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ボロディン 交響詩「中央アジアの草原にて」

2013 MAR 30 23:23:23 pm by 東 賢太郎

 

アレクサンドル・ボロディンこそ、理系作曲家のチャンピオンであります。

この反応は、有機化学における化学反応の一種で、カルボン酸の銀塩(RCO2Ag)に臭素 (Br2) を作用させ、有機臭素化物 (RBr) を得る反応である。

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ロシアのアレクサンドル・ボロディン現在では作曲家として著名だが、本職は化学者であった)にちなみ、ボロディン反応  (Borodin reaction) とも呼ばれる (Wiki)。

 

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シュバイツァーのオルガン、アインシュタインのバイオリンは有名ですが、サイエンスと音楽の両方で歴史に名を刻んだのはこのボロディンしかいません。サンクト・ペテルブルグ大学医学部首席卒業の医者でもありましたが、それが霞んでしまうほどのスーパーマンです。ちなみに彼はグルジア皇室の皇太子の私生児でした。作曲を習ったのは30歳からで生計は化学者としてたてていたので自らを「日曜日の作曲家」と呼んでいたそうです。偉大なるアマチュアといっていいのかもしれませんが、音楽史では「ロシア五人組」といって次のような人たちと一緒にロシアの民族主義的なグループの一員とされています。

 

「 展覧会の絵」のムソルグスキー、「シェラザード」のリムスキー・コルサコフら錚々たる人たちに並んでしまうアマチュア!!指揮者のワインガルトナーは、「ロシアやロシア人の国民性を知ろうと思えば、チャイコフスキーの悲愴交響曲とボロディンの第2交響曲を聴くだけで十分だ」とまで言っています。こんなアマチュアになれたらなあと憧れてしまいます。

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さて、前回のブログで、僕がクラシックに引き込まれたのがこのボロディンが作曲した交響詩「中央アジアの草原にて」だったことを書きました。この曲は1880年に(ボロディン47歳)ロシア皇帝アレクサンドル2世即位25周年を記念した祝典のために書かれました。スコアにはこのように書き込まれています。

 

「見渡す限りはてしない中央アジアの野原は静まりかえり、聞こえてくるのはロシアの歌声。次第に近づく馬やラクダの群れの足音にまじって、耳なれない東洋ふうの旋律が聞こえてくる。ロシアの兵士に護衛された隊商たちがやってくる。そして、護られている安心感を足取りに見せて進み、しだいに遠ざかっていく。ロシアの歌と東洋風の旋律がとけあって、草原をわたる風になごりを止めながら…」

 

この「ロシアの歌」と「東洋風の旋律」と「ラクダの足音」がたびたび転調を重ね、最後は重なり合っていく。まあ構造的にはそれだけの曲です。しかしなぜか、耳に残るのです。メロディーも和声も 。なにか故郷の歌でも聴いたような、初めて聴いても懐かしさにジーンとくるものを感じます。シルクロードでつながる日本人の遺伝子の記憶みたいなものなのでしょうか。

中央アジアというのは一般には下の地図の色つきのあたりを示すようです。この曲の作曲意図が「ロシアの東方への版図拡大を祝賀すること」だったようですから、ボロディンの血筋であるグルジアからカスピ海をこえたこのあたりを描いたものなのかもしれません。グルジア自体が人種のるつぼのような多民族国家ですから、ボロディンの血と感性を通じてエキゾチックな香りがむんむんしてくる音楽になっているのかもしれません。124_1_1

 

 

 

 

 

 

 

 

難しいことはぬきにしましょう。名曲アルバム風のこの画像をお借りして、じっくりとすばらしい風景と音楽を味わってください。

 

(追記、3月15日)

ダッタン人の踊り(歌劇「イーゴリ公」より)

ボロディンでクラシックに親しまれる方のためにこの曲を書かないわけには参りません。なにせ自分がボロディンのおかげで引きこまれたんですから。ベンチャーズに「パラダイス・ア・ゴーゴー」という曲があったことはマニアでないとご存じないかもしれませんが、フリークの小学生であった僕はギターで弾いておりました。これです。この場違いなムードの写真、アメリカの昭和という感じでなんともいえんですね。

そしてもうひとつ、トニー・ベネットの「ストレンジャーズ・イン・パラダイス」でありましょう、もっと有名なのは。

それがこれ、 ダッタン人の踊りの「娘達の踊り」(最初の曲です)だったんですね、クラシックが一気に身近になってしまいました。

(テキサスの高校生の子たち、うまいですね!)

僕がこれを覚えた演奏、エルネスト・アンセルメ / スイス・ロマンド管弦楽団です。原曲はオペラですから「娘達の踊り」は本来合唱入りなんです(上は管弦楽版)。彼の最晩年のシェラザードと同じく見事な楽器のバランスを保ちながら平静なテンポで進み、ff で爆発というパターンです。フレンチでチャーミングな音響の木管があでやかな色気を発し、「全員の踊り」のすさまじいバスドラの威力は当時快感でしたが今聴いてもぞくぞくしますね。

 

(こちらへどうぞ)

ボロディンと冨田勲

Categories:______ボロディン, ______ロシア音楽, ______作品について, ______作曲家について, クラシック音楽

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