自分は何のために生まれてきたか
2022 APR 2 13:13:49 pm by 東 賢太郎
とても寂しいことだが、もしもいま僕が百億円持っていたとして何に使うかと考えると、答えがない。千円お小遣いをもらったら迷わず半蔵門の町中華でレバニラ炒め定食か五目チャーハンを注文したいが、そのクラスの大枚だと使い道が浮かばない。たぶん、また投資に回して増やそうとするんだろう。で、うまくいって二百億になったとして、どうするかというと、やっぱり案はないのである。
いたって庶民の出だから、ポルシェとランボルギーニを並べるとか千坪の豪邸に住む愚考は出ない。一番欲しいのは読書と音楽に充てる時間だが、それにお金はあまりかからないのだから、なんということか、実は人生の目的でもないことを目指して日々時間を空費しているにほかならない。すなわち、僕にとって仕事はもはや趣味(hobby)かヒマつぶし(pastime)という結論になるわけだ。
他のことは何の能もないが、それについては長年の熟練というものがあり、人様に喜んでいただけるから悪くない趣味ではあると思う。でもヒマをつぶして生きる人生など寂しいものというしかない。思いおこせば若い頃は、貧乏だったが楽しかった。それは能力の限界まで出し切ろうと努力し、そうやって日々成長する自分を感じる喜びがもたらしたのだった。
昨日できなかったことが今日はできる。これに勝る快感はない。それがどうだ、昨日できたことが今日はできない。努力しても維持がせいぜいで、それで時間を空費し、疲れまでする。維持のために生きることは実にナンセンスなのだ。だから僕は昔は忘れることにした。あれはぜんぶ映画だったんだ。いろいろあったが、実は誰か別な人の出来事で、それを観終わったいまの僕がすべてなのだと。
だってそうでしょう、映画の僕は野球で勝利したり東大に合格したりする。でもそれが今の僕である必要性や必然性など微塵もない。そんなことより昨日スマホを会社に忘れてきた馬鹿な僕が今日何ができるかの方がよっぽど重大事なのである。それを日々懸命にやっているうちにできることは呼吸だけになり、ほどなくして映画は完全に幕を閉じる。鑑賞する者はもういないからだ。
そう考えながら、太古の昔に宗教はこうやってできたのかもしれないと思った。何度も叙述してきたシミュレーション仮説、人生ディズニーランド説、ジャイアント・インパクト説、量子力学がコンバインされ、だんだんとその渦が「統一原理」に見えてきている。他人様に広める気はないが、僕はこの原理で宇宙、世の中のすべてをまじめに説明する気でいる。
量子力学が物理学を一変したようにいわれるが、量子力学の結果は対象物体の質量を大きくした極限ではニュートン力学の運動方程式の解と一致するのでニュートン、アインシュタインを全否定したわけではない。創造主の意思を認めるという意味では宗教でもある僕流の理解において、原理は唯一無二であるはずだ。プログラム言語が複数ある無駄を全知全能の主があえて造る可能性はゼロと思う。
それは僕の考えではない。キリスト教徒はそう教わるから十字軍が遠征したしレコンキスタで異教徒を追い出したしインカ帝国を殲滅した。黒船が開港を迫ったのもまったく同じ原理で、ユダヤ教徒迫害も原爆投下もしかりである。習近平、金正恩がそれと戦っている側面はアジア人として知るべきだ。そしてこの原理を知ることなくしてプーチンがしていることへの客観的理解が及ぶはずがない。
原理とは科学ではない。数式で書けるのは一部で、メタフィジカルなものの比重のほうがずっと大きい。人の心(動物もある)はそれだし女心と秋の空は数字にならない。「春はあけぼの」「夏は夜」「秋は夕暮れ」「冬はつとめて」と書く清少納言の四季折々の感動が文法や修辞学で伝わるのでないことは、「牧神の午後への前奏曲」のポエムを楽曲分析で解き明かせないのと同じだ。
昨今のロシアへの報復で音楽まで否定されているが、僕においてはラフマニノフの協奏曲を聴いて「人間は大丈夫だ」といまも確信できることに変わりはない。感動があるからだ。「感動」こそが人を人たらしめ愛や心の成長を生む芽である。その結実であるアートは人が人である限り滅びないし、戦争責任を問おうとアートまで否定すれば、人は人でなくなってさらに戦火は燃えさかるだろう。
若い人には「感動できる人になりなさい」と言いたい。叔母は会うたびに「賢ちゃん、まあ、大きくなって」と喜んでくれた。大人になってもそれは続いた。愛情と感動は紙一重で、相手の心に強く作用する。叔母の純真な感動は僕に伝播して「よし、大きな男になろう」に変異した。ここまで人はプログラムされてるかもしれないが、それを愛情という言葉で括ることに僕は違和感はない。
僕は男の心しかわからないが、当たり前の本能的な感動を覚えるのはきれいな女性を見た時だ。そうでない男はいない。そして幾人の男がそれで生死をかけて戦い、かたや偉大な芸術作品を生み出したことか。すべての宗教は愛情や感動を奨励はしないがあるべき前提としているように思う。啓蒙された民は本能を制御し、頭が固く杓子定規で、出生率は減る。感動は自ずと遠のいてゆく。
感動のない人ほど飲んでつまらない人種はない。感動できる物事や人物を評して一般に「面白い」と表現するわけだから、interesting!を忘れた彼ら自身がつまらないのはロジカルな結末なのだ。そういう人はきまって好奇心に乏しく保守的、安定志向で、面白いもの好きの異性には縁がないだろう。僕は面白い女性に惹かれる。もちろん、ジョークを言ったり漫才が好きな人という意味ではない。
interesting!と口走るとき、大概の人が笑顔なのは万国共通だ。つまり笑いの根源は好奇心なのである。好奇心というと、猫だってあるのとないのがいて、総じてある猫は学習能力が高い。カラスもそう、人間もそうだ。それと丸暗記が得意な受験秀才とは違う。東大生の8割はつまらない人だったことがそれを物語る。学校的な成績にかかわらず面白い人はいくらもいて、僕はすぐ友達になれる。
お前の音楽の文章はマニアックすぎてわからんと旧友はいう。マニアは偏執で「偏」は比較級だが、好奇心は比べるものでなく有無しか意味がない。僕は「有」に分類されるべき人種で、音楽は対象物の一例であり、実は僕は人も物も宇宙もすべてを音楽ブログの方式で「観て」いる。その感知は量子により、脳内処理も量子による。かくして「統一原理」は辻褄が合うのである。
そのような現象をモーゼ、仏陀、キリスト、モハメッド、空海らは語った。彼らは創造主でなく媒体であり、モーゼに「わたしのほかに神があってはならない」(十戒の一)と伝えた者が創造主である。それが地球外生命体(extraterrestrial life)であってどこに矛盾があろう。宗教を冒涜する意図はないが媒体の数だけ神がいる無駄を全知全能の主があえて造る可能性はこれまたゼロと考える。
その意味で宗教は現象である。地球という閉鎖空間の特異性をもった。したがってその宗教から発した科学が普遍でなくて不思議でない。量子力学は一歩普遍に寄っただけの一里塚で、我々に見える物質(元素)はぜんぶ足しても宇宙の4%しかない。その不思議に立ち向かおうという精神が好奇心だ。それを与えられた人は神のセットアップのフォロワーではなく、インフルエンサーであるべきだ。
僕が百億円持っていたとして何に使うかと考えると答えがないという現象は、僕はそういう目的で造られていないという意味だろう。
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S.T.
4/6/2022 | 1:49 PM Permalink
安心感と不安とのどちらも覚える文章でした、しかもなんだか嬉しいです。(わたしの信条としては)わたしはテトラグラマトンの神のクリーチャーであり神の子のフォロワーであるので、その言葉をリツィートしますが、動機は東さんにたいする愛着という自由選択であり、つまりこの動機の一端を神が担っていると信じます。
「イエスは彼に言われた、「わたしは道であり、真理であり、命です。わたしを通してでなければ、だれひとり父のもとに来ることはありません」
「わたしに向かって『主よ、主よ』と言う者がみな天の王国に入るのではなく、天におられるわたしの父のご意志を行なう者が入るのです。その日には、多くの者がわたしに向かって、『主よ、主よ、わたしたちはあなたの名において預言し、あなたの名において悪霊たちを追い出し、あなたの名において強力な業を数多く成し遂げなかったでしょうか』と言うでしょう。しかしその時、わたしは彼らにはっきり言います。わたしは決してあなた方を知らない、不法を働く者たちよ、わたしから離れ去れ、と」
「創造物は虚無に服させられましたが、それは自らの意志によるのではなく、服させた方によるのであり、それはこの希望に基づいていたからです。すなわち、創造物そのものが腐朽への奴隷状態から自由にされ、神の子供の栄光ある自由を持つようになることです。わたしたちが知るとおり、創造物すべては今に至るまで共にうめき、共に苦痛を抱いているのです」(パウロ)
ところでわたしはスピルバーグ監督の「E.T.」を観たときに号泣してしまいました。理由はよくわからなかったのですが、大人になってもう一度観たときに理由がわかりました。あれはかなり滑稽な「キリストと弟子たち」の話であり、遡って「未知との遭遇」は「イスラエルの民がシナイ山で神と会合する」映画だとおもいました。ドゥニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」を彼が褒めちぎっている動画でそれが確認できました。「信じる」ということの(そうでない者から見た)愚かさと純粋さの両面を描いていて、とても面白く感動的です。