ブロムシュテット指揮N響を聴く(追記あり)
2014 SEP 21 12:12:20 pm by 東 賢太郎
少し夜が冷え込んでくると、音楽を聞こうかという心構えになってくるから不思議だ。熱帯夜だったり南洋へ行ったりしていると、つい心が離れてしまう。
コンサートは特に行きたいこともないが、まったくの気晴らしで適当にチケットを買っている。外食が続くと好きなものばかり食べるので偏食になるのと同じことで、真剣に選んで買うと音楽も偏食になるからよくない。
僕にとって音楽と猫は最大の癒しだ。猫はいつも変わらないが音楽は何を聞くかで変わる。精神に一定の作用を及ぼすからプラス効果になるとうれしい。何がそうなるかは時の運だ。だからおまかせで適当に聴いてみるに限る。
N響は正直のところ音が好かないが、しかし他にいいのがあるわけでもない。オケの音も無個性だが、本当に東京のホールはどれもこれもまったく魅力がない。ひどいもんだ。なんとなく、券だけ持ってNHKホールへ行ってみると、モーツァルトの40番とチャイコフスキーの5番、指揮はブロムシュテットということがわかった。
この人がドレスデン・シュターツカペレを振った録音は良いものがある。ドヴォルザークの8番、シューベルトの未完成など。ライブではN響のシベリウス2番が良かった。ただちょっと知的な硬派であり細かい。おおらかに円熟するタイプではない。それでいてどこか熱い音楽をやろうとしている感じだ。どうもいまひとつ波長が合わない。
40番は今のようなテンションの時に聞くのはやや辛い。第2楽章がやたらと速く、弦に共感していない感じのフレーズが目立つ。繰り返しはできるところは全部あり、第3楽章はトリオの後までいちいちそれがあってくどい。終楽章もご丁寧に展開部がくりかえされると、あの最後の最後に低弦が音階をかけ登る劇的で悲痛な効果に既視感ができてしまって肝心の最後の感動が薄れる。
この曲は低弦が Bassi と書かれていて、一部を除いてチェロとコントラバスが分離していない。ブラバン付の弦楽四重奏という趣のスコアである。クラリネットを入れたり省いたりできるというのは、そっちに作曲の主眼がなかったからだ。そういう側面を如実に示してくれたという意味では面白い演奏であった。
5番のほうも筋肉質だが、ムラヴィンスキーのような底光りのする徹底はない。どこかスコアを客観的に眺めるようであり、第2楽章のホルンも陶酔感を出すまでの没入はない(タイがないように聞こえたが気のせいだろうか)。第51小節から56小節の fff に達する陶酔感は4番の第1楽章にもあるチャイコフスキーの和声の魔法だが、気真面目そうな指揮者がやや興奮のそぶりを見せる。
終楽章は曲頭からチューバがコントラバスに重なりバスを補強する(これはラフマニノフの第2交響曲にも見習われている書法である)。N響は総じて難なく弾いており、クラリネットとファゴットのトップは好演であった。ドイツ風の装いながらホルンなど管楽器のカラーリングに工夫のある曲でもあり、日本人らしく非常に小まめに指揮者の趣味につき合った感じもある。
5番はあまりにたくさんの名演を聴いてしまった。偉大なスコアである。
(追記、10月5日)
今日、TVで4番の方を見た。印象は5番と同じ。リハーサルシーンもあったが、やりたいことは明確なようだがやはり細かい。その結果だろうか第1楽章が神経質で遅い。アンサンブルはきれいに整い室内楽的な純度は高いが、僕が4番に求めるものはあまり聞こえなかった。聞かなくても悲愴は想像ついてしまうから行かなかった。
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