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ブーレーズ「プリ・スロン・プリ」

2018 SEP 17 0:00:21 am by 東 賢太郎

ブーレーズのCBSコレクション67枚組の白眉の一つがこれでありましょう。後に(84年)「ワーク・イン・プログレス(進行中の作品)」として細かく改定されてゆくプリ・スロン・プリの69年時点の稿の自演盤として貴重であり、1969年5月8‐10日にロンドンのアビイ・ロード・スタジオでの録音ですが、あの春の祭典は同年の7月28日にクリーヴランドで録音されるのです。ここでの前稿で述べた素数のごとき「unbreakableな時間」が生む4次元のレイヤーは顕著で、これがそのまま春の祭典に乗り移った観があります。

ブーレーズの演奏はこの「時間」を分割して正確な位置に音をdotし、完璧な音価とピッチを与えるという行為に尽きます。当たり前ではないかと思われるかもしれませんし、すべての音楽演奏はそうであるべきなのですが、99%はそうではない無価値なものが巷に流れています。ここでのソプラノのピッチは素数そのものが美しいという次元の美を誇っていて彼女の歌が美しいメロディーに聞こえるかどうかというものではありません。aesthetically pleasingという英語表現があって、邦訳すると「審美的喜び」などと意味不明になりますが、要は美しく魅力的だということです。その「美しく」という部分がestheticであって、わが国では女性の通うエステとしてのみ認知される言葉ですが、美しいものに関する哲学的理論のことであります。

マラルメの詩に依拠した点は牧神の午後への前奏曲と同様。詩心はないので読んでません。純粋に音だけで楽しめる作品で、なじみのない方もフリー・ジャズと思って聴いてみてください。以下の5曲から成ります。

  • 第1曲 賓(たまもの)
  • 第2曲 マラルメによる即興曲I
  • 第3曲 マラルメによる即興曲II
  • 第4曲 マラルメによる即興曲III
  • 第5曲 墓

 

以下、だいぶ前に書いた文章を再録します。

 

ピエール・ブーレーズ「プリ・スロン・プリ」

ハリーナ・ルコムシュカ(Sp)  BBC交響楽団 (1969年)
第4曲のハリーナ・ルコムシュカの歌唱、急速なパッセージのソルフェージュ能力が凄い。彼女の声質と独奏楽器群の音彩の混合は完璧でまったく独自の宇宙を構築しています。終曲の砕け散ったステンドグラスのような音群のきらめきと変化値を微分したかのような音価と音量の増減によるリズム細胞。不協和な音の組合せの美を創造して時間支配の元に集積するとこうなるという強烈な主張であり、これを美という概念で感知するかどうかは人それぞれでしょうが、それがどうあれこの時間・色彩感覚でスコアを読み解いたのがあの火の鳥であり春の祭典だったのです。ブーレーズ芸術の底流に存在する血脈の原点を浮き彫りにした名盤であり、3種ある同曲の1番目の録音であるこれがその音楽的な発想の原形を最もクリアに浮き彫りにしていると思います。

 

ラヴェル 「古風なメヌエット」

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