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オレンジバット悲話

2017 SEP 12 0:00:26 am by 東 賢太郎

野球のU-18で、話題の清宮は高校111号を放ったが広陵の中村が打てなかった。これが木製バットに慣れてないせいだという記事があって、本当にそうかどうかはともかくさもありなんという気はした。

僕らの代か次あたりまで高校生もバットは木製だった。木のバットの快心の打球音はカシーンだが芯じゃない打球音はそれ以外のすべてだから外野手はでかいかどうか音で瞬時にわかる。しかし金属バットである甲子園大会の打球音はどれもこれもクィーンで、あれじゃあ音で初動を判断できないと思う。なお、軟式というのはゴムまりであって打感も音もぜんぜん別物だ、あれは別なスポーツだと思った方がいい。

大学に入って閑になり野球の虫が騒ぎだして、同期が監督だったものだからご厚意に甘えて九段高校硬式野球部の夏連に参加させてもらったことがある。フリーバッティングの順番が来て、人生初めて手にしたのが金属バットだった。

金属バット

打ったら感触がぜんぜん違う。芯を食った感じが鈍いが、外しても手が痺れない。テニスでいえば「デカラケ」の感じというのが近い。芯でなくても反発力があって、芯付近なら非力な僕でも軽く振り抜いてレフトを超える。なんだこれは?という感じであった。木製で芯を外すと悲惨だ。飛ばないし手が痺れて、気温が低い時は感覚がなくなるほど痛かったりする。しかもすぐ折れる。バットは高価なのだ。内角を攻めてバットをへし折るのは投手の快感だが、金属は折れるどころか詰まっても内野を越されるなと感じた。投手はたまったもんじゃない。甲子園大会でホームランが多いのも、振り回して当たれば飛ぶバットと筋トレの相乗効果だろう。でも木製は芯に当たるかどうかだ、それじゃあ通用しないと思う。

木製バット(アオダモ、硬式用)

高校時代、僕はずっと6番で打撃は好きだった。バットは木目が詰まって真っ直ぐなのを厳選して大事に使ったが、あるときOBのYさんが部に差し入れてくれたオレンジ色のバットがぴったりで快打を連発したものだからいつしかそれは僕専用になった。毎日手塩にかけて大事に磨き、乾燥に心がけ、折らないよう打席では一球ごとに入念にマークの位置を確認した。バットコントロールは我ながら非常に良くて、バントではずされてバットを投げて当てたこともある。だから打ち損じてバットを折ったのはたぶん1,2回ほどであり、このバットを生涯の伴侶としようとまで誓っていたのである。

練習試合の聖学院戦で相手の快速球左腕におさえこまれ3安打完封負けしたが、僕はセンターのフェンスまで三塁打を放った。ナイン推定の飛距離100mで両翼ならホームランだから人生一番の当たりだった。しかしなぜか、お前のあれはまぐれだ、Y先輩のバットが凄いんだということになってナインはそっちを称賛し「オレンジバット」と命名までしたものだ。確かに、あれはスイングのパワーでなく、トスバッティングの感じで当てたら高めのストレートが凄く速かったので遠くへ飛んだのだった。ホームランもそういうのがあるんだろう。ついでだが、こうやって芯を食うと手は何も感じない。「感触はいかがでしたか?」と知らないアナウンサーは聞くが、感触が残れば残るほど悪い当たりであって、その最悪が痺れなのだ。

とにかくその後も僕はよくタイムリーを打ったので、神であるオレンジバットを折ったらいかんという部内の空気になってきて誰も使わなかったが、練習の日にフリーバッティングでT先輩が「俺にも打たせろ」とそれを持って打席に入った。嫌な予感がしてわざと軽く投げたが、打ち気にはやったT先輩が思い切り振ると手には見事にグリップだけが残っていた。オレンジバットの最期である。動転してたんだろう、なぜか「すいません」と謝ってしまい「いいよ俺が悪いんだ」と気まずい会話があったが良くないのはこっちだった。以来、僕の打撃は絶不調に陥った。

思えば木のバットは工芸品というか、一本一本個性がある。形は規格でそろえられても、材質も重量も同じものはない。特に木目が大事で、反発がいいかどうか、折れやすいかどうかはそれで判断した。打席ではマークを正確に自分の体に向ける。そうしないと折れるのである。打撃というのは芯に正確に当てることだ。芯を食うかどうかで天国と地獄だから振り回すよりピンポイントでたたくスイングを僕はした。金属は少々アバウトでも当たれば飛ぶデカラケ、デカヘッドのドライバーだからスイングも振り回すだけでアバウトになるんじゃないか。

そういえば金属バットはどれもおんなじ規格工業品で味がない。僕は大事な試合前にバットを抱いて寝たが、金属だったらどうかなと思う。これはLPレコードとコンパクトディスクの関係に似ているかもしれない。レコードは同じものは二つとない。名演の美品は中古で何万円もの価値が出る。CDは何十万と同じものがあって、少々傷があっても問題なく鳴ってしまう味気ない物体である。鳴ることの有難味より味気なさの方が勝って、なんとなく僕など大事に手入れして保存しようという気が失せてしまう。

オレンジバットは僕にとって神品だった。プロ選手はだいたいそういうぴったりくる自分モデルを持っているようだ。カープの安部もそうときくが、去年からC28と刻印された新井モデルにしたらしい。二人はタイプは違うが、バットの好みは感覚的なものだ。昨年259打数73安打、打率・282の数字を残した安部だが、たくさん用意した新井モデルのバットはシーズンが終わるときには1本しか残ってなかったそうだ。戦友、散るだ。この感覚がどうにもいとおしい。

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Categories:______わが球歴

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