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ビゼー「アルルの女」(Bizet: L’Arlésienne)

2013 OCT 20 17:17:51 pm by 東 賢太郎

音楽による地中海めぐり、フランス編の第2は有名なアルルの女です。

「アルルの女」(L’Arlésienne)はカルメンを書く前年にビゼー34歳で書いたドーデの「風車小屋便り」から取った戯曲への劇付随音楽です。後にオーケストラのための2つの組曲が編まれ、第1番はビゼー自身、第2番は友人のエルネスト・ギローによるもの。現在演奏されるのはほとんどこの組曲版の方です。アルルは下の地図の矢印の先、マルセイユの西、モンペリエの東に位置します。1983年、米国留学の夏休みにこの地図の西から東へドライブしましたがそれが初の南仏(プロヴァンス、コート・ダ・ジュール)体験で、アヴィニョン、アルル、エクサン・プロヴァンス、マルセイユと南下して地中海沿いをカンヌ、アンティーヴ、ニース、サン・ポール、モンテカルロ・・・と行きました。外国といえば米国しか知らなかった僕の眼にここの絶景、文化、気候、食事は衝撃であり、美意識の土台にどっしりと組込まれることとなり、地中海地方への変わらぬ愛着となってここに何度も足を運ぶこととなりました。

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「アルルの女」のあらすじはwikiからお借りしましょう。

「南フランス豪農の息子フレデリは、アルルの闘牛場で見かけた女性に心を奪われてしまった。フレデリにはヴィヴェットという許嫁がいるが、彼女の献身的な愛もフレデリを正気に戻すことはできない。日に日に衰えていく息子を見て、フレデリの母はアルルの女との結婚を許そうとする。それを伝え聞いたヴィヴェットがフレデリの幸せのためならと、身を退くことをフレデリの母に伝える。ヴィヴェットの真心を知ったフレデリは、アルルの女を忘れてヴィヴェットと結婚することを決意する。2人の結婚式の夜、牧童頭のミティフィオが現れて、今夜アルルの女と駆け落ちすることを伝える。物陰からそれを聞いたフレデリは嫉妬に狂い、祝いの踊りファランドールがにぎやかに踊られる中、機織り小屋の階上から身をおどらせて自ら命を絶つ。」

イタリアの作曲家フランチェスコ・チレアにも同名のオペラがあり、そこではアルルの女は牧童頭の元恋人の尻軽女とされていますが、いずれのリブレットでも彼女は名前が不明なのです(まったく関係ないのですが、つい僕はこっちも名前は最後まで不明だったウイリアム・アイリッシュの名作「幻の女」を思い出してしまいます)。

398-4efdd6f345c1d-642x396-3ともあれ男が嫉妬に狂って自殺するというのは「若きウエルテルの悩み」のフランス版本歌取りかもしれませんね。そういうえばカルメンも男の嫉妬が主題でしたが、嫉妬の結末はやっぱり決闘が王道なんじゃないでしょうか。どうも女を殺したり自殺したりというのは女々しいような気がするんですが、そういう迷える男に共感する美学が18-19世紀のヨーロッパにはあったんでしょうか。何といっても、あのナポレオン・ボナパルトがウエルテルを戦地で7回も読んだというのが驚きです。写真はアルルの円形闘技場です。

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ところでアルルにはフィンセント・ファン・ゴッホが住んでいましたね。 ゴッホはプロヴァンス地方の景色と色彩に魅かれてここに移り1888年2月~1889年5月の期間をゴーギャンと過ごしたのですが、徐々に精神を病んで例の「耳きり事件」を起こしたのです。右はアルルの「アングロワのはね橋」(1888年)です。ゴッホに色覚異常があったという説は真偽不明ですが、以前書きましたように、色弱cafe_terrace[1]である僕の眼に彼の絵はひときわ鮮烈な色彩の像を結ぶのはまぎれもない事実です。その強烈なインパクトはうまく表現できませんが、普通にミレーが好き、ルノワールが好きというのとはたぶん違っていて、昆虫の眼が蜜のある花を選び出すように僕の眼はゴッホの色彩をあらゆる絵画で最も美しいものとして感知するのです。僕にとってこんな画家は2人とおりません。右の「夜のカフェテラス」(1888年)は「アルルのフォラン広場」でこのカフェは現存します。おそらく僕の眼は彼の濃いブルーに強く反応していて、それと黄色系(と僕には見える) の強い対比の心地よさなど何時間見ていても飽きません。ゴッホの色彩だけは一瞥にして僕gogh24の脳髄の奥の奥に達し、心の中の暗い風景を根底から吹き飛ばしてしまうぐらいの破壊力をもっているのです。右の「収穫」(1888年)のような青黄の対比は僕がラヴェルやファリャやレスピーギの管弦楽法、和声に聴き取っているものに非常に近いと思います。ゴッホを知る前からたぶんこういう感覚が好きであり、ヨーロッパに11年半住んでますます好きになり、50年クラシック音楽を聴いてやはりますます好きになったというのが自gogh30分史だったのだと思います。そして僕がビゼーのカルメン、アルルの女の特に和声に聴いているものも、それに極めて近いものです。それはいつ聴いても新鮮であり、音楽の秘宝に満ちている。この「糸杉のある麦畑」(1889年)のように謎めいた均衡と流動があって、見る者の心もざわつくようなもの。静止している風景画ではない「時間価」を内包した4次元時空絵画なのです。音楽は時間が加わっていますが、ビゼーの音楽は同じメロディーに付けられた和声や対旋律が時々刻々と微妙な色彩変化を遂げていくという形で他の音楽にない「時間価」を内包しています。変奏ではなく同じメロディーのリピートですが、この糸杉の後ろの雲のように色調だけはどんどん変わる。オーケストレーションもそうです。あのジョージ・セルがビゼーの楽器法を高く評価しています。僕にはこの4次元時空性に耳をそばだてずにビゼーを聴くことも演奏することも評価することも考えられません。

ひとつその代表例をお示ししましょう。下の楽譜(ピアノ譜)をご覧ください。第2組曲の第4曲「ファランドール」で、冒頭のメロディーに付随する和声が刻々と変容を遂げ、ついにオレンジ色の部分の驚くべき色彩に行き着くのです。

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何に驚くかというと、ここはロ短調のドミナント(嬰へ長調)で来ていて13小節目でアルトのc#がc♮になる。つまりF#の曲にいきなり最も遠隔調であるC(ハ長調)を突き付けられるからです。ところが11-12小節目でバスがc#、h、a#、a♮と順次下降して13小節でdにドスンと落っこち、これがCを支えるので和音はそれを土台にDを経てあっという間に元へ戻る。ここは四分音符=130~140ぐらいの高速で通り過ぎるので、そんなすごい転調が行われていることに気づく人はまずいないでしょう。「驚くべき色彩」と書きましたが、せいぜい色彩の変化と思うぐらいです。ビゼーの天才はなめられません。

それでは、「アルルの女」を全曲お聴きください。両組曲は以下のように4つの曲から成り立っています。

< 第1組曲>  前奏曲、メヌエット、アダージェット、カリヨン

< 第2組曲>  パストラール、間奏曲、メヌエット、ファランドール

第2の方の「メヌエット」だけはギローがビゼーの他の作品(美しきパースの娘)転用したものですが。僕は中学時代にいっときこの8曲が毎日頭の中で鳴るほど夢中になりましたが、今聴きかえしてみると「アダージェット」の美しさは壮絶なものであります。マーラー5番のアダージョにまで血脈を感じます。

CDです。

 

イーゴリ・マルケヴィッチ /  コンセール・ラムルー管弦楽団

414GTJFN42L._SL500_AA300_マルケヴィッチ(1912-83)はバレエ・リュスのディアギレフに見いだされたロシア生まれの作曲家でストラヴィンスキー、プロコフィエフの同輩ということになり、バルトークは彼を「現代音楽では最も驚異的な人物」と評しています。ラムルーは決して一流のオケではありませんがマルケヴィッチが振ると黄金の輝きに変わる観があります。この演奏、録音は古いのですが昔のフランスオケの気品と色香が散りばめられて無類の説得力があり、例えばカルメン前奏曲は掃いて捨てるほどCDがありますがもうこれでなくてはというテンポ、間、音の張り、押し出しetcで文句なし。アルルの女も全部が名演です。うまいというよりも下衆な例えですが、カラオケにその曲の本物の歌手が現れて歌った感じで、ほかの人は霞んでしまう。オーセンティシティを感じされるオーラがあるとしか表現ができません。

 

アンドレ・クリュイタンス / パリ音楽院管弦楽団

61WeQm3cySL最も定評あるものでしょう。カルメンの組曲もスタンダードの名演といってよく、まずはこれを聴いておくのが王道。管楽器の独特の色香はラヴェルのコンチェルトでも絶対の魅力でしたが、ここでも前奏曲のクラリネット、バスーン、間奏曲のアルト・サクソフォーン、第2のメヌエットやのフルート、カリヨンの中間部の木管合奏、などふるいつきたくなるようなフランスの音色です。ただ残念なのは(このオケの弱点なのですが)弦がいまひとつ美しくなく、木管もピッチが時々怪しい。クリュイタンスという人は精緻な指揮をする人ではないということです。そういう減点はあるが、トータルに見れば魅力あるアルルの女といえるでしょう。

 

ビゼー 交響曲ハ長調

 

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