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アルゲリッチのチャイコフスキー1番

2019 MAY 28 23:23:18 pm by 東 賢太郎

週末のこと、東京ドームの帰りに久しぶりにレコード屋をのぞいたら店内にチャイコフスキーの1番のコンチェルトが流れてました。しばらくCD棚に目を凝らしつつ、ふだんはそんなことないのですがところどころでBGMのその演奏に耳が行ってしまうことに気づきました。

「なんだ、すごいなこれ、誰のだ?」

マルタ・アルゲリッチでした。

アルゲリッチ盤LP

1980年のライブ録音で、なんのことない、家にあります。帰宅してレコード棚から引っぱりだすと、ごらんのとおりマジックで5.99(ポンド)とでっかく書いてあり85年頃ロンドンで買ったものです。LPがCDに切り替わる時期でした。在庫処分のショップがトッテナムコートにあり毎週末に入り浸ってたのが懐かしい。当時の為替で1500円だから安くないですがレギュラー盤は倍しましたからレコード収集は結構カネのかかる道楽でした。

この演奏は今やアルゲリッチが売りになってますが、写真でごらんのように、オランダPhilipsはキリル・コンドラシンの追悼盤として売り出したのです。同社はコンドラシンの最晩年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管との演奏をリリースしてますが、そのほうが売れる時代だったのですね。ラフマニノフ2番を覚えたアシュケナージ盤の指揮がコンドラシンで見事なものだったから僕もそれに惹かれた部分はありました。

ということで、帰宅してワクワクしてターンテーブルに乗せたのを覚えてます。タンノイのスピーカーでした。ところが悲しい結末が待っていて、3楽章あたまのミスタッチでびっくりしてしまった。ライブですからこんなのでガタガタ言われたら演奏家はかなわないという程度なのですが、こういうのをまあいいかとはいかない性格で、以来このレコードは我が家ではお蔵入りになりました。あれから34年たったんですね、家でかけてみたら、これがいいではないですか。初めてじっくりと聴きました。アルゲリッチもコンドラシンも素晴らしい。こういうのを英国の評論家ならelectrifyingと形容するかなと思いますね。電気が流れてしびれるようなですね。

そしてやっぱり、曲に行ってしまうのです。第1楽章。誰しもご存知の序奏の華麗なテーマはもうどこにも出てこないのですが、終楽章をしめくくるテーマはそれと親近感があって故郷に帰った気分になる。同じことを彼は悲愴交響曲でやっています。それに続いてテーマが3つ出てきますが、下のアルゲリッチ盤のビデオで1つ目は4分8秒からです。2つ目(5分44秒)と3つ目(6分28秒)が、もうどうしてなんだというほどいいのですね、3つ目が弦でひっそりと出てくるところなんか最高です。その3つがくんずほぐれつでprogressiveにdevelopする展開部(9分12秒~)はチャイコフスキーの天才と狂気を最も感じるところです。ティンパニのロールの強打(11分18秒)から、なんと新しい4つ目の小テーマが出ますが、これがピアノとオケの掛け合いで高揚していく部分の少し精神が「飛んだ」あぶない感じ!第4交響曲の第1楽章にもそういう部分があるんです。どちらもあぶない結婚をして自殺未遂とぐらいついた前後の作品なのです。

お蔵入り解除です。ミスタッチはもう心構えができてるからOKとなったのか、それとも清濁併せ飲める人間に進化したのか、自分でもどっちかわかりませんがこれだけの演奏を捨て置いて生きてきたのは実にもったいない。

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