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独断流品評会 「シューマン ピアノ協奏曲」(その6)

2019 AUG 11 1:01:50 am by 東 賢太郎

ペーター・レーゼル / クルト・マズア / ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

第1楽章のテンポがやや遅めなのはが良いが流れがよろしくない。ピアノが常時強めで弱音のデリカシーに欠け、展開部の最後までべったりこれというのは趣味に合わない。オーケストラもこのコンビの交響曲集は重厚な音が楽しめるがここではどうも違う。第2楽章の第2主題を奏でるチェロはもっとなんとかならなかったのか。終楽章だけはシンフォニックな曲作りが活きるが総じて大味。チャイコフスキーP協の流儀でやったシューマンであり150キロ出るが棒球の投手という感じだ。レーゼルは今ならこうはしないだろう。(評点・1)

 

ハンス・リヒター・ハーザー / ルドルフ・モラルト / ウィーン交響楽団

リヒター・ハーザーはベートーベンということになっているが、カラヤンが伴奏したブラームスPC2番はトップクラスであり、1958年の録音であり音が地味なので割を食っているがこのシューマンもとても良い。打鍵が強靭でありつつロマン的な感性を供えもち、フレージング、テンポ・ルバートがまさにドイツ的だ。ドイツ語のシューマンである。ドイツ・ロマン派保守本流とはこのことでそれは①テンポは流動的でなくがっちりしたフレームワークで揺るぎない②それを守りつつロマンを歌い上げる③音楽が内側から熱して両端楽章のコーダに向けて自然に加速する、を共通の特徴とするがこれぞその好例である。オーケストラが深い低音を基礎としてピラミッド状の音響構造を持ち、静止摩擦で容易には加速せず、いざするとその運動エネルギーが内燃して音楽が熱を帯びるというイメージを僕は持っている。ドイツのオーケストラである必要はないが、独墺の、それも70年代までのそれに顕著な傾向ではあった。それを愛する趣味を持つものとしてこのシューマンは掛けがえがない(評点・5)。

 

モニク・アース / オイゲン・ヨッフム / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1951年にベルリン・イエス・キリスト教会で録音。もちろんモノラルで音は貧しい。ドイツ・グラモフォンがどういう成り行きで大仰でシンフォニックなヨッフムの指揮とパリジェンヌのアースを合わせようと決断したかは知らないが中々面白い。アースは例の楽譜のところをpp(?)で入るなど個性を見せ、終楽章のテンポはやや速めでリズムのメカニックとピアノの粒立ちが良く、やはりフランスのクラルテを感じる。BPOのアンサンブルが少々雑然としており、数多ある同曲の録音で価値を主張するにはもはや弱いと言わざるを得ないがアースのピアノは一聴の価値がある(評点・3)

 

カティア・ブニアティシヴィリ / パーヴォ・ヤルヴィ / NHK交響楽団

これがyoutubeに出てきた。2016年2月のN響B定期公演で僕は2月18日に聴いたこのビデオはドレスからすると17日の方らしい。感想はここに書いてある。

クラシック徒然草-カティア・ブニアティシヴィリ恐るべし-

3年前、まだ、僕の筆は控えめであったが、それでもぼろかすである。18日はMov2にミスがあったが、このビデオの17日はもっと凄い。Mov3の31分53秒に記憶違いの「1小節とばし」があって、ホルンが落っこちてしまっている。カティアさんは飛ばしたこともホルンの事故も気がついてない風に見える。そういう人みたいだ。この演奏を讃えるには、そういうことを気にしないか気がつかないタイプの人でないと難しく、残念ながら僕はどちらでもない。最初のヤルヴィとのインタビュー、まったくどうでもいいことに終始するが、ひとつだけ非常に面白い部分がある。「シューマンは恋する普通の男になりたかったの、でも天才で狂っててなれなかったのよ、もちろん本当に狂ってたわけじゃないんだけど」とカティアが力説すると、ヤルヴィが「狂ってただろ」とさらっと言ってる。もう一度、「彼は気が狂ってたと僕は思うよ」と繰り返している(字幕はなぜかこんな大事なことを無視している)。シューマンに恋してしまってる彼女はあばたもえくぼで美点凝視になっており微笑ましい。かたや指揮者の男は醒めている。でも冒頭でシューマンが一番好きだと言ってる。狂ってるから好きなんだ。同感だ。僕もシューマンは気が狂ってたと思うし、だから吸い寄せられるエッジを感じるのだ。カティアはピアノに向かって、女性の視点で好ましい「恋する男」、「普通になりたいがなれない男」を熱演したのだろうが、シューマンはそんな乙女チックな男じゃない(評点・2)。

 

独断流品評会 「シューマン ピアノ協奏曲」(その7)

 

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