頑張った人が報われない社会
2015 MAR 1 3:03:37 am by 東 賢太郎
ピケティのデータベース The World Top Incomes Database によると、日本の所得上位1%は2010年時点で総所得の9.51%を得ており、このような推移を見せている。
戦前より大きく減り、90年代より少し上昇しているが、ドイツは10%、英国12%、米国18%であり特に高いわけではない。元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一氏は、
筆者がテレビで「日本ではトップ1%に入る所得は年収1300万円」と発言したことが、ちょっとした話題になった。発言した瞬間、出演者やスタジオの関係者がみんな凍りついたのだ。格差問題を報道しているテレビ出演者たちは「トップ1%」なのかという驚きだったのだろう。米国のトップ1%は4400万円であるが。
と書いている。「ちなみに日本のトップ10%、トップ5%の年収はそれぞれ576、751万円だ。これも予想外に低い数字だろう。」とあり、富裕層への課税強化となればトップ10%が対象だろうが、年収576万円と聞くとはたして高額所得者と思えるだろうか、と疑問を呈している。
日本人の平均年収は225万円だ。前回書いたように中国ビッグバン現象で労働市場の価格破壊がおこり、日本人が貧乏になった分だけ中国人がリッチになって秋葉原で「大人買い」をしているのである。懸命に仕事をしても賃金が低いとなると「頑張った人が報われない社会」になってしまう。若者の雇用を促進すべく、年功序列、終身雇用といった硬直的な労働市場の改革が急務である。
一方で金融資産を見ると、我が国は米国の7900兆円には遠く及ばないもののそれでも1654兆円もある。だからピケティの指摘する「資産による格差」(r-g)がさぞかし大きいだろうと思ってしまうが、冒頭の彼のデータベースによると、トップ1%の平均年収2145万円にキャピタルゲインを加えると2354万円とあるので、一人当たりたったの209万円(収入比9.7%)しかない。
なぜかというと、これが原因だ。米国と日本の金融資産のありようは気が遠くなるほど劇的に違っているのである。
米国人は金融資産の約3分の1も株式を持っており、比較的株式投資には控えめなユーロ圏すら17.1%を持っている。株と投資信託と加えると米国は約半分にもなる。
ところが、我が国では株式はたったの9.4%とユーロ圏の半分しかなく、アメリカ人が株・投信を所有しているのとほぼ同じ比率を現預金で持っているのである。従って、米国に比べればr-gの格差効果はピケティに心配してもらうほど甚大でもなんでもない。むしろ、自国の株が2倍半にも暴騰しているのに、儲かったのはほぼ外人だという国民的機会損失の方がよほど心配である。
遅きに失した感はあるが、投資教育こそこの馬鹿らしい損失を今後は減らす唯一の方策である。所得が少なく資産が小さい人でも1万円で株やETFは買えるし、REITを買えば小口でも不動産のオーナーにもなれるのだ。日本人は明治以来、欧米に追いつこうと頑張ってきたはずだ。どうして株式を資産に組み入れることは追いつこうと頑張らないのだろう?
株価が史上最高値を更新する米国で資産の半分近くを株で持っている人たちがリッチになって銀座のクオリティの高級寿司屋がニューヨークで大繁盛するのはもっともなことだ。ご本家の銀座で金持ちが食っているといって、格差だ、けしからんというのはちょっと違うんじゃないか。
投資の勉強とは証券会社のいいなりになることでもネットのくだらない書き込みを読むことでもない。証券セールスが本当に株式をよくわかっているわけでもなく、むしろそうでないことの方が圧倒的に多い。本当にわかっている人に教えてもらうのが一番リスクがないし早い。
わかっている人というのは学歴やキャリアではなく、投資歴、戦績で見ないといけない。Security analysisを知っているべきだが、学校で教科書的に習わなくても実践的にその本質を理解している賢い人はいくらもいる。学歴など何の関係もないと断言してもいい。だから大学では教えないし、教えたくないのだ。自分の権威が傷つくので。
投資を勉強することも「頑張る」うちだ。「頑張った人が報われない社会」は発展しないが、頑張る人とは何事も自分で勉強し、リスクを取ってトライする人のことをいう。
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