Sonar Members Club No.1

カテゴリー: ______ヘンツェ

ヴァイグレ/読響のヘンツェ、ブルックナー9番

2019 MAY 16 23:23:24 pm by 東 賢太郎

《第10代常任指揮者就任披露演奏会》
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ

ヘンツェ:7つのボレロ
ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調 WAB.109

 

ヘンツェが良かった。自作自演の交響曲1-6番のCDは大事にしているし8番はブログにした。

ヘンツェ 交響曲第8番(1992/1993)

7つのボレロ」も atonal ではあるが、リズム(ボレロ)はもとより旋律も調性も構造もある「無調的調性音楽」に僕には聞こえる。どれもそうだが彼の曲は不思議と肉感のある機能和声ではない万華鏡の如き和声が魅力で、これを現代音楽としてとらえるなら悲しいことだ。同じく好きなメシアンには色彩と神性を感じるが、ヘンツェは肉体と森の昇華をイメージするからドイツ音楽の系譜にあると思うし、ボレロはドイツの立場から描いたラテン的ものが加わる。読響も一個の音響体として舞台に美しくソリッドな実在感を据えて演奏し、文句なしの悦楽だった。これを常任指揮者としてオープニングに持ってきたヴァイグレの趣味に賛同。

後半のブルックナー9番。この曲は02年にスクロヴァチェフスキがN響を振ったものが良かった。トルソである故にプロポーションのバランスがなかなか納得性が得にくく、それは演奏時間というよりも感情の起伏のバランスだ。ヴァイグレはそれを調和させて整える方向でなく、あるがままの、ある意味で当時前衛的でもあった音の軋みまで臆さず前面に出してsachlichに提示したと思料。非常に恐ろしいものを含んだスコアであることがわかった。トルソがトルソに聞こえる意味でもこのリアル感ある演奏は面白く、あえて後期ロマン派に寄せた緩い演奏よりはずっと良い。

 

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

ヘンツェ 交響曲第8番(1992/1993)

2017 FEB 19 22:22:44 pm by 東 賢太郎

電車でイヤホンできいてるのはatonal(無調)の曲です。最近はヘンツェなどですね。同時に「ながら」でブログを書いてますから、頭がキリッと冴え喜怒哀楽の感情の波がおきない現代音楽がよいのです。

ハンス・ウェルナー・ヘンツェ(1926-2012)はドイツ人ですがヒトラーにかぶれた父に反抗して育ち、徹底した反ナチズムを標榜してイタリアのローマ近郊に居を構え、共産主義に共鳴しキューバの革命政権を支持してチェ・ゲバラの追悼曲まで書いた。ホモでもありましたから、バーンスタインのいう理想の音楽家、「ホミンテルン」に完璧に適合する人物でありました。

ポスト・ウォーの作曲家として僕はフランスでブーレーズ、ドイツでヘンツェを評価しております。ヘンツェの音楽はしかしブーレーズとは対極的でセリーでも微視的でもなく、多くのオペラ、バレエがあるように劇場で映え、無調ではあるが旋律がきこえ骨太でどこか肉感的です。10曲書いた交響曲はドイツの楽団の音になじみ、音響としてはブラームスの末裔としてとらえられるどっしりとした名曲ぞろいであって、ぜひ広く聴かれることを願ってやみません。

第二次大戦後も母国と絶縁状態にあった彼の活躍の場はイタリア、英国でしたが、ようやく1980年代になって復縁の方向となります。シェークスピアの真夏の夜の夢から発想し1992/1993年に書かれた交響曲第8番は、ベルリンの壁崩壊を経た復縁後の作風としてややラディカルさは後退していますが、60才台半ばの円熟の技法が冴えわたった名品で僕は特に愛好しています。

マルクス・ステンツ指揮ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団のこの演奏は驚くばかりの名演で何度聴いても圧倒される稀有な録音として記憶されるでしょう。

この作曲時に我が家はドイツに住んでいたわけで、まさにコンテンポラリーであります。和声はatonalなりにロマンティックであり、旋律性とあいまって独自の美感を確立しています。これは同じドイツ語圏の新ウィーン楽派とは一線を画した世界で僕にとって非常に妖しく魅力的な交響曲なのです。

彼の代表作のひとつ、ピアノ協奏曲「トリスタン」 (1973) (ピアノとテープと管弦楽のための)にはブラームス第1交響曲の冒頭があからさまに引用されます(16分57秒~)が、ヘンツェの交響作品の質感がブラームスに近似性を感じさせる好例としてお聴きいただければと思います。

このところ取り上げるのが現代音楽ばかりになりましたが、音楽=tonal(調性)とは教育の嘘です。我々が聞く99.99%の音楽は調性音楽ですが、それは音楽をする方も聞く方もそういう既成概念の奴隷として育つからで、雅楽であれ長唄であれ江戸時代までの日本に三和音による調性音楽など存在しません。古来よりの日本人の心の耳を開いて聴けば無調音楽にいかに偏見をもって育ったかはご理解いただけると信じます。

ヘンツェの8番。何度もくりかえし聴いていただき、それが信じがたいほど「美しい」というのを知っていただければ幸いです。

 

 

Yahoo、Googleからお入りの皆様

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊