点と線(田中広輔と小園海斗の場合)
2023 APR 16 21:21:10 pm by 東 賢太郎
野球にも人間ドラマがある。広島カープのレジェンド、安仁屋宗八さんが「他球団のピッチャーは関係ないんです、気にしてたのは同僚ですよ」と語っている。ライバルは身内なのだ。
カープの二遊間は田中広輔と菊池涼介で盤石だった。丸を加えた6-4-8の鉄壁のセンターラインで2016~18年の3連覇が成し遂げられ、タナキクマルという愛称が一躍脚光を浴びた。菊池の超人的プレーに隠れて田中のうまさは騒がれなかったが、遊撃は二塁より難しい。学年同期で同じ171センチの二人が抜群の身体能力だったことで鉄の壁は成り立っていた。それが暗転したのは翌19年だ。田中がどうしたんだ?というほどの打撃不振に陥り、売り物の盗塁も激減したのだ。そして話題の新人小園海斗に1番ショートのスタメンを奪われてしまい、歴代5位をうかがっていたフルイニング連続出場記録までが途切れてしまうのである。右膝半月板の手術をしたと不振の理由が判明したのはたしか8月のことだった。「怪我だから仕方ない」で済まないのが男の世界である。この時の田中の気持ちはわかる。
今日の広島でのデーゲーム、開幕3連戦で全部負けたヤクルトに2つ勝ったが、3つめは初回に5点取られて中盤まで5-1だ。6回に秋山、西川のヒット、坂倉の四球で二死満塁。ここで8番打者の田中である。ヤクルトは好投していた新人の吉村投手を150キロ出る星に替えた。「球威で押しに来たな」と誰もが思った。しかし田中に代打は出ない。先日、2年ぶりの本塁打が出るには出たが右翼フェンスぎりぎりであり、お立ち台で「もう打てないと思ってました」と語ってもおり、たしかにこの4年、いい所で打席に立っては泳がされて弱弱しいポップフライの残像しかないのである。
「おい新井さん、4点負けてんだよ、松山か堂林じゃないの?」
と思ったカープファンは少なくないだろう。もうこのまま終わりだな。僕は田中の打席だけは見届けて、そこでテレビを消して仕事をしようとリモコンを持って待ち構えていた。
ここで彼が右翼中段に放った満塁ホームラン。これにはデジャヴがあった。9年前の2014年4月24日、神宮球場の三塁側内野席から目撃した彼のプロ初ホームランである。
時期はちょうど今頃だ。強打者の高々と滞空時間の長い当たりではなく、巧打者が絶妙のタイミングでミートした若々しいライナー性の当たりであり、これでショート田中の名前が鮮烈に焼きついたのを菊池の活躍と一緒にブログに書いたのである。この年のシーズン終了後に緒方孝市の監督就任、ヤンキースから黒田博樹、阪神から新井貴浩のカープ復帰が決まり、3連覇への布石が敷かれている。
だからかどうか、監督になった新井は田中に代打を送らなかった。満塁ホームランをたたき込んだ田中はヒーローインタビューで淡々と、しかし強いものを秘めた口調で「ここで打たなきゃ男じゃないと思いました」と語る。
ここで使われる「男」という言葉。アメリカの地でWBCのサムライたちが軽々しく口にはしなかったが、プレーでこれでもかというばかりに見せてくれた。それに日本だけでなく世界の女性も熱狂した。LGBT云々とは全然違う次元の高い所で、何千年も前から、どこの民族であれ人類が生存のために持っていて本能に訴えかけるものだからの感動だと僕は確信している。
新井が見せた男ぶりがこれだけなら僕は本稿を書いていない。凄いなと思ったのは5-5の同点で迎えたその次の7回、投手の代打に、開幕から15打数ノーヒットの小園を送ったことだ。そして小園はそれが信じられないぐらいの迷いのないスイングで右中間に快心の3塁打を放つのである。これが点になり、カープは7-5で勝利し、3連敗の借りを3連勝で返した。小園はオープン戦で悪くなかった。22才で日の出の勢いであり、我が家の年間予想で僕はセリーグ首位打者にノミネートした。昨年は田中が41試合の出場にとどまったのに対し小園は127試合にショートで出場し、レギュラーを奪取したと自他ともに認めたといっていい。
つまり、いまは田中でなく小園が試合に出られず悔しい思いをしている。田中は33才だが、今日35才になった秋山翔吾が昨日はサヨナラホームラン、今日も5打席連続ヒットを続けるなど気を吐いているのだからまだまだ若いという気概に燃えているだろう。真の男と男のガチンコの戦いだ。生物上は男だが薄っぺらのカスがくだらないポジショントークで金儲けを狙う世相を見せられる日々に、これが一服の清涼剤でなくて何だろう。
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中島龍之
4/18/2023 | 2:17 PM Permalink
東さん、広島はどうしたんですか、まさかの首位とは。今後の結果はともかくも驚きです。選手起用を見ると、新井監督らしさが出てるのかもしれませんね。これからチームは良くなってくることでしょう。田中の名前、すっかり忘れてました。タナキクマルでしたよね。丸が去り、鈴木誠也も大リーグ、大きな補強なし。新井監督頑張れ、です。
東 賢太郎
4/19/2023 | 10:48 PM Permalink
中島さん、ヤクルト戦はラッキーが重なった3連勝です、それを受けての阪神戦です、昨日のサヨナラ負けです。今日は完敗です。Aクラスは狙って欲しい、そのぐらいが今の戦力と思います。