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カテゴリー: 野球

決勝に戦力を一点集中した台湾あっぱれ!

2024 NOV 25 21:21:13 pm by 東 賢太郎

野球の試合はずいぶんやったが、大事なゲーム以外の勝った負けたはあんまり覚えてない。覚えてるのはやったぜ!とかありゃ~!という場面場面のほうで、楽勝で忘れちまうよりホームランやサヨナラヒットを打たれて負けた試合の方が、いまになってみるとあって良かったなあという気がしたりする。見物も同じだ。プレミア12の決勝、日本・台湾戦、悔しさはあるがこれもそのうち忘れる。大会28連勝の相手だの敵地で不利だの、しのほの言うなら負ける理由はいくらもあるが、ぜんぶ吹っ飛ばして圧勝した必殺スナイパーの台湾が強かった。こういう男たちが大好きだ、心から讃えたい。

前の試合、勝つには勝ったが9回に右翼席の奥の奥にぶち込まれたホームラン、あれは衝撃だった。東京ドームであそこまで伸びていった強烈な打球は松井を思い出した。恐るべしのリン・アンクア選手は代打出場だったが決勝では4番DHにすわり、またまた右翼ポールのはるか上を通過するあわや3ラン(判定でファール)の度肝を抜く大飛球を放った。あれが入っていたら7-0の大敗で、グラウンドにいる人間はこいつやばいなと本能的な恐怖を懐いたろう。相手にそういうのがひとりでもいるとチームごとの威圧感になる。前の試合で休ませた二人、1発目ホームランのリン・ジャーチェン(捕手)、致命的3ランのチェン・ジェシェン(センター)はその空気の中で思いっきり振ってきた。

もう一人、いやな空気を作ったのが決勝先発投手のリン・ユーミンだ。彼を使ったのは韓国戦だけだ(2点取られてるが)。負けてもいい前の試合、決勝進出が決まりそうになって台湾が急に予告先発を変更してもめた。ということは温存したリンが押しも押されぬエースだということで、そういう先入観で打席にたつ日本の打者は気持ちで押される。兵は詭道なり。相手にはそのぐらいの計算もあったのではないか。

前の試合、日本も小園、坂倉を休ませ、急場の先発投手から村林が先頭打者ホームランを叩き込んでお返しはしているしベンチも選手もすることはしたのだが、初見で打ちにくそうなフォームの左腕リン・ユーミンで5回ぐらいまで押さえこんでいるうちに戸郷をパワーで粉砕して優位に立とうという台湾の作戦が見事に当たってしまったというのが感想だ。

相手はきのうのリン・アンクアの一発を見ている。初回、初球から全員がマン振りし、ホームラン狙いで出鼻から圧を思いっきりかけて押し倒しに来た。振るといってもマン振りはそうそうできるものではない。台湾選手が鍛え上げられていたということで、あれだけ振られるとピッチャーは怖い。戸郷も気力負けせずに自慢のストレートで押すが、完璧に押し込んだというより急場をフォークでかわしてゼロに押さえていたのであり、力対力を続けてるとどこかで出合い頭の一発を食らいかねないなという感じはあった。

先発変更で虚を突かれた日本は嫌なムードを払拭すべく先取点をとりたい空気だったと思われる。ところが、初回、絶好調の2番小園が外角に1メートルも外れるくそボールのスライダーを完全に崩された空振り三振。主軸打者があれだと後続もびびる。いや~な予感がした。案の定、球が上下に暴れると思うと左打者のインコースがビシっと決まるつかみどころのないリン・ユーミンに翻弄され凡打の山。4回を終わって内野安打1本に封じこまれ空気が悪い。守りの方が台湾打線の圧で決壊する予兆はあった。

それがおきたのが5回表だ。先頭打者はリン・ジャーチェン。8番打者にまさかの右中間ホームラン。9番は三振したが、次の1番からは打順3巡目にはいる場面だ。一般に、5回前後にくる3巡目は相手の目が慣れてきている。それを抑えられればこっちの球威が優位ということで、7回前後からの4巡目もけっこうなんとかなって完投できる。しかし戸郷の完投など元から考えてないラストゲームなのだから3巡目の1番(左打者)からタイプの違う左の隅田に代えてよかった。少なくとも、その1番にヒットを打たれ2番に四球を出したところでどう考えても交代だった。何をこだわったんだろう?まあ井端は野手だし吉見コーチが言うべきだったと思う。

そこで食らった3番チェン・ジェシェンの3ランホームラン。作戦が面白いように決まった台湾はあれで勝ったと思っただろう、重盗、ホームスチールまで仕掛けて攻めまくる。その勢いのまま西武、ロッテを退団した2投手に2安打に抑えこまれ、バットをへし折られ、6回からはわずか1安打で抵抗の兆しなしの完敗である。あんなに打ちまくってきた打線が何でこうなっちゃうんだろうと思うが、そこが野球の面白いところだ。

負けはしたが侍Jは見事な野球で勝ち抜いてきた。岡本、村上らの不参加で長打力が不足する打線を、勝負強い小園、森下、牧、佐野を2,4,6,8番に置いて見事につなげ、素晴らしい得点力を発揮したのは井端監督の人選、配置の冴えだ。もっと強いチームにしてくれる期待しかない。WBCが楽しみだ。

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侍ジャパンに巨人2軍戦ボロ勝ちメンバー4人

2024 NOV 23 0:00:22 am by 東 賢太郎

中央大学がプロ・アマ交流戦で読売巨人軍の2軍にボロ勝ちしたニュースは記憶に新しい。

巨人2軍 7―20 中大(2020年8月13日、ジャイアンツ球場)

この試合の中大の先発メンバーがこれだ。

1・三 中前祐也
2・中 五十幡亮汰
3・右 森下翔太
4・二 牧秀悟
5・一 内山京祐
6・捕 古賀悠斗
7・DH 倉石匠己
8・左 坂巻尚哉
9・遊 中川拓紀
0・投 皆川喬涼

太字4人がプロ入りし、4人ともがこの度のプレミア12で侍ジャパンのメンバーだ(井端監督がこのことを知らなかったとは思えない)。4人のドラフト指名順位は2020年に五十幡(日ハム2位)が15番目、牧(横浜DeNA2位)が18番目、2021年に古賀(西武3位)が33番目、2022年に森下(阪神1位、浅野翔吾の外れ)が7番目だ。

その時の巨人2軍のスタメンはこれ。監督は阿部慎之助だ。

1・遊 増田陸
2・中 加藤脩平
3・DH 加藤壮太
4・一 菊田拡和
5・右 伊藤海斗
6・捕 山瀬慎之助
7・左 モタ
8・二 湯浅大
9・三 黒田響生
0・投 桜井俊貴

太字の3人以外はすでにプロ野球から消えた。

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DeNAの下剋上優勝に見るリーダーの大切さ

2024 NOV 4 22:22:56 pm by 東 賢太郎

今年のNPBは3位球団の下剋上優勝で終わった。2010年のロッテに続く史上2度目の快挙である。大相撲なら平幕優勝だろうか。

DeNAはペナントレースで広島カープに対して11勝14敗であり、8月まで首位だったカープファンとしてはそう苦になる相手ではなかった。ところが9月最初のカードである横浜スタジアムで森下、アドゥア、床田が計15失点し、東、ジャクソン、ケイのトリオに押さえ込まれて3連敗した。ここから何かが狂い始める。次の中日戦も2つ落として迎えた巨人戦、あの信じられぬ最終回9失点という勝利の方程式瓦解へと至ったのである。あの3連敗がなければカープは悪くても3位には残ったろうと思うし、DeNAはCSにも出場できなかったことになる。

このトリオが日本シリーズでも活躍し、ペイペイドームでの3連戦を3連勝で乗りきる立役者になった。今永、バウアー、エスコバーがぬけた穴埋めがジャクソン、ケイだったわけだが、ジャクソンはパイレーツからの移籍で、全球団に当てそこそこの成績だがエース級の存在感はなく、メッツからのケイは主に巨人に当てて1勝5敗だった投手だ。DeNAは正捕手で3割近く打っていた山本祐大もケガで欠き、強打のソフトバンクに立ち向かえるバッテリーとは思わなかった。

第1戦は有原の落ちる球に凡打の山、投げては先発ジャクソンが敬遠の挙句に投手有原にタイムリーを浴びてしまう。しかし4回で9三振を奪う球威は次回を予見させるものはあった。第2戦は先発大貫が早々に5失点。初戦は無安打だった山川が初回に2ランの4打数3安打と爆発して完敗。この時点で我が家ではすでに「電車道」(なすすべなく押し出される)が予想であり、世間も多分そんなものだったろう。ここでソフトバンクのコーチの「東より宮城の方が断然いい」発言がネット記事にのり、桑原が「悔しくないのか!」と選手ミーティングで檄を飛ばしていた。

桑原は31才、キャプテンの牧は26才だ。年上だろうが何だろうが口だけの野郎になんか誰もついていかない。有言実行。桑原は第3戦で初回いきなり2ベースを放ち、5回に勝ち越しのホームランを打った。第4戦でオースティン、宮崎も打ち第5戦で牧も打った。DeNAは打力のチームだが本来の姿に戻った。守りではナメられた東が10安打されながら気迫のストレートで内角を突いて1点に封じた。第2戦でのってしまった山川を封じることに全力を挙げたのが捕手戸柱で、第3戦から1本もヒットを打たせずSB打線のつながりを切ったのは見事というしかない。打力は12球団トップレベルなのだから投手力が加われば強いのはカープ3連戦が証明している。潜在力が開花してなかったジャクソン、ケイに火をつけたのは桑原、戸柱であろう。できれば戸柱にもMVPをあげたかった。

さらに筒香だ。第6戦は2度目の有原だった。初回にオースティンが併殺で嫌な終わり方をした2回、初戦でことごとく凡打だった落ちる球をホームランにして自信をくじいたのは大きい。先発大貫は前回の借りを返し、速球派でないのに全力のストレートで山川、栗原、周東から三振を奪っていた。細かいことだが、ショートの森はいい選手なんだが守備が下手だねえと見ていた。それが第6戦では自信に満ちており有原から2ベースを放ち、四球と思った低めのくそボールをストライクコールされながら次の高めに釣られず押し出しをもぎとった。22才が数日の試合で成長してる。いいリーダーがいると若手も伸びるのである。

ペナントレースで42も勝ち越したチームが僅差で3位に滑り込んだチームに負けてしまう是非の議論はあるが、ソフトバンクのパリーグ優勝の栄誉が損なわれるわけではないのは劇的な負けを喫したヤンキースと同じだ。日米ともに、野球は9回2死まで何が起こるかわからないという言葉を象徴するようなポストシーズンだった。ああいよいよ野球が終わってしまった。

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広島カープの9月大失速の原因

2024 OCT 14 12:12:21 pm by 東 賢太郎

今年のセリーグ順位の予想と結果はこうなった(今年のプロ野球予想)

 

〖予想〗      〖結果〗

  1.  巨人        巨人
  2.  阪神        阪神
  3.  DeNA            DeNA
  4.  中日        広島
  5.  広島           ヤクルト
  6.  ヤクルト         中日

 

中日を最下位にすれば全部当たりだった。巨人、阪神、DeNAはみな中日に大幅勝ちこしだが広島だけ大幅負けこしだ。去年に観に行ったナゴヤドームで森下があっけなく打たれて完敗し、中日>広島のイメージが焼きついて4位にしてしまったが、その強さは広島戦限定だったのだ。

セリーグ唯一の波乱はその広島が8月まで首位だったことだ。そこから9月に大失速して「何故だ?」という声があがっているが、戦力どおりの位置に回帰しただけだから不思議でも何でもない、広島の長打力不足は3月の予想時点で決定的だったから5位にしたのだ。波乱の要因はひとえに新井監督のマネジメント力である。長打なしで勝てる野球に徹し、投手陣の頑張りと矢野、小園の成長を引き出した。しかしそれにも限界はあった。ふたをあけてみればただでさえ4番不在なのに新外国人2人がクズ。結果としてチーム本塁打52本はDeNA、ヤクルトの半分という惨状で12球団最下位。大谷サンひとりの54本にも負けという想定以上のドツボ状態で、それでも波乱を生み出した新井の力と選手の気力には最大の賛辞を贈りたい。短打のみの貧打線で首位を走ったというのは、東京から大阪まで軽自動車で時速100キロ越えでぶっ飛ばすようなものであって、案の定、京都あたりでオーバーヒートして脱落ということだったのだ。

その脱落劇(9月の大失速)は並大抵のものでなく、5勝20敗の歴史的大敗(リーグタイ記録)であったのだからその原因も並のものでなかろうとするのが論理的思考というものだ。元野球選手である評論家の方々は「今年は暑かった。広島は屋外球場で不利だしビジターの移動距離も長く9月に疲れが出た」という。調べると今年8月の広島の平均気温は30.7度で観測史上最高だが、去年も30.0度と暑かったがカープは2位になっている。阪神の高校野球期間中の死のロードが京セラドーム使用で軽減して相対的に有利になった影響もいわれるが同球場のゲームは過去10年9試合で変化はなく、カープは阪神と12勝12敗の五分だからあまり関係はない。したがって、もっとはっきりした今年特有の理由があるはずだが、ネットで探すとそれと思われるものがあった。

プロ野球のホームランが少ない!チーム成績の推移から投高打低の原因を考察!

 今季は飛ばないボールで前半(シーズンの2/3消化時点まで)は本塁打が1日平均6本だったが、残りの1/3では8.3本と38%増えている。同記事は「前半戦は”飛ばない”ボールが採用されホームラン数が減少し、世間からの反応を受けて後半戦は従来のボールに戻した可能性が高い」と述べているが同感である。

広島投手陣の防御率は8月までトップであり、これは先発、セットアッパー、クローザーの頭数、球速、制球などボールの反発係数に依存しないアドバンテージ(優位性)が広島投手陣にあったことを示す。シーズン2/3時点(7月末)まではボールの低反発性によって他球団も長打が出ないため投高打低の傾向となり、カープの低い得点力は守備力や小技で補える範囲にとどまり首位にいられたのだ。ところが8月あたりに飛ぶボールへの変更があると例年どおりの状態になり、打撃力の劣位が補いきれなくなって、結果として投手に心身ともに疲弊蓄積が進んだのだろう。

その蓄積が限界に来ていたことが、あたかも「ダムの決壊」のように一気に表に出てしまったのがこのゲームだ(9月11日、マツダスタジアム)。

この試合、2位広島は2ゲーム差で首位巨人を追っていた。今年ブレークした先発アドゥワが6回まで巨人打線を散発2安打と完璧に押さえこみ、救援のハーンが剛速球で7、8回を零封し、9回は方程式どおり守護神・栗林がマウンドに立つ。ここで広島が反撃の狼煙となる勝利をあげることを疑う者はいなかっただろう。

ところが、何があったのか、栗林は制球がままならず四球、四球、安打、死球、安打、四球で6人から一死も取れず3失点で逆転を許す。無死満塁で救援した森浦も安打、安打、遊ライナー、安打、三振でさらに4失点。すでにご臨終感が漂っていたここで救援した大道が今季たった5安打の増田に三塁打を喫してさらに2失点。合計9失点。もう点数の問題ではなかった。マツダスタジアムは凍りつき、さすがに僕も顔面蒼白になった。なぜ鉄壁のカープリリーフ陣がこんなことになってしまったのだろう?

いまビデオを見返してみたが、栗林の球に特に異変があったようには見えない。ただ、今年は新人のころ全員が空振りだったフォークを投げない。落ちが悪く長打されるケースが増えたからと思われ、152キロの速球はファールされているのでクローザーに必須の空振りが取れない。捕手石原が釣り球で取りに行った吉川への高め速球を指にひっかけて死球とし(これはショックだ)、替わりの落ち玉であるカーブを岡本に三遊間に痛打されて(大きなショック)ウイニングショットがなくなったと思う。左足の着地点とボール交換に神経質なのは2点差ゆえのコントロールミスによる被弾を恐れたと思われ、自信なさそうに見えるから相手打者は勢いづいてしまう。そうしてイケイケになった巨人打線の「圧」に耐えきれなかったゆえの四死球に思える。栗林はこんなピッチャーではない。彼の心理の中で何かが起きたと思うしかない。

思い出すのは7年前の7月7日。息子と神宮球場で目撃したヤクルト戦。ここでもクローザーに転向初戦であったエース小川に何が起きたかという異変があった。5点ビハインドだった広島が9回にバティスタ、菊池、新井の本塁打で6点取って逆転勝ちし、いわゆる「七夕の奇跡」をおこしたのだ。カープ側スタンドはいけいけの嵐となり、ヤクルト側で観ていた我々もその渦に巻き込まれていた。

しかもあれは+6点、今度のカープは-9点でマグニチュードは1.5倍。選手の気持ちが切れたとは思わないが、チーム競技には潜在的な集団心理が「空気」になって働くものだ。4番が三球三振してこのピッチャー打てないなとなると全員が打てなくなる。元気印が二盗、三盗に成功したりすると打線に火がついて大勝したりもする。絶対的守護神がついに崩壊したこの試合、カープベンチの集団心理がぽきっと折れてしまったかどうか、そうであっても不思議でないし、集団心理は個々人は得てして気がついてないものである。新井監督は7年前の7月7日に自分のホームランでそれを引き起こし、効果を知っている。それをポジティブに向けるように懸命にマネージして8月まで大成功だったが、この敗戦はどうしようもないものだったろう。

そうしたらきのうのパリーグのCS第2戦(ロッテ対日ハム)でまたまた強烈なものを見た。初戦は佐々木朗希に押さえられた日ハムはこの日も2-1とビハインドで9回を迎える。守護神の益田がマウンドに立ち、2安打している4番レイエスを三振に取った所でロッテのファイナルステージ進出は見えた。ところがそうではなかった。そこで出た5番万波の起死回生のホームラン、これはメジャーも入れてかつて目撃したベスト5にはいる凄まじい一撃で、ライナーで左翼中段に突き刺さり、当たり前のような顔をしている万波の表情も含めてロッテベンチの度肝を抜いて集団心理に果てしない恐怖感を与えたと想像する(「七夕の奇跡」のバティスタの一発のように)。絶体絶命のあの場面で集中して平然とあの当たりを打てる万波の資質は破格で、そういうものは持って生まれるものであって練習を積んでもできないから相手にそういう選手がいると気持ちで押される。そして延長10回、ロッテがマウンドに送った澤村は2三振を取るが松本がしぶとく四球をもぎとるとスタンドは押せ押せで沸く。ここで出てくる当たればホームランの清宮は怖い。澤村は長打が出ないコースでヒットにとどめたが、1,3塁で迎えた淺間は力でねじ伏せにいったのだろうか外角高めのくそボールを痛打されサヨナラだ。

プロ野球、人生の記憶に残る3試合

以上、「ここぞ」で吉と出るか凶と出るかの人間ドラマである。公衆の凝視する面前で一瞬でそれがおきる野球は5秒前までぴんぴんしていた敗者には残酷だが見物人にはこんな面白いものはない。パンとサーカス。ローマはこれをライオンと奴隷の戦闘としてコロッセウムで大衆に見せた。治世の道具として始まったコンセプトは今も生き、その目的で我が国にGHQが置いて行ったこの競技の面白さには抗し難い。保守だと言ってる人間でこのアンビバレントな気持ちを分かる者はどれだけいるんだろう。

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今年の野球は大谷サンに尽きる

2024 OCT 1 16:16:52 pm by 東 賢太郎

飛ばない球か何だか原因は知らないが、今年はNPBはホームランが激減し、ちんまりとしみったれた野球だった感は否めない。1-0、2-1の真の投手戦はあるにはあったが、そのスコアでも実は貧打戦というのも多く、それなら貧投の乱打戦のほうがよほどエキサイティングだ。4番打者がおらず目下のホームラン数が12球団最低の51である広島カープが8月までセリーグ首位でいられたのは、他チームもホームランが出ないためアラが目立たなかったメリットが大きい。9月に投手が力尽きるや20敗と歴史的大敗を喫してCS進出すら危うくなったいま、残り4試合あるにもかかわらず「大谷サンの54本を上回らない方に賭けたい」とファンに言わしむる非常事態だが、それが今年のカープの地力であって現場は本当によくやったとねぎらいたい。丸や鈴木誠也などホームランを打ち出すと引き抜かれてコスパが悪いせいかドラフトで有力な4番候補を採らず、ここ何年もコストをケチった外人のバッターたるや死屍累々の惨状のうえ今年は結果的にキズモノをつかまされる体たらくだった。これはフロントの大罪であり、米国のスカウトは問答無用で首だろう。

日米の差というと、日本人打者で唯一ホームランで注目された松井秀喜ですら日本で50ホーマーを打ったがメジャーでは最高31本に終わった。現役では鈴木誠也も日本で38本だがメジャーで今年21だ。ざっくりホームランは半減するようだ。ところが大谷は日本で22本だったのが54本と、あっさり法則を覆している。この人、体が強い。米国人と並んでもでかい。巨人なんて球団が名のるぐらい野球はでかい方が強い。しかしそれだけではメジャーでは人並みだ。この成績を出せるというのはそれだけではない、何かは知らねど強烈なメンタルというか生活態度というか人間性、いや哲学とでもいうべき「すさまじきもの」が内面にあると仮定しないと説明がつかないように思う。

一説によると日米の野球にぬぐいがたい彼我の差があったのは昔のこととされる。本当にそうかどうかは選手しかわからないが、大谷を見ているとそう思えてくる。現に3Aで30本塁打した打者が広島に2人来たが、どっちも日本の投手をからっきし打てなかった。日本で19本打った一人は韓国に行って今年50本近く打ったから、短期決戦はともかく長丁場のレースではレベルの違いはいまだ歴然とあると思う。3Aで30本塁打でもメジャーに上がれない。だから年俸がお安い日本にやって来たのだ。ということは3Aとメジャーはその平均年収の差と同じぐらいレベルが違うと思われ、プライシング(値付け=年俸)には市場原理がほぼ正常に働いている可能性が高い。ということは、「54-59」でメジャーを熱狂させた大谷サンのしたことはNPBの選手の年俸平均からして明らかに彼らの想像を絶するもの(要は全然無理)であるという結論になる。

愚生ごときにあってはあたかもUFOでも出たかの如き超常現象を眺める気分であって、メジャー球団のファンでもないから世間様が騒いでるような胸騒ぎを覚えたことも一度もなく、ロスに行ってナマを観ようかなんて欲求も覚えず、至ってクールな一年であった。逆張り型でひねくれているせいもあろうが、経験主義的人間であるので経験のないホームランも盗塁もあんまり実感がないことはある。やったことないサッカーでハットトリック何回といわれても一抹の感動もないが、自分の頭がそれと変わらないと思っている感じがある。

それでもこんな男がかつていたろうかと驚嘆している点がひとつある。とんでもないトレードマネーである。我が業界、カネは紙の上の数字にすぎない。扱うカネが何千億だろうと何の感情もないようにトレーニングされており、もらう賞与もン億円ぐらいは並であって感覚は世間ずれしていると思われる。業界は異なるもののその一点において、彼が1000億円もらった現実はホームラン、盗塁よりは実感のかけらぐらいはある。そんな金額が自分の通帳に載ってくれば、その裏腹の責任の巨大さからくるプレッシャーたるや地球上で最大級のものと想像され、我が身であれば発狂して不思議でないと身震いがするのである。

それを見てか知ってか、ちゃんと発狂したフツーの人がいた。通訳だ。この事件、検察がその気になれば危なかったかもしれぬ。嫉妬からくる悪意と法的なプレッシャーがあったと想像するし、それを振り切った大きな力が働いたにしても、未曽有の凶事がプレーに支障なかった事実は尋常でない。しかも、そのプレーということでいえば、今季はリハビリを行いながら打者オンリーで臨む初の一刀流のシーズンだった。ハンディを乗り越えたのであって、54ホーマー打ったのと同じほどそれも尋常でない。投手として育った彼が日本の風土で盗塁の名手だったはずはなく、新たに挑戦したのだ。そしてこの記録を出し、「大きく期待を上回ってくれた、クレイジーなことだ」とドジャースGMに言わしめた。超一流のスナイパーと評するしかない。

イチローの数字も超人的だが彼は人間も超人的に思えるオーラがあり、打席で集中すると投手に伝わる殺気のようなものがあった。大谷は体のサイズはともかく人となりは一見その辺にいる普通の好青年に見え、殺気などとはほど遠い感じがするのが不思議でならない。思わず親しみをこめて「サン」をつけたくなるほど普通感が半端でないのであって、そもそもこんな野球選手は日本にはいなかった。言動からしても賢そうで東大の教室にいても違和感なく見えるのも恐るべしだ。あの顔だから投手が油断して甘い球を投げてしまうのだろうかとさえ思ってしまうが、この実績なのだからそんなはずはない。

1994年生まれとなると超人類が出現しているのだろうか。このことをもって日本は大丈夫だ、元気を出そうといっても出るものではないぐらい図抜けた現象ではあるが、彼は片言の英語でなく今でも通訳を通して堂々と日本語でインタビューを受けており、発言もアメリカに媚びる様子は微塵もない。立派な日本男児だ。アメリカ人にとっては道を歩いてる普通の人にとってもたかが野球されど野球である。真の勝者は雄たけびを上げるのでなく、ああいう清々しい姿をしているのかもしれない。

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思い出となった第100回夏の甲子園大会

2024 AUG 23 15:15:29 pm by 東 賢太郎

第100回の夏の甲子園大会が終わった。昨年の慶応旋風がつい先日のようだが、今年は京都国際高校と関東第一高校の息詰まる素晴らしい決勝戦となり、0-0でタイブレークとなり、2-1で京都国際が優勝した。

ネット裏のすぐ目の前で初戦を見た関東第一高校が接戦をどんどん勝ち抜いて決勝に進出したのも嬉しかったし、応援した北陸高校が強かったこともよくわかった。最高の思い出になった。

京都国際高校。おめでとう、強かった。僕はピッチャーしか興味ない。それもストレート。それも球速でなく球質である。毎年見てるが、あ、これはいいな、打てないなと思うのは大会で一人か二人しかいない。それがこの高校は二人いた。

どの試合だったか、背番号11番の西村投手を見た。9回になっても135キロにみんな差し込まれており、いつまでも見ていたいピッチャーだと思った。彼はチェンジアップばかりが評判だが、そもそも直球が速くないと通用しない。

ところが決勝で初めて見た1番の中崎の135キロはもっと凄かった。空振りを見て元巨人の杉内を思い出した。4番高橋を空振り三振に取ったインローのクロスファイヤーは球威も制球も鳥肌ものだ、あれはプロでも打てんと見た。

関東第一高校は先発・10番の畠中。走者を出して押されながらも断ち切って6回零封した胆力が見事。救援の1番・坂井の148キロは打たれなかった。タイブレークの押し出しで坂井を替えなくてもよかったかなと思うが、まあ結果論だ。

両校、プロがあり得る京都国際の両左腕、関東一高の坂井とサード高橋はいたがスターは他チームもいた。その中で両校は投打のバランスが良く、ここぞの場面の走塁、堅守で精神力も鍛え抜かれていた。いい野球を見せていただいた。

甲子園に行けた、感動、感謝!

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甲子園に行けた、感動、感謝!

2024 AUG 13 17:17:48 pm by 東 賢太郎

このブログは8月6日。北陸高校と関東一高の組み合わせを縁だと書いた。

夏が来れば思い出す はるかで遠い高校野球

そうしたら10日に「チケット取れました」とメールが。

きのう、おっとり刀で新横浜を朝8時の新幹線に。12時について昼飯。今年から暑さ対策で前半、後半で開始時間の間をとる。皆さんと喫茶で時間調整して前の試合の5回あたりに球場に入る。なんとバックネット裏の一番前だ、ちょっと良すぎねえか。

すぐそこで野球やってる。というか、あっというまに自分もやってる感に没入。シューっとボールが空気を切り裂き、パーンとピストルみたいなミットの音が炸裂。ボールやバットの重さまで伝わる。蔵の奥に50年眠っていた宝ものが出てきた。

関東一はでかい。モモと尻がすごい。現場の人間はまずそういう処に目が行く。

この子が友人の子息、大地くん。

くるぶしの骨折で背番号が14になったが試合には出てたというから立派である。本番は4でよかった。レギュラーで甲子園だけでも全国100校で1校、関東一高のプロ注目のエース坂井投手から快心のヒットは一生ものの勲章である。野球センス抜群と見たが親父さんによると大学では野球やらない。金融界の大物を目指すか。

ずっと三塁ベンチにいたような錯覚に陥ってしまい、仕事が慌ただしいので日帰りしたが一晩寝ても心がざわついてる。親父さんと大地くんに感謝しかない。

 

PS

行きも帰りも南海トラフ地震のおそれとやらで新幹線が遅れ、帰宅は0時を回った。そういえば去年の今頃は岐阜に出張し、初めての名古屋バンテリンドームで広島対中日を見たっけと思い出して日記を見ると、この甲子園と同じ8月12日のことだった。

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広島カープついに阪神・大竹の牙城を崩す

2024 AUG 11 2:02:22 am by 東 賢太郎

去年から8連敗していた阪神の大竹。一人の投手にこんなにやられるのは珍しいが、とうとう5-1で勝った。普通の勝ちの10倍ぐらい嬉しく大層気分が良い。大竹の真骨頂はコントロールと緩急で、変化球は遅いが切れが良く、80キロの山なりまで操られるから130キロ台のストレートに長身からスピンがかかって手元で伸びるとほとんどの打者が差し込まれる。しかし彼の防御率は3なのだ。他チームには打たれてる。なぜ広島だけ打てないか謎だったが、ともあれ昨日はやっとこさで攻略した。これは今後の阪神戦に意味を持つ勝利だろう。

目下カープは巨人と阪神に2ゲーム差をつけて首位だ。いつまで続くかと思うが僅差を守り勝つパターンが板についてきたのは投手が頑張っているのが大きい。先発は大瀬良、森下、床田、九里の4枚が盤石で、残り2枠にアドゥワ(巨人を完封)、玉村(DNAに完投勝ち)がはまったと思ったら、野村、森が5回を零封して見せ、ハーンを加えてなんと先発は9枚になった。毎年、夏に息切れしたのが12球団でもトップクラスの贅沢な布陣だ。後ろも左が森浦、ハーン、塹江、黒原は盤石、右は島内、矢崎、河野、益田、コルニエルと左よりは落ちるが十分だろう。そしてクローザーに栗林だから強力だ。

セリーグで得点は5位、ホームランは6位と貧打は相変わらずで、外人2人が大外れだったフロントの責任は大きいが、新井は逆手にとってミート率の高い打線と機動力を鍛え上げ、取った少ない得点を守り勝つ野球に徹している。何事も極めれば武器になるのだ。投手陣のスペックで失点は1位(最小)、防御率も1位に現れているが、これは守備の充実が極めて大きい。キーマンはなんといってもショートに定着した矢野 雅哉だ。菊池、矢野の二遊間、これは文句なく12球団最高である。2021年にこう書いた。

新人の矢野にすごく期待している。今日も大道が2本打たれて1,2塁にして、代打デスパイネのショートゴロのさばき方が良かった。ちょっと嫌な所にぼてぼてが飛んだが、うまいというより二塁トスのあの手慣れた感じは投手目線で頼もしく感じた。野球頭が良くて足も速そうで、ああいうのが敵にいるだけで圧を感じるタイプと思う(新人の頃の菊池がまさにそうだった)。

広島カープの新人4人は当たりである

矢野は打撃も進化している。きのうも大竹の遅球を流して2塁打にした。運動神経が半端でなく育英高-亜細亜大で鍛えまくられているが、おそらく大変な努力家であるのだろう。菊池と矢野、ここまで超絶的にうまいと守備だけでレギュラーが取れてしまう異次元の人達で、ノーヒットでも美技ひとつでピッチャーを鼓舞するから打点1ぐらいの価値があると思う。逆に、プロでもアマでも、守備の下手なチームで強いというのはあんまり見ない。球場に出かけてポカーンとホームランが出れば楽しいが、僕が金払ってきてよかったといつも思うのは守備だ。

菊池が出てきた2013年ごろに強いカープを予感した。16年から3連覇した。矢野にそう思ったのは3年前。ひょっとすると期待できるかもしれない。

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夏が来れば思い出す はるかで遠い高校野球

2024 AUG 6 23:23:17 pm by 東 賢太郎

週末にマッサージに行こうと外へ出たら太陽がとても熱い。真夏の香港のゴルフ場にもそれはあった。ティーグラウンドで頭がぼーっとして、空を見上げるといつもそれがあった。そういえば、先週に来社してくれたシンガポール在住のS氏が、「暑いですね、早く帰りたいです」と笑っていた。

その日も、「熱中症、危ないからね、ちゃんと水のむのよ」と家族が心配顔で送り出してくれる。それってなに、病気なの?そんなの昔なかったぞ、デング熱と同じぐらい縁がないなと思ってしまい、「俺、高校球児なんで」と毎度毎度の答えをする。もうトシなんだからねと返されるが、ぜんぜんトシな体感もない。これ、一度も死んでないから死なないと言ってるのだが。

そのたびに、自分の深層心理に突き刺さった棘はそれなんだと悟る。だからこの時期になると、性懲りもなく高校野球のブログになる。たいした戦績もないのに何故かというと、いきなり直球とカーブだけの “草野球のまんま” で通用したからだ。おっかない3年生に夏合宿で自己流が認められた。なんだ、たいしたことないな。以来、すべて独学自己流でやっていくきっかけになったし、大げさにいうなら自我の確立になったとは思うが、実は井の中の蛙で天狗になっていただけだった。

有頂天もつかの間、強豪には通用せず、無理がたたって高2で故障して投手を断念。野球はやむなく10年ご無沙汰となり、27才のときに会社で呼び出されて出たニューヨークの大会でMVPになった。でも高1の自分がそこにいたらMVPは持っていかれた、だってはるかに球は速かったんだから。そんな高1が天狗になったのは仕方ないが、1年であっという間に元の木阿弥だ。こんなみじめな不成功体験を弱冠16才で味わった人はそう多くないだろう。

1年生でエースというのは2年生以上ということで、飛び級なのだ。そんな才能は他には微塵もない。もし勉強で1番になれば、1年でいくら落ちても10番ぐらいだろう。ほかのスポーツだって習い事だって、物事はそう急激にうまくなったり下手になったりということがない。それが激痛で数メートルも投げられず、瞬時にビリになってしまった。鍼や電気治療でも回復しなかった。やむなく痛くない投げ方を見つけたが、何をしても球速は二度と戻らなかった。

そうするうち、恐れていた日がやってきた。背番号1は新エースのN君に渡された。僕は大降格の14である。2番手投手は10だがそれは意味がある。新人で1をもらったとき、それをユニホームの背中に縫いながら母親が喜んだのを思いだした。見せるのが嫌で帰宅がずいぶん遅くなって心配された。それを差し出して「カープの外木場投手の背番号だ」と強がったものだが、母は何も言わず縫ってくれた。14は二桁ならどれでもいいよと言われ自分で選んだのだった。

控え投手として投球練習はしていたが、先発は常にエースだ。嫌な記憶として消されたのだろうかあまり登板した覚えがない。かすかに残っているのは、センターからノーバンのストライクで二塁走者をホームで刺したのと、ライトを守っていてエースが不調であり、監督が肩を温めろとベンチ前でぐるぐる腕を回してリリーフに立たされたぐらいであり、その結果も相手校も忘れてる。快速球左腕に2安打完封された聖学院戦では代打でセンターオーバーの3塁打も打ったが、甲子園常連組の日大一高戦の代打では一ゴロ併殺打だった。

年が明けてだから3月あたりだったか、1年ぶりに長くマウンドに立つ試合があった。墨田工業戦だ。エースが乱調でいきなり3点取られ、1回無死満塁を残したところでリリーフのお呼びがかかった。冬に走りこんで復調の兆しはあり、ピンチは切り抜けて9回までゼロに封じたが、ついに相手がベンチ前で円陣を組み、監督の「いいか、あのピッチャー、コントロールいいからな云々」が聞こえた。確かにこの試合、新企画のセットポジションで投げ、外角低めがビタビタ決まりあまり打たれなかったが、こっちが審判を出しており外角はちょっと甘めだった気がしたから実力かどうかはわからなかった。

ということで試合はそのまんま何も起きずに3-0で負けたが、投手は投手の世界があってとても満足していた。試合終了後に水道で頭を冷やしていると相手チームがナイスピッチングと声をかけてくれた。彼らは打席で僕の球を見ている。物凄く嬉しかった。これがあって数日、何を考え何がどうだったかはすっかり忘れているが、僕はその後の人生にまで影響する重大な決断を下していた。部室で全員の前で「野球部を辞める」と宣言したのだ。東大に入りたいから勉強すると理由を述べたから誰も声はなかったが、1年下のH君だけが墨田工業戦は実質は完封だったという理由で反対した。いまもありがとうと思っている。有終の美にしたかったわけではないが、1年ぶりの好投だったあの試合がなければ高校野球とお別れするふんぎりがついたかどうかわからない。

二度あることは三度あるだ。ニューヨークでまたあった。軟式だが元プロや六大学もいる45チーム参加のトーナメントで全試合投げて準決勝まで行った。3位決定戦で元巨人、早実が主力のチームに完投し4-2で負けたが記録を見ると被安打2だった。3球勝負で早実の4番が見逃した球は米国人の主審が派手なストライクコールをくれ、打者が即ベンチに向かう人生最高の外角低めストレートだった。ああ終わったなとネット裏でひとりぼーっとしていたら、優勝チームの捕手の方がこられ「あの試合(準決勝)、肩痛かったよね?」ときかれ「ああ、はい」とうなづくと、「今日の出来だったらウチも危なかったよ」とだけ言ってたち去られ、涙が出るほど感動した。人生最後のマウンドだった。これができたのも、硬式野球最後の試合の残像が最高だったから自信が残っていたと思っている。みんなに迷惑をかけたが恩返しになったろうか。

墨田工業は今の校名は墨田工科高校だが、あれ以来、毎年夏は気にしている。するとどうだ、今年の東東京大会2回戦でなんと母校・九段中等と対戦になり、127校あるうちでの顔合わせには因縁を感じてしまった。惜しくも7-6で母校は敗退し、墨田工科も3回戦で日体大荏原に8-0で負けた。荏原は淑徳に3-1で負け、淑徳は帝京に10-0で負け、帝京は東京に13-3で勝ったが決勝で関東一に8-5で負けた。そしていよいよ明日から甲子園大会だが、その関東一は友人のご子息がセカンドを守る北陸高校と12日の第4試合で対戦が決まった。これも奇縁だ。

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野球が男の闘いであることを見た試合

2024 JUL 19 22:22:48 pm by 東 賢太郎

野球というのはスポーツであるが、いろんな人間ドラマがある。僕はガス欠気味のカープの打者がいい球をすんなり見逃したり悪球につられて凡フライだったりすると真面目に怒ってるし、キャッチャーのサインやコースがやばいと思った瞬間にホームランだったりするとこの馬鹿野郎と本気で怒鳴ってる。他人事なのだけど、ここぞは大事だ絶対勝てというのが体に染みついてる。だからパブロフの犬みたいに反射してしまうのだ。

先日7月17日、ハマスタでの横浜DeNA戦、相手は8連勝中のエース東であり、こっちは森下とはいえ左に激貧のカープ打線だからなんとなく分が悪そうだ。解説によると小園だけは東を8割も打っており(この日も2安打)、ならば他の奴は小園の爪の垢でも煎じて飲めと思うのだがやっぱり打てない。カープの貧打というのは伝統のお家芸で50年前から抗体ができてはいるが、丸、鈴木誠也、バティスタというOPS1.0の超絶クリーンアップ時代もあったからストレスがたまる。

0-0のまま投手戦で迎えた6回の表。9番会沢が三ゴロ、1番秋山が遊直であっさり二死。この軽いタッチが何とも頼りない。すると、そういわんばかりに森下が早々にベンチ前でキャッチボールを始めた。2,3番は矢野、上本。長打なしで点は入らんな。僕も思ったが彼も思ったんだろうね、3割打者だからね、野手といえど上から目線で見ていても失礼じゃない、結果ありきのプロだから。

その裏だ。森下の球がやや浮き始める。3安打され、二死満塁で渡会を迎えた。この新人、立派というか態度が微妙にでかい。開幕戦でホームランを打ってカープをなめてる感じでありどうもいけ好かない。森下もこの野郎、図に乗るんじゃねえぞと思ってるだろう。球速が上がる。高めストレートでファウルで粘られたが、最後はインローでなすすべなしの空振り三振にねじ伏せて格の差をみせつけた。いやあ痛快だ、森下君、狙ったね、男だね。

これは次なるドラマへの序章だった。チェンジで7回表だ。上本、小園のヒットとエラーで無死二三塁の大チャンス。ところが野間、菊池がタッチアップもできない外野フライであっさりツーアウト。がっくりだ。ここで開幕から欠場だった7番シャイナー君である。ちょっといい人すぎに見えるおとなし目の男だ。DeNAはコーチがマウンドに行く。8番は森下だ。代打の切り札・松山は左だ。であるのに東は敬遠せず勝負に出た。シャイナーはナメられたのである。森下の気迫の奪三振を一塁で見て気合も入っていただろう、二球目の高めストレートをバックスクリーン左に会心のホームランを叩きこんだ。

3-0でカープの完封勝ち。若者の皆さん、長い人生、こうやってここぞで負けちゃいけない時が誰でもある。そこで勝つかどうかはでかいですよ。

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