若者の欲望が日本を救う
2013 MAY 26 14:14:12 pm by 東 賢太郎
フランスのTV番組でタコの知能研究をするナポリの研究所の実験を見た。透明なボックスにカニを入れる。それを取るにはノウハウがいる。それを知っている先輩タコがボックス内のカニをうまく食べる。それをガラスで仕切った隣の水槽から新米タコに見せる。さて新米がそのノウハウを学ぶかどうか?答えはイエスだ。タコの知能は高い。こういう結論になる。確かにそうだが、そこには重要な仮定が見落とされている。新米もカニを食べたいという欲望があることだ。あれはまずそうだ、オレは食いたくない。だから学ばない。それも立派な知能だ。
若者は欲望がある。少なくとも年寄よりは。今の大学生の車の保有率は我々世代の3分の1だ。おカネの問題だろうか。いや我々もなかった。これは単なる嗜好の変化なのだろうか・・・。人生観、結婚観や金銭感覚など、どうも欲望が減っている気がしてならない。こうやってシニアが「今の若者は・・・」と揶揄する図式は古代からある人類の困った性癖だが、そこに時代の変化を見る鍵があると思う。同じカニをうまそうだと思わないタコが出現しているとしたら大きな、ある意味で決定的な時代の断絶を感じる。
安倍政権の批判勢力は第3の矢に焦点を移している。成長戦略がないじゃないか!これはおかしい。それは民間のやることだ。役人が考えた事業でうまくいったものを僕は知らない。そもそもそういう才のある人は役所に就職しない。政府の仕事は民間を邪魔しないことだ。しかしそう思って規制を緩和しても、いくら金融緩和しても、民間に「欲望」がなくなると何も起きないのだ。
領土にしてもお金にしても、欲望のかたまりのような連中は世界にうようよいる。日本に入れたら鶏小屋にキツネだ。だから守らなくてはいけない。しかしTPPは米国との取引材料だ。仕方ない。えい!攻めの農業だ。世界に通用する人材の育成だ。これは役人でなくては到達することの及びもつかない独創的短絡思考である。海外を攻めたい農家や若者に必要なのは欲望だ。それがないから引きこもりになっているのだ。やる気のない子供に参考書をたくさん買い与えればハーバードでMBAをとるはずだと言っているようなものだ。欲望と国家政策というのは最も遠い存在である。
非常に皮肉なことに、我が国では奨学金を学生が卒業後に返済できない債務問題が発生している。大学を出れば出世払い、奨学金制度はそういう思想を背景に存立している。出世どころか東大を出ても就職すらできないこともあるのを認める日本で最後の人たちが文科省の役人だ。冷たいかもしれないが、学生はそう思わなくてはいけない。就職を世話してくれない大学や役所が悪いのではない。自分で必要とされる人にならなくてはいけないのだ。欲を出さなければ生きていけないということだ。
これを福祉・年金問題と混同してはいけない。お年寄りや被災者、病人、障がい者ら社会的弱者の生活を守る。これは国家として当然である。しかし学生が中学、高校、大学と来てその先には就職先が予定調和的に用意されていると考えていて、それがないと親や左翼が出てきて悪いのは社会だ、政治だとなるとことは同質的になる。株が上がっても一般人に恩恵はない、と言う政党がある。金持ちだってリスクを取って株を買わなければ恩恵はない。一般人とは誰のことか。弱者だろうか。一般というのは一般に大多数を意味するので、だとすると日本中が弱者だらけだ。だから税収が減って国家財政が赤字なのではないか。
子ども手当が良い政策かどうかはともかく、日本国が長年にわたって何らかの形で身を切ってその弱者を養ってきたことがマクロ的に間違いないことはGDPの2倍もの大赤字を見ればわかる。需要創出という名目であったとしてもだ。弱者党の言うとおりにすると弱者が多数派になり、金持ちに「私を養いなさい」と命令する国家が出来上がる。元気だが何もしない私をだ。そして役人もその私の一部になる。そんな国に住みたい金持ちはいないから海外に逃げる。財政は破綻して全員がもっと貧しくなり、国際的に二等国扱いの屈辱を受ける。これがギリシャの姿だ。
円安でも日本国債が売られないのは国内保有率が高いからばかりではない。日本人には日本人なりの欲望がある。それがドライバーとなって必ず復活して成長する。世界がそう思っているからだ。アベノミクスの第3の矢に期待しているお人よしの外人投資家を探すのは株でもうけた共産党員を探すより難しいだろう。若者の経済的欲望が減ったのは長年のデフレのせいだという意見がある。あの野村証券の営業マンですら、下げ相場しか知らない平成入社はお客さんに株を薦められないというぐらいだからそうかもしれない。だとするとデフレを退治するアベノミクスは大変正しいということになる。健全な欲望を持った若者を国は必要としている。日本を救うのは安倍さんでも自民党でもないのだ。
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