、どの辺境にもこの田村家のような物語はあるであろう。

田村義富

 そしてその行きついたところはどこかと言えば、田村家にもオチがある。兄弟のなかで唯一実業の道に進んだ次男、濤二郎の息子、田村義富は伯父・叔父達の後を追うように幼年学校・陸士・陸大と軍エリートの道を進む。陸大は恩賜組という優秀な人材だった。
 このジェネレーションは当然のように先の大戦に巻きこまれる。真珠湾前の昭和13年には 北支那方面軍参謀として大陸に派遣され、開戦直前には大佐となって悪名高き関東軍の参謀であった。最後は終戦時に南方戦線第31軍参謀長の陸軍少将であり、任地グアムの激戦中に戦死する。グアムではその作戦能力と胆力で『カミソリ参謀』と称されていた。
 即ち、田村一族は近代日本の勃興と挫折を、対外戦争の始まりから終焉に軍人として足跡を残したことになる。
 司馬遼太郎は名作『坂の上の雲』で秋山兄弟とその時代を、坂の上に見える雲を目指して登って行ったことになぞらえたが、田村一族の目には坂の上に何が見えていたのだろう。確かにスタート時点では白き雲が輝いて見えたかもしれないが、登り切った時点で、そこには濃い霧に覆われていたに違いない。
 田村家は山梨県の一之宮から、2ジェネレーションで4人の陸軍中将を出した。一族のその後を知らないが、平和な戦後には子孫が経済界で活躍したことだろう。

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ビブラフォンの誘惑 Ⅱ

2023 SEP 24 6:06:28 am by 西 牟呂雄

 

 仲良しの大井貴司さんの演奏を聞きに行った。
 この人はお茶目なところがあって『さて、次の曲はなんでしょう』と言いながらソロをとり、バックが入って始まったら『ルビーの指輪』だった。
 アメリカではモダン・ジャズ・カルテットとも共演していて、同じビブラフォン・プレイヤーのミルト・ジャクソンのスティックを譲り受けたこともあり、よく演奏もしている。
 今回のレパートリーにピアノのジョン・ルイスが書いたヴァンドームをやったのだが、あれっこれってバッハじゃないの、と気になった。出だしのピアノとの輪唱のような掛け合いでハッとした。
 無論僕は熱心なバッハの聞き手ではないが,亡母が好きで1日中流れていた記憶があるので、刷り込まれたのかもしれない。それでジョン・ルイスを検索してみると、1980年代になってバッハの「平均律クラヴィーア曲集 前奏曲とフーガ」の全曲を、アドリヴも入れながら吹き込んでいる。やはり素養があったのだろう。聞いてみたかったが、TOUTUBEにはソースが見当たらなかった。バッハのコード進行はスタンダード・ジャズとは比べ物にならない程複雑だから、リズム・セクションはともかくどんなアレンジで編曲したのか興味は尽きない。

 それこそ大昔の話になるが、山中湖で大きなジャズ・フェスがあった時に大井さんやバンドのメンバーと一緒に聞きに行き、喜寿庵に泊って大騒ぎをしたことがあった。その時にこの業界の連中の物凄さを目の当たりにしてビビッた。時間は守らず行動計画もなく金銭感覚もない。十人程が雑魚寝をしたのだが、メンバー同士知らない人が混じり、アンプを持ち込みギターやらベースをかき鳴らし、見たこともない女性二人はただの飲み屋のオネーチャンだったことが後で分かった。当時のこととはいえ、運転した途端にビールを飲みだしたのには唖然とするしかなかった。この人達はあんなにテクニックがあるのに、クラシックの道に(一応音大を出ているにもかかわらず)進めなかった理由の一端が覗けた気がしたものだった。
 ヴァンドームの演奏シーンがアップされてたのでお楽しみください。

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大相撲観戦記

2023 SEP 20 0:00:51 am by 西 牟呂雄

 いわゆるそのスジのこわもての人はケンカのプロなので、空手・柔道・ボクシングと心得のある人も多い。それがどの格闘技経験者が一番強いか、という問いには一様に相撲を上げるそうだ。僕としてはプロレスと言いたいところだが、ストリート・ファイトの場合下はマットではないので寝技には至らないし、バック・ドロップなんかは自分の頭もコンクリートに当たる。その点、ダウンしたら即負けの相撲取りは立ち続ける体幹能力と前に出るスピードがズバ抜けているとか。おまけにあの体型なので、蹴りでもパンチでもめりこんでしまってダメージは少ないらしい。昔、空手バカ一代に夢中になって、ブルース・リーにかぶれていた時は極真空手地上最強にも納得感があったが、ストリートでデス・マッチをやったらどうなのか。

ズラリ!

 どういう訳か、横綱不在の今場所の升席が手に入ったので昨日(18日)国技館に足を運んだ。向こう正面だったので、立ち合いの時に行司が邪魔なのが難点だが、バチッっとかドスッあるいはゴンッっといった音が聞こえるのは迫力満点である。
 何度か仕切り直しをしていると、見る見る力士の表情が強張り顔色まで変わる。これは土俵下からでないとなかなか伝わらない。テレビ中継はカメラが見下ろすような場所なので目線が高いのだ。
 つくづく相撲は日本の文化だと思う。厳しいく辛い稽古を続けて全力で戦い、一瞬で勝負が決まってしまう。無論これを毎日やるのは持続力も忍耐力も必要なのだが、この一瞬にかけて一勝負するのはプロレスともボクシングとも明らかに違う。例えは適切ではないかもしれないが、真珠湾である。そこで勝った気になった。兵站も戦略も戦争設計もしないで一度勝って・・・。

それっ

 それはさておき、もう一つは様式美。作法に従って礼を重んじ土の上で戦う、反則は一切なし。大好きなプロレスはそれが全部なくて、それはそれで鑑賞の仕方があるが(八百長が無くなった)相撲は相撲でいい、強い。
 贔屓の力士がいる場合は応援に熱が入る。翔猿という人気力士の染め抜きの浴衣を羽織った一団が右前の席にいて、取り組みの時の気合の入り方は尋常でない。するとつられて両隣の席までが声を出し、即席の大応援団が出現した。蹴手繰り・蹴返しと言った足技が多彩な力士だが、この日は負けた。すると中の女性は『ありゃ何だ』と烈火のごとく怒っていた。
 困ったことに(別に困らないが)桝席はお茶屋さんから注文を取りに来てビールや日本酒がいくらでも頼める。途中お弁当も食べるので、飲み食いに夢中になっていたりすると立ち合いを見逃す。酒やお弁当を裁っ着け袴(たっつけばかま)のアニサンが持ってきてくれるのだが、その時にチップを渡す。この時にポチ袋で渡したり財布を取り出してお札を抜き出すのはヤボで、上着のポケットなんかからシャッと千円札を出すと何故かカッコいいことになっている。すると『ヘイ、ゴッツアン』となって何回も聞きに来てくれる。このアニサン達は『出方(でかた)』と呼ばれ、かつては年3回の本場所だけで食って普段はブラブラ遊んでいる人が多かった。即ち年間45日しか働かない遊び人の代名詞で、僕の憧れの職業だったが、今は他に正業(自営業が多い)を持っているらしい。

 さあ、結びの一番は新大関豊昇龍と関脇琴ノ若。豊昇龍は今場所は調子が悪く、仕切りの間は噛みつきそうな表情である。 大歓声の中土俵際で豊昇龍が飛び込むように突っ込むと、琴ノ若はジャンプしたように見えた。豊昇龍の勝ちに見えたが即物言いがついて長いこともめた。
 何と行司差し違えで琴ノ若の勝ち。解説に寄ると豊昇龍の足の甲が既に返っていたので死に体と見なされた。よくわかったな、と感心していたら、ビデオ室からの画像で確認されたのだとか。おかげで立行司は進退伺を八角親方に出したらしい。
 ふーん、進化してるもんだな。
 ハッケヨーイ!

相撲の始まり

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哲学者と政治家 右派からの検証

2023 SEP 14 10:10:37 am by 西 牟呂雄

 安部元総理が凶弾に倒れて1年過ぎた。
 保守系月刊誌を中心とした保守論壇は特集を組み、元総理を懐かしんでおり、左派は相変わらず日本をダメにした、という論陣を張っている。
 あれだけ長期政権が維持できたということに一定の評価がなされるのは当たり前であり、その間鬱屈した思いだった人々の恨み節も有りだろう。だが国会論戦(論戦と言っていいかどうか)を見ていればお花畑左派の情けなさは多くの国民の失望を招き、元総理在任中の選挙は全て負けたことが国民の健全な良識が信頼に足るものの証明だろう。その昔デモに一度や二度参加したようなオールド・リベラルが、安倍が日本をメチャクチャにしたと嘆くのは滑稽を通り越している。
 私自身右派であるから、元総理の功績を高く評価する者であるが、最近の右派はもっぱらLGBT法案を嘆き、日米韓に舵を切った現政権の攻撃に徹しているが、どうであろう。保守派の矜持として元総理の右派からの批判を検証することは必要で、なぜなら保守は常に鍛え続けなければ必ず堕落するからなのだ。
 まぁ、私のようなアウトローは保守派といっても、地べたを這いずるような暮らしの中で御上(おかみ)の勘違いは無視することが可能だ。例えばLGBT法案など法律にしなければならないのかね、程度の感覚でいたため法案成立にかけられたエネルギーを冷笑する立ち位置。韓国の尹大統領個人に期待はするものの、どうせまた反日の政治家が台頭するだろうから信用はしない。アメリカについてはその悪意を認識しているが、消去法で他に頼れるところはない。なにしろ負けてしまったのだから。そもそも挑発に乗って真珠湾をやったのが大間違いではあるものの、仮にやらなかったら日米関係はどうなっていたかと言えば、どう想像をたくましくしても目下の状況と大して変わらないだろう。お若い方々はバブル以前をご存じないだろうが、繊維・鉄鋼・自動車・半導体と次々に難癖をつけられて、挙句の果てにバブルの崩壊に追い込まれた経緯を踏まえればよく分かる。1990年に私はヒラ社員だったが、つくづく我々はアングロサクソンには二度負けた、と思った。
 話は戻って、公平を期するために普段保守派と言われる連中の安倍批判を探ってみたところ、ある新書を見つけた。
 哲学者を称する適菜収、ニーチェの研究者らしい。一読、あまりの見識の低さに呆れた。こんなのがマスコミに雑文を書き散らしているのはいいとしても世間に相手にされないのではないか。調べてみると『B層』というゾーンをバカ呼ばわりした著作で売れた学者だとか。
 ものすごく勉強熱心な人らしく、極めて緻密に検証していることは窺える。しかしこのテの秀才にありがちだがくどいのだ。おそらく理論の組み立てを全て書き込まないといられない、私なら保守派の定義は『早急な変化に対応して、後に昔は良かった、などと思いたくない気質』だけで済むが、大昔のフランス革命に遡って考証を加え定義する。悪くはないが違和感は感じる。よほど努力をする体質で、ろくに勉強もしない輩は全てバカに見えるので、バカ呼ばわりを多発して文章の品を下げる。『箸の正しい持ち方』は得意の持ちネタのようで、随分がんばって習得したのだろうが、別のところで書いてもいるのはそれこそバカの一つ覚え。ひょっとするとコンプレックスの塊なのか、ちょっと褒められると舞い上がる。自殺した西部暹に褒められたのが余程うれしかったのかわざわざ記している。そういえば西部邁もやたらと話の長い人だったが、適菜もそうなんだろう。一般的に話がバカ長い人は頭が悪そうにみえますがねぇ。
 そもそも元総理の勉学の奮わなさはかねて知られている。私は同学年なので成蹊小学校の同級生に知り合いがいるが、大したことはなかったと証言した。家庭教師をしていた平沢勝栄はそれをバラして出世が送れたのだから本物で、適菜からすれば上から目線になるだろう。
 だが政治家は思想家とは違う。
 思想家同士がいくら議論しても現実にはラチがあかない。『日本は核武装してアメリカのくびきから独立する』と『被爆国の日本が核武装などとんでもない』の両者がいくら議論しても合意にいたることは絶対にない。そこを何とかするのが政治であって、交渉とは一言でいえば妥協の技術なのだ。海外案件の契約をやってみればすぐわかる話だが、双方知恵を絞って何とか着地点を見つけるなどということは、自称でも他称でも哲学者にできるはずもなく、また口をはさむべきではない。文学者であり続けた石原慎太郎が大派閥の頭にはなれなかった所以である。
 元総理とプーチンの交渉過程を適菜は揶揄するが、何もしないでツッパって200年すれば領土が返るか、そんなことはありえないので散々交渉のテーブルに引き込んだ。あの時点で一月にトランプ・プーチン両大統領と面会できた首脳は元総理ただ一人であった。
 大陸・北の国・現戦争当事国という核武装した危険な国家に取り囲まれている我が国の安全のために同盟していることをポチだの何のとオチョクルのもいかがなものか。このご時世にあの憲法でいいと言えるのか。安保法制は時代の流れなのにその成立過程にイチャモンをつける。それでは護憲を訴える左派なのかオマエは、と言われると『そもそも左翼とは』とトリモチのようなクドい説明をする始末。

 確かに元総理はお坊ちゃん育ちであり、時々キレては物議を醸していた。思い余って『一切』とか『必ず』という言葉をはさんでしまう。私なぞはやや危ないところはあるが、好ましい部分だと思った。
 一方で政治は流動的で、相手もあり身内の都合でその通りにならないことも多い。実社会とはそういうもので、従ってトップに立つということの難しさは頭が良けりゃ務まるものではないのである。
 それを、ガリ勉根性丸出しで実に丁寧に発言を俯瞰してはウソつき呼ばわりするのは片手落ちというものではないのか。モリ・カケの問題について、特にモリの方は相手の悪質さと佐川局長の見苦しさはそうだが元総理は本当に知らなかったのだからガタガタ言われる筋合いではない。
 ついでに言えば、カケ関連で前県知事の加戸証言『安倍総理にあらぬ濡れ衣がかけられているので、なんとか晴らすことができるお役に立てるからと思ったからでございます』を意図的に報道しなかった偏向マスコミを棚に上げておいて、言論弾圧をしたという話にどうしてなるのか。適菜は好き放題書いてもお咎めなしにもかかわらず、である。

 あれ、元総理の右派からの批判を検証しようとしていたのに変な本を読んでバカなブログになってしまった。適菜収はニーチェの研究をしていなさい、お箸の持ち方はわかったから。

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贋作ジェット・ストリーム 復活編

2023 SEP 8 0:00:17 am by 西 牟呂雄

ーエデンの東が流れるー
 おひさしぶりです
 長かったコロナ禍も落ち着きました
 皆さまも、あるいは旅に、あるいは仕事で
 やっとお目にかかることができました
 パーザーのジェット・ニシムロオです
 
 さて、今回のコロナ禍に人類は勝てたのでしょうか
 確かに感染者の死亡率は大幅に減りました
 ですが 先日も私の友人は甲子園のスタンドで感染し
 あの決勝戦でクラスターが発生したようです
 苦しんでいる皆様に謹んで
 サザン・アメリカン・テイストを捧げます

どこまでも終わらないフリーウェイ
 フォートという名が付く町が点在する
 ウェザーリポートは きょうの山火事はどこかを伝える
 クールなサザン・ベル(南部型の美人)もメキシカンも
 摩天楼はないが リアル・アメリカは テキサスだと胸をそらす。 

 州を超えると 雨がパラつきだした
 アリゾナで200日ぶりの雨だよ
サンキュー・ヴェリー・マッチ 旅の日本人
 乾燥した大地は多少の雨じゃあジトリともしない 砂・砂・砂。
 巨大都市フェニックスは 先端産業の一大集積地
 腕に覚えの白人も黒人もインド人も中国人も いまだにフロンティア

 ニューオリンズのフレンチ・クォーターから
 ハローと言いながら二日酔いを覚ます
 友はすでに遠くに去った
 蒸し暑いデルタの風
 道端で佇んでいると
 マーチング・ダウン 賑やかなブラスが行進してくる
 オレも重い体を引きずって
 東へ行こう
 フロリダにでも行こうか 
 

ーエデンの東が流れてくるー

 皆様いかがでしたか
 久しぶりの空の旅は
 おくつろぎいただけましたでしょうか
 さて、また新しい旅が始まることでしょう
 お目にかかれる日を楽しみに
 旅のお相手はパーサーのジェット・ニシムロオでした

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贋作 ジェット・ストリーム 

贋作ジェットストリーム (女性バラード編)

番外 ジェット・ストリーム  ジャニス・ジョプリン

酷暑の後始末

2023 SEP 1 0:00:17 am by 西 牟呂雄


 
 この暑さが影響を与えないはずもなかろう。
 熱中症で亡くなる人さえいるのだから。
 ファームの収穫も惨憺たる有様だ。
 この出来損ないのキュウリとナスを見よ。
 梅雨明けに撮れたジャガイモは親指くらいのチビ・ジャガしか採れず、誰も引き取らないので僕一人で塩茹でにしてバターを塗って食べているが、このペースだと来年まで消化できそうもない。芽が出てしまったら終わりだ。

去年の作品

 去年はこんなに見事な収穫だったのになんという事だ。
 ニンジンは全滅した。
 今年のこのキュウリとナスを最初に見た時はあまりの暑さに突然変異したのかと思った。キュウリは食べられなくはなかったが、ナスは硬くて恐ろしく不味い。

残ったナス&ピーマン

 更に、各地で水害まで起こったのにこの富士山北側は雨が少なくファームは乾いた。
 しまいにはご覧のようにわずかなナスとピーマンになってしまった。
 まるで砂漠にポツンと映えているサボテンを思わせる。
 何だか哀れだなぁ・・・。

 そもそも8月になる前からカナカナやツクツクボーシが鳴き出して驚いた。
 普通は盆明けである。

 海は海で台風のせいで大荒れが続き、船は降ろすのだが港からは出られなかった。
 お盆以降は風そのものが熱く感じられて全く爽やかでない。

酒池肉林

 それでは、とバーベキューで酒池肉林をやろうとすると、日差しも強いのでビールが直ぐに温まってしまう。
 破れかぶれになって海に飛び込むと、磯溜まりなどはぬるい。
 エアコンの効いたクラブ・ハウスに戻ってしまうと、もう絶対に出られない。
 これではハーバーに来ている意味などないではないか。

 私はツラツラ考える。こうまで異常な熱波は人間を堕落させ、農作物の収穫を減らす。聞くところによれば乳牛も肉牛も仔牛が弱ったりする被害が出ているとか。人間も影響を受けないはずがない。ただ、コロナ禍で3年を過ごした直後だから未だに顕著な状況が見えてこない。
 おそらくその影響は今後ジワジワと出るはずだ。どういう事態が襲って来るのかは分からないが、想像するに認知症の患者が増えるとか幼児の死亡率が上がるとか・・・。
 私の長年の研究テーマの一つに『認知症の患者は幸福を感じられるか』がある。というのもアルツハルマゲドン状態の脳は私が泥酔した際の全能感に包まれるのではないのかと仮説を立ててみたのだ。そうであるかどうかは自身の脳の衰えに沿った観察しかできないのでいささか手間がかかる。おまけに直近認知症を直す薬が認可されそうで、下手にそんなものが出回ったらボケるにぼけられない。どっちがいいのかと言えばそりゃボケない方かもしれないが、身体が利かなくなっても頭がはっきりしてるのもなぁ。

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テリー!テリー!テリー!

2023 AUG 26 11:11:01 am by 西 牟呂雄

 会場を埋め尽くすファンの大合唱とともに血まみれのテリーが拳を振るう。左利きのテリー・ファンクが繰り出すナックル・ストレートに酔いしれたものだ。
 名曲『スピニング・トーホールド』の軽快なメロディーに乗ってそろいのジャンパーを着たファンク兄弟が入場するだけで観客は大喜び。ここでもテリー・テリー・テリー!リングの中から応えると大歓声が沸き起こる。どんな相手にも怯まない闘志、ダメージを食っても起き上がるガッツ、僕が最もプロレスにのめり込んでいた頃のスーパー・スターだった。そのテリーが死んじゃった・・・。

ヒール

 この人は日本に於いて絶大なベビー・フェイスだったが、実はアメリカでは地区によってヒールのキャラで Most Hated の上位にいつもいた。そして僕なんかはその魅力に取りつかれたのだった。
 少し専門的になるが、日本でのベビー・フェイス・キャラを立たせるにはやや無理があり、例えば相手のラフを受けるパターンは限られていた。大体コーナーボストに振られるとひっくり返って足がロープに絡まる。
 それが、ヒゲを伸ばして黒いバンダナを巻きロング・タイツでハード・コアのデス・マッチを戦うときなど、実に鮮やかな切れ味だった。ECWに参加した際には『チェーン・ソー・チャーリー』なるクレイジーなキャラで出てきて大暴れした。
 この頃はギミックなのか感情を抑えることができないで暴走・流血の試合ばかりしていたが、一説によると膝が悪くその痛みを抑えるためにオピオイド系の鎮痛剤を多用していて精神的にもアブなかったとも。
 そういう文脈で語る場合は、日本のプロレス・マスコミが命名したテキサス・ブロンコという呼び名は似合わなかった。もっと荒々しいカウボーイキャラの方が良かった。そうですね『レッド・ネック・サイコ』とか『ホワイト・ヘル・ボーイ』とか・・・。
 ファンク兄弟の代名詞のように言われるスピニング・トウ・ホールドだが、初来日のころは目を見張ったものの次第に研究されて決め技にはならなくなった。僕としてはむしろローリング・クレイドル・ホールドの方がプロレス的に好みだった。
 晩年は認知症やパーキンソン病を悪化させて施設にいた。
 テリーよ、安らかに眠れ  ー合掌ー

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オレ 地球

2023 AUG 24 0:00:20 am by 西 牟呂雄

 オレ、地球。右肩あたりの台風が過ぎ去って、東アジアエリアで酷い熱い風が吹いたらしい。無理もない。オレ、最近機嫌悪いんだ。
 ジパングというあたりでは『観測史上最大』『数十年に一度』などと騒いでいるようだが、聞かされている方も飽きてきたろう。化石燃料の大量使用だとか牛のゲップとかバカな理屈をひねり出しているようだがチャンチャラおかしいね。
 そりゃ極地の氷が溶けたり環境に適応できずに絶滅する種もあるだろう。だがオレの知っている限りどうってことない。人間が破壊した環境の影響なんかしれたもの。
 環境活動家がツベコベ言っているがあんなものはウソだ。小賢しい正義感を振りまわしているが、奴らは何も分かっちゃいない。その証拠に今時また懲りずに戦争を始めて見せたじゃないか。オレは静かに見守ることをしてきたつもりだったが、ここらで少し怒って見せなければならないと決めた。
 オレが少し怒っただけでこの異常気象だ。もうすぐ火山活動も活発になる。地震だって起きるさ。多くの命は失われるだろう。命と言ったところで、オレにとっては象だろうが人間だろうが魚・虫けら・微生物に至るまですべて同じこと。更に多少はモノを考えるだろう人間にしてもオレの意思などわかるはずはない。オレの怒りは人間の言う一見『平和』な場所にしか災害を起こさない。すなわち、北米・西ヨーロッパ・東アジア・オーストラリアといった場所だ。オレは慈悲深い。普段あまり死から遠い暮らしをしているところ、そういうところは妙にムズ痒いので、おできができるように火山は噴火し、引っ搔くように地震が起き、熱を帯びるために異常気象となる。まだまだあるぞ。特にジパングでは東海大地震に富士山大噴火も覚悟しておけ。
 そのエリアの連中は早く気が付けよ。あと50年のすればオレはしばらく休むんだ。50年程度の先も読めない連中に言っても無駄だがオレが休むと数百年ぶりに氷河期が来るんだよ。作物は取れなくなり動物も数を減らし、食い物が半分になる。今から個体の数を調整しないと苦しむことになるのが分からんのかね。
 この間兄弟の金星や火星と話したが、生き物がいないあいつらは別に怒ることもないので安らかな暮らしだそうだ。オレだって生き物は恐竜の昔からいたけれど昔はのんびりしたものだった。そう、人間がやたらと増えてから怒ったり休んだりするようになったんだ。
 人間ども、せいぜい戦争でもやるがいい。お前ら少し目障りだ。

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喜寿庵にて 田舎暮らしパラダイス

2023 AUG 13 0:00:53 am by 西 牟呂雄

 この暑いさ中に草刈りに精を出す。不毛の飛び地990㎡の伸び放題に伸びた草刈りだ。喜寿庵は崖の上だが、この飛び地は山裾。周りは昔ながらの農村と言っていいだろう。要するにザ・田舎である。
 ザ・田舎とは、単に景観の問題ではない。或いは住民のファッションとか方言の問題でもない。都会と田舎でいい人悪い人の分布が違うはずはなく、旅人に対しては下町より田舎の方が親切かも知れないのだ。
 ザ・田舎は強固な地縁・血縁のネット・ワークが張り巡らされ、何よりも安定を維持するシステムが確立している。そこに、見たこともない、それもちょっと風変わりな雰囲気の男が青いツナギを着込んでシトロエンから降り立つとどうなるか。

仲良しのお爺ちゃんの畑

ステップ Ⅰ

 まず、ジロジロと見られる。
 2~3人が何やらこっちを見てヒソヒソ話す。 
 道を隔てたところに畑があって、そこでよく耕運機を押しているおじいさんと仲良しになった。自分の畑は四反八畝(よんたんはっせ)で、実際に何かを栽培しているのは葉物がチョコっとだけ。だが、何もしないと我が飛び地のようになって農地認定がどうとかだから、一生懸命掘り返している。五反百姓という言い方があって、五反百姓出ず入らず(ごたんびゃくしょうでずいらず)、という使い方をする。一家が年貢を納めたのちに借金もせず暮らせる損益分岐点が私有農地5反の広さだ、という意味で、そのおじいさんはそのレベルなのだろう。若い頃は勤めに出ていて、辞めた後のんびーりとやっているようだ。お子さん二人は埼玉と東京の郊外に出てしまった。もう耳がずいぶんと遠い。
 多少の世間話から僕のことが伝わっていく。

ステップ Ⅱ

 マウントを取りに来た。
 後に気づいたのだが、ザ・田舎には地域カーストのような序列があるようで、仲良しのおじいさんのカーストは低めらしい。その上位に当たる、言ってみればそのエリアのボスのようなおっちゃんが話しかけてきた。おじいさんに対してはものすごく乱暴な物言いをしていたので分かった。
『ニシさんってのはあんたかい』
『はい、そうです』
『あ~、ここはアンタが跡をとったんか』
『はい。伯父がもう面倒だからおまえがやれ、と言い出しまして』
 この当時はまだ僕も敬語を使っていた。
『オレの親父がナントカをやっていてそれを継いだんだ』
 だの、昔はここでドーシタ・コーシタという自慢話とも何とも言えない話が延々と続く。アホらしくて無視したが、丁寧に対応したつもりだ。
 去年あたりからそれが段々エラソーになってきて、僕の草の刈り方が気に入らないらしく、もっと根元からやれ、とかそんな草刈り機じゃダメだ、とか言いだした。
 そして終いには遠縁に当たるような話もし出すのだが、何度聞いてもどういう筋で僕と繋がるのかはさっぱり要領を得ない。その時点では僕もいい加減な返事をするようになった。
『ウチは親戚ズラ』
『聞いてねーよ(実際オヤジに確認しても知らない、とのことだった)』
『いや、書いたモンがある』
『別のそんなの見たくもない』
 と言った具合だ。

ステップ Ⅲ

 攻撃的になる。
 初期のマウントに失敗して、この頃はイチャモンにも拍車がかかっている。
『オレ達が補助金もらって刈るのに、刈る前と刈った後の写真を見せてちゃんと根までやってないと怒られるダヨ』
『オッチャン補助金貰ってやってんのか』
『そうだよ。3反もやるダヨ』
『で、ここは私有地だけど誰がオレに怒りに来るんだ』

 こんな感じでやっていたら、直近はまた現れて草刈りに文句を言ってから突然言い出した。
『あの木切ってくれよ』
『なんでさ』
『雪が降ったりして重みで倒れたら通る車に当たって危ないズラ』
『誰がそんな心配してるんだ』
『みんなだよ』
『雪で折れる?そんなことあるわけがない』
『そんなことない。大雪の時にゃダレトカのガレージが潰れた』
『わかったわかった。この木はガレージじゃないし、そのうち鋸でやってみるわ』
『鋸じゃダーメなんだよ』
『斧でも持ってきてやるのかい。そんなもん持ってない』
 ははぁ、おっちゃん補助金で草刈りやってるって言ってたな。頼まれたらオレから金をせびろうという魂胆だろう。お前に金なんか払うわけないだろ。
 田舎暮らしに興味を持ってうっかり移住なぞしてしまった者はこの辺で嫌気がさすか、仕方なく何某かの金銭で手を打つのだろうが、僕はそんなにヤワじゃない。それこそ村八分にされようが痛くも痒くもない。第一、この飛び地そのものが喜寿庵から数キロ離れていて近所でもなんでもないのだ。
 仲良しのおじいさんに聞いてみた。
『なんだってあのおっちゃんはエラソーに威張るんだい』
『ありゃータチだね』
 成程、それなりに嫌われているじゃないか。面白くなってきた。
 次はどの手で来るか楽しみだ。そもそも僕はオレオレ詐欺とか縄張り争いには滅法強い。
 こうなったらザ・田舎をトコトン味わってやる。

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