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プーランク 即興曲第15番「エディット・ピアフを賛えて」

2015 MAR 12 0:00:57 am by 東 賢太郎

生涯独身だったパリジャン、プーランクのダンディズムは男としていつも格好いいなと思います。彼はドイツロマン派が嫌いでモーツァルトとフランス古典音楽を愛した。僕はゲルマンの重い陰鬱で粘着質な気質よりラテンの軽くて透明で移り気な精神が好きなので、プーランクの音楽に魅かれます。

彼がシャンソンというキャバレーの雰囲気をもった大衆の歌と接点を持っていたのもいいですね。音楽が宗教の厳粛さも表せるなら遊びでもあるという姿勢であって、この飛翔するような精神の自由さは本当に人生にゆとりを持って臨めた人だけに許される境地のように感じます。

このハ短調の15番「エディット・ピアフを賛えて」は即興曲集の最後の一つでとても有名ですが、この小品をもってプーランクの代表作というのは憚られます。むしろその耳触りの良さは、何かの意図を抱いてあえてそうしたのだろうと考えるべき性質のものを秘めている、どこか陰のある作品のように思うのです。

最後に心地よくハ長調におさまりそうな気分がふらふらと短調と交差して、結局最後のコードはハ短調に戻ってしまう・・・このメランコリックな心の揺れが何かを暗示しているようです。子供でも弾けて一見してオシャレ感がある。ピアノの発表会で好まれそうな曲想なのですが、このエンディングまでちゃんともっていけるかな?これはオトナの音楽ですからね。

以下に僕の想像を交えてご紹介するエピソードが真相かどうか?皆さんにご判断はゆだねますが、クラシック愛好家界を二分する「耳の娯楽派」の鼓膜を心地よく慰撫してくれると同時に、「考古学派」の知的好奇心をもかきたてる謎に満ちた名曲と思います。

彼が好きだったシャンソン歌手、エディット・ピアフ(1915-63)はフランスで今も愛されている歌い手の一人であり、国民的象徴という意味では日本ならばさしずめ美空ひばりというところでしょうか。ちなみに、誰もが知っている「愛の讃歌」はこういう歌でした。

プーランクがピアフと会った記録はないそうです。両人ともジャン・コクトーと極めて親しかったのに不思議なことです。ただ、プーランクはピアフの歌を愛していました。1950年にニューヨークに行ったおりに、プーランクは彼女がこの歌をラジオ・ショーで歌うのを聞きました。「バラ色の人生」です。彼は日記に「プログラムの中で、官能的な歌はこれだけだった」と記しています。

ピアフが恋人のマルセル・セルダンを飛行機事故で失ったのはその前年の1949年です。そして1958年にプーランクは「人間の声」を書きました。ジャン・コクトーの原作によるこのモノオペラ(一人歌劇)は別れた恋人に電話で自殺をほのめかす女を主人公としますが、プーランクはそこで書いた悲しいワルツが「あまりにピアフだ・・・」と気に病んだそうです。ピアフはパリにいたセルダンに「はやくニューヨークに来て!」と電話した。船をキャンセルしたセルダンは、それであの飛行機に乗ったのでした。

今回お聴きいただくプーランクの「15の即興曲集」の第15番「エディット・ピアフを賛えて」(Hommage à Edith Piaf)はそのワルツと同様に、ピアフの得意だった有名なシャンソン「枯葉」(Les feuilles mortes)と似たメロディを持つのです。

ところが、オマージュといってもこの即興曲が書かれた1959年にはピアフはまだ生きていたのですから不思議です。何があったんでしょう?

「人間の声」を書いて “would be too Piaf” と言った彼の心には何かが横たわっていたのでしょう。「官能的な歌はこれだけだった」というプーランクの日記。「セルダンが死んで、ピアフも死んでしまったのです」という親友の言葉。なんともせつないものが「エディット・ピアフを賛えて」にはこめられているような気がしてなりません。

お聴き下さい。これはプーランク唯一の弟子だったガブリエル・タッキーノの演奏です。

こちらはパスカル・ロジェ。実に素晴らしいタッチです。プーランクは最も好きな作曲家5人にショパンを入れていますが、それを思わせる曲でもあります。

 

PS.

1963年1月30日にプーランクは亡くなった。同じ年の10月10日にピアフがリヴィエラで癌で亡くなると、数時間後にコクトーはその知らせを聞いて「何ということだ」と言いながら寝室へ入りそのまま心臓発作で息を引き取った。

 

(こちらへどうぞ)

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プーランク オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲 ト短調

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