Sonar Members Club No.1

since September 2012

「東ロボくん」東大は断念(今月のテーマ:人工知能)

2016 NOV 22 12:12:07 pm by 東 賢太郎

将棋の九段がカンニングするほど人工知能(AI)は強いらしいし、囲碁でも先日AIが趙治勲名誉名人を破った(初めてだ)。2048年にはAIが人間の知能を上回り、我々を支配するかもしれない(シンギュラリティ)という話はそれを聞くと現実味を増してくる気がする。

ky_nii01-01しかし一方で、国立情報学研究所(NII)のプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の「東ロボくん」(右)のほうは今年が4度目の挑戦だったが「東京大学合格は実現不可能であり、断念した」、「今後は記述式試験を解くための研究などに集中したい」と先日に報道があって話題となった。

では将棋九段や囲碁の名人になるより東大合格の方が難しいかと東大生に聞けば、9割ぐらいはNOと答えるのではないか(1割は理Ⅲに敬意を表している)。そうであるなら、「ここに僕ら人類が2048年問題を悲観しなくてもいい理由が見つからないだろうか?」というオプティミスティックな問いに何か根拠ある解答があってもよさそうだ。

まず解せないのは「論述式の理系数学で6問中4問に完全正答し、偏差値76.2という高成績を記録した」というNIIのコメントで、囲碁将棋と同じく論理のみで解ける数学が満点でないことだ。東大の数学は難しいが囲碁将棋の名人になるよりハードルが高いとは思わない。とするとこういうことだ;

「AIにとって難しい『意味を理解する』という分野を突き詰めようとすると、膨大な時間とコストがかかる」(NIIの新井紀子教授)

日本語で書かれた問題を数理的ロジックに落としこむという数学以前のプロセスに誤差が出たとしか考えられない。その程度で2問分の時間をロスしたとすると国語や英語はあまり点が取れないと推定される。社会科も論述であって国語的要素が強いからAIが満点をとれる暗記だけでは歯が立たない。となると合格はなるほど無理だ。

「日本語の読解力」

これだろう。あえて日本語としたのは、数学の問題文が英語なら満点だったかもしれない(日本語はロジック化しにくいかも)という含みからだ。

ちなみに東大の日本語の試験(現国)というのは一見平明だがまず一筋縄でいく文章が出ない。だから飛び飛びに(僕にはそう見える)論旨の行間を読んだりぼわっとした隠喩やら空気感を迅速かつ適確に、日本の知識階級の最大公約数的理解係数で察し取り、遥か後から出てくる『それ』の意味するものを、今度は明確にロジカルに変換して200字以内で書いたりなどしないといけない。

試験は差をつけて落とすためにやる。ということは「ほとんどの読者は『それ』の実体がわからないだろう」と作題者が信じたということにこの設問の実務的かつ論理的本質があるわけで、そんなにわかりにくい文章など原文を書いた奴が馬鹿なんだろうと思ってしまうのが文学に疎く詩心のない当時の僕だった。

駿台は模試の採点に不服だとクレームがつけられて、いわば控訴することができた。数学にその余地は皆無だが、後日訴求が認められて点数が増えることがあったのが英文解釈で、現国は毎度否決であった。その判決文がこれまた現国的でわけわからねえという、僕にとってもうええかげんにせいやという趣味人のアロガントな世界でしかなかった。

僕の身勝手はともかく、ほとんどの読者がわからないということは日本語にはコンピューター言語として定型的に書き込むためには「読解力」なる一個独立のプロセスがあり得るという解釈は科学的ではないか。詩文は別として英語にはそれは相対的には少ないように思え、だからこそ英文解釈という科目を成り立たせてしまうような日本語側の独自のエレメントが存在するように思えてならない。

「東ロボくん」はプログラムしないと答えないわけで、「恋人への必殺プロポーズ文句を200字以内で述べよ」と言えば固まるだけだろうが、それは解答に至るプログラムを書きようがないからだ。数学の日本語問題文にそのエレメントがかけらでもあれば、それを読み取るプログラマーに詩心でもなければ趙治勲名誉名人を倒したAIも固まってしまう。

げに「現国」恐ろしやだ。「東ロボくん」を断念させた「日本語の読解力」にたけ、文学を愛し詩心に富んだ文系諸氏は2048年を生きのびるかもしれない。数学で入ったインチキ文系の僕は「東ロボくん」にシンパシーこそあるが、いずれ数学では負けるから2048年にはAIに食われて失業する一番ヤバいタイプの人間ということになる。

しかし一縷の望みがある。こういうことがあるからだ。

朝きこえてる音楽の謎

音楽に限らず、僕のビジネスのアイデアは例外なく起き抜けに出ている。昼間に醒めたアタマで考えたのはだいたいダメだ。ロジックでは成功できない。誰でも道筋をたどれてしまうからだ。睡眠中や無意識状態でのアタマの働きは覚醒時の働きの下地になっている気がする。そういう無限の下地の蓄積から直感やひらめきや創造が出てくるんじゃないか。

たとえばモーツァルトの書いた全626曲をAIにインプットしてモーツァルトっぽい曲を書かせることはできるかもしれないが、これぞ彼の交響曲第42番だと万人が納得するものを書くことができるのだろうか?これが「創造」の問題だ。

彼の脳データをそっくりコピーすれば(その技術はすでにある)可能かもしれないが、現実の彼が1791年からあと1年生きて42番を書くとして、それはその1年間に脳にインプットされた万事の結末としてのプロダクトである。何がインプットかは誰も知らないのだから仮定、仮説に起因するプロダクトでしかない。

2016年時点であっても同じであり、体が生きてない脳が積む未来の経験値は未来を予測しようという努力と同等に不確定なものだ。投資でいうなら、「過去のこの株の動きのデータはこうです。だから未来はこうすれば利益が出ます」というぐらい無価値な試行である。

創造の世界はひょっとして100年後のAIがついに克服する領域かもしれないがまだSFであってほしい。そうなったら人類はお手上げだが、モーツァルトの42番を書くよりも東大に入る方が絶対にやさしいのは永遠の真理だ。「東ロボくん」、応援してるけど出来すぎ君にはならないでほしい。

 

 
Yahoo、Googleからお入りの皆様

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

 

Categories:______サイエンス, ______世相に思う

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

南正彦
池田俊彦
島口哲朗