Sonar Members Club No.1

since September 2012

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(14)

2023 JUN 19 18:18:41 pm by 東 賢太郎

コンスタンティン・シルヴェストリ / ボーンマス交響楽団

1965年11月10日、ボーンマスにおけるライブ。シルヴェストリ(1913-69)はルーマニアの指揮者である。同国出身というと同世代にセルジュ・チェリビダッケ(1912-96)、弟子にセルジュ・コミッショーナ(1928-2005)が、作曲家にエネスク、ピアニストにはハスキル、リパッティ、ルプーがいる。オケの質がかなり落ちるのが残念だが、あっさりラテン風味のブラームスは意外に貴重だ。ゲルマンの深い森の日差し、うねるロマンティシズムには目もくれず、金管(特にトロンボーン)もドイツ系のようにオルガン的バランスにこだわっていない。Mov1の第2主題の弦のフレージングはまるで外国語だ。かようにシルヴェストリはスコアのルーティーン読みなどまったく意を用いないが、一部に勘違いされているような無手勝流の爆演指揮者などではまるでなく、チャイコフスキー4番の稿で書いたように自身作曲家でもある眼力と強い個性でスコアの深層を説いている。Mov4のコーダはアッチェレランドなど微塵もかけていない。その箇所に僕がなぜ延々とこだわってきたか、一口で言えば、スコアにあろうがなかろうが、安手の芸であろうが、素人の聴衆からブラボーをとれれば解釈はそれでいいと思える人を僕は芸術家と思ってないということだ(総合点:4)。

 

ラファエル・クーベリック / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1957年3月4-8日録音。クーベリック(1914 – 1996)は43才。1950年のザルツブルク音楽祭でウィーン・フィル・デビューし、1962年にバイエルン放送交響楽団の首席指揮者に就任する前にVPOとブラームス全集を残したがこれは宝である。僕は12年も欧州にいてクーベリックを聞き逃した大馬鹿者だが人生の痛恨というしかない。9つのオケでベートーベン全集を作ったが、そういう破格の企画をDGにさせてしまう所が只者でない証明なのだ。世界のどの名門オケを振っても通じるオーラがあると音楽界が認めていなければそんなことが実現できるはずもないし、したところで商品として世界の耳の肥えたクラシックファンに売れるはずもない。そういうものは知識や技術ではなく、持ってる人しか持ってないという意味で唯一の無二の音楽的人格のような種のものであり、クーベリックは何人もは名前が思い浮かばないそれのある指揮者のひとりだったのである。この2番、やはり問答無用の価値があるバイエルン盤にはない当時のVPOの滋味深い醍醐味があり、もうどこがどうのというものを超越している。「これはもう古い録音だから新しい方を聴きましょう」なんてことは起こり得ない。それがクラシックというものなのである。ブラームスってこういうもんでしょ、そうだねいいブラームスだね。それでお終いだ(総合点:5)。

 

トーマス・ビーチャム / ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1956/12/23にエジンバラ音楽祭でのライブ。英国人指揮者ビーチャムは(1879 – 1961)はオックスフォード大には入ったが中退し、学校での音楽の専門的教育は受けていない。巡業オペラ団を結成しロイヤル・オペラ・ハウスを自腹で借り切ってオペラ上演を開始。やりたい放題だったが、それもこれもビーチャム製薬(現グラクソ・スミスクライン)の御曹司であったことが大きいだろう。彼が音楽に関心なければロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団は生まれていないのだから芸術にはやはり貴族、富豪の放蕩息子は大事なのである(プーランクは仏製薬会社ローヌ・プーラン社の御曹司だ)。この2番は1956/12/23にエジンバラ音楽祭でのライブで音は悪いが大変興味深い。Mov1は良いテンポだ、木漏れ日のような味が出ている。Mov2のテンポの心の動きも納得。Mov3の木管は美しい。彼のハイドンがそうだがウィット、チャームが音楽にあふれ出るのが実にいい。指揮者はメトロノームでなく人間なんだと彼を聴くといつも思う。さてMov4。テンポはやや遅め。第2主題、Vnに感情が乗る。展開部にはいると大声で檄が飛ぶ。再現部。金管、ティンパニに気合が入る。コーダには初めのテンポのまま遅めで入り、やおら➀の途中から加速、②で激とムチが入りさらに加速、③で目にも止まらぬ勢いに達しティンパニが超高速のマシンガン連射、④で人間の限界に達し最後の和音は普通の3倍も朗々と雄たけびを上げて伸ばし、待ちきれぬ聴衆の爆発的大喝采と共に消える。まるでカエサルの凱旋だ。何という雄々しさ!音楽的に僕は評価しないが、こういうやりたい放題親父にかける言葉は見つからないのだから敬意を表するしかない。ジェンダーがどうのこうのの難しい時代だし女性指揮者も多く活躍しているが、こういうヴェスヴィオ火山みたいな大噴火をしでかす放蕩娘ってのはいるんだろうか誰か教えて欲しい(総合点:3)。

 

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(1)

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

Categories:______ブラームス

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊