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クラシック徒然草-フィラデルフィア管弦楽団の思い出-

2012 DEC 24 0:00:42 am by 東 賢太郎

フィラデルフィア管弦楽団は82-84年の2年間にわたって定期公演(金曜日のマチネ)を聴いた。当時は、ブロード・ストリートとローカスト・ストリートの交差点にある「アカデミー・オブ・ミュージック」(右の写真)が本拠地だった。このホールはアメリカの威信にかけて1857年に建設されたアメリカ最古のオペラハウスである。まだロッシーニは生きていたしプッチーニが生まれる前の年だ。ドヴォルザークの新世界やガーシュインのパリのアメリカ人が初演されたニューヨークのカーネギー・ホールが1891年建造だからその古さがわかる。チャイコフスキー、マーラー、リヒャルト・シュトラウス、ラフマニノフ、ストラヴィンスキーなどがここで演奏したという歴史的建造物だ。

中はこうなっている。しかし、問題がある。スカラ座を手本としたにもかかわらず、おそろしく残響がない。1~1.2秒ぐらいだろう。「イタリアのオペラハウスみたいにドライな音だ」(フリッツ・ライナー)、「音がすぐ消えてしまう。もっと気持ちよく伸びないと」(ピエール・モントゥー)、「音が小さいからクライマックスでパワーが得られない」(ヘルベルト・フォン・カラヤン)、「ここで録音はしたくない」(ユージン・オーマンディー)という具合だ。

1912年に音楽監督となったレオポルド・ストコフスキー(写真)、1938年になったユージン・オーマンディが連綿と作ってきた華麗なオーケストラの響きは「フィラデルフィア・サウンド」として有名だが、それはこのホールが本拠地だったことと妥協しながら作られたと言われている。

ちなみに、僕とワイフの座席はチェロのすぐ前だった。トータルなオケの音響としてのバランスは最悪だったが、そのかわりにオケの内部で鳴っている裸の音が手に取るようにわかるので僕には最高に面白かった。

 

まず弦楽器からコメントしよう。このオケの弦は並み居る欧米強豪オケの中でもチャンピオンクラスのパワーと瞬発力がある。管楽器のカラフルな響きが特色のように思われているが違う。弦こそあのサウンドの土台だ。例えばウイリアム・ストッキング率いるチェロセクションは12人がおのおのコンチェルトのソリストみたいに身体をゆすり、松脂を飛ばしてガンガン弾く。僕も当地で1年チェロを習ったからよくわかる。プレストやアレグロでも音圧が強く、発音(アーティキュレーション)はくっきりし、楽器が胴体まで鳴りきっていて、それでも出てくる音はまるで一人で弾いているように聴こえる。このような神業が平然と行われていて、そのシンクロぶりたるやもうスポーツ的快感だ。コンマスのノーマン・キャロル率いるバイオリンセクションも基本的にこのチェロと同系の弾き方と音色だと思う。

対して、金管セクションはフォルテの音量、エネルギー感、音圧が日本のオケとは比較にならないほど巨大で音は派手め、明るめ。金管全体がフォルテで鳴ったときにドイツやイギリスと違ってピラミッド型ではなく高音部のトランペットが目立つトップへビーなバランスになる。というより、そう鳴らさないと音の減衰率の高いアカデミー・オブ・ミュージックでは、カラヤンの言うようにクライマックスが盛り上がらないのだ。トゥッティで指揮者はものすごく強大な音を要求する傍ら、エコーがない分、入りのズレがはっきり聴衆に聴こえるので、弦と金管の客席との距離の差から生じる時間差を考慮したキューイングにも気を使うだろう。この強力な弦(特に低弦)とパワフルな高音部を持つ金管のバランスが明らかにフィラデルフィア・サウンドのベースである。

そこで木管だが、ここにちょっと問題があるように思う。弦と金管に混ざってあのホールでうまくバランスして聴こえるには音量と音のエッジがどうしても必要だ。だからだろうか、音色のあでやかさがやや足りないように思う。趣味の問題に過ぎないが、ドイツやフランスのオケにある色香を感じない。技術はすごいのだが、音響の制約からそういうもので勝負はできなかったのではないか。オーマンディー時代のフィラデルフィアのオーボエといえばジョン・デ・ランシーだ。24歳のころ、もう大御所だったリヒャルト・シュトラウス(右)を口説いてあのオーボエ協奏曲を書かせたツワモノであり、カーチス音楽院長時代にアメリカ嫌いのチェリビダッケを口説いて呼んできたのも彼だ。逆に、あの日、飛び込みで「入れてくれ」と口説きに来た、どこの馬の骨ともわからない僕にリハーサルの入場許可をくれたのも彼だ(僕のブログ  クラシック徒然草-チェリビダッケと古澤巌-ご参照ください)。

そんなランシー先生に恩をあだで返すようなコメントはしたくないが・・・。名人揃いだけにオーマンディーもソロ部分はある程度奏者におまかせだったように感じる。例えばシベリウスの2番、僕が曲を覚えた思い出の旧盤(CBS)の第2楽章だが、オーボエとクラリネットの低音ユニゾンのピッチがおかしい。こういうこともある。先生、不調だったのだろうか。しかし、録りなおせばいいのだからこれは指揮者の責任だ。作曲家がほめたといわれるオーマンディーの演奏だが、シベリウスは自作を熱心に演奏してくれる人は皆ほめる傾向があったらしい。僕が聴いたムーティ時代の2年間は先生の次の人だったが、一度もいいと思ったことがない。悲しいが、自分に嘘はつけない・・・。

アカデミー・オブ・ミュージックでのフィラデルフィア・サウンドとはどういうものか。好例として、最近買ってこれこれと思ったCDがある。この「レスピーギ・アルバム」の1枚目にある「ローマの祭り」だ。エコーは電気的に入れたのではと思うが(絶対にこんなにない)、この弦や木管の音がまさにそれだ。なつかしい。松と噴水は2種類入っている。すごい!うまい!このローマ3部作、最高の演奏は文句なくトスカニーニだが、このオーマンディーはステレオの対抗馬だ。さらにイタリア人のムーティーも後年に同オケでこれを録れていて、それまた素晴らしいので困ってしまう。いかにこのオケのオハコかわかる。組曲「鳥」の木管の音程は完璧で名誉挽回。このアルバム、最高級の音楽が入っている。ぜひお聴きいただきたい。

(追記)

オーマンディーのレコードの録音場所はアカデミー・オブ・ミュージックではありません。AOMがどんな音かはこれをお聴きいただけばわかります。この田園交響曲は留学時に聴いたもののFM放送をカセット録音したものです。こういう曲のほうが弦の驚異的うまさがよくわかります。

ジャン・フランセ「花時計 l’horloge de flore (1959) 」

クラシック徒然草-僕が聴いた名演奏家たち-

(こちらもどうぞ)

 

クラシック徒然草-ユージン・オーマンディーの右手-

シベリウス 交響曲第5番 変ホ長調 作品82

クラシック徒然草-三遊亭金馬とモーツァルト-

クラシック徒然草-ファイラデルフィアO.のチャイコフスキー4番-

チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調 作品64 

 

 

 

 

 

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