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どうして証券会社に入ったの?(その6)

2014 DEC 1 0:00:12 am by 東 賢太郎

 

<大問題をまきおこす・の巻>

 

「ウチの名刺で会えない人なんかいない。四季報で外交してみろ」

S先輩もまさか僕が真に受けて本当にそうするとは思ってなかったでしょう。しかし、面白い、やってみようと朝一番に北区に巨大な白亜の本社を構える某一流上場企業に電話をしてみました。もちろん「社長にお会いしたい」といってです。

「どちらの部署の東さんですか?」「はい、梅田支店です」「少々お待ちください(1分ぐらい待つ)・・・申しわけございません、御社は大阪本社の事業法人部がお見えでございまして、そちらを通していただければとのことでございます」

なるほど、そういうことになるのか。これが一回目。よくわからないので今日は大丈夫かもと同じことをしつこくくりかえしました。ぜんぜん埒があきません(あたりまえです)。「大阪本店のO副社長がいつもお見えですよ」。なるほど。しかし副社長よりS先輩のノルマである社長の名刺集めのほうが重大事ですから、そのぐらいではひるみません。

知恵がついてきて、電話帳で調べて大代表ではなくいくつかの部署にかけてみます。同じ答えでした。さらに知恵がついて、秘書室という部署にかけるうちに、社長秘書がAさんという女性であることが分かってきました。電話の声だとちょっと年上だろうなあという感じ。だんだん一言二言の会話ができるようになり、「お会いしてどうされるんですか?」ときかれます。

もうこっちが支店の新人であり大阪本社事業法人部とは何の関係もないのはお見通しです。「はい、大学の先輩でいらっしゃるのです。ぜひお名刺だけでも頂戴したいのです!」それは本音でした。社長の名刺がほしいんですから。

そうやって来る日も来る日も1本電話をかけるごとにノートに「正」の字を書いていました。A秘書から耳を疑う言葉をかけられたのは64回目のことでした。

「今日社長は7時55分から5分だけお一人です。いらっしゃいますか?」

体に電気が走りました。その日の朝会で課長の銘柄は「富士通」でした。そしてラッキーだったのはT社の公募株がありました。「それ千株預けて下さい!」そう課長にお願いして一目散に駆けていきました。1分で自己紹介、3分で富士通、1分で公募、ちょうど5分!よしそれでいくぞ。

広い社屋で迷ってしまい、息をはあはあさせながら秘書室に到着したのはもうぎりぎりの時刻です。初めてお会いしたAさんは、思った通りたいへんおやさしい方で、「早くいらっしゃい、時間がないのよ、こっちこっち」とすぐ社長室へ通してくださいました。

目もくらむような立派な部屋に社長は笑顔でいらっしゃいました。「キミのことか、えらい元気がいいな」。Aさんから聞いておられたのです。1分で自己紹介、よし。3分で富士通、よし。そこまで予定どおり来ました。そうしたらそこで社長が、

「富士通なあ、キミ、うちはNECなんだよ」・・・

えっ、どういうことだ??もうこれで頭が混乱してわけがわからなくなり、最後の1分、T社の公募は名前だけ。すると、

「で、富士通は何株買えばいいのかな?」

えっ!?名刺をいただいて帰るつもりが想定外の展開にますますわけがわからなくなり、「い、1万株お願いします」とたまたま思いついた数字を申し上げるのがやっとでした。

まてよ、1万株って300万円だよな・・・

20万円の初商いで手がふるえてお札が数えられなかった僕にとって、これは青天の霹靂の大商いでした。

支店へ走って帰り意気揚々と報告をすると、「よーやった!」の嵐です。課長が「で、どこのお客さんや?」「はい、***のU社長です!」、ひときわ大声で答えました。

 

重苦しい雰囲気の中、次長さん課長さんが集合して大阪本店からクレームの電話を受けるS支店長をぐるりと囲んでいます。大変なことをしてしまった、もうこれはクビだろう。茫然と立ちすくむ僕に「アホかおまえ、相手を考えろや」まわりの先輩たちの厳しい目がささります。

すると、支店長の激した声がかすかにきこえました。

「副社長、新人ですよ。仕方ないじゃないですか。すごいじゃないですか。新人ですよ。お願いします、ぜひやらせてやってくださいよ」

このお言葉は聞こえたそのまんまです。一言一句、一生忘れもしません。驚きでした。支店長といってもまだ部長です。この会社はほんとうに凄い会社なんだ。そこで急に手足が震えてきたことだけを最後に、後の記憶は飛んでいます。

 

U社長のお人柄は泰然自若。偉ぶることは皆無で、それからは例の朝の5分間が10分になっていつでも会ってくださいました。家にも呼んで下さり気さくな話を伺いました。大蔵省をけって入社された話もありました。

「東クン、社長になると孤独なもんでな・・・」覚えてませんが僕が何か生意気を言ったんでしょう、「そんなことを言ってくれるのはキミだけなんだよ」。ハンコを押しながらつぶやかれた社長の笑顔は忘れません。

12月の末にちょっと来てくれと電話があり、来年の相場はどうか、どんな株が上がりそうかを書いてきてくれといわれました。そこで一生懸命に書いたそのままが正月3日の日経新聞で、恒例の「日本を代表する経営者の今年の株価予想」の欄に社長の写真と一緒にのっていました。

それから2年、赴任3年目の4月にいよいよ僕がS先輩のあとのインストラクターに指名された時、喜んでくだっさたU社長が「キミの初めての部下だな。あした連れてこいよ」となり、社長室で新人3人に「いい会社に入ったね」と言葉をかけて下さいました。いい会社・・・社長もあの時のS支店長の電話の話をほめておられたのです。

僕が留学で転勤のご挨拶をすると社長の口座はすぐ閉鎖されました。その後、財界のトップになられましたがお亡くなりになるまでお会いできませんでした。しかしこのことは僕の心のど真ん中にずっしりと刻まれております。もう野球の一芸は必要なくなって、これがその後の人生のバックボーンになりました。社長、支店長、そしてAさん、本当にありがとうございます。

 

どうして証券会社に入ったの?(その7)

 

 

 

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