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ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(13)

2022 APR 22 2:02:52 am by 東 賢太郎

アンドリス・ネルソンス / ボストン交響楽団

ネルソンズは1978年、ラトビアのリガ生まれ。ラトビア国立歌劇場管弦楽団の首席トランペット奏者から同歌劇場首席指揮者に就任。そこから北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、2008年よりバーミンガム市交響楽団、2014年よりボストン交響楽団の音楽監督と欧州の王道の出世を遂げている。この録音で彼を初めてきいたが、各楽章のテンポは好適でアンサンブルは微塵の破綻も揺らぎもなく正攻法でBSOを鳴らしておりケチのつけどころがない。あえて言えばあまりに整った優等生でネルソンズの個性が見えないが、38才でこれだけの質の演奏を名門から引き出せれば更なる出世はお約束だろう。録音はBoston Symphony Hallのあの素晴らしいアコースティックをとらえている分、ブラームスを主張するには不可欠である細部のアーティキュレーションが不明瞭でサウンドのボディ、重みも欠ける。スタジオ録音でない悲しさだ。終楽章のティンパニが強く聞こえるのは功罪あるが僕は嫌でなく、コーダは減速から元のテンポに戻るだけでいたずらな加速はせず、これも王道を行っている。(総合評価:4)

 

イルジー・ビエロフラーヴェク / チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

ネルソンズの稿で「ブラームスを主張するには不可欠である細部のアーティキュレーション」と書いた意味はこれと比べればわかる。2017年に他界したビエロフラーヴェクがチェコ・フィルを振ったドヴォルザーク8番を僕は1984年にワシントンD.C.で聴いたが、あれほど練り絹の如き素晴らしいヴィオラ、チェロの音を後にも先にも聴いたことがなく、ブラームスにもドヴォルザークにも弦の雄弁さは不可欠ということを知った。この89年の録音にあの時の練り絹ぶりは録れていないが雄弁な主張は充分に伝わり、Mov2は弦と木管がうねるように交叉して歌うドラマがあり熱量の抑揚とテンポの動きが自然にシンクロナイズする。こういうものを至芸という。終楽章のテンポの良さは文句なく、第2主題の歌は心に響く。コーダは減速からTrp信号音でほんの微妙に加速し、そこから不変で揺るぎのない盤石の終止に至るが、このことは初めて聴いても、そこに至るまでの指揮の格調の高さから容易に予測できることである。アンチェル、ノイマンに比べ知名度が落ちるがビエロフラーヴェクこそチェコの名匠でありよくぞブラームスを残してくれたと感謝あるのみだ(総合評価:5)。

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(14)

 

 

 

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Categories:______ブラームス

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