フレデリック・ディーリアス 「ブリッグの定期市」
2015 MAY 4 2:02:07 am by 東 賢太郎
GWはいつも家でのんびりして、天気が良ければジョギングがてら多摩川に出ます。この川で育ったので、ここへ来て呼吸するとなにか五感に訴えるものがあります。
川辺の匂いは川藻のような何処の川とも違う昔の儘で、草いきれと混じりあうと一気に50年前に戻るのは不思議です。耳を澄ますと聞こえてくる音。鳥の声、せせらぎ、風、草、子供、遠くの犬の声。
こういう所に座って、ぼんやりと1時間ぐらい過ごしていると、
そういう音が、遠くから近くから、360度あちこちの方向から、大きかったり微かだったり空気を縫ってきこえてくる。これにはどんな劇場も敵いません。
海外に長いこといて欧米アジアの有名なリゾート地はほとんど行ってみましたが、今となるともうこの多摩川に勝るものなしです。僕にとってはこれぞおふくろの味、お茶漬けの味であります。
天空を何種類もの鳥が飛んで鳴き交わすと、素晴らしいオーケストラになります。重たい空気を切ってピッピ、ピヨピヨと遠く鳴る声は、光が音になったみたいに軽い。
昔からこういう名もない雑草をしげしげと見るのが好きで、こんなものばかり撮って歩いてると不思議な眼で見られますが、このなかに幼いころの記憶がぎっしりつまっています。トンボやバッタをとったり、ボールをさがしたり。
人間がきれいに見えるように植え育てた草花は、きれいですが味気なく感じます。人がきれいに見せているものがそう見えるというのと、何でもない物に美を見出すというのとはぜんぜん違う行為です。
これを味噌汁に入れればいいだろうと思っていつも持って帰っては、必ずお袋に捨てられてましたね。野蒜は玉ねぎみたいでマヨネーズでおいしかった。でもこれとザリガニはだめでした。
ねこがでかい。でもこのメスはすり寄ってきて甘えます。猫好きはすぐに見抜かれます。ほんとうにかわいいですね。
今日はお月さんもでかかった。
こんな環境で育ったなんて、まさに野生児だったと思います。ここは東京都ではありますが、東京育ちっていうのはウソですね。都会は今もとても嫌いであります。どこか田舎でネコ300匹ぐらい飼ってネコに埋もれて住みたいものです。
今日のムードにぴったりの音楽があります。これを聴いてゆっくりと眠れそうです。フレデリック・ディーリアスの「ブリッグの定期市」です。音楽の事、何も書きませんが、むすかしいことは似合わない曲です。
これが誰のか書いてませんが、僕が好きな演奏はオウェイン・アーウェル・ヒューズ / フィルハーモニア管弦楽団です。指揮はとても繊細で音楽に感じきっており、オケがセンシティブに反応して大変美しい。この曲は水彩画のように淡い色彩ですから録音がいいのがおすすめですね。イギリスの風景画ですが、これを夕方に多摩川を歩きながら聴くのはハマりです。
ちなみに、ディーリアスの権威で彼の音楽を広く世に紹介したトーマス・ビーチャムがロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を振った録音がほぼ万人が推すこの曲の代表盤でしょう。ディーリアスは米国で黒人音楽に影響を受け、フランスのフォンテンブロー近郊のグレ=シュル=ロワンに住み没した人です。ジャンルとしてはイギリス音楽なのですが、むしろ彼しか書き得ない非常に詩的で個性的な作風で、彼の音楽が「イギリス音楽」と呼ばれるようになる芸術音楽の特徴の一部を形作ったといっても過言ではないでしょう。