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ロドリーゴ 「アランフェス協奏曲」(Rodrigo、Concierto de Aranjuez)

2013 OCT 12 21:21:02 pm by 東 賢太郎

スペイン編の第2弾はこれにしよう。ホアキン・ロドリーゴ・ビドレ(Joaquín Rodrigo Vidre、1901-99)は3歳で視覚を失ったが、それをのりこえこの素晴らしいギター協奏曲を書いた。

ギターの歴史については調べてみたがよくわからなかった。おおよそは以下のようなものだ。まず、ギターの語源は古代ギリシャの楽器「キタラ」(竪琴)とされるが、弦楽器の起源は中央アジアとされており、インドの弦楽器シタールと同語源である。これがイスラム世界を経由してイベリア半島に持ち込まれてアラビア語でقيثارة(qitara、キターラ)と呼ばれた。16世紀ごろのイベリVihuelaplayerア半島にはヴィウエラ(vihuela)なる楽器が存在し楽譜も多く残っている。ヴィウエラがヴィオラ(viola)の語源になったことは間違いないようだが、ギターの直系の先祖かどうかは3丁しか現存しないので不明だそうだ。ところがだ。右の絵をご覧いただきたい。この楽器はどう見ても「ギター」である。しかし絵の題名は「 ヴィウエラを弾くオルフェウス(1536年)」なのだ。オルフェウスはギリシア神話に登場する吟遊詩人であり、ここでは何故かヴィウエラの発明者として讃えられている。そんな楽器はギリシャにはない。つまりアラブからギリシャの知識が伝わるまでの暗黒時代に、そういうことになってしまったのだろう。そしてそれはギリシャ神話なのだからキタラだったことになり、ヴィウエラ=キタラとなる。そしてそれが訛ってギターになったのではないだろうか。察するに、ヴィウエラは広義の弦楽器群の総称のようなもので、擦弦楽器(弓でこする)となったものはビオラ族(ビオラ・ダ・ガンバなど)としてカソリック教会音楽の楽器として取り込まれていく。しかし絵の楽器は民衆の撥弦楽器(つまびく)としてとどまり、キタラとして別の進化を遂げたのではないか。弓を使わないのにあるギターの「胴のくびれ」は、この進化の過程の名残りなのではないかと僕は考えている。

スペインという国はローマ、西ゴート王国(ゲルマン)、ウマイヤ朝(イスラム)、レコンキスタ(カソリック)と支配者が変わっている。グラナダやコルドバへ行くと絢爛たるイスラム文化が残っていてどこか哀調を感ずるのは百済の扶余など滅んだ都と似る。ギターというどこかカソリック化、神聖化を拒んできたような楽器の音色は、レコンキスタによって滅んだアル・アンダルス文明の幻影をしのぶようにも聞こえるのだ。タレガ作曲の有名な「アルハンブラの思い出」はそんな味わいを最も感じさせてくれる。お聴きいただきたい。

 

さて本題の「アランフェス協奏曲」に移ろう。この曲は1939年の作曲としてはなんとも古風でロマンティックであり、クラシック音楽のメインストリームとは無縁の世界で生まれた音楽といえる。だが、この第2楽章アダージョよりも有名なクラシックのメロディーはそうたくさんあるとはいえないのだから、20世紀も半ばになるとストリームの正当性は論じても意味のないことになっていたのかもしれない。ギターという楽器が教会音楽にもオーケストラにも取り込まれず民衆とともにあったように、ギター曲というものも、民衆のそばにあってロックやポップスに進化していく。愛を歌う、自由を謳う、人生を命をいおとしむ、そして、体制に取り込まれない。そういうスピリットを表現するのにギターが適していたというのは、どこか歴史の宿命のようなものを感じる。

美しい画像があったのでお借りする。これはもうNHK名曲アルバムの世界だ。

イングリッシュ・ホルンにぴったりということではこの調べはドヴォルザーク「新世界」と双璧だ。そしてジャズだとこうなる。

アランフェスは首都マドリッドから南に48kmと近い。王宮が有名で、行ったはずだが忘れてしまった。僕はこの協奏曲の熱心な聴き手ではないが、チョリソーにドメックのあまり高くないシェリーでもちびちび飲んでスペイン気分に浸りたくなると、この曲はやはり欠かせない。そういう時に僕が引っぱり出すCDだが、下のものだ。これを見つけて以来、ほかのCDは一切いらなくなった。

 

ナルシソ・イエペス(Guitar) /  アタウルフォ・アルヘンタ / スペイン国立管弦楽団

これを買った時の喜びはなかなかだった。大ギタリストであったナルシソ・イエペス(1927-97)はルネ・クレマン監督Argenta-Portadaの映画「禁じられた遊び」のギターでも有名であり、この協奏曲でデビューした。指揮者は初演者のアタウルフォ・アルヘンタ(1913-58)であり、オーケストラともにそのスペイン劇場でのデビュー演奏会のキャストである。どこか乾燥した南欧の空気を感じさせる演奏、録音であり、過度にロマンティックでないのがとても良い。甘ったるいメロドラマみたいな第2楽章はごめんだ。そして僕がこのCDでぞっこんなのは、実は一緒に入っているファリャの「スペインの庭の夜」の方なP10101041のだ。こちらのソリストであるゴンサロ・ソリアーノ(1913-72)はファリャの愛弟子で、スペインを代表するピアニストである。その第1曲は「へネラリーフェにて」であり、へネラリーフェとはアルハンブラ宮殿から少し行った離宮である。王宮は忘れたが30年前なのにここはよく覚えている。右の噴水は非常に印象に残る。この美しい幾何学的な構図は誰もが一度見たら忘れないだろう。この曲はピアノ協奏曲ではないが、そう聴くこともできる名品である。そしてこのソリアーノとアルヘンタによる演奏、印象派風の淡い色彩とやはり乾いた南欧の空気がブレンドした独特の味わいが絶品としか言いようがない。つまりこのCDは一粒で2度おいしいお宝ものなのである。両曲がお好きな方は探し出されて損はないと信じる。

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