Sonar Members Club No.1

since September 2012

『黒猫フクの人生観』 (第二話)

2025 NOV 23 15:15:29 pm by 東 賢太郎

しばらく天国にいるのでだんだん周りの様子がつかめてきたよ。ここにいるのはもちろん猫だけじゃない、人間からなにからあらゆる動物だ。でも、それでモメたりケンカになったりなんてことはない。みんな心はもう魂でいるからね。昨日なんか、「あれ、お前、いつ来たんだ久しぶりじゃねえか」と荒くれた声がしたので振り返ると、あのゴンベエじゃないか。こいつは僕が生まれたあたりのいっぱしのボスで、ナンバーワンじゃないんだが、自分より弱いと見るとやたら威張り散らすいけ好かない野郎さ。嫌なやつに会っちまったなと思ったが、「ホントだね元気そうじゃないか、いや、元気じゃないからここに来たんだっけなお互いに」なんて柄にもなくちょっと笑って見せたりした。ゴンベエは誰がつけた名だろうか、あの辺の人はみんなそう呼んでたね。飼い猫でもないんだから妙なもんだが、あまりにピッタリした名前だから顔を見れば誰でも笑っちまうだろうよ。なんでも、ボランティアさんの餌やりに預かろうと土手を越えて川のほうへ走って行こうとしたら車にはねられちまったらしい。「まあ、俺としたことがよ、ドジ踏んだもんだぜ」。生きてる時からドジばっかりだったくせしやがってよく言うようなこいつ。そうかい、君でも死ぬことがあるんだね、そいつはご愁傷様だったね、なんて生あくびしながら愛想の無い返事をしてやったもんさ。本人に向かってご愁傷様もないもんだがまあどうでもいいよ、なんたって、こういう粗暴な奴とは僕は相性が悪いんだ。

そうしたらさ、さっき、白猫のみよ子を見かけたんだよ。間違いないさ、びっくりしたね。しっぽが長くてちょっとスリムで色っぽくてさ、僕はゴンベエと彼女の取り合いをしてたことがあるんで、ちょっとドキッとしちまったんだな。白と黒は縁起悪いってフラれたんでもなかろうけど、みよ子はゴンベエになびいちまった。悔しいがここでもさぞかしねんごろにやってるんだろうね、気色悪いねと思って見ていたら、こいつら、すれ違っても互いに目も合わせないんだ。理由はすぐ分かった。やさ男のシャム猫だ。みよ子はこいつにゾッコンになっちまってるんだ。ゴンベエくん、もちろん黙ってない。「おいおめえ、目障りだ、そこ歩くんじゃねえよ」。シャムも黙ってない。「キミ、ここは天下の公道だ」。「道に言ってんじゃねえ、おめえだよ、早く消えろこの野郎」。「キミ、そういうのをアロガントっていうんだ、つつしみたまえ」。万事こんな具合だ。こいつは日本から来たくせに、シャムだかどこだか知らないが外国の血筋を気取ってる。これはこれでいけ好かない奴だ。ゴンベエは雑種の和猫でキジトラよ。そりゃ気が合わんわな。僕は黒猫だからどっちでもないし品格があると自分では思っている。まあ、社交性もないではないからその気になればどっちとも上手くやれちゃうんじゃないかとは思うが、洋風を気取ってるシャムは僕も気に食わんから友達になろうなんて気はさらさら起きないね。

そういや主人がよく言ってたな、「俺は留学しちゃって16年も海外にいてさ、洋風気取りだと思われるところがあるんだよね、だけど、本性は純日本人で海外に長いこといてますます日本人になって帰ってきた」ってね。わかるような気がしてきたな。そういやあ、こうやってぬくぬくと天国にいてね、長いこといちゃうと生まれ変わってシャバに戻っても天国かぶれって言われちゃうかもしれないよね。僕は今度は人間で戻りたいんだ。でも長いこと猫やってたもんだからかなり人間には遅れちゃってる感じがするんだよ。猫だけじゃなく動物やってた者達はここに来るとすぐ人間になりたがって阿弥陀如来さんの所へ行くんだな。見てると面白いよ、列に並んで順番が来るとね、そこにテレビみたいなスクリーンがあって、たくさんの人間のお母さんの画像が出てるんだ。「はい次は君かね、君はどのお母さんのところに行きたいかな?」って阿弥陀さんに聞かれるんだ。「そうですね、じゃあ右から3番目のお母さんにお願いします」なんて答えるだろ、すると、そこに長い長いトンネルがあって、じゃあここに入ってって指示が出る。すると、シューッとすごいスピードで地上に降りていくんだ。そして気がつくと、選んだお母さんのお腹の中にいるってわけさ。みんなそうなんだよ、でも記憶は3歳までに消されちゃうから誰も覚えてないって仕組みさ。僕もすぐ列に並ぼうと思ったよ。でも人間界はすごい勢いで進化してるからね、猫がいきなりなったってついていけなくって君っていつもお花畑だねなんて言われる人間になっちゃう。そう考えたんで、僕はしばらくここにいて、たんまり勉強してから人間になろうと決めたんだ。

「フク、なんで俺の言ってることがわかるんだ、いい猫だね」。僕は少なくとも4、5回はそうやって真剣に主人にほめられたことがある。いい猫ってのは主人の猫に対する最上級のほめ言葉なんだ。だから、その辺の猫と一緒にしてもらっちゃ困るって自負があるのかもしれないな。思えばみよ子だって、色っぽいだけでどうひいき目に見ても賢いメスじゃない。荒くれもんのゴンベエや、ちゃらい洋風かぶれシャムにお似合いだったってわけさ。そういや、主人がよく読んでたショーペンハウエルってのをいま読んでるんだ。猫がどうしてって思うかもしれないけど、ここにはあらゆる書籍も動画も録音もあってね、だんだん読めるようになっちゃうんだよ、いるだけで。それにしても驚いたね、この哲学者先生の女性観は強烈だね、いまどきなら即死もんだよ。「彼女たちがただひとつ真剣な仕事とみなしているのは恋愛や男心を征服すること、およびそれに関連すること、たとえば化粧やダンスといったことどもだ」なんて感じだからね。女が強くなったっていう見方もあるけどさ、化粧やダンスに明け暮れる男もたくさんいる時代だからね、まだわかりやすいオスであるゴンベエやシャムのほうが生物としてはマシじゃないかって気もしてくるわけさ。

Categories:(=‘x‘=) ねこ。, 黒猫フクの人生観

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊