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カテゴリー: ______トミタ(冨田勲)

小林亜星は天才(積水ハウスCMソング)

2021 JUN 15 17:17:46 pm by 東 賢太郎

先日のこと、夕食の席で積水ハウスのCMソングが流れた。僕は家族にこう言った。「これはクラシックをちゃんとやった人の曲だ」。

その場で娘が調べると小林亜星作曲だ。彼は慶応医学部をやめて服部正の門下生になった。服部は国立音楽大学教授だが学歴は慶応法卒で、小林の同じクラスには冨田勲、隣のクラスに林光がいて、3人とも医者の息子だ。林は芸大の作曲科、冨田は文学部である。冨田が天才であることについては書いた(ボロディンと冨田勲)。

古関裕而は甲子園の名門、福島商だ。その縁か大会歌「栄冠は君に輝く」があり、慶應の「我ぞ覇者」、早稲田の「紺碧の空」もある。すごいのは読売巨人軍の「闘魂こめて」も阪神タイガースの「六甲おろし」もそうだ。福島の人なのに見事に東京風、大阪風を描き分けた。クラシック風の格調を出せとなれば「東京オリンピックマーチ」になる。この能力はモーツァルトが教会のミサもフリーメイソン讃歌も色っぽいアリアもリクエストに応じて書いたのとおんなじだろう。

「彼らは音楽の天才。タモリはものまねの天才。ああいうのは教えてもむり。学校の1番はみんな秀才。でも天才じゃない」といったところ、

「じゃあお父さんはなに?」ときた。

「努力家だね」。

努力も才能よと家内が助けてくれたが、自分的には何の才能もないから努力ってのはコンプレックスでしかない。天才は本当にうらやましい。

いま女子ゴルフとプロ野球で20~22才の「ミレニアム世代」が輝きまくっている。全英を勝った渋野日向子(22)がそう。メジャー(サロンパスカップ)で3打差の14アンダーというぶっちぎりで優勝した西村優菜(21)もだ。賞金ランキング2~6位の5人が全員この世代で業界を席巻している。NPBは中日・根尾昂(21)が満塁ホーマー。ヤクルト・村上宗隆(21)、ロッテ・安田尚憲(22)、阪神・佐藤輝明(22)と「4番サード」が3人も出ている。異例に若いと言われる巨人の4番サード・岡本和真(24)より若い。

以上、全員がまぎれもない天才である。

 

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僕がSMCに書いたブログは6月15日現在で2,384本ある。そのうち2,171本は公開し、残りの213本は捨てた。翌日に読み返してボツが1割という感じだ。

ーーーより上は今年の5月10~11日に書きかけたそのままだ。なぜ途中でやめたかは覚えてないが、捨てるつもりだった。そうしたら、きのう小林亜星氏の訃報を知って、真っ先に思い出した。しまった、申しわけない、ちゃんと書けばよかったと。

きっかけとなった「積水ハウスのCMソング」はこれである。

F(ヘ長調)で始まった曲にG が入るところから、俄然、昭和のあったかくて希望に満ちた “マイホーム” のイメージが虹のように広がり、僕など、こんな家ができるならぜひ積水ハウスにお願いしようという気になってくる。依頼人の意図にドンピシャな曲をつけるこの能力は、古関裕而とモーツァルトについて述べたことがそのまま小林にも当てはまるということだ。

日立CMの「この木なんの木・・」の世評が高いが、僕はメロディーも和声も抜群に美しい積水派だ。サビの「あの街に~、あの家に~」のところの和声、

F- A – B♭- A – B♭- Fdim – F – F#dim – Gm – Gm/c – B♭- F

なんて素晴らしい!

難しい理論を振りかざして専門家の評価は高いが誰も聞かない音楽よりも、こういう万人の心にストレートに飛び込んでくる音楽の方がよっぽど神品だ。アインシュタインのE=mc2 じゃないが、神様は宇宙をシンプルに造ってる。こういう曲を作った小林亜星を天才と言わずして誰が天才なのだろう。

慶応医学部から作曲家になって6,000曲も作品を残し、俳優でもあってやりたいことをやりぬいた。こういう人を見ると己は何でもない、足元にも及ばないと嘆息するしかない。

ご冥福をお祈りいたします。

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64本のスピーカー・オーケストラに絶句

2019 JUN 18 1:01:14 am by 東 賢太郎

ヒビノ株式会社は「音と映像のプレゼンテーター」として類のないわが国を代表する企業である。今回あるプロジェクトで新木場にある工房「シンフォキャンバス」を訪問した。

ビルの7階を占める大空間に64本のスピーカーが並ぶ壮観。一本一本がオーケストラの個々の楽器音を出すシステムは僕も夢想はしていていずれ作りたいと思っていたが、まさかそれがこの世にあるとは!

そう思ったのは僕自身がシンセサイザーを演奏してMIDIで多重録音を膨大にしたことがあるからで、楽器を重ねていくと徐々に音の混濁がさけられなくなり、マルチトラックの本数を泣く泣く減らして本物っぽくした経験があるからだ。しかし作曲家が心血注いだスコアに無駄があるはずはなく、それをさせられる不快感を解消する唯一の方法はシングルトラックをマルチにする、すなわち、楽器の数だけスピーカーを鳴らすしかないという結論に至っていた。だからこの「スピーカー・オーケストラ」は究極の世界なのであって、それをやっていただいた方がこの世にいるということ自体が夢のようであった。

これを作られたのはシニアネットワークスペシャリスト宮本宰(みやもと つかさ)さん。このシステムはまさに人生賭けた入魂の作品である。早稲田大学理工学部在学中にフォークグループを結成してアルバム1枚、シングル3枚をリリースするが、そこで録音作業の妙に魅せられて音響技術者を志すこととなり、故冨田勲氏に信頼された斯界の大家である。「部屋(空気)が音楽を作る」という哲学が合致することを知り、僕が「リスニングルームを石壁にした」意味を完璧に理解していただいた。写真の通りバスドラにウーハーが組み込まれエレキベースはアンプが置いてある。お察しいただけるだろうか、これは空気を振動させる道具であるという合理的思考の貫徹である。素晴らしい。隣で聞いていた岩佐君によると僕は「鳴るのは部屋。スピーカーじゃない」と自宅で力説したらしく(覚えてないが)、宮本さんと「まるで兄弟の会話」だったらしい(氏は7つ先輩)。たしかに、こんなお兄ちゃんがいても不思議でないと思うほどそっくりな嗜好で似た路線を追求されておられ、ただ、こだわりの徹底ぶりは足元にも及ばない。

どんなものかこの動画をご覧いただきたい。

宮本さんはクラシックはベートーベンの運命から入り、オーマンディーで覚えた。「だからカラヤンも小澤もぜんぜんだめなんです。物足りない。第4楽章へのブリッジなんかもね。だから自分でMIDIで作ってしまいました。音質は落ちますが音楽はやっぱりグルーヴなんで酔えるんですよ」なんと、まったく僕と同じことをされている。ひとりぼっちじゃなくてよかった!こうしていきなり話がストライクゾーンに入って延々と続いてしまい終わりがない、仕方なく、ではそろそろと「演奏」していただいたのがこの曲。ワーグナーのタンホイザー大行進曲である(このビデオではない)。

名古屋フィルを合唱付きでマルチマイク録音したその迫真の音は衝撃だった。正直のところこの手のもので僕が驚くなどということは自分で想定もしていない。かつて人生でスピーカーからこれ以上のものを聞いたことはないし、オーディオなどというものの次元であれこれやってきた自分が馬鹿らしくなってしまった。音ではなく音楽に心から感動し、鳥肌が立った。弦楽器の生々しさ、管の質感、重低音の空気感!目をつぶれば掛け値なしにそこにオーケストラが「ある」。奏者が「いる」。

「宮本さん、これで春の祭典とダフニスとクロエをやりたい」とほざきながら、もうそれが頭の中で響いている。あのブーレーズのCBS録音の質の演奏をこれでやったら、もう鼻血ものだ。ワーグナーをサンプルに選ばれたのにも表敬したい。僕自身の経験からマルチトラックの混濁はスコアのパート数だけではなく作曲家のオーケストレーションの癖にも依拠して発生する。中音部が厚くてだぶる傾向のあるワーグナーは非常に鳴らしにくい作曲家なのだ。MIDIでないとはいえ、そこに声楽まで出されてしまうと二の句がつけない。これで作曲したらとぞくぞくするが、人生それで終わってしまうかと不安にもなってくるほど。

ポップスもということでホイットニー・ヒューストンのライブを、これは映像付きできいた。劇場の特等席で舞台を見上げている感じだ。これまた絶句するほど凄い。故人のアーティストが生きてそこで歌っているようにというコンセプト。まさにそう感じる。DVDなのにサラウンドで鳴るのはどうして?ときくと、「ピアノを含めて楽器をダビングしました。だから40数本のスピーカーは楽器ごとに鳴ってます。ぜんぶ耳コピです」。いや耳も素晴らしい。

宮本さん、そしてご紹介いただいたヒビノサウンドDiv.大坂ブランチ所長の徳平さん、ありがとうございます。末永くよろしくお願いします。

 

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ボロディンと冨田勲

2013 APR 1 0:00:23 am by 東 賢太郎

ボロディンの「中央アジアの草原にて」、聴いていただけましたでしょうか?

この曲のテーマ、とくに2番目に出てくる「東洋風テーマ」(下のピアノ譜をご覧ください。3小節目からです。オケではイングリッシュ・ホルンが鄙びた音で吹いてます。)の肌にしみいるなつかしさ、人なつっこさ(少なくとも僕にとってはですが・・・)は何なのか、不思議でなりません。イメージ (32)

 

 

 

 

 

 

同じような風情のテーマは歌劇「イーゴリ公」の「ダッタン人の踊り」や交響曲第2番にも出てきて、ボロディンのトレードマークといっていいかもしれません。こういうメロディーを書く才というのは、他の作曲家には感じたことがないなあと思っていたら、一人だけ思い当たる方がおられました。

我が国の誇る民族派巨匠、冨田勲です。ドビッシーやホルストをシンセサイザーでアレンジしたアルバムは海外でも評価され、もはや「世界のトミタ」ですね。僕が彼を知ったのは昭和47年のNHK大河ドラマ「新平家物語」のテーマ音楽が好きになったからです。これです。

それから、NHK「きょうの料理」のテーマも彼の作品です。日本人でこれを知らない人はいないでしょう。

 

しかし彼の最高傑作はNHK番組「新日本紀行」のテーマではないでしょうか。君が代を思わせるメロディーと素朴なコードが日本人のこころをぐっととらえる不思議な力を持っているように思います。このメロディーを好きになってくれるなら、どこの国の人でも仲良くなれそう・・・みたいな親和力を秘めている気がいたします。「中央アジア・・・」のメロディーとは似ていないのですが、この「ぐっとくる」感じが、僕にはとても似ているように思えるのです。冨田勲さんを偉大なるアマチュアとは申しませんが、音大作曲科卒ではなく慶応大学文学部卒であるところはボロディンとどこか共通するように思います。

 

(こちらへどうぞ)

ボロディン 交響曲第2番ロ短調

 

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