バルトーク好き
2013 JAN 29 20:20:03 pm by 東 賢太郎
小泉元首相のオペラ好きは有名ですが、福田元首相はバルトーク好き、志位共産党委員長はショスタコーヴィチ好きだそうです。「バルトーク・フリーク」を自称される作曲家の吉松隆氏によるとバルトーク好きの特徴は、
①地味
②理知的
③生真面目で笑わない
④オカルト趣味
⑤愛国主義
⑥皮肉屋⇒知的であるがゆえに本性を隠したがり、それでいて感性豊かなためについ本音が皮肉となる。
だそうです。なかなかいい線ですね。一方で「人はバルトーク派とストラヴィンスキー派に別れる」という説もあるそうです。ずいぶんとすごい人類の分類法があったものですが、両方好きな僕はどうなるんでしょうか。
初めてバルトークを聞いた印象はたいがい「なにこれ?」「調子はずれ」「不気味」「ぶっ飛んでいる」「お化け屋敷のBGM」という感じでしょう。僕もそうでした。スリラー映画シャイニングに使われたぐらいです。家で聴いていると誰も寄ってきませんし、きっと猫も逃げていたのかな?
僕がバルトークに憑りつかれたのは高校のころ「弦チェレ」とあだ名される「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」に衝撃を受けたのがきっかけです。第2楽章のピアノと木琴の入る所のカッコよさに電気が走り、もうイチコロでした。これはジャズ、ロック系の人向きですね。僕が覚えたライナー / シカゴSOで。
これは心酔したブーレーズのニューヨークフィル盤による全曲です。素晴らしい。
「管弦楽のための協奏曲」の最後。僕はこれこそ人類が作った最高にカッコいいエンディング(曲の終わり方)だと思っていて、そこを自分でやりたいだけのためにシンセで数か月かけて複雑怪奇なスコアと格闘し第5楽章をぜんぶ作りました。僕が覚えたオーマンディー/フィラデルフィアO、これがアブソルート・ベストだ。
「弦楽四重奏曲第5番」。この第5楽章、調性があるようでないような。時空を流れる音の帯が半音ずつ幅を広げていく様は100億光年かなたのクエーサーでも目の当たりにしている錯覚を覚え、脳内に電極が入っていてそこから電気が流れこむ感じに酔ってしまいました。鄙びた味のあるタカーチ四重奏団(1分23秒から)。
「ピアノ協奏曲第2番 」。この第2楽章開始部の弱音器つき弦楽器の奏でるこの世の物とも思われぬ摩訶不思議で神秘的な和音はいったい何なのでしょう?のちに映画「コンタクト」を見て、別にこれが流れていたわけではないのですが、主人公が未知の青い太陽がある惑星で死んだお父さんに出会うシーンがなぜか浮かんでしまいます。
こちらが全曲です。ハンガリー人ピア二ストのコティッシュは鋭敏な感性の持ち主で、ドビッシーからラフマニノフまで個性的な演奏をきかせました。これも新鮮なアプローチでいいですね。
僕のバルトーク体験はこんな感じの、マンガ的、原始的、本能的なところから始まりました。やれ弦チェレはフィボナッチ数列と黄金分割でできていてなどと高尚な解説をしてくれる友人もいたのですが、そういうことはどこ吹く風で下世話にシビれていたのです。弦チェレで本当にすごいのは第3楽章と気づくにはもう少しオトナになる必要がありました。ドイツで小学校にあがったばかりの娘がピアノの発表会で弾いた「子供のために」、こんなやさしい曲についている何ともいえず土臭くて懐かしくて日本人にグッとくる、それなのにものすごく理知的な和音の見事さ。バルトークは深いです。
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