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理系の増員なくして日本は滅ぶ

2017 MAY 23 18:18:33 pm by 東 賢太郎

大航海時代まで世界の覇権はスペインにありました。海を支配し、新大陸を含む植民地、銀の産出という当時として絶対の利権を握り神聖ローマ帝国のハプスブルク家と姻戚を結んだというのは宗教的にも世俗的にも並ぶ者のない権力を持った、陸海を制しまさに日が沈むことがなかったということで、今の米国よりずっと優位だったのです。

これを島国の英国がひっくり返した。一気の戦争によるKO勝ちではないが、市民革命の時代までには判定ポイントで優勢となり産業革命に至って恒久的勝利が確定した。野球なら5回までに10点取られてノーヒットだったチームが勝ってしまった感じでしょう。世界史で空前の大逆転といえば僕はこれを挙げます。

スペインの敗因は複数ありますが、膨大な利権に甘んじてフロンティア、辺境で競り負けアメリカを取られたのが逆転満塁ホームランになったという見立ては衆目の一致する所。当時のフロンティア開拓はイコール海軍力であり、もともと海賊の英国は生命線としてその得意技に徹したのに対し、スペインは陸地の経営でも楽に食えてしまった。これがまずかったと思うのです。

つまり持てる者である大株主、地主となった。配当、家賃というキャッシュフローは安泰だから「攻め」の必要なし。防御型の人生観が支配的になります。かたや持たざる者はフロンティアで攻撃型にならなくては生きられません。そのどちらが強いか。自然界でいうなら無限に生える草(=キャッシュフロー)を消化できる草食獣は多産で個体数が確保できる限り牙も爪も必要なく、攻撃力は進化してません。三百年ほどで徐々に防御型となり草食化したスペインを、航海で牙と爪を研いだ攻撃型肉食獣の英国が食った、僕にはそういう光景と映ります。

現代において国力のフロンティアと目されているのはIT、AIの技術力です。軍事、情報、金融、生活関連産業すべての興隆がこれからそれに大きく依存するからです。70余年前、我が国は石油供給を止められて開戦に至りましたが、今や石油がないどころか国民が餓死していてもIT技術を磨いて核ミサイルを持てば攻撃はされない時代になったことがその証拠です。

IT技術のフロンティアで我が国がどこにいるか。これが不安です。日本は欧米が基礎研究した技術を民生用に汎用化するアプリケーションテクノロジーで筆頭の勝ち組でした。高度経済成長による国力興隆の背景はそれであり、その仕上げがいよいよIT技術に及んでIBM-日立事件が起きた80年代はそのピークだった。

80年代はバブル時代だとネガテイブに語る人もいるが、自虐史観の洗脳ここに至れりであって、日本人が我が世の春を謳歌し欧米を震え上がらせて何が悪いのだろうか。あれは敗戦で焦土と化し地にまみれた屈辱からフロンティアを攻めまくって勝ち取った大戦果なのです。

ところが今やそのIBMすら影は薄く、投資の神であるウォーレン・バフェットが「唯一の失敗はIBMを買ってアマゾンを買わなかったことだ」と認めるほどITの時代も急転回しています。我が世の春だった日本がITのアプリケーションにおいて "スペインの轍" をふみ、フロンティアを中国、台湾、韓国に猛攻撃されて主要な要塞はすでに陥落してしまったと感じるのは僕だけではないでしょう。

日経の記事によると米国シリコンバレーには三百万の住民がいますがうち40%が外国人で、インド、中国、韓国に比べ4万4千人の邦人は存在感が低い。世界のIT基本ソフト、ブラウザー、クラウドで二大巨頭であるマイクロソフトとグーグルのCEOはどちらも40才台のインド人であり、ペンタゴンが恐れるハッカー集団は中国人です。

フランスのマクロン新大統領は「経済成長と起業は不可分」とし、創業期の負担を減らす政策を強調しています。16年までの20年間、米国の成長が年平均2%に対しフランスは1%であるのは、起業家の成人人口に対する割合(TEA)が米国の12%に対しフランスは5%であることが原因であると危惧している、それは皆さんもう忘れたでしょうが、あのピケティという学者の講義を思い起こせば納得のいくことです。そして、これもご想像に難くないでしょうが、わが日本国も同じく5%であり、中国、韓国の半分以下であるのです。

(出所:野村総合研究所、平成28年3月)

日本人の特性として元来そうかどうかは議論がありますが、少なくとも徳川時代以降は「農耕民的防御型」で「キャッシュフロー安泰志向型」が国民の多数を占め、「フロンティア攻撃型」は少数派といえるでしょう。防御型=地主型=草食系がフロンティア攻撃型=肉食系に食われるのはすでに見た通り歴史に実例は枚挙がなく、かつて高度成長の牽引車であったエレクトロニクス産業が韓国、台湾に食い荒らされれている真因はここにある、すなわち防御型優勢でなくフロンティ攻撃型の起業家を増やさなくては国力に関わると考えるのはマクロン大統領だけではありません。

城の本丸が落ちようとしている危機に頼るよすがは優秀な頭脳と教育であり、大学こそが防御型に生まれついた人材を導いて世界のフロンティア攻撃型人材との戦い方を教えねばなりません。その人個人のためでもあるが、優秀な一握りの個人は国の助けなどいらず日本の大学を捨てて米国へ出ていく(頭脳流出)道がある。米国どころかヘタすると数年でシンガポール大学、香港大学、北京大学のほうが東大より起業に有利という時代になるのは、そこに関わる金融、証券の実務をしていると肌で感じることです。

だからこれは何より日本国の経済成長と雇用の継続のための問題であります。我が国の学校における起業家教育は世界最低レベルという事実があるからです。日本という「農耕民的防御型」で「キャッシュフロー安泰志向型」の土壌にはそういう教育概念すら存在せず、教えられる教師は実業界にしかいないという事情が背景にあります。

(同上)

はっきり言うが、日本の大学の経済学部は草食獣の学生に100年前の教科書を教えることが唯一の仕事である草食獣の先生の職場である。ここからは100年たってもノーベル経済学賞受賞者は出ないことは賭けてもいいでしょう。そんなものはもうフロンティアではなく、学問であれ実業であれそこでの戦争には無用だからです。もしそれを学んで卒業した学生が世の中で成功したとしたら、それはその人がもともと優秀だったというまぎれもない証左としては高い価値があるだろう。

本丸が落ちたS社とT社において、研究員、技術者、職工が無能であったと考える日本人は少ないはずです。だからこそ台湾のH社はSを買ったし、Tの半導体事業に海外からビッドが入るわけです。失敗の本質は100年前の教科書しか知らない先生に学び、高度成長期の国家的浮力に助けられた成功体験のみで育った、肉食獣の本能と生態系を良く知らない草食系経営陣(その多くは経済学部など文系)のまいた種によるのは衆目の合致するところです。

そしてそれを見た新聞の社説に「外資の傘下に入るのは決して悪いことではない」などと、これまた100年前の教科書の草食獣である論説委員が書く。ばかとしか思えない。マイクロソフトとグーグルのCEOはインド人でもガバナンスは米国にある。本社が日本にあって日本人が雇用されれば経営者は台湾人でもいいというのは奴隷国家の考え方だ。経済学部の先生は彼らにガバナンスと株式支配の意味を教えていないのだろう。

安倍内閣は大学まで授業料無償化というが、まったくの無駄です。高等教育は国家戦略であり、幼稚園の「みんな仲良く」の世界など存在しないのです。自身がそれが何の役に立っているか自覚できない(早い話がどうでもいい)文系学科卒である政治家の発想だろう。100%の子が大卒になれるならそんな教育はそもそも大学教育ではないから中学までで履修できるはずなのです。言ってることが自己矛盾だ。そんな金を使うなら東大、京大、国立理系大学(東工大、電通大)等の収容人員と実験等教育予算を倍増したほうがよほどいい。優秀な才能に国家の計で教育をする。留学生の頭脳も集める。シリコンバレーもすべてのIT産業も牽引車は最先端理系教育を受けた技術者なのであり、100年前の経済理論や帳簿の管理術やお金集めやセールスマンなど国家が教育しなくても商人道だから誰でもできるし、そこを台湾に譲っても日本は失うものはなしです。

文系はいらんという御仁もいますし僕も結果的にはそれに近くなります。近年の中国共産党中央政治局常務委員の指導者の学歴を調べると習近平(清華大学化学工程学部)、胡錦濤(清華大学水利エンジニア学部)、温家宝(中国地質大学)、朱鎔基(清華大学電機製造学科)、江沢民(上海交通大学電気機械学部)、賈慶林(河北工学院電力学部)、李長春(ハルビン工業大学電機学部)、曽慶紅(北京工業学院自動制御系)、羅幹(北京鉄鋼工業学院圧力加工学部)、周永康(北京石油学院)、賀国強(北京化学工業学院無機化学工業学部)、呉邦国(清華大学無線電子学科真空トランジスタ学部)と驚くべき理系王国であり、文系は北京大学法学部卒の李克強ぐらいです。

問題はこの中国共産党がどういう思考回路を持っているかということです。我が国の政治家の平均的プロフィールとは良くも悪くもかけ離れていることは間違いなく、どちらがいいということではないものの、文系頭では想像もつかない戦略を練ってくる不気味さを感じるのです。彼らはもちろん孫氏の兵法、三国志に通暁しており自己の生存のためには恩人も殺す曹操のようなことを平気でやるだろう。そのトップにある連中がサイエンス、エンジニアリングを自分で理解して国家戦略を練ってくる。数学・物理音痴の文系が理系を従える日本の行政と産業の支配構造は、楽譜も読めない指揮者が振っているオーケストラみたいなものです。中国共産党幹部は若い才能の発掘と教育に国運をかけるだろう。フロンティアでの攻撃型競争が才能を開花させることを当然の如く知っているだろう。

我が国が明治時代なみの理系文系なる無意味な区分のまま大学教育を改革せず、だから学生の知能指数で30位ということはまずない東大が大学世界ランキングで35位にしかなれない現実に目をつぶり、実社会で何の役にも立たないから留学生が来ない100年前の学問を先生の権威のために温存していけば、50年後には科学技術はもちろんITの関わるすべての産業でアメリカと対等のパートナーとなる中国に確実にぼこぼこにされるだろう。それしか優位性のない我が国は、したがって実質的に滅びるのです。新聞の論説委員おすすめの奴隷国家になるのです。そんなはずはない、モノづくり、匠の技は凌駕などできない。そう思う方はスペインと英国の覇権の歴史をもう一度勉強されるといいと思います。

そうならないための絶対の妙案はありませんし、もう遅いかもしれないと半分は思っていますが、私案として、全大学の学部を是々非々で要不要を検討し、予算総額は限りがあるので国家の百年の大計に添ったお金と教師と生徒数の再配分を決めるというのが最も合理的でしょう。この趣旨を説けば、高額所得者増税には反対の超富裕層は名誉と引き換えに大学に多額の寄付をしてくれるだろう。文科省天下りがいかんというのも一概にそうはせず、大学教員は派閥や各界余剰経営者の受け皿というサプライサイドの考えをまず一掃し、国に必要な学生を育てる能力があれば天下りでも外人でも何でもよしというディマンドサイドのポリシーから合目的的に改革をすればいいと思料いたします。

 

(ご参考)

脳内アルゴリズムを盗め

小保方氏に見るリケジョとAO入試

クラシック徒然草《フルトヴェングラーと数学美》

 

 

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