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ドヴォルザーク 交響曲第7番ニ短調 作品70

2017 OCT 17 17:17:19 pm by 東 賢太郎

香港の2年半でおいしい中華料理は食べつくしていて日本でなかなか満足ということがない。中華といって何種類もあるが結論としては広東料理が一番であって、となると恵比寿ウエスティンの「龍天門」がいい線いっていて坦々麺など格別に美味だが値段もそれなりだ。横浜中華街の聘珍楼も高いがここのフカヒレ姿煮は香港であっても一級品だから時々そういう所で食するしかない。

そういう極上な美味を堪能してしばし仕事から開放されたときの心境にぴったりなのがドヴォルザークの7番だというとえっと思われるかたが多いだろう。

7番がブラームスの交響曲第3番初演から霊感を得て作曲されたというのが事実かどうかともかく良く知られる逸話だ。たしかに第1楽章冒頭に現れる暗い趣の第1主題からしてブラームス3番の第4楽章のそれを髣髴とさせる。

僕が大好きなのはそこからしばらくして現れる第2主題である。2本のクラリネットと低い音域のフルートが奏でる変ロ長調のこれだ(in tempoから、上のビデオの2分59秒)。

fpで強調される和音!(E♭Ⅲon C)なんて素晴らしいんだろう。冒頭の漆黒の闇からここへ到る旅は短いが、心に戸惑いを秘めたような経過句をさまよって辿り着いたこの主題の歓喜はこの溜息のような和音で確信にかわるのだ。それを慈しむように繰り返すのは、想像だがドヴォルザークもこの和音に痺れていたんだろう。ブラームスは理性の人で、やりたくてもこういうことはしない。

先日美味しい料理とワインで幸せになって、娘に「いまどんな気分と思う?こんなだよ」とこれを鼻歌できかせる。そうするとfpの和音を出す伴奏の第2クラリネット、ファゴット、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスにどう吹いて、弾いてもらったら僕の欲しい「あの音」が出るんだろう?と考えもする。いろんな演奏を聴いてきたが、ここが満足いくのはあまりない。

この和音がどうしてこんなに好きなんだろう?ピアノを前に考えているとわかった。これはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のここ(赤枠の部分)と同じだったのだ。

好きなわけだ。音楽の好き嫌いはこうして因数分解すると理由が見つかる場合がある。第1楽章展開部はいよいよブラームスっぽくなっていくがfp和音直前のソ・ファ・ソのリズムがベートーベンの運命音型に変容して峻厳さを加える。7番はスメタナ、ヤナーチェクと異なってドイツの形式音楽に道を見出したドヴォルザークの最初のシグナチャー・ピースであり先人を刻印している。

翳りを含んだ第2楽章は曲想も管弦楽法もさらにブラームス的だが終結に至るパッセージはいささかワーグナー風だ。第3楽章はスケルツォでブラームス3番のロマンよりスラヴ舞曲の世界に近接する。第4楽章は第1楽章冒頭の世界に回帰してニ短調の暗色が支配するが、第2主題がここでも抒情を添えることも、トゥッティで楔を打ち込むような跳ねるリズムの印象も非常にブラームス的だ(後者は特に3番の終楽章と近似する)。

ブラームスの影響を聴感上濃く感じる作曲家としてエルガー、作曲法上はシェーンベルクがいるが、ドヴォルザークが作曲家としてそうだと言い切ることは難しいだろう。しかし全編に満ちる情緒でそれを体感させる楽曲として彼の第7交響曲を凌ぐ音楽は存在しない。僕は彼の交響曲の中でこれが一番好きだ。

 

カレル・シェイナ / チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

数多あるチェコPO盤でこれが一番いい。モノラルで音はやや古く現代の縦線の揃ったアンサンブルでもないが味わいに満ちるから困ったものだ、オーケストラ演奏が失ってしまったものは根深い。木質の管のなかでもフルート、クラリネットの音程の良さは特筆もので、それが欠けたら7番は成り立たないと確信してしまう。第2楽章の弦の歌いまわし、これが正調と思う。第1楽章、fpは増音はなくすぐ減音するのがまったくユニークだが作曲者の狙った効果はこれでも出ているように思う。シェイナの秘儀だ。展開部の加熱は見事、うまいオケとはメカニックなことではなくこういう演奏ができるかどうかなのだ。速めの終楽章はホルンが割れたりアンサンブルがやや雑然となるが、それでいて堅固な音楽になってしまう。

 

ジョン・バルビローリ / ハレ管弦楽団

はっきり書くとオケの技術、特に弦が劣る。なぜこれを好むかというと、指揮のロマンの息吹がヴァイオリンの歌に切々とこもり、緩急も思い切ってつけるなどライブのような感情の起伏があるからだ。fpのため息も感じ切っていて良い。英国人がエルガーをやる風な愛情を感じるという意味で7番の最もエモーショナルでメリハリのある、ドイツ寄りではない表現だろう。バルビローリはブラームス全集は構え過ぎだがドヴォルザークは自然体である。

 

オトマール・スイトナー / ベルリン国立歌劇場管弦楽団

東欧のいい音だ。このオペラハウスで何度もワーグナーを聴いたがS席で3千円ぐらいなのに感動したのを思い出す。目の前のピットから響いてくるこのオケの古雅な音はふるいつきたい魅力があった。この木質の弦とピッチの良好な木管(うまい)という特性はドヴォルザークにぴったりでありスイトナーの指揮も独欧系の解釈の本道を行くものと思う。モーツァルトが抜群の人だったが音響にポエムを作れる故で、第1楽章はfpの馥郁たる味わいも展開部の高潮も文句なし。

 

カルロス・パイタ / フィルハーモニック・シンフォニー

アルゼンチン人のパイタ(Carlos Païta、1932年または1937年ー2015年)は金持ちのボンでフルトヴェングラーのファンだった。自分のレーベル(Lodia)を作りメジャーなオケを商売抜きで指揮して録音を残した、ある意味カルロス・クライバー並みの謎の男である。好きな曲しか振らないのだからうまい。8,9番だけじゃない、7番に愛情持って振っているのに好感。激した部分に個性があるがfpのバスの鳴らし方、悪くない、金の力かもしれないがオケを乗せていて脱帽。

 

メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64

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