Sonar Members Club No.1

since September 2012

どうして証券会社に入ったの?(その10)

2022 OCT 26 0:00:18 am by 東 賢太郎

久しぶりに1987年のアメリカ映画『ウォール街』を見ました。こいつは我々証券マンにとって、心底ガツンとくる名作です。そのころ僕はロンドンのシティで働いていました。やたらと周りにサスペンダーの奴が増えたと思ったらこの影響だったんですね。それほどマイケル・ダグラス演じる投資家のゴードン・ゲッコーはカッコよかった。この有名な “Greed is good” のシーンはその白眉です。

ビジネススクールでMBAになったらこんなプレゼンをしたい。そう思わない人は学校を間違えてます。なんだ、欲望礼賛じゃないか、そんな間違ったことを教えてるのかと思う方はアメリカという国も資本主義すらも間違えてます。場面はテルダー製紙会社の株主総会。ゲッコーはこう言い放っています。「ここにいる33人の副社長はひとり年俸20万ドルも会社からもらってるが、ぜんぶ足して3%しか株を持っていません」「株主の皆さんと同じ利害関係を負わぬ者たちが会社から甘い汁をむさぼり、損失をたれ流しているのです」「アメリカは双子の赤字に蝕まれ二流の国になってしまいましたが、コーポレート・アメリカはまさにこうやって凋落してしまったのです」「皆さん、いまするべきはこの官僚仕事だけの不適格者たちを会社から追い出し、会社再生のための私の買収提案に応じることです」(拍手)。会ったことはないが、ドナルド・トランプもウラジーミル・プーチンもこの手の男だと思いますよ。役人タイプは歯牙にもかけないでしょうし、部下はダメと見れば即 you’re fired(お前は首だ)です。トランプは「アベよりアソーのほうがいい、カネの匂いがする」といったみたいです。自分の鼻で生きてる連中を大統領にしても後ろから操れないですからね、だから民主党のロボットが必要で、トランプはマスコミまで総動員して選挙で消したんです。そういう男をファーストネームで呼んだぐらいで仲良くなったなんて、冗談も休み休みお願いしますよ。オリバー・ストーン監督はこのゲッコーを悪役に、かけだしの証券営業マンであるバド・フォックス(チャーリー・シーン)を善玉にしたハリウッド流の勧善懲悪物語に仕立てていますが、カッコ良すぎのゲッコーに憧れてウォール・ストリートをめざすエリートが増えたのは皮肉でした。僕はまさにこのころである1984年卒のウォートンMBAですからアメリカのど真ん中でこの空気にどっぷりつかっており、野村證券もそう育てるために2年間の社費留学をさせてくれたわけです。だからそれが三つ子の魂となっているのは必然のことで、SDGsの念仏を100万回耳元で唱えられようと、相場に勝つためのネタとして利用はしますが、そんなものに精神をおかされて迎合する気はさらさらありません。いま聞いてもゲッコーの発言はまったく正しいと思いますし、リアルの世界でも、日本の某社の株主総会で僕自身が社長に面と向かって「あなたは退任すべきだ」と論陣を張ってます(そうなった)。下のブログは第2次安倍政権がスタートする2013年に書いたものです。当時この古い映画のことは忘れてましたが、馬鹿みたいな経済政策を野放しにしていた民主党政権によほど辟易していたのでしょう、いま読んでみてゲッコーと同じことを言ってるのに我ながら驚きます。

若者の欲望が日本を救う

書きましたように、弱者救済のセーフティネットが社会に必要なことは当然です。しかし9割が弱者だというならそれはもはや弱者の正しい定義ではなく、体よく社会主義、共産主義を擦りこもうとしているにすぎません。9割は言い過ぎかもしれませんが、日本は平成からそれに近いことになってると感じます。だから、ゲッコーの指摘した理由が絵に描いたように災いして、コーポレート・ジャパンはおかしくなっているのです。それは若者の健全なGreed(欲望)の芽を、大人がポストに居座りたい Greed で摘んでしまった結果、若者に自分が弱者だと勘違いさせてしまい(若さこそ財産、そんなわけないだろう)、それを救うべき財政政策を政府がとるためのマネーを緊縮財政派が供給しなかったからです。罪は重いですね。このブログから9年たって我々が知ったことは、アベノミクスは日本国がデフレの底なし沼に沈むのを食い止めはしたが救ってはいないということです。20年かけてGreed を根絶やしにしておいて、あわててゼロ金利政策をとっても、投機はおきても投資はおきないんです。これだけ円安になればいずれもっとインフレになります。皆さんはそれに備えるべきです。これは運用ではなく資産防衛ですから必須です。国は平気の平左ですよ。保有する外貨準備に為替差益が発生する上に、インフレになれば国債乱発による借金の棒引きができますからね。損させられるのは国民で、為替差損分の「高率の税金」を新たに支払わされるのと同じことです。国債乱発を続けるとブタ積みの日銀当座預金がますます増え、短期金利の操作自由度をさらに失い、それにつけこんだ国債先物ショートがさらに増えます。買いオペを続けるしかなく日銀のBSはさらに悪化。金も原油も裏付けにない日銀券の価値は低いとコンセンサスができれば先物を狙われます。介入原資は無限だと言っても誰も信じないので、英国の二の舞にならない保証はないですね。相手は相場です。日本だけが騒ぐいかがわしげな「投機筋」なんてものは世界のどこにも存在しないのです。

映画に戻りましょう。当時、僕がシンパシーを持ったのは、中堅証券の営業マンであるバド・フォックスの方です。下のビデオで見るディーリングルームはゴールドマンやモルガンスタンレーではない、社員もトップスクール卒でない設定ですね。バドも平民の子ですが少しだけいい大学を出ていてエリート扱いされてる。それでも高額の報酬を得ようと激しい競争を生き残るため電話外交をしまくります。僕が「株式市場はタンザニアのサバンナだ」という意味はおわかりでしょう。バドは「いまに俺だって電話を受ける側になるぜ」とうそぶきます。そしてある日、狙っていた大物投資家ゲッコーの秘書にうまくとりいって、ついにボスの時間を5分もらいます。新米に2,3質問をしたゲッコーは「小金持ちにクズの株を売ってるお前ら証券セールスはカスだ、何の役にも立たねえから早く消えろ」と追い返そうとします。そこで苦しまぎれに語った父の勤める航空会社の情報がヒットして、幸運にもバドは気に入られるのです。

このへんのくだり、いま見てもワクワクするんです。僕自身が新人のかけだしだった梅田支店の営業マン時代が “笑ってしまうほど重なって” いて「あるある」の連続。この監督、なんで経験ないのにこんなリアルに図星の台本をものにしたんだろうと感動ものなんですが、あまりにいちいち細部まで僕の実体験と似ていて、盗作されたかもしれない(1980年だから僕の方が先ですー笑)。まさしく、まぎれもなく、大阪で僕はこのビデオのようなことを夢中になって2年半やっていたのです。

セールスたちが隠語で「巨象を狙う」と言ってます。大きな顧客の意味です。ちっとも失礼でありません。そんなので騒ぐ小物はそもそも大物でないんで会う価値がありません。最大の巨象がゲッコーで、「49回電話してきたのはお前か」とあいさつ代わりの第一声をかましてきます。僕は大阪市北区に巨大な白亜の本社を構える某一流上場企業のU社長にやっぱり秘書様のお導きで会えて(同じく5分!)、まさに「64回電話してきたのは君か」といわれました。瀬戸際の一言がうまくいって、初対面のその場で株を買ってもらったのもまったく同じ。いいことだけじゃない、バドは鉄砲屋にも引っかかってますが、僕もやられて極道の親分から2千万円の取り立てをしてます。バドの父親は航空会社の整備士で息子が証券マンになるのに反対しますが、僕の父は銀行員でもっと猛烈に反対しました。当時は証券会社は株屋と言われてましたが、父も株は好きだったし僕も好きだったし、反対したのは僕があまり外交的でなく身の回りのこともだらしないので潰されると思ったんでしょう、銀行に行けよその方が楽だよと言ったきり3日も口をきいてくれませんでした。でも僕は圧倒的に証券マンの方が向いていたんです。入社前はわかりませんでしたが、会社訪問のやりとりで直感的にそう思ったんです。物事、迷ったら、最初にいいと思ったのにすべきですよ。

梅田支店は地獄でしたが次々とラッキーがあって、銀行に入っていたら会えるはずのないU社長がお客さんになって、俺は凄い人間なんじゃないかと本気で真面目に勘違いしてました。ぜんぜんそうではなかったことは数々の失敗でのちに思い知らされて地に落ちるのですが、男はこういう輝かしい瞬間に出あうと一皮も二皮もむけるんです。2年半梅田支店でもまれて、もう完全に一騎当千の証券マンになってました。だからバドがゲッコーに信用され、食い込んでいく姿は何度見てもハートに響いて元気が出ます。これが当たったんでウォール街ものが続々出てきますがほとんどがチープなゾロ品ですね。それほど本作は図抜けてます。バドのように金持ちにしてもらったり彼女をあてがってもらったりは残念ながらなかったですが、仕事に対する最高の征服感はありました。たぶん、僕は金や地位よりもその登っていくプロセスが好きなんです。2年前まで株のかの字も知らなかった小僧がいっぱしに存在感出して全米1位のビジネススクールに留学に行った。もうあそこらへんで顔つきが変わってたでしょう。

ゴードン・ゲッコー役のマイケル・ダグラス

ゲッコーの実在のモデルはアイヴァン・ボウスキーです。ロスチャイルド出身で稀代の乗っ取り屋であり、全米を騒然とさせる謀略をつくした末に証取法違反で逮捕されますが、ウォール街にもシティにもこの手の奴はごろごろいます。ロンドンでは、メディア王の富豪で船上で怪死したロバート・マクスウェルと取引もしましたよ。ゲッコー並みの巨象でしたが商売は大したことなかった。こんなのにビビってたらでかい商売はできません。この映画を見た人はご想像がつくと思いますが、彼らにとって、くっついたり離れたりして相場で人を欺く計略をめぐらすなど息をするようなもの、大金を動かして儲けるマキアヴェリストの連中にそんなものは猫に鰹節より当たり前なんです。ゲッコーは何度も孫氏の兵法を引用してます。そういうインテリジェンスは戦争と同じ。それをいちいち陰謀だ、けしからんなんて、「何だお前?」ってなもん、アホらしくて相手にもされません。彼が言った相場に大事な3つのもの、poor、hungry、no emotion は至言です。poorでなくなっても必要。これがあれば大概は成功できます。でも、くりかえしますが、ゲッコーは言ってます。「アメリカの富の半分である5兆ドルは人口の1%が持ってる。しかもその3分の2は相続だよ。俺は3分の1の方だから毎日あくせく働いてる」。Greed のいらない3分の2が王族や貴族やアラブや中国の富豪とつるむのは必然なことがわかりますね、共通の目的が preservation(資産保全)なんでね。で、富豪でない人が Greed を奪われたら、シープルになるしかないですね。

“Greed is good” (欲望は善である)。いまどきアメリカですらこんなことを公然と言う人は少ないでしょう。80年代のアメリカはレーガノミクス全盛でした。減税、小さな政府、規制緩和、強いアメリカ。それは同時期の英国をリードしたサッチャリズムとも重なりますし、ドナルド・トランプにも共鳴してます。その成功の前提は Greed なんです。それが足りない国で減税しても何も起きず、税収が減るだけです。それで財源不足になると市場がはやして国債もポンドも売りまくられ、史上最短の45日で辞任になったのがトラス首相でした。彼女は気の毒でしたが会計士ですから相場を予見する程度のマーケットのキャリアすらなかった。しかし、あの地位になれば、それも含めて、前任のジョンソンもそうですが、プラクティショナーの小物だったということですね、悪いけど。そこで登場してきた新首相のリシ・スナクは英国初のインド系で、オックスフォード卒、スタンフォードMBA、ゴールドマン・サックスからヘッジ・ファンド経営者に転身した超エリート証券マンです。プラクティショナーかもしれないがマーケットで失敗はしないでしょう。アメリカもFRB議長のジェローム・パウエルはプリンストン卒で学者っぽいですが、大手投資ファンドであるカーライルの共同経営者を8年勤めた、いずれも僕にとっては同じにおいがする世界の人間です。ゲッコーは悪玉にされてSEC証券監視委員会に逮捕されましたが、世界はこうしてじわじわと為政者の方がその色になってきた感じがします。捕まる側が捕まえる側に。こうなると、わかる人にはおわかりでしょうが無限に儲けられる可能性が出てきます、インサイダー取引は株にしかないですからね。どうも、我々が気がつかないうちに泥棒と警官が入れ替わっているというか、何が正義かわからない気持ち悪い世界になってきていると思いませんか?日本国はよく知りませんがこの流れのなかで大丈夫なんですかね。少なくとも読者の皆さんは勉強して、感性を磨いて、騙されないようになさってください。

 

どうして証券会社に入ったの?(その1)

Categories:_____どうして証券会社に入ったの?, 若者に教えたいこと

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊