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今年の演奏会ベスト1

2020 DEC 24 0:00:38 am by 東 賢太郎

1位 読響定期・グバイドゥーリナ:ペスト流行時の酒宴

恒例のベスト5ですが、すみません、なにせ今年はコンサートというとこれしか聴いてませんからベスト1。それにしても、1月15日にこの曲を選んだのは指揮者の下野竜也氏に神のお告げでも下ったのでしょうか。コロナ流行時の酒宴は自粛になろうとはこの時点では誰も知りませんでしたね。

コンサートばかりではありません、CDはここ数年買ってなくてCD屋にすら行ってません。コロナのせいばかりでもないです。あんなにワクワクして毎週買いこんでたのが何だったんだろうと考えてしまいます。僕はクラシック界においては相当な大手顧客でしたから今後が真面目に心配です。

クラシックは難しくて、百年二百年まえのもんだって意識がどうしてもついてきます。僕の世代の聞き始めのころはフルトヴェングラーやバックハウスって亡くなったばかりのお爺ちゃんがベートーベンの語り部みたいに扱われていて、カラヤンは青二才だったわけです。

いってみれば、古老の講談師が忠臣蔵や四谷怪談を語って伝承するみたいな世界で、ぽっと出の若いお兄ちゃんが「時は元禄・・」なんてやったところで古手の聴衆からしたら「てやんでえ」みたいなところがある。若かったころはうるさいジジイと思ってましたが、いつのまにか自分が言われるトシなのです。

つまり若い指揮者が「春の祭典」やってくれても、こっちは50年前からきけるのは全部きいてるんで「兄ちゃん、えらい元気いいなあ」って見てる自分に気づくわけです。困ったもんですがどうしようもない。「エロイカ」「ブラームス4番」ぐらいになると「おとといおいで」なんです、ほとんど。

この境地、もう鑑賞ではなくて曲に「はいっちまってる」のです。すると指揮者もヒトだから気が合うあわないが出てきて、僕は合わない方が圧倒的に多いのです。それが古老だとひょっとして俺が間違ってるかと謙虚にもなりますが、もうほとんど亡くなってしまいましたね。年下だと往々にして一刀両断になってしまう。クラシック音楽の宿命と思います。

むかしレコ芸で大木正興さんや高崎保男さんの批評を読んで、そんな印象を懐いてました。僕の思い込みもあるかもしれませんが、若手に厳しかった。切り捨てだった指揮者たちはやがて大家になり、現在は多くがあの世に行ってしまいました。でも、いまは先生方の気持ちもわかる気がする。

つまり、何百年たっても、常に一定数のこういうジジイと若手演奏家が対峙する。そこでバチバチと火花が散ってアウフヘーベンして、演奏が進化するのです。そうじゃなければ古典芸能は博物館行きです。そうならないこと祈るし、よし、そのために徹底的にうるさいジジイでいてやろうと思うのです。

とはいえ百回に1度ぐらいは、耳タコの曲で革命児の解釈に「そうくるか」となって、スコア見てみると「なるほど」なんてのがある。これはライブに多いのです。熱い評を書いたファビオ・ルイージの「巨人」、トゥガン・ソヒエフの「プロコフィエフ交響曲第5番」なんかがそうだったのですね。

それに出会うのが演奏会の醍醐味ですが、百回に1度ということは99度の無駄があるということなんで、だんだん時間が無くなってくると辛いなとなってきます。冒険しなくなってくるのです。音楽に関心が薄くなるのではなく、残り時間の配分をどうしようかという問題ですね。

僕は骨の髄まで「プレーヤー志向」なんです。死ぬまで選手でグラウンドに立っていたい。では自分が何のプレーヤーかというと、もちろん証券業なんです。それ以外はすべて、その他大勢、観衆、聴衆でしかない。外野席で他人のプレー観てああだこうだなんてつまらない余生は送りたくありません。

今年は3月からリモートワークでしたが、全然変わりなく仕事して、逆にリモートでしかできない会社まで作りました。12月に入って俄かに忙しくなってきて、案件はひとつ終わりましたが、ひょんなことからでっかい新規の芽が3つ4つも出てきて寝る間もなくワクワクしてます。逝くならこのままコロリがいい。

もう欲しい物もなく功名心もプライドもなし。仙人と違うのはワクワクして生きたいことぐらいです。もちろんクラシックには求め続けます。でも興奮より安寧ですね。慰めでなく精神のふるさとでおふくろの味にホッとするみたいな、そういうものを与えてくれるのもやっぱりクラシックなんです。

ブルックナーがいいですね、どっぷり浸っているだけで。すると、どうしてもクナッパーツブッシュに行っちゃいます。ロンドン盤のVPOとの5番、僕はあれで入りましたからね、めちゃくちゃなカットがあったりしますが初めてレコードをかけて、一発で気に入ってそれ以来の付き合いです。

いま鳴らしているのは4番です。ベルリンpoを振った1944年9月8日の放送用録音です。これって、あのノルマンディー上陸作戦の3か月後、ヒットラーが自殺してドイツが降伏する半年前なんですよ。スイスに近いバーデンバーデンとはいえ、すぐそこで戦争をやって血の海、死体の山になっているさなかに音楽なんて日本では死刑ものです。いま疫病の流行時で音楽は止まってしまいましたが、ドイツでは戦争でも止まらなかったという生々しい記録です。

彼の4番は1955年のウィーンフィル盤が音も良く一般的にはお薦めということになっていますが、あんまり熱量はありません。音は良くないレーヴェによる初版ですが、フルトヴェングラー(逮捕命令が出ていた)在任中のベルリンpoとのこれはテンションが高く、かたや第2楽章は天国的です。第3楽章のトランペットはじめ管楽器のタンギングの見事なこと!陰影の深さ、緩急、膨らみが自由自在で、国家瓦解の危機で鳴るブルックナーはこうなるのかという代物です。なんという安寧、僕の精神のふるさと、クナッパーツブッシュは神と思います。平和ボケ国の若いお兄ちゃんにはやっぱりあり得ませんのです、この世界は。

 

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Categories:______ブルックナー, ______音楽と自分

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