シューマン交響曲第3番変ホ長調作品97 「ライン」(第2楽章)
2013 MAR 5 0:00:39 am by 東 賢太郎
第2楽章はスケルツォ(きわめて中庸のテンポで)という表題ですが、諧謔的なスケルツォとは程遠い音楽に思います。ベートーベンの交響曲の精神を受け継いでいるよ、という宣言でしょうか。田園交響曲の第3楽章の農民のダンスとの近親性を表そうとしているのでしょうか。これはドイツ、オーストリアのレントラーという舞曲のようです(映画「サウンド・オブ・ミュージック」で、マリアとトラップ大佐が踊ったのがレントラーだそうです)。上の写真のようなものです。
28歳での初めてのライン船旅のおりに、たしかコブレンツだったと思いますが、ツアーは昼食休憩のためいったん下船となりました。満腹になり、おいしい白ワインでみなさんほろ酔い気分になると、楽士たちがきてダンスが始まりました。輪になって手をつないで。もちろん唯一の東洋人だった僕と家内も引っぱりこまれました。とても楽しかった。小学校の頃、フォークダンスなるものを踊らされましたが、そういえばこんな感じの音楽だったかもしれません。ドレスデンからデュッセルドルフの楽長に赴任し大歓迎されたというシューマン夫妻もこんな風に踊ったのでしょうか。
第2楽章は、まず最初にヴィオラ、チェロ、ファゴットがレントラー情緒の田舎風旋律を奏でます。伴奏も泥臭いズンチャッチャのリズム。同じ3拍子でも、間違ってもウィンナワルツみたいに小粋に跳ねたりはしません。調性も能天気に明るいだけのハ長調です。壮麗な躍動感と緊張感に満ち満ちた第1楽章からの強烈な落差には、おもわずズッコケるほどです。ところが、それを2回繰り返すと、優美でロマンティックな「ミニ中間部」が出てくる。これです。
こうしてピアノ譜にして見ると「トロイメライ」か何かのようで、実にシューマネスクです。田舎踊りに不意に現れた乙女という感じです。この部分はフルート、オーボエ、ヴァイオリンというまったく違う楽器群が旋律を奏でますが、冒頭部レントラーとは見事な対照であり、シューマンの独特な音色感覚を発見します。オーケストレーションが下手だなどと言っている方がなんとも稚拙な耳なのではないかと思います。
もうひとつだけ楽譜を見てください。この楽章で好きなのはここです。展開部でレントラー主題がイ長調(A)で出てきますが、楽譜2段目でふっとイ短調(Am)になるのです。 この曲は同名長調と短調の交代が和声のキーポイントの一つになっていますが、それはその最もマジカルでポエティックな一例です。ここのたった3小節の和声的経過句で、突然にハ長調のホルンによる勇壮なソ・シ・ド・ミ・ファ・ソを呼び覚ましてしまうという魔法のような瞬間は、ブルックナーの数少ない、最も神憑った(がかった)和声進行を例外として僕は聴いたことがありません。
この交響曲は全曲にわたってこうした神憑りが頻出し、シューマンに何かが憑りついていたのではないかと思うばかりです。これは第3番となっていますが、4番は作曲順では2番なのでシューマン最後の交響曲です。彼がデュッセルドルフでこの直前に書いたチェロ協奏曲は、これも僕の愛聴曲なのですが、やはり神憑った部分と、精神を病んでいる風情の部分が混在しています。しかしこの曲に病んだ部分はほとんどありません(第3楽章については次回)。ラインランドでの生活が彼の精神を健康な方向に引き戻していたのでしょうか。しかし、悲しいことに、結局彼はそんなに好きだったライン川に投身自殺を図るのであり、最期をボン近郊のエンデニヒの精神病院で迎えているのです。
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