「女性はソクラテスより強いかもしれない」という一考察
2015 FEB 15 18:18:34 pm by 東 賢太郎

二人の女を和合させるより、 むしろ全ヨーロッパを和合させることのほうが容易であろう (ルイ14世)
72年という最長の在位期間を誇り、私の中には太陽が宿っているとまで豪語した飛ぶ鳥落すフランス国王にしてこの言葉である。大変に奥深い。もしこの前段と後段が逆であれば、ブルボン朝はもう少し続いたのかもしれないとは思うが。
ギリシャがドイツに22兆円の戦争賠償請求したが旧友が電話で笑った。
「お前、あれってまるでウチの夫婦喧嘩だぞ。全然関係ない30年前の話が突然出てきてな、『そもそもあの時あなたは!』ってな。台風だからな過ぎ去るのをじっと待つしかないよ、ドイツもね。」
「しかしギリシャのあの政党、愛国は結構だがそれなら独立してまじめに働いて軍備強化というのがフツーの国だろ。外国からたくさんお金を取りますってのが選挙公約か?メジャーリーガーの代理人か離婚訴訟の弁護士みたいだ」。
と返したのは僕だ。あの党いわく、緊縮財政に屈していては国民の誇りが取り戻せないらしいが、ギリシャ人の誇りってそんなものなのか、それとも日本人にはわからない深いプライドの井戸でもあるのか。
僕は歴史で学んだ程度しかギリシャ人を知らないが、その範囲では尊敬しているから複雑な気持ちがする。無知蒙昧であった高校時代には「ソクラテスの弁明」を読んでもわからなかった。命乞いすれば死刑は免れたのにそれをせず、それが傲慢とされ死刑になったのがである。何か変だ。3つある。①命乞いしなかったこと②それが傲慢とされたこと③それで死刑になること。
①裁判員の無知に迎合せず、身なりや演説のうまいへたよりも真実だけを見ろという態度はPhil(愛する)+sophia(知恵)でフィロソフィー(哲学と訳されるが、逐語訳は愛智だ)の規範である。②そして、それをした人は少数派だった。愚衆の怖さが示唆されている。③そして、法が死刑というなら仕方ない、「悪法もまた法なり」。これは罪刑法定主義の元祖だ。
後日それを知り、僕はソクラテスのファンに、そしてこの書の熱心な読者になった。
そういえば6年前のある日のこと、今のギリシャ人はどうなんだろうかと部下のギリシャ人に尋ねたことがある。彼はもちろんソクラテスはみんな知ってますよといいながらしばし考え、その質問には直接答えず、こう弁明した。
「ギリシャ人にとっては世界の全てのことばの語源はギリシャ語です。だって世界中で It’s Greek to me. って言いますからね」
これは僕が人生で出会った最も機知に富んだジョークのひとつである。「それは俺にはギリシャ語に見える」とまともにとっているというおちょくりだ(本当はそれが転じて「わかんねえな、まるでギリシャ語だぜ」という意味)。日本生まれでハートは日本人、頭の中はアメリカ人でインテリの彼はちょっと自嘲気味であったのだ。
彼は哲学について、賢人によるこういう論理的考察を紹介もしてくれた。
「ぜひ結婚しなさい。よい妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば私のように哲学者になれる」(ソクラテス)
これはすべての哲学者は悪妻もをっているということは意味していないが、後世になっても女の大哲学者は出ていないこと、ハイドンの悪妻も有名で女の大作曲家もいないことから、女房のわからない職業がいけないかもしれないという推論にたどりついた。証券マンはどうなのかという話に道がそれていったが、どうも危ない気もするものの頭から水をかけられた経験はない彼も僕も、もちろん前者であるという点で合致した。
その推論はあながち的外れでないことが後でわかった。『ソクラテスの妻』を書いた作家の佐藤愛子が「ソクラテスのような男と結婚すれば女はみんな悪妻になってしまう」と自説を述べているからだ。この説は「ギリシャ人はなまけものだ」と主張するドイツ人に有効な反対弁論かもしれない。
どういうことか。
国家主権はあるが通貨主権はない。これを前提とする統一通貨ユーロは、そもそも変なのである。本来は、緊縮しないといけないぐらい財政がおかしいギリシャの通貨ドラクマは下がる。すると海外から見ると輸出品やパルテノン神殿への観光費用は安くなって売り上げが増え、税収が増すことで財政が立ち直るのである。ユーロという統一通貨になるとそのメカニズムが働かない。
ところがそのかわりに、ドラクマ建てだったら売れないボロ国債がユーロの信用で売れてしまうという利点がある。下宿人が大家の名刺で借金できるようなものである。借金というものは期日が来たら返さないといけない。それが返せず大家に援助しろと迫って渋られると「30年前の話が突然出てきて、そもそもあの時あなたはって始まるんだよな」となっている。
だって結婚しようって言ったのはあなたじゃない!
有罪・死刑投票をしたアテナイ人諸君は、ソクラテスを死刑に処したという汚名と罪科を負わされるだろう。
ここだけ読むと身勝手な逆切れおやじだが、全部読めば僕はソクラテスの味方なのだ。ギリシャの言い分にはこんな深い井戸があるんだろうか?
しかし人間の理性というものにも限度がある。男が全部理性的であるということはまったくないが、泣き叫ぶ赤ん坊のようにどうしていいかわからない相手に対して女性ほどの忍耐力は持ちあわせてもいない。大家でありアテナイ人諸君でもあるドイツが、だんだんこういう気持ちになるんじゃないか心配になってくる。
私には女が象と同じように思える。 眺めるのは好きだが、家に欲しいとは思わない。(米国の伝説的コメディアン、W・C・フィールズ)
そんなことになると世界経済に暗雲がたちこめてしまう。考えたくないがひょっとして、一途で生一本なソクラテスよりも、人生酸いも甘いも知ったルイ14世のほうが正しかったんじゃないか?
このチキンゲーム、先は全く読めないが、とりあえずのところ世界はドイツ国民の賢明な判断に拍手を送っておかねばならないだろう。それは首相に女性を選んでおいてくれたことだ。
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中村 順一
2/16/2015 | 9:48 AM Permalink
私としては、19世紀以降のギリシャ人は好きになれない。18世紀まではむしろ正教グループの一員という意識だったのに、突然ともいえるタイミングで、古代ギリシャの栄光、ヨーロッパ文明の源、と主張しだした。うそつきばかりで、7~8年前に行ったアテネのレストランでも、領収書は2重だった(税金を抑えるため一枚は安く、実際には客にプラスアルファを要求する)。責任感は全くない国民性だ。
東 賢太郎
2/16/2015 | 8:17 PM Permalink
正しくはヨーロッパ古代文明の源だな。オペラ史を読むと面白い。オペラの起源はイタリア人がルネッサンスの勢いで古代ギリシャ悲劇に歌をつけたものだ。女人禁制の教会の聖歌隊に高音を歌う人材がなく、去勢した男(カストラート)を使った。これは産めよ増やせよのキリスト教の掟破りだ。だからそれが平気だったイスラムのスペイン、ポルトガルから去勢男を連れてきた。かように現代ヨーロッパ文明も文化もごった煮、チャンポンだがもしあえて源流をと言うならギリシャ・ローマ文明のアラビック・バージョンだろう。ちなみにギリシャ語のオペラは知らない。