ボロディンと冨田勲
2013 APR 1 0:00:23 am by 東 賢太郎
ボロディンの「中央アジアの草原にて」、聴いていただけましたでしょうか?
この曲のテーマ、とくに2番目に出てくる「東洋風テーマ」(下のピアノ譜をご覧ください。3小節目からです。オケではイングリッシュ・ホルンが鄙びた音で吹いてます。)の肌にしみいるなつかしさ、人なつっこさ(少なくとも僕にとってはですが・・・)は何なのか、不思議でなりません。
同じような風情のテーマは歌劇「イーゴリ公」の「ダッタン人の踊り」や交響曲第2番にも出てきて、ボロディンのトレードマークといっていいかもしれません。こういうメロディーを書く才というのは、他の作曲家には感じたことがないなあと思っていたら、一人だけ思い当たる方がおられました。
我が国の誇る民族派巨匠、冨田勲です。ドビッシーやホルストをシンセサイザーでアレンジしたアルバムは海外でも評価され、もはや「世界のトミタ」ですね。僕が彼を知ったのは昭和47年のNHK大河ドラマ「新平家物語」のテーマ音楽が好きになったからです。これです。
それから、NHK「きょうの料理」のテーマも彼の作品です。日本人でこれを知らない人はいないでしょう。
しかし彼の最高傑作はNHK番組「新日本紀行」のテーマではないでしょうか。君が代を思わせるメロディーと素朴なコードが日本人のこころをぐっととらえる不思議な力を持っているように思います。このメロディーを好きになってくれるなら、どこの国の人でも仲良くなれそう・・・みたいな親和力を秘めている気がいたします。「中央アジア・・・」のメロディーとは似ていないのですが、この「ぐっとくる」感じが、僕にはとても似ているように思えるのです。冨田勲さんを偉大なるアマチュアとは申しませんが、音大作曲科卒ではなく慶応大学文学部卒であるところはボロディンとどこか共通するように思います。
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中島 龍之
4/1/2013 | 11:56 AM Permalink
「中央アジアの草原にて」、聴かせていただきました。「東洋風テーマ」はなにかオリエンタル風な感じがします。そんな懐かしさでしょうか。富田勲の「新日本紀行」のテーマは思いだしました。日本の山村のようなイメージで聴いてました。あれは正に日本の音ですね。
東 賢太郎
4/1/2013 | 5:05 PM Permalink
両方の共通点、感じていただけたようでよかったです。あくまで「感じ」でOKです。こういうものを言葉や絵で表すのはたぶん限界があり、音楽というものだけがそれを人間の感情に深く訴えかけることのできる独特の力を持っているのではないかと思います。そして、より重要なことですが、そういう心象風景を伝える媒体として「オーケストラという楽器」以上のものは考えられません。たまたまそうなのではなく、オーケストラというものはそういう目的のために人類が英知をしぼった集大成として進化してきたものだからです。中島さんが「正に日本の音」と感じられたもの、そういうものが元々は日本のものではない楽器のビッグバンドであるオーケストラというもので出せてしまうのもその結果です。音のパレットの種類は膨大ですからほぼ何でも表せてしまうと言っていいかもしれません。オーケストラを使うクラシック音楽というものの奥深さはそこにありますから、できれば実演で生オケの音をじっくりと味わってみてください。
中島 龍之
4/2/2013 | 5:45 PM Permalink
「正に日本の音」が西洋の楽器から作られたものなのですね。何気なく書いていましたが、これがオーケストラの面白さでしょうか。生オケは機会を見つけて聴いてみます。
東 賢太郎
4/3/2013 | 8:12 AM Permalink
「東洋風テーマ」はイ短調でソーフーミーレードと降りる音階に装飾音がついたようなくねくねしたメロディーで、東洋風というより中近東風のように思います。むしろアラブのコブラ使いの笛が似合う感じでイングリッシュホルンこそまさに適役です。バスはイ(ラ)のまま(オスティナート)。中音二声(アルト、テノール)は半音階ずつ下降。どう見ても日本風ではありません。一方で「新日本紀行」はニ短調のシがcis(ド#)でなく半音低いド。これは新世界交響曲の第4楽章のテーマと同じなのです。実験で新日本紀行をcisにしてみると妙に中近東風になります。これは非常に深いものを秘めている気がいたします。
中島 龍之
4/3/2013 | 7:06 PM Permalink
「東洋風テーマ」がコブラ使いの笛とは、言い得て妙ですね。くねる感じがありますね。半音の違いについては、まだよく分かっていませんが、#が付くか付かないかでは雲泥の差があることは、これまでの東さんのコメントの中で実感しています。一つの音の持つ意味、色のようなものを感じられるようになりたいものです。
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[…] 以前にボロディンと冨田勲のブログにこう書きました。「新日本紀行のテーマ。君が代を思わせるメロディーと素朴なコードが日本人のこころをぐっととらえる不思議な力を持っているように思います。このメロディーを好きになってくれるなら、どこの国の人でも仲良くなれそう・・・」。おそらくこのテーマは日本のどこの風景を描写したものでもないでしょう。日本人なら誰もがどこかでもっている「日本的なものの思い出」、そういう心象風景が音になっているように思います。オーストリア、スイス、南ドイツの人にとって田園はそういう風にとらえられる音楽ではないかと思います。しかしながら、「自然が人の心に呼び起こす感情が表現されている」とベートーベン自身が書いているのですから、この音楽に感動するならばそれが呼び覚ました思い出がどこのものであってもよいでしょう。聴く側は別にザルツカンマーグートを見たことがなくてもご自身のお好きな田園体験を想いおこして幸福感にひたれるならばそれでいいのではないでしょうか。僕は岩手の八幡平で行った藤七温泉へ向かうときの楽しい気分なんかでもけっこう様になるなと思ってます。 […]