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僕が国学院久我山高校を応援するわけ

2022 APR 4 21:21:58 pm by 東 賢太郎

自分の嫌な所というのは誰しもあえて見たくないものだ。だからだろうか人間の脳はうまく出来ていて、嫌なことがあるとその記憶は徐々に消そうと作用するらしい。過去は時がたつほど美化されてゆくということなのだろう。

先だって、春の甲子園大会で東京代表に選ばれた国学院久我山高校がベスト4まで勝ち進んだ。同校には思い出がある。準決勝の大阪桐蔭高校戦をテレビで観戦しながら、僕はある出来事を思い出していた。

九段高校に入学したその年、新チームでのぞんだ東京都秋季大会の1回戦で、はじめて公式戦の先発マウンドに立った相手が同校だった。試合は9対0で完敗して実力差を思い知ったのだが、出来事というのはそれではない。

それを知ったのは35年後に学士会館であった高校の同窓会でのことだ。海外暮らしを終えて帰国した僕は卒業以来はじめての参加である。18才の顔しか覚えがない。でも確かに、集まった見知らぬ初老の男女はあの時の面々だった。

岡崎が「久しぶりだな」とやってきた。そこでいきなり「東、あんときはゴメンな」と語りだした意外なことは、僕をとても驚かせた。それは以前のブログに書いた。だがここに書くのはそれではない。さらに驚くことがあったのだ。

岡崎は中学からの野球仲間で、高校では1年から新チームの二塁手に抜擢された。「えっ、なんだよ?」「ほら、4回ぐらいにさ、お前が苦労して打ち取ったゲッツーのショートゴロさ、宍戸さんのトスを俺がぽろっとやっちまってよ」

覚えてない。えっ、どの試合だったっけ?言いかけたが、やめた。そうも言えない雰囲気が岡崎にあったからだ。彼は「あんとき」で僕が当然わかると思ってる。それどころか、ずっと怒ってただろうと思って謝ってるわけだ。

それをわからなかったことに、僕はいま罪の意識がある。なんて申しわけなかったんだろう。「おいそんなのもういいじゃねえか、飲もうぜ」と肩を叩いて話題は変わった。三菱地所勤務だった岡崎は元気だったが、その数年後に他界した。

あの同窓会から22年。のど骨のようにひっかかっていたそれがついにとれた。

テレビにかじりついて応援している国学院久我山が、無双の強さで全国優勝することになる大阪桐蔭に押しまくられ、想定外の劣勢である。たしか3回に5点取られて8対0になった時のことだった。

岡崎のアレ、国学院久我山戦の出来事だったんじゃないか?

不意にそんな気がしてきた。懸命に記憶をたぐる。だめだ。あの試合、いいことなかったから脳が消したんだろう。覚えてるのは3回まで0対0で行ったのに中盤からがんがん打たれ、7回で9対0でコールド負けした、それだけだ。

13対4で負けてベンチに帰る久我山の選手をテレビで見ていて、もう一つ思い出した。そういえばあの時、先輩に「馬鹿野郎、負けたら悔しそうな顔しろ」と怒鳴られたことだ。大敗したのに僕はひとり清々としていたらしい。

そういえば。。。

岡崎は言った。「あんとき、お前が滅茶苦茶がっくりきた顔しててよ・・」。そうだったのか、全力で投げてゲッツーと思ったらイージーミスでキレてしまい、もういいやとなってしまったような、なんとなくそういうココロの記憶はある。

嫌なことだが、そういうことは僕には「あるある」なのだ。強豪相手だから負けは覚悟だった。だからそれじゃない。脳が記憶を消したかったのは、自暴自棄になって「打たれても構わん」になっちまった不徳のことだったのではないか?

岡崎が二塁から見たもの。走者一二塁から僕が崩れ、ダムが決壊したみたいになって、野手として打ってもやれなかったことか?でなければ彼が責任を感じ、がっくり顔を覚えていて、35年もたって謝りにくるはずないではないか・・・。

どの試合かすらわかってないのに「そんなのもういいじゃねえか」で終わることは、今なら絶対になかったと天国の彼にいいたい。甲子園いっしょに見ながら我々のあの試合についてもっともっと語り合いたかった。

岡崎は中学で僕に「野球人間オズマ」とあだ名をつけた。「ぜったい硬式やろうぜ」と誓ったら高校が学校群で同じになった。それも嬉しかったが、彼と同じチームで野球ができることはその百倍も嬉しかった。

15才の出来事の真相を67才で知った間抜けな男。真剣に野球をやった男がエースと呼んでくれた不甲斐ない男。彼のプレーも球筋も「いこうぜいこうぜ!」もくっきり覚えてるが、そっちの記憶も僕は墓まで持っていく。

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